チュートリアル 7553

絶縁型バックコンバータ用のトランスを選択する方法

筆者: Yaxian Li

要約:

このチュートリアルでは、絶縁型バックコンバータ用のトランスを選択する方法について説明し、なぜMAX17681/MAX17682のデータシートの簡易な計算式を使用するのかを検討します。また、絶縁型バックコンバータの基本原理についても概説します。


はじめに

トランスの選択は、絶縁型バックコンバータを設計する際に極めて重要なプロセスとなる場合があります。このチュートリアルでは、絶縁型バックコンバータはどのように機能するか、トランスを選択する際にどのパラメータを重視すべきか、これらのパラメータはトランスの選択にどのように影響するか、およびトランスは回路のパラメータにどのように影響するかについて説明します。

絶縁型バックコンバータの仕組み

図1は、バックコンバータに類似した絶縁型バックトポロジを示しています。降圧回路のインダクタをトランスに置き換えれば、絶縁型バックコンバータになります。トランスの2次側には独立したグランドがあります。

図1. 絶縁型バックトポロジ 図1. 絶縁型バックトポロジ

オン時間中、ハイサイドスイッチ(QHS)はオンで、ローサイドスイッチ(QLS)はオフであり、トランスの磁化インダクタンス(LPRI)が充電されます。ブロック図(図2)の矢印は、電流の流れる方向を示しています。トランスの1次側電流は直線的に増大します。電流の増大するスロープは、(VIN - VPRI)とLPRIに依存します。2次側のダイオード(D1)は、この時間間隔中に逆バイアスされ、COUTから負荷に電流を流します。

図2. オン期間の等価回路 図2. オン期間の等価回路

オフ時間中(図3)、QHSはオフで、QLSはオンであり、トランスの1次側インダクタが放電されます。1次側電流はQLSからグランドに流れ、D1は順方向にバイアスされ、2次側電流(NSEC)は2次側コイルからCOUTと負荷に流れます。この時間中にCOUTは充電されます(QHSをオフにしてQLSをオンにしても電流の方向を変更することはできず、電流のスロープが変化するだけです。正の電流は0Aまで減少し、その後、負の電流が増大します)。

図3. オフ期間の等価回路 図3. オフ期間の等価回路

トランスに影響を及ぼす仕様

コンバータを設計する際は、いくつかの仕様を宣言して定義する必要があります。それによって、特にトランスでどのコンポーネントを使用するかが決まるためです。

  • 入力電圧範囲
  • 出力電圧
  • 最大デューティサイクル
  • スイッチ周波数
  • 出力電圧リップル
  • 出力電流
  • 出力電力

最大デューティサイクル(D)は、通常0.4~0.6の範囲で割り当てられます。最小入力電圧(VIN_MIN)と最大デューティサイクルによって、1次側出力電圧(VPRI)が決まります。1次側出力電圧と出力電圧(VOUT)によって、トランスの巻数比が決まります。

出力電流(IOUT)と出力電力(POUT)は、トランスの選択に影響する重要なパラメータです。出力電流は銅線の太さを決定する上で役立ち、出力電力によってどのトランス骨格を使用するかが決まります。骨格の透磁性は、どれだけのエネルギーを蓄えることができ、どれだけの電力を出力することができるかを示します。一般に、DC出力電流に係数を掛けたものがインダクタ(トランス)のリップル電流に割り当てられます。デューティサイクルとスイッチ周波数はTON時間を計算するために使用され、VIN、VPRI、およびリップル電流によって1次側インダクタンスが決まります。係数が大きいとリップル電流が増大する可能性があるため、割り当てる係数は大き過ぎても小さ過ぎてもいけません。大きなリップル電流はHブリッジの電流制限の半分に達することがあり、その場合、MOSFETが損傷する可能性があります。リップル電流が大きいと、そのESRとESLのために、出力コンデンサに大きなリップル電圧がかかります。逆に、極めて小さなリップル電流が必要な時は、インダクタンスの大きいインダクタ(トランス)を使用します。それはトランス巻線のサイズが大きい大型の骨格になります。インダクタンスが大きいと、ループ帯域幅とループ応答性能が制限されます。

トランスの選択

明らかに、エネルギーはTOFF時間にのみ2次側に伝送されました。巻数比は次の式によって決定することができます。

式1(式1)

ここで、VDはダイオード(D1)の順方向バイアス電圧です。Vpriについては、0.4〜0.6の範囲で最大デューティサイクルを割り当てます。Vpriは、次の式によって計算することができます。

式2(式2)

ここで、Dは最大デューティサイクル、VIN_MINは最小入力電圧です。式2から、巻数比を計算します。インダクタはボルト秒バランスが低いため、必要なインダクタンスはTON時間に次の式によって計算されます。

式3(式3)

ここで、fはスイッチング周波数、ΔIはリップル電流です。前に説明したように、リップル電流は次のとおりDC出力電流に係数を掛けたものに等しくなります。

式4(式4)

ここで、Kは係数です。しかし、絶縁型バックコンバータトポロジでは、インダクタではなくトランスが使用されます。これにどのように対処しているでしょうか。電流比は、逆に巻数比に等しくなります。

式5(式5)

ここで、Ipritoffは2次側電流であり、これはTOFF時間中に変換されて1次側に伝送されます。1次側と2次側の電流の合計は、等価インダクタ電流と見なすことができます。

式6(式6)

ここで、ILeqは等価インダクタ電流です。トランスにさらに3つの巻線がある場合、これは次の式になります。

式7(式7)

しかし、これは正しいでしょうか。MAX17682に基づくシミュレーション結果で検証してみましょう。図4は、SIMPLISで表示したMAX17682の標準回路のスクリーンショットを示しています。電流プローブ、IPRI、およびISEC1は、トランスT1の両側に置かれました。

図4. SIMPLISにおけるMAX17682の標準回路 図4. SIMPLISにおけるMAX17682の標準回路

図5は、2つのプローブから得られた過渡シミュレーションのスクリーンショットです。上記の式を使用して、2つの電流波形を追加しました。

図5. MAX17682の標準回路のシミュレートされた電流波形 図5. MAX17682の標準回路のシミュレートされた電流波形

明らかに、追加された電流(青色)は、非絶縁型バックコンバータのインダクタと同様に三角波となっています。トランスの1次側のΔIは、次のように簡単に計算することができます。

式8(式8)

通常、割り当てられた負荷電流リップルはDC出力電流の0.2倍です。KはNsec/Npriの0.2倍に割り当てることができます。同時に、1次側ピーク電流は制限されたスイッチを下回るよう保証される必要があります。ここで、Ipkは次のとおりです。

式9(式9)

トランスの1次側インダクタンスは、次のように簡単に計算することができます。

式10(式10)

巻数比、1次側インダクタンス、出力電力、出力電流、絶縁電圧の各パラメータを使用することによって、インダクタの設計に関する決定を下すことができます。

簡易な計算式が役立つ理由

インダクタンスを選択する際にMAX17682のデータシート(図6)を使用すると、いくらかの不確実性が生じる可能性があります。これについてどのように理解を深め、アプリケーションに利用することができるかを確認しましょう。

図6. MAX17682のデータシートの式 図6. MAX17682のデータシートの式

上記の例によると、式10は、TOFF時間についてこの式に従うように書き直すことができます。

式11(式11)

ΔIが0.4Aの場合にのみDが0.6であると仮定すると、多項式(1 - D)とΔIは減少します。その場合、式11と図6の式は同じになります。データシートの式は、すでに1次側リップル電流を選択しています。Dを0.6とした場合、1次側リップル電流は0.4Aです。量的に、TOFFのデューティサイクルは1次側リップル電流に等しくなります。

式12(式12)

結論

図6に示した簡易な計算式を使用することによって、Toffのデューティサイクルに等しい1次側リップル電流を備えた、より高速な設計を実現することができます。1次側リップル電流を変更したり、別のパラメータを使用したりする場合、このチュートリアルではその実装方法について説明しました。

関連資料

SIMPLISによるMAX17682の回路図