チュートリアル 5936

USB BATTERY CHARGING REVISION 1.2の概要と充電検出器の重要な役割

筆者: Mohamed Ismail

要約: このアプリケーションノートは、USB Battery Charging Specification 1.2の詳細と、充電検出の役割について説明します。充電検出ICを使用すると、ポータブル機器のUSBコネクタは汎用性の高いコンポーネントになります。BC1.2への準拠が組み込まれているため、クリーンで使いやすい実装が維持されます。小型のポータブル製品を設計する場合、豊富な機能を備えた充電検出ICは非常に魅力的な集積回路です。

同様の記事が2014年11月3日に「EDN」に掲載されました。

進化するUSB仕様

市場投入までの時間を短縮し、コストを削減し、設計サイクルのより多くの部分を革新に集中させるために業界の役に立つものは、コーヒー飲み放題の他には何があるでしょう? ヒント:標準化。標準規格はプロトコルと動作特性を定義することによって、デバイスのパッケージサイズ、ピン配列、データ/通信インタフェース、ソフトウェアドライバ、コネクタ、ESD定格、環境コンプライアンス、試験装置など、技術のすべての面に影響を与えてきました。そのリストには際限がありません。仕様が詳細であるほど、開発者は市場の要求を満たす製品を定義しやすくなります。厳密に定義された標準規格の価値に疑問がある場合は、どこか2つの洋服屋に行って同じサイズのシャツを買ってみると良いでしょう。

最良の標準規格は、技術とともに進歩します。標準規格は増大する業界の複雑性を考察し反映する一方で、すでに確立されている慣行のサポートも維持します。USBポートは、汎用性の高い標準規格の好例です。USB仕様は、当初はホストコンピュータのコネクタの標準化を目的としていましたが、「On the Go」 (USB OTG)の電子製品がホストまたは周辺機器のいずれとしても動作することができるように進化しました。そして、USBポートを備えた携帯電話やその他のポータブル機器の驚異的な増加に対応して、USB Battery Charging Specification1の導入によって再び仕様が進化しました。現在USB規格は、新しいUSB3.1仕様と革新的な、対称形のType-Cコネクタによってまた進化しようとしています。「後れを取ることなく進化する(keep up with the Joneses2)」ことができるため、今では充電可能な機器のあるところならどこにでも、すなわちあらゆる場所にUSBポートが存在しています。

USBのような強力な規格の維持は、政府の政策にさえ影響を与える可能性があります。2009年6月、欧州委員会は、マイクロUSBコネクタを使用し、ほぼBC1.2へとつながる、すべてのデータ対応携帯電話に共通の充電器の義務化を目的とするメモを発表しました。3それに応える形で、Apple、LG、サムスン、およびソニーエリクソンを始めとする主要携帯電話機メーカー各社によって、了解覚書(MoU)が締結されました。4モバイルワールドコングレスの主催者であり220以上の国々に展開するGSMアソシエーションも、USBコネクタによる携帯電話充電器の接続を標準化する意向を表明しました。5韓国通信技術協会(TTA)と中国工業情報化部(MIIT)の両方が、携帯電話充電の標準化に関する技術要件を公布しています。6国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU)でさえ、GSMA、EU、および中国の提案からの要件に基づく汎用充電器を採用したITU-T L.1000勧告を発表しています。7 USB2.0への更新された給電規定の追加、2013年のUSB3.1発表、そして2014年には新しいType-Cコネクタと、標準コネクタの選定は引き続きUSB規格によって強い影響を受けることになります。

BC1.2の充電検出とポート

標準委員会や監督機関は、なぜUSBコネクタおよびBC1.2で概説されたプロトコルを中心に標準化を行おうとするのでしょうか?共通規格を確立することによって、USBを使用する任意の機器間での相互運用性、最高の性能、および安全性が可能になります。仕様では、任意のポートによってどれだけの電力を供給可能か、およびどれだけの電力を取り出すことができるかをポータブル機器が検出するためのスマートな方法を定義しています。これによって、すべてのポータブル機器メーカーは可能な限り多くのUSBポートと互換性のある製品を設計することができます。メーカーは各USBポートを最大限に活用する方法を知り、USBポートによって印加される電圧と電流を予想することができます。これが分かっていると、電気的オーバーストレスの危険なしに設計することが可能です。最後に、機器が使用可能な充電電流の増大によって、必要な総充電時間が大幅に短縮します。したがって、充電検出はUSBポートを備えたすべての再充電可能機器に組み込むべき重要な機能です。

充電検出プロトコルについて検討する前に、利用可能なUSBポート間の違いを知っておくことが重要です。ダウンストリームポートはUSB2.0通信をサポートし、チャージングポートは500mA以上の電流を供給することができます。BC1.2は、スタンダードダウンストリームポート(SDP)、デディケーテッドチャージングポート(DCP)、およびチャージングダウンストリームポート(CDP)の3種類のポートタイプについて概説しています。

SDPは、従来のUSBポートと考えることができます。USB通信に加えて、接続時に100mAの電流を周辺機器に供給します。この100mAは、ネゴシエーションによって最大500mAにすることが可能です。ほとんどのポートは通常はこの電流制限を実施しませんが、より大きい電流は保証されません。DCPはUSB通信をサポートしませんが、ネゴシエーションなしで500mAを超える充電電流を供給することができます。CDPは充電検出フェーズにオンになる内部回路を備え、USB通信と大電流充電の両方をサポートします。一部の電子製品メーカーは、仕様で概説されたUSBポートタイプに加えて、独自のチャージャ識別方式を構築しています。それらの各種方式によって、充電検出技術に見落とすことのできないもう1つの層が追加されます。

充電検出プロセス

BC1.2で概説されている充電検出フェーズには、5つの基本的ステップがあります。

  1. VBUS検出 USBポートに接続される可能性のあるあらゆる機器について適切な順序を確保するため、コネクタのVBUSおよびGNDピンはD+およびD-ピンよりも意図的に長くしてあります。これによって、VBUSとGNDが最初に接触することが保証されます(図1を参照)。したがって、何らかの検出が可能になる前に、デバイスは最初にVBUSの存在を検出する必要があります。

  2. 図1. USBコネクタのピンとデータコンタクト検出(DCD) 図1. USBコネクタのピンとデータコンタクト検出(DCD)

  3. データコンタクト検出(DCD) VBUSの電圧が有効になった後、何らかの検出が可能になる前に、ポータブル機器はデータピンも接触していることを確認する必要があります。データピンが接触する前にエンド機器が早まって判断を行うと、どのチャージャがあるかを誤って識別する可能性があります。
  4. DCDを実施するため、周辺機器はD+上の7µA~13µAの電流ソース(+3.3V基準)をイネーブルし、その電圧を監視する必要があります。この電流範囲は、仕様で認められている全電圧および抵抗の許容範囲にわたって適切なロジックレベルを維持するように選択されています。D+がオープンの場合、電圧はロジックハイになります。クローズの場合、ポートタイプに関係なくD+の読み値はロジックローになります。0.9秒のタイムアウト時間後にデータピンコンタクトが検出されない場合、エンド機器はSDPがあるものと想定します。

  5. 第1段階充電検出 このステップでは、エンド機器は500mA以上に対応するポートを充電ラベル(CDPおよびDCP)によって500mA以下のポート(SDP)から区別します。DCDフェーズからの電流ソースをディセーブルした後、エンド機器はD+の0.5V~0.7Vの電圧ソースとD-の25µA~175µAの電流シンクをイネーブルする必要があります。DCPまたはCDPがある場合、0.5V~0.7VのレベルがD-上に現れます。SDPがある場合、D-の電圧は0に低下します。エンド機器は、D-と0.25V~0.4Vを比較するコンパレータを作動させます。D-の電圧が0.4V以上で、ロジックローのスレッショルドである0.8V以下の場合、エンド機器はチャージングポートがあると結論します。
  6. 第2段階充電検出 前ステップの電圧ソースと電流ソースをオフにした後、エンド機器はCDPをDCPから判別する必要があります。これを達成するため、エンド機器は前ステップのテストを逆に行います。すなわち、0.5V~0.7Vの電圧ソースをD-でイネーブルし、50µAの電流シンクをD+でイネーブルします。DCPがある場合、0.5V~0.7Vのテスト電圧がD+に現れます。CDPがある場合、D+の電圧は0になります。
  7. CDP充電電流制限 CDPはデータと大電流充電の両方をサポートするため、最後にもう1つの区別を行う必要があります。USBケーブルには大量の電流が流れるため、ホストのグランドとデバイスのグランド間で375mVのグランドオフセットのみが許容可能です。

図2. BC1.2の充電検出手順の概要 図2. BC1.2の充電検出手順の概要

非BC1.2準拠のチャージャはメーカーごとに異なりますが、これらの独自チャージャの多くはVBUSとグランド間の抵抗分圧器で設定される電圧レベルによってエンド機器に自分が何であるかを伝えます。充電検出回路が必要とする対応範囲のレベルに応じて、検出回路を追加してD+とD-の電圧レベルを検出し、それによってさまざまなメーカー固有チャージャを識別することができます。

充電検出技術

USB充電検出ICは、BC1.2充電検出に関する機能と複雑な仕組みの多くを1つのチップに実装しています。実のところ、ディスクリート部品を使ってこの検出方式を実装することも可能です。しかし、ディスクリート部品によるシステムが適切に動作するまでに必要となる部品の数、基板スペース、および時間が大幅に増加することになります。

専用の充電検出チップの追加には多少追加の基板スペースが必要になるため、多くの場合メーカーは必要または望ましい他の機能も同じパッケージに組み合わせます。その結果、充電検出ICは非常に高集積となり、USBまたはUART/オーディオ動作用の内蔵スイッチ、シリアル制御インタフェース、過電圧保護(OVP)、USB OTGサポート、リチウムイオンバッテリ充電機能、あるいはUSBエニュメレーションを行う機能まで、非常に多くの追加機能を備えたものになります。

最小限の追加部品数と基板スペースで既存の設計に組み込むことができる充電検出器を求める設計者には、MAX14576/MAX14636/MAX14637ファミリのデバイスが最適です。このクラスの充電検出器は、USBのVBUSラインから直接給電されるため、追加の電源は不要です。これらのデバイスは、充電検出実行時はオープンでUSBデータ通信イネーブル時はクローズされるSPSTスイッチを内蔵しています。各デバイスは、充電の可否およびデータスイッチの状態を示すオープンドレインのI/Oを備えています。一部のバージョンの充電検出器は、BC1.2準拠のポート検出に加えてApple®充電検出も内蔵しています。図3は、検出プロトコルを扱う検出回路の例を示します。必要なメインプロセッサのリソースが減少し、既存の設計に対する大幅な変更は不要です。

図3. 充電検出器のMAX14636のブロック図 図3. 充電検出器のMAX14636のブロック図

この数年で、スマートフォンは世界を席巻しました。この洗練された技術を促進している主な力の1つは、フォームファクタです。機能のリストが増え続ける一方で、全体のサイズは小型化しているため、目標の小型化仕様を達成するには注意深い計画と高集積ソリューションの実装が必要になります。たとえば、1つのコネクタを充電、PCとの接続、外付けアクセサリとの接続、またはオーディオ再生に使用する携帯電話を考えてみます。これらすべての作業をコンパクトな形で達成するため、システム設計者はMAX14656などの充電検出ICを使用することができます(図4)。

図4. 充電検出器のMAX14656を使用するスマートフォンアプリケーション 図4. 充電検出器のMAX14656を使用するスマートフォンアプリケーション

この汎用充電検出回路は、各種のBC1.2準拠ポートを自動的に識別し、ほとんどのApple独自チャージャ(500mA、1A、2.1Aなど)の検出に対応します。また、このデバイスはDPDTスイッチも内蔵しており、ハイスピードUSBトランシーバ、オーディオ出力、あるいは内蔵UARTによってさえ、D+およびD-ラインを共有することが可能です。内蔵プロセッサは、チャージャが接続されているかどうかをI2Cインタフェースを使って読み取り、内部スイッチを適切なモードに設定します。VBUS端子に内蔵されたOVP、データラインのESD保護、および1.65mm x 1.65mmの実装面積を考えると、この1つの充電検出器によってスペースに制約のあるデザインの1つのコネクタに大幅な汎用性が追加されます。

ポータブル電子機器への約束

基本的な充電検出器の機能と他のさまざまな機能を組み合わせて、ポータブル電子機器メーカー向けの高集積回路を提供することができるため、充電検出技術には非常に高い汎用性があります。他にも、充電検出とリチウムイオンバッテリ充電制御を1つのパッケージに組み合わせたソリューションがあります。充電検出とUSBセルフエニュメレーションを組み合わせたものもあります。今日の最新の充電検出器チップは、内蔵プロセッサに仕様で定義された時間内の総電流をマニュアルで調整させる代わりに、BC1.2に従ってバッテリ充電サイクルを自律的に監視します。

充電検出機能とバッテリ充電機能を組み合わせると、スマートバッテリ切替え制御が実現します。この技術は、チャージャがある時にはバッテリ電源からチャージャ電源へと自動的に切り替えます。そのため、一部の充電検出器チップはバッテリの充電と全負荷電流の供給の両方を行うことができます。これを行うデバイスは、サーマル電流レギュレーションもサポートします。これは、バッテリの充電と負荷への電流の供給を同時に行うことによって発生する危険な高温に対して保護するものです。充電検出およびバッテリ充電を内蔵することによって、システム設計者はよりエンドアプリケーションに集中することが可能で、充電の問題について考える必要が少なくなります。

同時に、USB BC1.2仕様はメーカーが基盤とすることができる標準規格の提供によってエレクトロニクス業界を促進し続けます。現在提供されている膨大な数のBC1.2に準拠したチャージャが、さらに何倍にも増えるとしか考えられません。その事実だけでも、USBコネクタをポータブル機器に取り入れることは魅力的な選択肢となります。充電検出ICを使用すると、ポータブル機器のUSBコネクタは汎用性の高いコンポーネントになります。BC1.2への準拠が組み込まれているため、クリーンで使いやすい実装が維持されます。小型のポータブル製品を設計する場合、豊富な機能を備えた充電検出ICは非常に魅力的な集積回路です。


参考文献

  1. この仕様は、現在はBC1.2となっています(www.usb.org/developers/docs/devclass_docs/を参照)。
  2. 「keeping up with the Joneses」という表現は、米国英語の慣用句です。この言葉の歴史的背景および意味の変遷については、Wikipediaの記事(http://en.wikipedia.org/wiki/Keeping_up_with_the_Joneses)を参照。また、The Phrase Finder (www.phrases.org.uk/meanings/216400.html)も参照。
  3. http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-09-301_en.htmを参照。
  4. を参照http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-09-301_en.htm
  5. https://www.gsma.com/newsroom/press-releases/を参照。
  6. 中国通信標準化協会、「Technical Requirements and Test Method of Charger and Interface for Mobile Telecommunication Terminal Equipment」 (CCSA YD/T 1591–2006、その後YD/T 1591–2009にアップデート)を参照。また、韓国通信技術協会、「Standard on I/O Connection Interface of Digital Cellular Phone」 (TTAS.KO-06.0028、2001年3月公開、その後2002年(/R2)および2007年(/R4)にアップデート)も参照。
  7. プレスリリース 「Universal phone charger standard approved—One-size-fits-all solution will dramatically cut waste and GHG emissions」、Itu.int、2009年10月22日。2009年11月4日にwww.itu.int/newsroom/press_releases/2009/49.htmlに掲載。