チュートリアル 5066

較正が重要になるのはどんな場合か?


要約: 完璧性は相対的であり、アプリケーションに固有のものです。完璧なレースカーは通勤に適した自動車ではありません。日常的に使用する製品に必要なのは、高品質、低価格、および強固な信頼性です。時には完璧ではない部品を使用する必要が生じることもあり、そのとき較正が重要になります。さまざまな較正の手法によって、不完全な製造装置の許容誤差を低減しつつ、低価格を維持することができます。

はじめに

優れた較正は、トップクラスの技術です。かつては、高度な技術を広めるためにギルドが組織されました。弟子は、何年も働いて肉体的なスキルを身につけました。親方は、一生をかけて木彫や石彫、鍛冶、陶芸などの専門技術を磨き、美しい建築物、工芸品、記念碑などを作り上げました。
今日、我々はもっと実用主義だと主張する人もいますが、ありふれたコンシューマ機器が驚くほど見事な実用的芸術品になっています。人類は約60年間で、部屋いっぱいの真空管式コンピュータから、トランジスタへ、ラップトップへ、そしてスマートフォン/タブレット/電子ブックリーダーへと進んできました。我々は、常に驚かされる代わりに食傷気味になっており、これらの驚異的進歩を日常的なこととして受入れています。
我々は高品質な製品を強く求めており、それには高精度の製造装置が必要です。同時に、機器は低コストであることが必要です。メーカーは、どうすれば「完璧な」機器をリーズナブルな価格で提供することができるでしょう?一言で言えば、較正です。電子的較正によって、工場内のセンサー、バルブ、アクチュエータなどのフィールド機器に対するリモートからの較正およびテストが可能になります。また、さまざまな低価格のコンシューマ機器も作成可能になります。
機械部品も電子部品も、すべての実用的な部品には製造上の許容誤差があります。許容誤差が大きいほど、部品は低価格になります。しかし、それらの部品がシステムに組み込まれたとき、個々の許容誤差が合計されてシステム全体の許容誤差となります。トリム、調整、および較正回路の適切な設計を通して、これらのシステム誤差を修正し、安全、高精度、低価格な機器とすることが可能です。
較正とは、機器の性能を既知の精度の基準と比較し、次に修正(調整)を行って誤差を最小限に抑えることです。それによって、手頃な許容誤差の部品を使用して通常の予想を上回る製品を作ることができます。較正の利点は数多く、複数の領域でコストの削減が可能になります。較正を使用することで、製造上の許容誤差の除去、より低コストの部品の採用、信頼性と顧客満足度の向上、テスト時間と返品率の低減、および製品出荷の迅速化が実現します。

現実世界における較正

自動車修理ショップが良く使う広告の仕掛けは、注意深い較正の重要性を示しています。ショップの作業員がこちらを向いている後ろから、車が急速に迫ってきます。車は、作業員にぶつかる直前で、ブレーキ音をきしませて止まります。作業員は、「当社の技術が私たちを支えています(we stand in front of our work)」というセリフで、ブレーキおよび自社の技術力に対する自信のほどを示します。これを見た人は、たちどころにその会社の製品やサービスを信頼することになります。
較正の効用を強調するもう1つの話が、Dr. W.J. Youdenの本、「Experimentation and Measurement (実験と測定)」¹に出てきます。
1890年、イギリスの科学者であるレイリー卿は、空気から取得される窒素と、亜硝酸アンモニウムを過熱することで放出される窒素を比較する研究を行いました。彼は2つの気体の密度、すなわちそれぞれの単位体積当りの重量を比較したいと考えました。そのために、注意深く決定した容積のフラスコに、それぞれの気体を標準状態(0℃、1気圧)で順番に満たしました。気体を満たしたフラスコの重量から、窒素を除去したあとの重量を引くことによって、窒素の重量が与えられます。空気中の窒素の重さを測定した結果は、2.31001gでした。亜硝酸アンモニウムから取得した窒素の測定結果は、2.29849gでした。両者の差は、0.01152というわずかな値です。レイリー卿は、その差が測定誤差なのか、それとも本当に密度の違いが存在するのかという問題に直面しました。既存の化学的知識に基づくと、密度の差は存在しないはずでした。それぞれの気体についてさらに数回の測定を行った結果、レイリー卿は、これらのデータは観測された密度のわずかな差が経験的な測定誤差より大きいことを示しており、したがって差が実際に存在する証拠として説得力があると結論づけました。今度は、観測された密度の差の理由を探すという興味深い科学的問題が現れたことになります。さらなる研究を通して、最終的にレイリー卿は、空気中の窒素にはそれまで知られていなかった窒素より重い気体が含まれており、他の既知の気体を除去するための方法では除去されなかったと確信するに至ります。この仮定に沿って実験を進めた結果、彼はほどなく気体元素アルゴンの分離に成功します。それに続いて、それまで存在を想像されたことさえなかった希ガス類全体が発見されました。密度のわずかな差が、注意深い評価によって偶然ではないと判断され、大きな重要性を持つ科学的発見につながったのです。
注意深く、鋭い観察力を持つ科学者が、自分たちの信頼する機器を使うことによって、莫大な数の発見や発明が可能になってきました。我々は、較正が我々の生活の重要な一部であるという事実を免れることはできません。

絶対的な完璧性か、これで十分か?

絶対的に完璧なものはほとんど存在しません。プロ用のレースカーに投入される資金は膨大ですが、それらの自動車は完璧でしょうか?子供を乗せて買い物に行くのに使いたいと思いますか?燃料代がまかなえますか?明らかに我々は、自動車に「アプリケーション固有」が適用されることを理解しています。
同様に、「これで十分」が本当に十分なのはどんな場合でしょう?これもアプリケーションに依存します。1リットルの牛乳を買う場合、その中の30ccは重要です。それに対して、数キロの海岸線をカバーする貯水施設内の飲料水の量は、数千トンあるいは数百万トンという単位で計られます。こうした種類の計量では、30ccにはほとんど意味がありません。
電子的な測定も同様にアプリケーション固有であり、研究用の測定器は許容誤差の要件が大きく異なります。研究用の電子計測機器を作成する方法の1つは、すべての部品に極めて厳格な許容誤差のものを使用することです。この過剰な出費も、アプリケーションによっては正当化されるでしょう。しかし、もう1つの方法を使えば、必要な精度をより低コストで達成することができます。この第2の方式では、較正を使用することによって、より高精度な測定器を実現します。この測定器は、手頃な許容誤差レベルの部品を使って製造されます。信頼の置ける標準と比較しながら測定器を調整することによって、それらの許容誤差を較正して測定値から除去します。
下の簡単な図は、4つのアンプで構成された回路を示します(図1)。利得は8つの抵抗の許容誤差で決まります。回路全体の要件が±1%以内である場合、0.1%の抵抗を使用するか(方式1)、または較正を使う方法があります。1つの抵抗を可変抵抗もしくはポテンショメータ(ポット)に変更します。その上で、他の7つの抵抗は5%の抵抗(全体で±35%)または1%の抵抗(全体で±7%)とすることができます。どの許容誤差が実用的かを判断するには、回路の分析が必要です。消費電力、調整の細かさ、温度安定性など、その他のパラメータについても考慮します。
図1. 他の回路機能ブロックの間で4つのアンプを使用するシステム
図1. 他の回路機能ブロックの間で4つのアンプを使用するシステム
次の検討事項は、調整の安定性です。出荷時の1回の調整で要件を満たすことができるか、それとも定期的な調整が必要になるか?これもまた、アプリケーション固有です。Spectrum Software社の優れたツールであるMicro-Cap 10回路シミュレータは、安定性および波形の変化と部品の許容誤差との関係を比較することができます。無料の評価版がjapan.maximintegrated.com/calで提供されています。このソフトウェアを使用して、抵抗値を連続的に変化させてモンテカルロ分析を実行し、部品の許容誤差による影響を調べることができます。

較正による品質と低価格の両立

較正によって、設計エンジニアは強固で高信頼性の製品を低コストで作ることができます。経験の浅い設計エンジニアは、近道の誘惑に心を引かれるかも知れません。より経験を積んだ者はこの過ちを知っており、そもそも何かを正しくやるための十分な時間がなかったのに、なぜいつもそれを修正するための時間はあるのかと悔やんだことがあるはずです。長い目で見れば、Mark Twainの有名な「常に正しいことをしなさい、そうすれば人は喜ぶか驚くかのどちらかだ」という言葉を覚えておくのが一番です。
較正用デジタル-アナログコンバータ(CDAC)と較正用デジタルポテンショメータ(CDPot)を使用した高精度の自動調整によって、部品の許容誤差を除去するための調整が容易になります。CDACとCDPotは、どちらもパワーオン時に既知の状態で起動するという、較正の自動化を可能にする固有の属性を備えています。フルスケール、ミッドスケール、ロースケール、または内蔵の不揮発性メモリ内の以前に設定されたレベルでの起動が可能です。図2は、DACとCDACおよびCDPotの比較を示します。
通常のDACは1つのリファレンス電圧(VREF)を印加することが可能で、通常はこのリファレンス電圧が最も高いDACの設定になります。最も低いDACの設定は固定の電圧であり、通常はグランドです。CDACとCDPotは、上限と下限の両方のDAC電圧を任意の電圧に設定することが可能で、余分な調整範囲を除去することができます。使用しない調整範囲を除去することで、回路が著しく誤調整される可能性が排除されます。CDACとCDPotのハイおよびローの電圧は任意であるため、回路の較正が必要になる任意の位置を中心とすることができます。
図2. DACとCDACおよびCDPotの比較
図2. DACとCDACおよびCDPotの比較

機械式トリムを電子的な同等品に交換する利点

産業用システムにおいて、デジタル制御の可変デバイスは機械式デバイスと比較して複数の優位性を提供します。最大の優位性は、試験が低コストであることです。自動試験装置(ATE)は定期的に正確な較正を行うことが可能で、誤差の生じやすい手動の調整にともなう多額のコストが削減されます。また、デジタルポットは5万回の書込みサイクルが保証されているため、定期的なテストをより頻繁に、またはより長期間の機器寿命にわたって行うことが可能です。最も優れた機械式ポットでも、わずか数千回の調整にしか対応することができません。
位置の柔軟性とサイズも、機械式ポットと比較した場合の優位性です。デジタル式の可変ポットは、回路基板の信号経路上のまさに必要な位置に直接実装することができます。これに対して、機械式ポットは人間による操作を必要とするため、長い回路トレースや同軸ケーブルが必要になる場合があります。敏感な回路では、これらのケーブルの容量、時間遅延、または干渉ピックアップによって、機器の性能が低下する可能性があります。
また、デジタルポットは長期間にわたって較正値が維持されるのに対して、機械式ポットはたとえシール後でもわずかに動き続ける可能性があります。たとえば、ポットが温度サイクルされた場合や、出荷時の振動に晒された場合、ワイパースプリングの弛緩にともなってワイパーが移動します。デジタルポットに保存された較正値は、これらの要因による影響を受けません。
さらに、ワンタイムプログラマブル(OTP) CDPotを使用して安全性を強化することが可能です。これによって較正の設定がロックされ、操作者によるそれ以上の調整を防止します(図3)。較正値を変更するためには、物理的にOTP CDPotを交換する必要があります。特別なタイプのOTP CDPotとして、パワーオンリセット時には常に保存されている値に復帰する一方で、動作中は限られた範囲で操作者が自由に調整を行うことができるものもあります。
図3. 利得を備えた可変フィルタにより、OTPを介して較正の設定を凍結することが可能です。
図3. 利得を備えた可変フィルタにより、OTPを介して較正の設定を凍結することが可能です。

高精度電圧リファレンスを活用したデジタル較正

センサーおよび高精度アナログ-デジタルコンバータ(ADC)による電圧測定値の精度は、比較に使用する電圧リファレンスによって限定されます。同様に、出力制御信号の精度は、DAC、アンプ、またはケーブルドライバに供給するリファレンス電圧によって限定されます。小型、低電力、低ノイズ、低温度係数の電圧リファレンスを、低コストかつ容易に使用することができます。さらに、DS1859などの一部のリファレンスは温度センサーを内蔵しており、環境の変動への追従に役立ちます。
一般的な電源は、高精度電圧リファレンスとしての使用には不適切です。標準的な電源の精度はわずか5%~10%で、負荷およびラインの変化にともなって変動し、ノイズが多いという傾向があります。これに対して、MAX6325の初期精度は±0.02%であり、ノイズは1.5µVP-P以下で、温度係数は1ppmです。
一般に、シリアル較正電圧リファレンス(CRef)には3つのタイプがあり、それぞれが異なるファクトリアプリケーションに適した固有の利点を備えています。複数の電圧リファレンスの選択肢があるため、設計者はまさにその回路に応じた最適化と較正を行うことができます。
第1のタイプのリファレンスは、小さい範囲の調整(通常は3%~6%)が可能です(図4)。これは多くのシステムでの利得調整に適しています。実質的に、デジタルコンバータ上でアナログ利得調整が可能になります。たとえば、DACとMAX6350などのトリム可能なCRefの組合せにより、単にCRefの電圧を調整することによって全体のシステム利得を微調整することができます。
図4. デジタルポットはリファレンス電圧を調整し、DACを介してシステム利得を変更します。
図4. デジタルポットはリファレンス電圧を調整し、DACを介してシステム利得を変更します。.
第2のタイプは可変リファレンス(MAX6037MAX6160など)で、広範囲(たとえば1V~12V)にわたる調整が可能です。これは、許容誤差の大きいセンサーを備え、不安定な電源で動作する必要のあるフィールド機器に適しています。ポータブル保守装置は、バッテリ、車載電源、または非常用発電器で動作する必要があります。
第3のタイプはE2CRef (図5)で、メモリを内蔵し、単一ピンコマンドによって0.3V~[VIN - 0.3V]の範囲の任意の電圧をコピーし、そのレベルを無限に保持することが可能です。
図5. 無限サンプル/ホールド可変電圧リファレンスのDS4303のブロック図
図5. 無限サンプル/ホールド可変電圧リファレンスのDS4303のブロック図
E2CRefは、ベースラインまたは警告アラートスレッショルドの確立を必要とする試験および監視装置に役立ちます。

結論

較正が重要なのはどんな場合でしょう?精度、品質、および完璧さが必要な場合のみです。我々が日常的に使用する製品には、高品質、低価格、および強固な信頼性が要求されます。較正は、低価格を維持しつつ、システム内での部品の許容誤差の累積を除去する上で役立ちます。較正に関する詳細、製品、アプリケーションノート、および設計ツールについては、japan.maximintegrated.com/calをご覧ください。

参考文献

  1. Dr. W.J. Youden著、「Experimentation and Measurement」、米国立標準局(NBS)応用数学部、1961年。再版1997年5月、米国商務省、国立標準技術研究所(NIST)、Special Publication 672。