チュートリアル 5065

無線感受性— 治療法は抗生物質、ワクチン、それとも物理法則?


要約: 技術者は、無線感受性(RS)または無線耐性が抗生物質、ワクチンや、何らかの万能薬で治らないだろうかと考えるものです。残念ながら、RS問題の解決はそれほど容易ではありません。実際、ここで活躍するのは物理法則です。この記事では、RSの原因について説明します。また、システム、電源、プリント基板(PCB)、電子部品を無線周波数干渉から保護するためのコツやヒントも紹介します。

同様の記事がデジタル版「EE Times」誌の2011年11月12日号に掲載されています。

はじめに

青緑色のパンカビが何百年もの間、感染症の治療に使用されてきました。その後、1932年にAlexander Flemingが抗生物質の効果を確認し、その薬剤をペニシリンと名付けました。彼がその治療上の価値を初めて発見したわけではありませんが、彼が先鞭をつけた一連の出来事の結果として、1940年代にペニシリンの商品化と大量生産が実現しました。文字どおり、数百万もの命が「精製したパンカビ」によって救われています1
人間はそれほど1つの薬を別の問題の治療にも適用したいと考えるものでしょうか。おそらく私たちが考える以上にその傾向があります。ペニシリンは人類にとって万能薬でしたが、無線感受性(RS)に対しては役に立ちません。この問題に対しては、物理法則の力を借りる必要があります。それが私たちに、電波障害への感度を制御する方法を教えてくれるのです。

RS問題の性質を理解する

Sayre2によると、感度とは、「電子デバイスが別のデバイスの電磁場による悪影響をどれくらい受けやすいか」ということです。一般用語では、電磁場は無線信号です。電磁干渉(EMI)と無線周波数干渉(RFI)は関連しており、これらの用語が区別なく使用されることもよくあります。
「デジタルICではRFIが起こりません。では、なぜアナログICでは起こるのでしょうか」などと、新人のデジタル技術者は質問します。デジタルICはRFIの影響を受けますが、その影響が明らかではありません。実際、デジタルはスレッショルド付きのアナログです3。デジタル信号のレベルが2つのスレッショルドを上回るか、または下回ると、ほとんどの場合、低レベルのRFIを無視することができます。しかし、遷移点では干渉によってエッジジッタが引き起こされるため、常に無視することができるとはかぎりません。ほとんどのデジタルデバイスはシステムレベルで保護されています。そのため、特に大部分の顧客が必要としていないときに、デジタルロジックゲートのコストを2倍にも3倍にも引き上げてRFI保護を追加するのは経済的ではありません。
いくつか例外はありますが、RSは主に無線集積回路(IC)のシステム仕様です。大部分のシステムでは、これらの回路のほとんどが筐体(シールド)、電源デカップリングネットワーク、電力線フィルタ、絶縁回路によって外界から隔離されています。この規範には例外が2つあります。アンテナに直接接続された無線デバイスと、システムの入出力ポートに接続されたその他のデバイスです。Ed Hare4は、アマチュア無線愛好家(HAM)の視点から、コンシューマ機器、ケーブルTV、TVセット、VCR、電話機、その他のオーディオシステムにおける干渉の問題について論じています。彼の著書の第17章では米国のRFI規制や基準が要約され、付録CにはFCC (連邦通信委員会)の「ホームエンタテイメント機器の干渉ハンドブック」が転載されています。
「ホームエンタテイメント機器の干渉ハンドブック」は、もはやFCCのウェブサイトに掲載されていません。しかし、米国アマチュア無線連盟のサイトには掲載されています5。この文書の写真は、アナログ(NTSC)テレビの干渉の様子を示しています。米国で現在使用されているHDまたはデジタル信号(ATSC)では、デジタル処理や誤り訂正の効果もあって干渉が無視されていますが、クリフ効果が見られます。具体的には、わずかな信号レベルの減少や干渉の増大によって誤り訂正がかき消され、信号が完全に失われます(クリフ効果)。このクリフエッジでは、映像がブロック状や筋状に乱れ、動きが止まることがあります。音声も途切れがちになります。
コストをかけ、複雑な仕組みで内部システム部品にRS保護を組み込んでも、費用対効果は高くありません。そこで、もう1つ疑問がわいてきます。なぜアナログICは静電気(ESD)から保護されるのでしょうか。

外界とのアナログ接続を保護する

ESDには2つの異なる保護レベルが必要です。IC内のESD保護は取り扱いと組み立て時の保護機能です。システムレベルのESD保護は入出力(IO)ポートにおける機能で、より強固であり、IC内には収まらないディスクリートデバイスが必要です。
システムと外界との接続部はRSが最も問題となる領域です。典型的な例は、AC電源がシステム筐体に入る部分や、信号がTVアンテナ、衛星通信用パラボラアンテナ、イーサネットケーブルなどのデバイスに入る部分です。その次に問題になるのは、音声と映像やネットワーク接続などのケーブルの出口です。

電源接続(伝導性放射)

AC電力線の入口点にはローパスフィルタブロックがあります。これは外部ソースから入るあらゆるRFIからシステムを保護します。このフィルタは双方向であるため、システムやスイッチング電源からの信号がAC電力線に伝播することもありません。このフィルタは受動型であり、コモンモードチョーク(インダクタ)とコンデンサで構成されます。標準的なCorcom®電源フィルタの回路図を図1に示します。
図1. コモンモードチョーク電力線フィルタ
図1. コモンモードチョーク電力線フィルタ

入力と出力のRFI保護(伝導性放射)

Corcomは、ほかにDC電圧、RJ-11ジャック(電話機)、RJ-45ジャック(イーサネット)用のフィルタモジュールも提供しています。これらのモジュールはRFIがシステム筐体に侵入するのを防ぎ、システム内で生成されたあらゆるスプリアス信号を減衰させて筐体外に出しません。入口点と出口点は、通常、受動部品で作られたローパスフィルタによって保護されます。1つの例外はラジオやTVの無線周波数信号用のもので、これらはバンドパスフィルタによって保護されます。実質的に、目的の無線周波数よりも低い信号と高い信号が両方とも遮断されます。

EMIと放射妨害波(RFI)

放射信号はシステム筐体の側面を貫いて行き来します。安価で成形しやすく、電気ショックによる損傷を受けにくいため、プラスチック製の筐体が一般的です。しかし、EMIやRFIはプラスチックを貫いて直接伝播します。そのため、金属の遮蔽物6や筐体内の導電塗装によって追加的なシールドを施す必要があります。導電塗装と軽量な金属板によって静電気保護を施しますが、磁気の遮蔽には重量のある磁性材料が必要になります7。こうした事情から、プリント基板(PCB)の設計と接地が極めて重要であり8、またDC電源とデカップリングも同様に重要です9

半導体とICにおけるRS

最も簡単な半導体は、小型の片方向スイッチであるダイオードです。図2は1930年代以降に広く使用された鉱石ラジオを示しています10。頂部にはアンテナ、底部にはグランドがあります。選局することはできません。当時は放送局の数が少なく、最も音量が出る最寄りの放送局がその他を圧倒していました。ダイオードによってRFを整流し、それを音声エネルギーに変換してハイインピーダンスのイヤホンで聴いていました。
図2. 鉱石ラジオの回路図
図2. 鉱石ラジオの回路図
ダイオードは無線信号の影響を受けなかったのでしょうか。実際、受けましたし、だからこそこの事例を取り上げたわけです。図3は現代のIC内に見られる最も一般的な回路です。この回路ではESD構造でダイオードを使用し、ESDに対処しています。鉱石ラジオの場合と同様、ESDダイオードは無線信号を復調することもできます。したがって、ESDダイオードを無線信号から保護する対策を講じる必要があります。
図3. ESD保護を備えた現代の無線回路の回路図
図3. ESD保護を備えた現代の無線回路の回路図
RF信号が信号ピンやVCC電源ピンに印加されると、どうなるでしょうか。回路の機能が鉱石ラジオに逆戻りします。そこで、当然の疑問ですが、一般的なICのESDダイオードは無線信号の影響を受けないのでしょうか。もちろん、受けます。図3に示すように、VCCラインではコンデンサがグランドに接続されています。したがって、そのコンデンサを通過して無線信号をグランドに分流させる経路があります。たとえば、米国のAMラジオ放送局は1MHz付近の帯域を使用しています。図3のコンデンサ(B)が0.1µFであれば、コンデンサがその周波数でローインピーダンスであるため、AMの無線信号が減少します11
実は、回路に何らかの非直線性があると、スプリアス信号が整流されます。直線性に優れたアンプの整流機能は、直線性の低いアンプに及びません。優れたアンプでも過負荷になると相当な歪みと非直線性が生じます。
LDO (低ドロップアウト)や電圧リファレンスなどの3端子電圧レギュレータについてはどうでしょうか。それらのレギュレータは、内部電圧リファレンス(通常、バンドギャップまたはツェナーダイオード)、アンプ、およびパストランジスタで構成されています。アンプはフィードバックを利用してリファレンス電圧を出力電圧と比較し、出力を補正するエラー信号を供給します。目的の出力は安定したDC電圧です。レギュレータは入力ライン電圧が変化したときや、出力負荷が変化した場合に動作する必要があるため、補正にはある程度の速度または帯域幅が求められます。一方、円滑な制御と安定性を確保するには、補正速度を制限する必要があります。その結果、標準的な帯域幅は200kHz~1MHz (最大)の範囲になります。それでは、800MHz付近の高周波無線信号がいずれかの端子(入力、出力、またはグランド)に印加されると、どうなるでしょうか。無線信号はフィードバックループによって減衰させられることも、補正されることもありません。したがって、無線信号はレギュレータ内を伝播します。幸い、レギュレータにはそうした無線信号を除去するための電源デカップリングが要求されます。コンデンサは自己共振点より下でしか機能しません612。そのため、RFIを除去する必要があるデバイスで4つのデカップリングコンデンサが使用されることもあります13
接地、電源デカップリング、ボードレイアウトの詳細については、参考文献11~16を参照してください。

まとめ

一般的なICの大部分は無線感度に関するテストが行われていません。これは、アプリケーションのうち99.9%ではシステムがすでにRFIやEMIから保護され、システムへの侵入もシステムからの放射も防止されているためです。無線ICは1つの例外です。これらの回路ではRFの機能が求められるため、内部と外部のバンドパスフィルタリングを組み合わせて、システムに出入りする信号を目的の周波数のみに限定する必要があります。

参考文献

  1. Time誌のAlexander Flemingに関する記事、www.time.com/time/magazine/article/0,9171,990612,00.html
  2. Cotter Sayre、「Complete Wireless Design」、McGraw-Hill、IBSN 978-0-07-154452-8、653ページ
  3. マキシムのアプリケーションノート4345 「Well Grounded, Digital Is Analog
  4. Ed Hare編、「The ARRL RFI Book」、米国アマチュア無線連盟、ISBN 0-87259-683-4
  5. 米国アマチュア無線連盟のウェブサイトを参照してください:www.arrl.org/files/file/Technology/FCC%20RFI%20Information/tvibook.pdf.
  6. John R. Burgoon, Jr.、「Fundamentals of Electrical Shield Design, Insulation/Circuits」、1970年8月、Lake Publishing
  7. Henry W. Ott、「Electromagnetic Compatibility Engineering」、ISBN 978-0-470-18930-6、遮蔽に関する第7章
  8. Sayer、前掲書、第13章「EMI Control and Printed Circuit Board Layout」。Hare、前掲書、第16章「RF and Transient Immunity」。Elya B. Joffe、Kai-Sang Lock、「Grounds for Grounding」、ISBN978-0471-66008-8、第9章「Grounding on Printed Circuit Boards」
  9. Ott、前掲書、第11章「Digital Circuit Power Distribution」
  10. 初期のラジオの歴史についてはさまざまな資料があります。次のウェブサイトを参照してください:https://www.californiahistoricalradio.com/radio-history/100years/ https://bayarearadio.org/#KQWwww.charlesherrold.org/
  11. マキシムのアプリケーションノート4992 「Reduce the Chances of Human Error: Part 1, Power and Ground」。電子システムのエラーは通常、デジタルではなくアナログです。
  12. マキシムのアプリケーションノート4993 「Reduce the Chances of Human Error: Part 2, Super Amps and Filters for Analog Interface」。インタフェースは訓練を要する専門的な話題です。このアプリケーションノートでは、アンプとフィルタについて基本的な注意事項と概念をいくつか説明しています。
  13. Ott、前掲書、第11章の4におけるコンデンサのサイジングに関する説明
  14. マキシムのアプリケーションノート4605 「Avoid Design Misinterpretations that Put System Operation in Jeopardy」。3つのケーススタディを通じて、物理法則の簡単な分析と正しい理解がいかに設計者の役に立つかを説明しています。
  15. マキシムのアプリケーションノート4991 「Oops...Practical ESD Protection vs. Foolhardy Placebos」。電子システムを保護するための実用的な方法を提案しています。
  16. マキシムのアプリケーションノート4345 「Well Grounded, Digital Is Analog