チュートリアル 4698

透析装置入門


要約: このアプリケーションノートは透析装置を紹介し、FDA規制とIEC 60601-1の認定、セルフテストと障害通知機能、形状の要件、パワーバジェットの制約、およびその他の重要な設計上の検討事項について議論します。体外循環路、透析液回路、および滅菌回路などの透析装置の主な補助機能と、ディスプレイ、データインタフェース、検出と機構、処理、および電源における部品選択の規準について説明されています。

概要

医療施設用透析装置
医療施設用透析装置
透析装置は人工の腎臓であり、慢性的または一時的な腎不全の患者のために腎臓の(すべてとは言えないまでも)ほとんどの機能を遂行します。これらの装置は、血液透析によって血液を浄化し、血液の成分バランスを調整します。この処置によって、患者の血液は装置を通って循環し、そこで濾過され、電解質、pH、血中水分濃度のバランスが調整された後、患者に戻されます。腎不全に共通する問題の1つが水分の貯留であるため、この処置では患者の血液から数パイントの水分を除去するのが一般的です。

透析装置には、大きく分けて2つの種類が存在します。1つは医療施設用装置で、一般的にはキャビネット大の装置であり、訓練を受けた技師によって操作されます。もう1つは、より小型の家庭用透析装置であり、携帯型のものも存在します。

通常、腎機能を完全に失っている患者の場合、少なくとも週3回は通院して約4時間を装置につながれて過ごす必要があります。家庭用装置を使用することによって、患者はより柔軟に透析のスケジュールを組むことができ、より長期間にわたって頻繁に透析を行うことができるようになります。このように、利便性の向上と治療結果の改善につながることから、家庭用装置の普及が進んでいます。

FDA規制対象の医療機器

透析装置は、米食品医薬品局(FDA)によって設計と製造が規制されている医療機器です。そのため、詳細に文書化された手順に従って設計と組立てを行うとともに、厳格なドキュメンテーション、開発時テスト、製造時テスト、およびフィールドメンテナンスの要件に適合する性能を備える必要があります。

また、機器には包括的なセルフテストと障害通知の機能が内蔵されている必要があり、そのための追加回路と、セルフテスト機能を内蔵した部品の使用が必要になります。

患者への漏れ電流も大きな問題になります。医療装置の開発者は、医用電気機器の製品安全性規格であるIEC 60601-1の要件を満たす必要があります。

FDA承認の取得には長い時間と莫大な費用が必要になるため、メーカーはシステム部品の長期的な入手性を確保する必要があります。したがって、顧客志向の生産中止ポリシーを採用しているサプライヤを選択して、長い年数にわたるシステム部品の入手性を確保することが重要です。

マキシムでは長年にわたって慎重に部品の生産中止を回避してきたため、マキシム製品は医療分野のお客様の信頼を得ています。マキシムは製品の生産中止がお客様にとってどれほど壊滅的なものになりうるかを理解しており、一部製品のより新しい生産ラインへの移行、ウェハバッファの構築、最終購入の機会提供、アップグレードデバイスの開発などの作業を入念に行ってきました。需要が存在する間に生産中止となったマキシム製品は現在までほとんどありません。マキシムの生産中止ポリシーは、同業のサプライヤ企業の中でも最も柔軟なものの1つです。

動作概要

体外循環路

高い血流速度を実現するために、患者の血液は動脈、大静脈、または外科処置を施した静脈から連続的に導出されます。蠕動血液ポンプの脱血側と返血側の両方で血圧が監視されます。血液の凝固を防止するために、血液がダイアライザに入る前にヘパリンが加えられます。正確に制御された速度でヘパリンを注入するために、シリンジポンプが使用されます。

その後、血液はダイアライザに入り、反対側が透析液で満たされた大表面積の半透膜の中を通過します。血液との間で化合物の適正な流れが確保されるように半透膜両側の圧力勾配が維持されます。ダイアライザ内での浄化とバランス調整が終わった血液は、エアトラップを通って気泡が除去された後、患者に戻されます。気泡センサーによって、気泡が残っていないことが保証されます。

装置の適正な動作を確認し患者の安全を保証するために、血圧、酸素飽和度、および場合によりヘマトクリットレベル(血球濃度)が監視されます。最大限の効果を得るために、動作中は常に新鮮な透析液がダイアライザに注入されます。

透析液回路

医療施設の場合、そのまま使用することができるよう、通常は透析液があらかじめ適切な濃度に調合されています。家庭用装置の場合、容器を小型化するために濃縮タイプの透析液が使用されることが多く、滅菌精製水によって装置内で希釈されます。したがって、家庭用装置にはこれらの追加ステップを実施するための温水器、バルブ、ポンプ、および各種のセンサーを搭載する必要があります。家庭用装置では、消費電力を抑えるために透析液の調合処置を透析とは独立して事前に行うのが一般的です。

どちらのタイプの装置にも、透析液に重炭酸緩衝液を混合する機能が含まれています。この補助回路は、追加のポンプ、バルブ、およびセンサーで構成されます。

滅菌回路

透析処置の完了後は、装置の洗浄と滅菌を行う必要があります。配管にそのための用意が施されており、回路を閉ループにしてシステム内に生理食塩水や滅菌精製水を通し、すべての不純物を洗い流すようになっています。

家庭用装置の特別な要件

全般的な利便性の面から、家庭用システムはより小型であり、携帯型の場合もあります。透析液の調合という追加機能が必要になるため、医療施設用装置以上に小型でコンパクトな設計の必要性が増大しています。

家庭用透析装置は、低消費電力であることも重要です。以前のシステムでは、110V AC支線回路の標準的な能力である15Aを超える給電を可能とするために、多くの場合家庭内の配線工事が必要になりました。現在は、低消費電力設計によってこうした費用の掛かる改修が不要になっています。

治療の最後の滅菌サイクルは、大きな電力を必要とするプロセスでもあります。必要な加熱を妥当な時間内に完了するために、必要に応じて電力線の電力を補助するバッテリまたは電気二重層キャパシタが内蔵され、短時間に大電力を供給する能力を備えています。電力線の消費電流が15Aの制限値を下回っている場合に、バッテリまたは電気二重層キャパシタの充電が行われます。

家庭用透析装置のブロック図
家庭用透析装置のブロック図。マキシムが推奨する透析装置ソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/dialysisをご覧ください。

装置の特長

オペレータ用制御装置

ディスプレイおよびバックライト。医療施設用透析装置が通常は比較的大型のディスプレイ(ほぼコンピュータ画面のサイズ)を備えているのに対し、家庭用装置のディスプレイはこれよりずっと小型です。最近の装置は、簡単に使用することができるように通常はグラフィカルユーザインタフェース(GUI)を採用しています。重量と消費電力を低減させるために、陰極線管(CRT)モニタの代わりに液晶ディスプレイ(LCD)が使用されています。

マキシムはLCDパネルに特化したLVDSシリアライザ/デシリアライザを提供しています。これらのソリューションは、広範なビット幅(1~27)と最大2.5Gbpsの速度をカバーしています。これらのデバイスは、異なるロジックレベル間の変換(たとえばLVCMOSからLVDSへ)を行い、プロセッサのビデオインタフェースとディスプレイモジュールの間の互換性を確保します。

必要に応じてこれらのインタフェースの等化、多重化、バッファ、およびレベル変換を行って信号の完全性を保証する製品の完全なポートフォリオが提供されています。たとえば、MAX3803は最大3.2GbpsのLVDS、PECL、またはCML信号の等化を行って最大100cmのFR4基板材質を補償可能であり、ディスプレイがグラフィックスプロセッサから離れた位置にあるシステムにおいてデータの適正な表示を保証します。

バックライトとして、冷陰極蛍光管(CCFL)または高輝度白色LEDのいずれかを使用したものが必要になります。マキシムは、両方のタイプのバックライト用にドライバを提供しています。提供される特長として、電磁干渉(EMI)を低減するスペクトラム拡散クロックや、様々な周囲の明るさに対応する広い調光比があります。人間の目の反応特性を持つMAX44009などのマキシムの環境光センサーを使用することによって、ディスプレイの輝度は閉ループシステムによって制御され、変化する明るさの条件に応じて自動的に調整可能です。

タッチスクリーンおよびキーボード。マキシムは、複数キーの同時押下に対応したデバイスなど、各種のキーボードスキャナを提供しています。多くのアプリケーションではキーボードからタッチスクリーンへの転換が進んでおり、直観的なGUIとの組合せによってユーザー満足度を高めることができます。

タッチスクリーンアプリケーションの場合、設計者は抵抗式と静電容量式のタッチスクリーンを使用するトレードオフについて考慮する必要があります。複数のタッチに対応するには、静電容量式のタッチスクリーンが必要です。シングルタッチ入力のみが必要な場合は、抵抗方式にいくつかの優位性があります。たとえば、数インチ以上のサイズのディスプレイでは、コスト面で抵抗式タッチスクリーンが有利です。マキシムは、抵抗式と静電容量式の両方について、タッチ管理機能の実行によってこのインタフェースを管理するプロセッサの負担を軽減する、より新しく高機能な数種類のタッチスクリーンコントローラを提供しています。

患者との接続

基本的な透析では、患者との間に電気的な接続は存在しません。しかし一部の透析装置は、患者の血圧の他に、心拍数、体温、呼吸数などの生体信号を監視します。これらの機能は透析処置に固有のものではないため、この章ではこれ以上詳しく解説しません。これらのシステムの詳細については、このソリューションガイドの他の章を参照してください。

データインタフェース

個々の患者の治療について、透析処置の実行記録が電子的に保存され、さまざまな方法で取得可能になっています。透析装置には、USB、イーサネット、およびレガシーの病院情報システム(HIS)に対応する各種のシリアルインタフェース(RS-232、RS-485、RS-422など)が搭載されています。病院のワイヤレスネットワークとの直接接続を可能にするワイヤレスインタフェース(Wi-Fi®など)が搭載されている場合もあります。

一部の製品では、データカード用のスロットも装備されています。これによって、患者が個人の医療情報を格納したIDカードを携行して、装置のパラメータの多くを自動的に設定することができます。

機構装置

ポンプ。血液、透析液、水、生理食塩水など、さまざまな大容量の液体を装置内で駆動するために、通常は蠕動ポンプが使用されます。このタイプのポンプは、溶液に直接触れないという点で非常に好都合です。代わりに、柔軟性のあるパイプがポンプ機構の中を通っており、ローラーで圧縮されて液体を前進させる仕組みになっています。これらのポンプは大量の動力を必要とし、可変速制御式のDCまたはACモータによって駆動されます。モータが希望の速度で回転していることを保証する電子的な手段を用意する必要があります。マキシムは、実際のシャフトの回転から取得した完全に独立した信号を出力するホール効果センサーを提供しており、モータ自体にホール効果センサーが内蔵されている場合にも冗長性機構として使用することができます。

バルブ。可変混合比を可能にするために、装置内に複数の電子作動式バルブが必要です。ソレノイドで駆動される単純な開閉バルブから、ステッパモータまたはその他の手段で駆動される高精度可変位置バルブまで、さまざまな実装が可能です。

センサー。透析装置には、各種のパラメータを監視するために多数の種類のセンサーが必要です。透析中は、体外循環路のさまざまな位置における血圧、透析液圧、温度、O2飽和度、モータ速度、ダイアライザ半透膜の圧力勾配、および空気のすべてが適切な値かどうか監視されます。ディジタル出力を備えている場合を除いて、センサーのアナログ信号に対する増幅、フィルタ処理、およびディジタル化を行ってからコントローラに送信する必要があります。各センサーに要求されるADC分解能の範囲はそれぞれの精度の重要度に応じて決まり、サンプリング速度の範囲は必要とされる応答時間に応じて決まります。

洗浄システム。次の患者の治療までの間に、再使用されるすべての構成要素を滅菌する必要があります。1つのアプローチとして、水または生理食塩水を高温殺菌温度まで加熱して、それを装置の体外循環路と透析液回路の両方に流すという方法があります。どのような洗浄方式を使用する場合でも、装置を正常に動作させるために必要となる駆動と監視は多くなることがあります。

処理

マイクロコントローラ。多数の入力信号を監視し、多数のポンプおよびその他の機械部品を制御する必要があるため、これらの機能の多くはシステムの各部分ごとに専用のマイクロコントローラを使用して実行されます。システム全体の制御は、完全なオペレーティングシステムとGUIを実行可能なメインプロセッサによって行われます。データ、コマンド、およびアラートを送信するために、コントローラ間の通信が必要になります。

フェイルセーフ回路。単一障害条件下において患者の安全を維持するために、セルフテストと障害通知の機能を備えたICが非常に役立ちます。通常は電源電圧を監視するために追加の監視回路が使用され、マイクロプロセッサの動作が適正範囲であることを保証するためにウォッチドッグ回路が使用されます。警告が必要な場合または障害条件が発生した場合、音声と視覚の両方の警報によってユーザーへの通知が行われます。

電源

透析処置には長時間かかるため、透析用の機器はすべてAC電源で動作します。医療機器の安全基準に適合した標準的なAC-DCコンバータが使用されます。電力を必要とする部品が多様であるため、それぞれ異なる電力レベルのさまざまな電圧レイルが必要になります。ノイズに敏感な高精度回路用に負荷でのかなりの量のリニアレギュレーションを行う、複数出力のスイッチングレギュレータを備えた電源システムが必要です。

安全規制によって、電圧、温度、および電流に関する電源のセルフモニタリングが要求されます。

通常は過電圧および低電圧検出器も搭載されます。電力レベルが高いため、さまざまな位置にファンと温度センサーを使用したアクティブ冷却が必要になります。

家庭用装置は水の滅菌機能を内蔵していますが、そのために標準的な15Aの壁コンセントから得られるよりも大きな電力を必要とする場合があります。したがって、AC電力線からの電流を制限し、バッテリ(または電気二重層キャパシタ)からの電力を並列に追加する機能が電源に求められます。

バッテリマネージメント

前述のように、家庭用透析装置は滅菌のために水を加熱する際に電源からの出力を補うバッテリ(または電気二重層キャパシタ)を内蔵する必要があります。可能な限りこれらへの充電を行うとともに、充電残量の管理を行って水滅菌処理に進むために十分な容量に達したことを示す必要があります。
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