チュートリアル 4694

ディジタル聴診器の紹介と電気部品を選択する上での基準

筆者: John DiCristina

要約: このアプリケーションノートはディジタル聴診器の基本的動作と設計上の考慮事項を概論します。ディジタル聴診器と、前世代の聴診器である音響聴診器の類似点を説明し、そして録音および再生などの、新しいディジタル設計のより進んだ機能を概説します。ディジタル聴診器の設計上の検討事項を述べるにあたって、オーディオ信号経路の重要性の詳細、オーディオコーデック回路の考慮事項の提示、および心音と肺音の音声周波数の要件が概説されています。またデータ保存と転送、ディスプレイとバックライト、電源管理、およびバッテリマネージメントなどのシステムの補助機能についても取り上げます。

概要

聴診器は、音響式でもディジタル方式でも、主に診断の補助として体内の心音と肺音を聴くために使用します。体内音の聴き取り(聴診)は、ほぼ200年にわたって音響聴診器で行われてきましたが、最近ではディジタル電子聴診器が開発されています。

基本的なディジタル聴診器の目標は、音響聴診器の外観と使用感を保ちながら、聴き取り性能を向上させることです。さらに、ハイエンドのディジタル聴診器は、録音や再生などの高度な機能を備えています。また、コンピュータのモニタなどの外部ディスプレイに接続してデータを出力することによって、結果をグラフ表示することもできます。こうした高度な機能は、医師の診断能力を高めます。従来の音響聴診器の形態(「外観や使用感」など)をとどめながらディジタル方式で性能を向上させるには、小型で低電力のソリューションを採用する必要があります。

オーディオ信号経路

ディジタル聴診器の本質的な要素は、音声トランスデューサ、オーディオコーデック回路、およびスピーカです。音声をアナログ電圧に変換する音声トランスデューサは、このチェーン内で最も重要な部品です。音声トランスデューサによって、ディジタル聴診器の診断品質が決まり、音響聴診器を使いなれた医師になじみのある使用感が確保されます。

アナログ電圧は、調整を加えてから、オーディオアナログ-ディジタルコンバータ(ADC)またはオーディオコーデックを使用してディジタル信号に変換する必要があります。ディジタル聴診器の中にはノイズ除去機能を備えたものもあり、周囲ノイズをディジタル除去するために補助的な音声トランスデューサまたはマイクロフォンが必要になります。この方式では、2つのオーディオADCが必要です。

ディジタル聴診器のファンクションブロックダイアグラム。マキシムが推奨するディジタル聴診器ソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/stethoscopeをご覧ください。
ディジタル聴診器のファンクションブロックダイアグラム。マキシムが推奨するディジタル聴診器ソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/stethoscopeをご覧ください。

ディジタル領域に入ると、マイクロコントローラユニット(MCU)またはディジタル信号プロセッサ(DSP)が周囲ノイズの低減やフィルタリングなどの信号処理を実行し、帯域幅を心音や肺音の聴き取りに対応した範囲に制限します。処理したディジタル信号は、オーディオディジタル-アナログコンバータ(DAC)またはオーディオコーデックによってアナログに逆変換します。

ヘッドフォンまたはスピーカアンプで音声信号を調整してからスピーカに出力します。スピーカは1つだけにすることができます。その場合は、聴診器のチューブが二股に分かれる分岐点よりも下に組み込み、増幅した音声を二股のチューブで両耳に送ります。また、2つのスピーカを使用することもできます。その場合は、各イヤホンの末端に1つずつ組み込みます。低周波音を生み出す必要があるため、聴診器のスピーカの周波数応答は、低音スピーカの応答に似ています。実装に応じて、1つまたは2つのスピーカアンプを使用します。

聴診器は、20Hz~400Hzの範囲の心音と100Hz~1200Hzの範囲の肺音に対して最高の感度を発揮する必要があります。周波数範囲はメーカーによって様々であり、これらの最適範囲から外れる音声はDSPアルゴリズムによって除去されることに注意してください。

データの保存と転送

取り込んだ音声をアナログ電圧に変換したら、オーディオジャックから出力し、コンピュータやディジタル聴診器で再生することができます。取り込んだ音声はディジタル処理を加えることもできます。音声はEEPROMやフラッシュなどの内蔵型または着脱式の不揮発性(NV)メモリを使用して聴診器内に保存しておき、聴診器のスピーカで再生したり、コンピュータに転送して分析を加えることができます。リアルタイムクロック(RTC)を追加すると、録音データに日時を簡単に付加することができます。音声の転送は、USBなどの有線インタフェースか、Bluetooth®やその他の独自規格の無線インタフェースで行うのが一般的です。

ディスプレイとバックライト

ディジタル聴診器には、使えるスペースが限られるために小型で単純なディスプレイを備えたものや、ボタンとLEDインジケータしか持たないものがあります。医療処置の際は周囲の照明のレベルが低いことも多いため、ディスプレイにはバックライトが必要です。小型ディスプレイでは、LEDドライバで制御する1~つの白色発光ダイオード(WLED)、またはELドライバで制御するエレクトロルミネセント(EL)パネル1枚で十分です。タッチスクリーンディスプレイとコントローラを追加すれば、ユーザインタフェースボタンの大部分が不要になります。

電源管理

大部分のディジタル聴診器では、1.5Vの単4形1次電池1~2本を使用します。この設計ではステップアップ(ブースト)スイッチングレギュレータを使用し、利用する回路に応じて電圧を3.0Vまたは5.0Vに昇圧する必要があります。

1.5Vの電池1本を使用する場合は、スイッチングレギュレータがおそらく常にオンになるため、バッテリ寿命の延長には、低自己消費電流が決定的な要因になります。バッテリ寿命の延長によって、それだけディジタル聴診器はより使いやすくなり、音響聴診器の使用感に近づきます。

1.5Vの電池2本を直列で使用するときは、スイッチングレギュレータを常にオンにする場合もあれば、使用しないときにオフにする場合もあります。回路の動作電圧が3.6V~1.8Vであれば、スイッチングレギュレータは不要かもしれません。コストを削減し、スペースを節約することができます。電池交換のために患者の検査を中断しなくてもすむように、ローバッテリ警告を備える必要があります。

バッテリマネージメント

充電式バッテリを使用する場合もあり、単一セルLi+ (リチウムイオン)バッテリが最適です。充電式バッテリを使用する場合は、ディジタル聴診器または充電用クレードル内にバッテリチャージャが必要です。バッテリの残容量を正確に測定するには、残量ゲージが最適なソリューションです。バッテリが着脱式の場合は、安全確保と販売後の管理のために認証機能も必要になります。