チュートリアル 4671

パルス酸素濃度計の設計におけるセンサー性能とSN比を向上

筆者: John DiCristina

要約: このアプリケーションノートは光透過式および反射式を含むパルス酸素濃度計の種類とハイエンドの移動式ベッドサイドモニタ、またはミッドレンジおよびローエンドのバッテリ駆動モデルを構築する場合の設計的な考慮について議論します。光吸収、センサーの較正と伝送経路内の詳細仕様が網羅され、フォトダイオード、インタフェース、信号変換、およびデータ変換特性の深い理解につながります。ファンクションブロックダイアグラムおよび推奨部品も含まれています。

概要

パルス酸素濃度計は、動脈血の酸素飽和度を非侵襲的に測定または連続監視し、酸素の供給が十分であることを確認します。麻酔下にある呼吸困難の患者、新生児、重篤な患者などに使用するのが一般的です。

パルス酸素測定装置では、通常、光学電子回路を内蔵したクリップを指、つま先、耳などに装着して、クリップの一方の側から肌に光を送信し、それをもう一方の側にあるフォトダイオードで受信します。酸素飽和度を測定するには、動脈血がよく流れていることが必要です。大部分のアプリケーションでは光透過式を採用していますが、反射式を採用しているアプリケーションもあります。

酸素濃度計の種類

パルス酸素濃度計は様々な形状とサイズがあり、大きく3つのカテゴリに分けられます。

ハイエンドはベッドサイド設置型の移動式患者モニタです。ケーブルは着脱式で、酸素飽和度の測定に使用する光学回路内蔵クリップが組み込まれています。これらのモデルには、パルス酸素測定専 用のものと、脈拍、血圧、呼吸数、体温といった複数の生体パラメータを監視するものがあります。これらのハイエンドモデルは高性能が要求され、特に低ノイズの信号経路が設計上、最も重要な考慮事項です。モニタはほとんどの時間電源ラインで給電され、バッテリで動作するのは患者が移動するときだけであるため、電力は副次的な考慮事項です。これらの設計では、サイズは主要な考慮事項ではありません。

ミッドレンジのハンドヘルドパルス酸素濃度計
ミッドレンジのハンドヘルドパルス酸素濃度計

ミッドレンジモデルは、通常、ケーブル着脱式のバッテリ駆動ハンドヘルド機器です。この場合も性能は重要ですが、サイズや電力の制約との兼ね合いを考慮する必要があります。ハンドヘルド機器は常にバッテリで動作しますが、適正なサイズのバッテリを収容するスペースがあります。

ローエンドの指先式パルス酸素濃度計
ローエンドの指先式パルス酸素濃度計

ローエンドは指先式のモデルです。ベースユニットとケーブルを1つのクリップに一体化したもので、指を覆い、電子回路とバッテリを収容する程度の大きさです。小型化しながら目的のバッテリ寿命を達成するために、性能を犠牲にせざるを得ない場合もあります。

パルス酸素濃度計のファンクションブロックダイアグラム。
パルス酸素濃度計のファンクションブロックダイアグラム。マキシムが推奨するパルス酸素濃度計ソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/pulseoxをご覧ください。

動作の原理

動作は、血中のヘモグロビンの光吸収特性に基づいています。酸化ヘモグロビンは赤色光よりも赤外線を多く吸収し、脱酸化ヘモグロビンは赤外線よりも赤色光を多く吸収します。したがって、酸素濃度計の赤色LEDと赤外線LEDから交互に光を送信し、吸収されない光をフォトダイオードで受信します。フォトダイオードで受信した赤色光と赤外線の比を使用して、血中の酸素濃度(%)を計算します。測定サイクル中に、動脈血流の拍動性に基づいて脈拍数と拍動の強さも測定し、表示します。

センサーケーブルの較正

パルス酸素濃度計のセンサーケーブルは着脱式で、使い捨ての場合もよくあります。ケーブル内のLEDとフォトダイオードの性能は、製造上の公差やセンサーの各種バージョンによって様々です。パルス酸素濃度計の性能は、EPROMやEEPROMなどの不揮発性メモリをセンサーケーブルに組み込み、較正係数を格納することによって向上させることができます。この較正データは、ベースユニットでセンサー内の特定の光学部品の性能を最適化するために使用します。

センサーケーブル用の電気機械式コネクタは通常、ピン数が限られているため、装置設計者は、この較正機能を最小限の相互接続で追加する必要があります。これを行う最も簡単で安定した方法は、1-Wireメモリデバイスをケーブルコネクタに追加することです。1-Wireプロトコルは、ピン数が限られた設計に較正やその他の機能を追加するにあたってコネクタピンを1つしか使用しない、実績あるシリアルインタフェースです。

さらに、各1-Wire製品は高度なESD保護を組み込んで設計されているため、設計者は外付けの保護ダイオードを使用する必要がありません。

1-Wireメモリデバイスのその他の利点として、更新や新しいアルゴリズムをベースユニットに渡すことができるため、現場でのアップグレードが可能になる点が挙げられます。また、承認されたセンサーケーブルしか使用することができないため、販売後の管理も可能になります。各1-Wireデバイスには、固有の64ビットシリアルIDナンバーが刻印されています。メモリデバイスにロックアウトビットを書き込むことによって、各メーカーは、交換が必要になるまでのセンサーの使用可能回数を制御することができます。交換は、主に安全性、特に患者の汚染問題を考慮して決められます。

パルス酸素濃度計のソリューション

送信経路:LEDの駆動

赤色LEDと赤外線LEDは、高精度の電流によって交互に駆動します。交互に発生する各パルス間のインターバルには何も起こりません。反復率は速くはなく、通常は10kHzを大きく下回ります。総消費電力を引き下げ、LEDが両方ともオフ状態の間に環境光の測定を可能にするため、デューティサイクルも低く設定されます。たいていの場合、LEDはケーブルの末端にあるため、装置設計者は、ベースユニットからの電流でLEDを駆動する事を選択します。この方式では、電流の誤差が減少し、ケーブル内の必要なラインの数も減少するため、コストと重量を軽減することができます。問題の帯域幅でノイズが発生すると、装置の信号対ノイズ比(SN比)が低下し、重篤な患者の低い酸素飽和度を測定する能力が損なわれるため、LEDの駆動に使用する電流はノイズを最低限に抑える必要があります。

このアプリケーションでは、いくつかの理由から、汎用のLEDドライバを通常は使用しません。汎用ドライバは高分解能を必要としないバックライトアプリケーション向けの設計であるため、LED電流を必要な分解能で正確、精密にプログラムすることは困難です。また、それらのLEDドライバにスイッチングトポロジが使用されている場合は、電流ノイズが極めて大きくなります。リニアトポロジのLEDドライバを使用することも可能ですが、この方式は電流プログラミングの分解能が足りないため、最適とはいえません。

これらのLEDは、共通のグランドを備えたベースユニットからの各LED用ラインによって別々に駆動することができます。あるいは、コネクタピンとラインを節約するため、LEDをバックトゥバックまたは逆並列構成で駆動することもできます。図1は、2つのディジタル-アナログコンバータ(DAC)で各LEDの電流を個別設定してケーブル内の2つのLEDを駆動する方式を示しています。2つのDACを使用することの利点は、それらの出力が比較的静的であるため、強力なフィルタリングを掛けることでノイズを低減することができる点にあります。このトポロジでは、DACのフィルタリングのあとにLEDの変調を実行します。

図1. 簡単な赤色LEDと赤外線LEDのバイアスおよび制御回路
図1. 簡単な赤色LEDと赤外線LEDのバイアスおよび制御回路

すべてのトポロジにおいて、オペアンプをフォース-センス(FS)構成で使用し、電圧ノイズを低く抑えるとともに、LEDの変調に十分な広い帯域幅を確保する必要があります。DACを1つだけにするとコスト削減が可能ですが、ノイズが増大した場合に性能が低下する恐れがあります。各LEDのピーク電流は、LEDとフォトダイオードそれぞれの特性や各パルスの持続時間に応じて様々です。実際には、酸素濃度計全体でピーク電流は数十mAから数百mAの範囲ですが、個々の濃度計で使用している電流の範囲はより狭くなります。

受信経路:フォトダイオードインタフェース、信号調整、およびデータ変換

フォトダイオードは、環境光と赤色LEDおよび赤外線LEDからの変調光の両方を受信し、酸素飽和度の算定のために経時的に測定される電流を生成します。フォトダイオード電流は、ほとんどの場合、トランスインピーダンスアンプ(TIA)とも呼ばれるトランスインピーダンス構成のオペアンプを使用して電圧に変換します。フォトダイオードで受信する光は、大部分、酸素飽和度や脈拍の算定には役立たない環境光で構成されています。組織、静脈血、動脈血によって吸収されなかった少量の赤色光または赤外線が目的の信号であり、それらは環境光の中に埋もれています。

図2は、フォトダイオード電流の電圧変換、信号調整、およびアナログ-ディジタル変換用の簡単な回路を示しています。この回路は、赤色光と赤外線の両方の信号をあわせて変換し、それらをディジタル領域で処理します。同期復調を使用して赤色光と赤外線をアナログ領域で分離する別のトポロジも存在します。この方式では、低速でも高分解能のアナログ-ディジタルコンバータ(ADC)を使用することができます。しかし、動きのアーチファクトを検出する能力は高くありません。

図2. 簡易フォトダイオード受信経路回路
図2. 簡易フォトダイオード受信経路回路

TIAで重要となる仕様は、入力電流、入力電流ノイズ、入力電圧ノイズが極めて低いこと、および高電圧動作です。これらの特性は、SN比を最大化して環境光の大きな電流の中でも目的の小さな電流を測定することができるようにするために必要です。高電圧動作では、大きなフィードバック抵抗を使用して容易に環境光の電流と受信したLED光の電流を増幅してから、ハイパスフィルタで環境光成分を除去することができます。残った目的の小信号をさらに増幅してADCのダイナミックレンジを最大化します。この利得段は、環境要因の変化と光学部品の老朽化を補正するために設定可能であることが必要です。

ADCで重要となる仕様は、高いSN比とサンプルレートです。サンプルレートは、変調信号を捕捉し、メーカーごとに異なる必要なディジタル処理を実行するだけの十分な頻度が必要です。

ディスプレイとバックライト

ベッドサイド設置型のパルス酸素濃度計がマルチパラメータ型患者モニタの一部である場合は、患者モニタに組み込まれた大型カラーディスプレイを使用するため、酸素濃度計の専用ディスプレイは不要です。パルス酸素測定専用のベッドサイド設置型モニタは、通常、中型のカラーディスプレイを備えているか、タッチ式ディスプレイを組み込んでユーザインタフェースを強化するとともに専用ボタンの数を削減することができます。ハンドヘルドモデルは、単純なLEDまたはLCDセグメントディスプレイか、より高度なドットマトリックスLCDディスプレイを備えています。指先式の機器には、単純な小型LEDまたはLCDディスプレイ用のスペースと電力しかありません。単純なディスプレイは、多くのマイクロコントローラに内蔵されているディスプレイドライバで駆動することができます。ドットマトリックスまたはより高度なディスプレイには、専用の回路やターンキーディスプレイソリューションが必要になります。LEDディスプレイにはバックライトは不要です。小型LCDディスプレイのバックライトには、数個の白色LEDを使用することができます。

データインタフェース

大部分のハンドへルドモデルとベッドサイド設置型モデルは、コンピュータと連携する機能を備えています。このデータ転送は、患者ではなく医療サービス提供者または技師によって実行されるのが普通です。従来、このデータインタフェースにはRS-232が使用されてきましたが、形式はメーカーの独自規格となっていました。パルス酸素濃度計は、現在、USBまたは無線(Bluetooth®、Wi-Fi®)インタフェースに移行しつつあり、将来の酸素濃度計は、これらの標準インタフェースを備えた任意のデバイスにデータを安全に転送することができるようになります。

可聴アラーム

可聴アラームは、単純なブザーから、複数のトーン、レベル、パターンを出力するスピーカまで、様々なものがあります。単純なブザーは、パルス幅変調(PWM)機能によって1つまたは2つのマイクロコントローラポートピンで駆動することができます。オーディオDACとスピーカアンプを追加することによって、より高度な可聴アラームを実現することができます。

電源およびバッテリマネージメント

パルス酸素濃度計では、複数の電源レイルを作成する必要があります。専用電源を必要とする低電圧コアがある場合は、別個のアナログ電源(3V)と、多くの場合は複数のディジタル電源(3V、1.8V)が必要です。電力、ヘッドリーム、およびノイズに関する考慮から、通常はLEDへの給電(5V)用に別個のクリーンな電源が必要です。SN比の向上や(場合によっては)ディスプレイ用にフォトダイオードに接続するTIAに対して、高電圧(+30Vまたは-30V)が必要になることもあります。

指先式モデルは単4形1次アルカリ電池2本を使用し、ハンドヘルドモデルは、2本の単3形1次アルカリ電池または充電式バッテリを使用します。両モデルとも、ステップアップスイッチングレギュレータ、低ドロップアウトリニアレギュレータ(LDO)、場合によっては反転スイッチングレギュレータを、組み合わせて使用する必要があります。ベッドサイド設置型モニタは主に電源ラインで給電しますが、将来は充電式のリチウムイオン(Li+)またはニッケル水素(NiMH)バックアップバッテリを使用するようになります。通常は安定化されたDC 5V電圧を供給するため、電源の設計は指先式モデルやハンドヘルドモデルとは異なります。充電式バッテリを使用するモデルには、バッテリ充電と残量ゲージが必要です。また、バッテリが着脱式の場合は、安全確保と販売後の管理のために認証機能も必要になります。

静電放電

センサーケーブルを差し込む部分では、静電放電(ESD)が問題になります。この潜在的問題は、専用のESDラインプロテクタを組み込むとともに、基板の設計とレイアウトを慎重に行うことで対処することができます。ESD保護を備えたインタフェースの使用によって、設計者は、ディスクリート保護部品を使用した場合に必要となるスペースとコストを回避することができます。酸素濃度計がデータポートやプリンタポートを備えている場合は、それらの部分でもESDが発生する可能性があります。また、ボタンやディスプレイが筐体の小型の開口部に取り付けられている場合は、気中放電にも対処が必要になることがありますが、これは個々の酸素濃度計の設計に依存します。