チュートリアル 4262

アクティブバイアス回路を使ってステレオ性能を改善する

筆者: Brian C. Wadell

要約: このアプリケーションノートでは、民生オーディオ製品に使用されるアクティブおよびパッシブバイアス回路のトレードオフについて検討します。ディジタルポテンショメータとボリューム制御におけるこれらの回路の使用がセパレーションとミュートのようなオーディオパラメータに関して比較されます。各式は、設計者が特定の場合での各自の設計トレードオフを評価する際に便利です。

同様の記事が、ウェブサイト「Electronic Products Magazine」の2008年12月に掲載されています。

はじめに

民生機器の設計者は、製品の回転ごとにコストの削減を迫られます。メカ式ポテンショメータの代わりにディジタルポテンショメータとボリューム制御ICを使用すると、お客様の顧客にとってさらに幅広いユーザインタフェースが可能になりますが、最高のオーディオ性能を達成しようとする場合は、これらの新しいICには慎重な注意が必要です。多くの場合、これは、性能パラメータとコストのトレードオフを意味します。
このアプリケーションノートでは、我々はディジタルポテンショメータのアクティブおよびパッシブバイアス回路を比較します。デバイス性能の考慮事項が検討されます。このアプリケーションノートでは、設計者が民生機器で正しいトレードオフを実行するために必要な式も提供します。

ボリューム制御とディジタルポテンショメータ

以下の回路は、このアプリケーションノートで使用する用語のいくつかを例示しています。ここでは、バッテリ式またはアダプタ式電源の製品で最も一般的に見られる単一電源アプリケーションを中心に取り上げます。単一電源アプリケーションでは、システムの各部はVDDとグランド、およびVDDとグランド間の信号振幅で駆動されます。コンデンサは、各段の間に使用することができますが、コストや性能上の理由から使用しないことも可能です。
ワイパバッファは、スイッチアレイからの電流を低減して、各スイッチの歪み性能を改善します。このアプリケーションノートでは、バイアス生成器がどのように回路の性能に影響するかについて検討します。
図1. 信号ソースによって供給されるボリューム制御
図1. 信号ソースによって供給されるボリューム制御
ディジタルポテンショメータ(赤色の輪郭部分)は、メカ式ポテンショメータのスライド式接触ワイパをエミュレートするロジックで制御されたスイッチおよび抵抗のアレイです。ボリューム制御IC (青色の輪郭部分)は、最高のオーディオ性能に極めて重要な2つの回路、ワイパバッファ(オペアンプ)とバイアス生成器(VBIASのソース)を内蔵することによって、ディジタルポテンショメータから差別化されます。

パッシブバイアス回路

ディジタルポテンショメータを使用してコストを抑えようとする場合、図2に示すようなパッシブ抵抗分圧器でバイアス電圧を生成することができます。抵抗値は通常、VDD とグランドの中点のVBIASを設定する値と等しい値です。また、VBIASのACインピーダンスを低減して任意のノイズをクリーンアップするために、大部分の設計者はバイパスコンデンサC2も追加するでしょう。
図2. パッシブ入力バイアス回路
図2. パッシブ入力バイアス回路

モノラルボリューム制御回路

選択された回路がオーディオ性能にどのように影響するかを調べてみましょう。バイアス回路のソースインピーダンスは、電源の「スティフネス」とも呼ばれ、図3から計算されます。
図3. スティフネスはバイアスネットワークを覗いたインピーダンスに関連しています。
図3. スティフネスはバイアスネットワークを覗いたインピーダンスに関連しています。
式1.
確認事項として、DC (s = 0)の場合、この式は抵抗R1とR2の並列インピーダンスに低減することに注意してください。これで、このインピーダンスをボリューム制御回路(図4)に挿入することができます。
図4. 有限なインピーダンスのバイアスネットワークを使用したボリューム制御
図4. 有限なインピーダンスのバイアスネットワークを使用したボリューム制御
バイアスネットワークの有限なソースインピーダンスによって、信号がディジタルポテンショメータのL端子に発生します。ワイパをLに設定するとミュートになると思われるでしょう!希望どおり信号が発生しないどころか、ソース電圧VINの分圧バージョンが見られます。
たとえば、L位置のワイパ、40kΩポテンショメータ、および2つの10kΩバイアス抵抗の場合、次のような出力電圧が見られます。
式2.
これは、DCでフルスケール(dBFS)からわずか-19dBです。すなわち、ポテンショメータがミュートに設定された場合でも、出力信号が見られることを意味します。
この分析にC2を含めると、どうなるでしょうか?0.01µF、1µF、そして100µFのコンデンサを試してみます。式1の結果は、図5のようになります。
図5. 0.01µF、1µF、および100µFコンデンサを使ったパッシブバイアスネットワークソースインピーダンス
図5. 0.01µF、1µF、および100µFコンデンサを使ったパッシブバイアスネットワークソースインピーダンス

ミュート減衰でのC2値の効果を考えるために、図6で、3つの異なるバイアス回路コンデンサ値のミュート減衰を示します。このように計算されます。
ミュート減衰=20 log(Zin/(40k + Zin))
図6. 0.01µF、1µF、および100µFコンデンサを使ったパッシブバイアスネットワークミュート減衰
図6. 0.01µF、1µF、および100µFコンデンサを使ったパッシブバイアスネットワークミュート減衰

C2 = 0.01µFを加えても1kHz以下ではほとんど効果がなく、20kHzでの効果はソースインピーダンスを785Ωに低減するだけです。これでは-34dBのミュート減衰しか達成しません。コンデンサを1µF (大)に上げると、20kHzでのソースインピーダンスが7.9Ωとなり、ミュート減衰がちょうど-74dBとなります。1µFコンデンサでも、低周波でのミュート性能は許容できるものではありません。これはボリューム制御の究極性能に近いものでなく、また適切なミュートのオーディオ仕様にも近くありません。

その他の問題

ミュート設定(L端子にワイパ)でこの問題を分析してきましたが、有限なVBIASインピーダンスがすべてのポテンショメータに影響することは明らかです。この影響は、下端に近づくと、ますます不正確になる減衰曲線として示されます。

この問題を解決する方法

では、どのようにしてインピーダンスを低減して、ミュート性能を90dB以上の優れた値にできるでしょうか?90dBに到達するには、1桁のΩ範囲のソースインピーダンスにする必要があります。
R1とR2の値を下げることはできますが、その犠牲として、DC電流が増加します。これは実用的ではありません。明らかに、オーディオバンドの前のインピーダンスを大幅に下げるC2に左右されます。100Hzと95dBの場合、コンデンサがまた非現実的になるのがわかります。10kΩ、10kΩの値、および少し大型の100µFコンデンサの場合、結果として減衰曲線は図6のようになります。100µFのような大きなコンデンサでさえ、100Hzにおけるミュート減衰はわずか-68dBです。これはまだ許容できるものではなく、より良いバイアス回路が望まれます。この解決策は、アクティブ回路を使用することです。このアクティブ回路についてはこのアプリケーションノートの後半で取り上げます。

ステレオ回路

アクティブ回路の解決法を検討する前に、ステレオ設計で何が起きるかを調べましょう。パッシブバイアス生成器を共有するステレオ信号の場合、ミュートまたはフィードスルーの問題が生じます。また一方、クロストークという別の問題も生じます。クロストークは、左(L)チャネルから右(R)チャネル(またはその逆)への信号リークです。これがどのようにして発生するかを以下に示します。LとRチャネル間でバイアスラインを共有する場合、回路は図7のようになります。
図7. パッシブバイアスネットワークとステレオ信号
図7. パッシブバイアスネットワークとステレオ信号
有限なバイアスインピーダンスは、H端子に入力があると、再びディジタルポテンショメータのL端子に信号電圧を生成します。しかし、今回は、我々はバイアス生成器を共有しているため、左または右のVINのいずれかの信号から、両方のVOUT端子に信号を取得します。チャネル内信号は不十分なミュート減衰、すなわち減衰曲線をたどる失敗として現れます。反対側のチャネル信号は、クロストーク、すなわちステレオセパレーションの損失として現れます。

アクティブバイアス

これらの問題すべてに対する解決策があります。すなわち、VBIASの高スティフネスまたはローインピーダンスソースを提供する方法です。図8に、標準回路が示されています。分圧されたVDDは、閉ループ出力インピーダンスが1Ωの分数であるオペアンプによってバッファされます。この回路を使用し、注意深い設計で90dB範囲の結果を達成することができます。
図8. オペアンプがバイアス電圧分配器をバッファしています。
図8. オペアンプがバイアス電圧分配器をバッファしています。

測定結果

パッシブとアクティブ技法の比較に、試験ボードが使用されました。図9図10は、パッシブとアクティブ回路の両方のMAX5457ベースの試験ボードで達成される標準的な性能を例示しています。パッシブ回路は、4.7µFでバイパスされる2つの1kΩ抵抗で構成されています。これによって、5V電源で68Hz (計算値)に1つの極と連続的な2.5mAドレインが発生しています。
図9. ディジタルポテンショメータのフルスケールおよびミュート応答:パッシブバイアス回路の場合
図9. ディジタルポテンショメータのフルスケールおよびミュート応答:パッシブバイアス回路の場合
図10. ディジタルポテンショメータのフルスケールおよびミュート応答:アクティブバイアス回路の場合
図10. ディジタルポテンショメータのフルスケールおよびミュート応答:アクティブバイアス回路の場合
アクティブ回路では、1つの非反転バッファのみが抵抗をロードしているため、より高い抵抗にすることができます。この場合、アクティブバイアス曲線に影響せずに、2つの100kΩ抵抗を使用することができます。これによって、連続的なバッテリドレインはわずか25µAとなります。

ずっと良い値です。アクティブ回路を組み込んでください!

周知のように、パッシブ回路では性能が不十分でしかもコストとサイズの両方が加算されます。抵抗分圧器のバッファバージョンを作成するアクティブ回路は、有効に働きますが、オペアンプのオーバヘッドが追加されます。小型サイズと最適性能の両方を備える方法はあるでしょうか?答えはイエスです。図11MAX5486のようなボリューム制御ICが、単一パッケージにこの機能とディジタルポテンショメータをともに内蔵したオールインワンソリューションです。
図11. MAX5486ボリューム制御ICはオーディオアプリケーションに必要なV<sub>BIAS</sub>とワイパバッファを内蔵しています。
図11. MAX5486ボリューム制御ICはオーディオアプリケーションに必要なVBIASとワイパバッファを内蔵しています。
マキシムのボリューム制御ICファミリの多様な製品は、マイクロプロセッサ、プッシュボタン、ロータリエンコーダ、さらには赤外線リモート制御にも直接インタフェースすることができるソリューションを提供しています。ゼロクロス同期ワイパ動作などの追加機能によって、各製品はオーディオアプリケーションに最適となっています。