チュートリアル 3822

位相ノイズプロファイルがシステム試験を支援


要約: ノイズはあらゆるシステムに存在します。特に、位相ノイズは発振器に通常存在し、位相ロックループがシステムの性能を低下させる場合もあります。無線通信システムの発振器内の位相ノイズによって、相互混在状態におけるレシーバの感度が低下します。通信システム内の位相ノイズによって、信号チェーン内にタイムジッタが発生します。エンジニアは通常、位相ノイズを最低限に抑制しようとしますが、場合によっては試験用に位相ノイズを意図的に悪化させます。位相ノイズを意図的に導入すると、位相ノイズまたはジッタに対するシステムの耐性試験に役立ちます。このため、位相ノイズのレベルを調整可能な信号が試験用として有用です。

はじめに

どのような電子部品も位相ノイズの発生原因となりますが、一般的には発振器が、主要なノイズ源です。電圧制御発振器(VCO)は、自走発振器か位相ロック発振器かを問わず、ノイズによる変調によって位相ノイズを発生します。このため、必然的に位相ノイズの仕様がスペクトル純度の特性を規定することになります。たとえば、理想的な発振器の出力は、周波数領域内の1つの周波数に配置された1本の垂直線として表される純粋な正弦波です。しかし、実際には、発振器内のノイズ源によって出力周波数が理想的な位置から逸脱し、キャリア周波数の近辺に存在する望ましくない周波数の「裾」が生成されます。

位相ノイズの生成方式

位相ノイズを意図的に生成または大きくするのに、2つの方式があります。1つの方式は、ノイズ源を使って、発振器またはVCOを直接変調する方式です。VCO (図1a)は位相ロックループ(PLL)で位相ロックされ、ループフィルタの帯域幅は最低変調周波数を下回るように設定されます。たとえば、対象とする最低位相ノイズオフセット周波数が(キャリア周波数から)10Hz離れている場合は、PLLループ帯域幅を1Hzに設定してください。ノイズはVCOの周波数調整入力に直接注入します。ここで、VCOが変調され、出力に位相ノイズが生成されます。次に、入力ノイズ密度レベルを増加することによって、位相ノイズレベルを増加させることができます。

図1. VCOの調整入力に直接(<b>a</b>)、または位相変調器のバラクタダイオードに(<b>b</b>)電圧ノイズを注入して、位相ノイズを生成します。
図1. VCOの調整入力に直接(a)、または位相変調器のバラクタダイオードに(b)電圧ノイズを注入して、位相ノイズを生成します。

出力位相ノイズは、VCO利得(KVCO)によって形成されます。VCO周波数はƒoであり、周波数ƒnにおける1Hzの帯域幅でVn(ƒn)のノイズ源によって変調されるものとします。周波数変調¹の狭帯域近似を使用すると、VCO出力は次の式で表されます。



第1項はキャリア信号を表し、第2項はキャリアからオフセットした周波数におけるノイズパワーを表します。位相ノイズは、ƒoにおけるキャリアのパワーに対する、オフセットした周波数におけるノイズパワーの比として定義されます:



Vn(ƒn)は、ƒnにおける1Hz帯域幅でのRMSノイズ電圧であることに注意してください。位相ノイズのプロファイルは、ノイズ源プロファイルをƒnで除算した値です。このため、VCO (Vn(ƒn) = 定数)を変調するフラットノイズ密度プロファイルを備えるホワイトノイズ入力源の場合は、出力位相ノイズプロファイルは、図2に示すように20dB/decadeで低下します(ここでは、誘導された位相ノイズはVCO固有の位相ノイズよりもはるかに大きいと仮定しています)。

図2. VCOがその調整入力点で、直接ノイズで変調される場合は、桁(ディケード)当り20dBのスロープ(減衰度)で位相ノイズプロファイルが生成されます。
図2. VCOがその調整入力点で、直接ノイズで変調される場合は、桁(ディケード)当り20dBのスロープ(減衰度)で位相ノイズプロファイルが生成されます。

位相ノイズを生成するもう1つの方式は位相変調器を使って、キャリア信号を位相ロックVCO出力点で変調する方式です(図1b)。この方式ではノイズを位相変調器に注入します。この変調器は、LCL構成²としたローパスフィルタです。2個のインダクタは固定され、バラクタダイオードによってキャパシタンスを可変とし、逆バイアスを印加してキャパシタンスの標準レベルを設定します。バラクタの両端間のノイズ電圧はキャパシタンスを変化させ、このため位相が変化します。すると、ノイズ電圧が位相ノイズに変換されます。ノイズ電圧を大きくすると、位相ノイズのレベルが上がります。

位相変調器方式ではPLLループ帯域幅は制限しません。このため、この帯域幅をロックタイムの高速化に必要なだけ広くすることができます。もう1つの利点は、位相ノイズプロファイルは、VCO利得には依存せず、ボルト当りのラジアン単位で表される位相利得(KPHASE)に依存することです。さらに、位相利得は、LCLフィルタの位相応答とバラクタダイオードのキャパシタンス特性に依存します。このため、位相変調器の後のVCO出力は、次のようになります:



ここで、Vn(t)は、時間tにおけるノイズ電圧です。位相ノイズ項は、KPHASEVn(t) = Φ(t)です。フーリエ変換をVOUT(t)に適用して、位相ノイズを計算することができますが、その結果を解析的に解くのは困難です。近似値³では、位相ノイズは次のようになります。



ここで、SΦはrad²/Hzで表したΦ(t)のスペクトル密度で、Sv(ƒn)はV²/Hzで表したVn(t)のスペクトル密度です。このため、位相ノイズプロファイルは、変調ノイズ密度プロファイルと同じ形状になります。ホワイトノイズ源とその後に続く100kHzのローパスフィルタの場合は、位相ノイズプロファイルはフィルタの周波数応答と同じです。その場合は、位相ノイズレベルはフィルタのカットオフ周波数以内では一定であり、-3dBの帯域幅外でロールオフ(減衰)します(図3)。この位相変調器回路は、位相ロック発振器などの現実のノイズを含む信号源を模倣する可変位相ノイズ信号を生成するのに便利な方法を提供します。

図3. この位相ノイズプロファイルは、図1bの位相変調器によって生成されます。位相ノイズプロファイルの形状は変調ノイズ密度プロファイルと同じです。この変調ノイズ密度プロファイルは100kHzのローパスフィルタ付きのホワイトノイズです。
図3. この位相ノイズプロファイルは、図1bの位相変調器によって生成されます。位相ノイズプロファイルの形状は変調ノイズ密度プロファイルと同じです。この変調ノイズ密度プロファイルは100kHzのローパスフィルタ付きのホワイトノイズです。

図1bの回路は5MHz~30MHzの範囲では正常に動作し、他の周波数での動作用にインダクタおよびコンデンサ値を容易にスケーリングすることができます。ラボでの実験によると、この回路を最高2GHzまたは3GHzまでスケーリングすることができます。これらの周波数では約1nHのインダクタンスと1pFのキャパシタンスが必要であるため、この方式は部品の入手性とPCBの寄生成分によって周波数制限されます。

バラクタのキャパシタンス変化によって、ノイズ信号振幅および位相が変化します。ただし、振幅の変化は、位相変化に比べるとはるかに小さい変化です。位相変化は位相ノイズを表し、振幅変化は振幅ノイズを表します(図4)。この変調器は、振幅変調に比べ約30dB大きい位相変調を生成するため、位相ノイズが主要成分になります。

図4. この図は、図1bの回路の10MHzにおける位相変調と振幅変調を示しています。位相変調は、振幅変調に比べ30dB大きい変調となります。
図4. この図は、図1bの回路の10MHzにおける位相変調と振幅変調を示しています。位相変調は、振幅変調に比べ30dB大きい変調となります。

ノイズ電圧の生成

位相ノイズ変調用のノイズ電圧の生成には多くの方式があります。最も簡単な方式は、なだれブレークダウン領域にツェナーダイオードを逆バイアスする方式です(図5a)。ダイオードの過剰ショットノイズは、固定利得と可変利得アンプの両方で増幅されます。これらのカスケード接続アンプの利得は、所望のノイズ電圧レベルを生成するのに十分な高利得とする必要があります。ノイズ出力の後は、図1aまたは1bで求められる位相ノイズプロファイルに応じてノイズを形成するフィルタが続きます(図1bの回路の利点は、ノイズ源プロファイルの形状が出力位相ノイズプロファイルと同じである点です)。

図5. ツェナーダイオードはなだれブレークダウンモードに逆バイアスされ、ホワイトノイズを生成します。次に、ホワイトノイズは増幅され、フィルタリングされて、位相ノイズ変調用のノイズプロファイルを生成します(a)。もっと進んだノイズジェネレータはマイクロプロセッサを使って、複数セグメントのノイズプロファイルを生成し、このプロファイルにより、より実際的な位相ノイズプロファイルを再現します(b)。
図5. ツェナーダイオードはなだれブレークダウンモードに逆バイアスされ、ホワイトノイズを生成します。次に、ホワイトノイズは増幅され、フィルタリングされて、位相ノイズ変調用のノイズプロファイルを生成します(a)。もっと進んだノイズジェネレータはマイクロプロセッサを使って、複数セグメントのノイズプロファイルを生成し、このプロファイルにより、より実際的な位相ノイズプロファイルを再現します(b)。

実際の発振器の位相ノイズプロファイルを複雑にすることができます。位相ノイズプロファイルは低オフセットの周波数では30dB/decadeでロールオフし、ループ帯域幅内でフラットになり、ループ帯域幅外で20dB/decadeでロールオフし、最後にフラットなノイズフロアを備えることができます(図6)。また、位相ノイズプロファイルは、数セットのリファレンススパー(妨害波)を含めることもできます。

図6. 実際の位相ロック発振器では、低オフセット周波数における位相ノイズは、30dB/decadeのスロープで急減します。位相ノイズは、ループ帯域幅内でフラットです。ループ帯域幅外では、位相ノイズは、ノイズフロアに達するまで20dB/decadeでロールオフします。また、スパーが発生することもあります。
図6. 実際の位相ロック発振器では、低オフセット周波数における位相ノイズは、30dB/decadeのスロープで急減します。位相ノイズは、ループ帯域幅内でフラットです。ループ帯域幅外では、位相ノイズは、ノイズフロアに達するまで20dB/decadeでロールオフします。また、スパーが発生することもあります。

これらの位相ノイズプロファイルには、図5bで示す回路のような、より複雑なノイズ生成回路の設計が必要です。マイクロプロセッサやディジタル信号プロセッサ(DSP)およびディジタル-アナログコンバータ(DAC)を使って、複雑な複数セグメントのノイズプロファイルが生成されます。図1bの位相変調器の場合は、フラットな位相ノイズ領域は、ホワイトガウスノイズ電圧と、その後に続く対象のオフセット周波数でのフラットな周波数応答を備えるディジタルフィルタ(すなわち、帯域通過フィルタ)によって生成されます。必要なロールオフスロープを生成するには、ホワイトガウスノイズの後にFIRまたはIIRディジタルフィルタアルゴリズムが続きます。スパーを得るために、正弦波をノイズ電圧に追加することができます。次に、これらの全ノイズセグメントの和を取ります。なお、ディジタルフォーマットでは、ノイズ電圧は、DACおよび後続する再生フィルタによってアナログ電圧に変換されます。

まとめ

位相ノイズを生成する方式は図1に示され、ノイズ電圧を生成する方式は図5に示されています。図1aの回路は、VCO調整入力を直接変調して位相ノイズを生成し、図1bの回路は外部位相変調器によって位相ノイズを生成します。各方式はそれぞれ、異なる位相ノイズプロファイルを生成します。図1aの直接変調方式は、どのようなVCO周波数でも機能します。図1bの位相変調器方式の場合は、キャリア周波数は、部品の入手性とPCBの寄生成分によって数ギガヘルツに制限されます。

参考資料

  1. Behzad Razavi, RF Microelectronics. Upper Saddle River, NJ, 1998, pg 223.
  2. Enrico Rubiola et. al., "The ±45° Correlation Interferometer as a Means to Measure Phase Noise of Parametric Origin," IEEE Transactions On Instrumentation and Measurement, Vol. 52, No. 1, pp. 182-188.
  3. A. L. Lance et. al., "Phase Noise Measurement Systems," ISA Transactions, Vol. 21 No. 4, pp. 37-44.

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