チュートリアル 2980

洗練された回路でポータブルデバイスの高品質オーディオを確かなものにする


要約: このアプリケーションノートでは、PSRR、ターンオントランジェント抑制、およびPCBのグランド処理といった、ヘッドフォンアンプの性能に影響する重要なパラメータについて考察します。この記事では、1つのアプリケーション(ヘッドフォンアンプ)に焦点を当て、MAX9724およびMAX9728ヘッドフォンアンプを使用します。

オーディオ設計者にとって困難となるのは、高性能の低ノイズアナログ回路を、ASIC、プロセッサ、およびDC-DCコンバータと共存させることです。例えば、典型的なオーディオ再生回路における1つのコンポーネントであるヘッドフォンドライバだけに影響を与える問題を考えてみてください。

典型的なヘッドフォンドライバは、音声源のダイナミックレンジを保持しながら、低インピーダンス負荷(標準では32Ω、場合により16Ωと低い)を、最大1VRMSの振幅範囲を持つ信号で駆動する必要があります。これは、簡単な作業に見えるかもしれませんが、より厳密な試験では、いくつかの厳しい現実をもたらします。

  • ヘッドフォン出力は、通常DC-DCコンバータによって供給される高速ディジタル回路と共有している単一電源によって駆動しているダイナミックレンジを維持する必要があります。
  • これらの回路で生じる信号振幅と負荷インピーダンス条件では、電源から引き出される電流ピークは最大90mAまで及びます。
  • 電源やヘッドフォンドライバをシャットダウンする時、クリックやトランジェントが聞こえないようにしなくてはいけません。

電源ノイズ

妥当な信号対ノイズ比(SNR)を実現するためには、ヘッドフォンアンプ出力の電源ノイズの影響を抑えなければなりません。その目的のためには、ヘッドフォンドライバの電源除去(PSRR)が不可欠です。

例えば、CDやDVDベースの音声源のダイナミックレンジは90dBを超えることがあります。オーディオ電源電圧に100mVのノイズ成分が生じると仮定し、そのノイズスペクトルの内容の多くが、オーディオ帯域幅にあるとすると、90dBのダイナミックレンジを維持するには、ヘッドフォン出力におけるノイズを、約30µVまで低下させなければなりません。事実上、ヘッドフォンドライバのPSRRは、その関わる周波数で70dBを超えなくてはなりません。

オーディオ全帯域でこのような電源除去を達成するには、周波数対アンプの電源ノイズ抑制について特別な注意を払い熟慮した設計アプローチが必要です。ほとんどのオペアンプのデータシートを一見するとPSRRはDC近くで高いことが通常で、周波数が上がると顕著に落ちます(通常-20dB/dec)。中には、20kHzでは、40dB以下のPSRRを示す製品もあります。

DC-DCコンバータの中には、オーディオ周波数スペクトラムの上端ではより高いノイズ成分を生成するものがあります。おそらく、それらの周波数ではあまり聞こえませんが、ヘッドフォン出力で結果生じるノイズは依然として測定可能です。内蔵型のヘッドフォンドライバを備えるオーディオDACまたはCODECのほとんどのデータシートでは、PSRR仕様について読者の注意を引くようには書かれていないということに注意してください。もし、PSRRが提示されても、PSRR対周波数の曲線でなく、電気的特性の一項目として表記されるのが通常です。

ほとんどのヘッドフォンアンプは不十分なPSRRなので、ヘッドフォンアンプの電源電圧をきれいにするために、外部に低ドロップアウト(LDO)レギュレータが追加されるのが通常です。例えば、いまだ+5Vがオーディオ回路の一般電源電圧であるノートブックPCのオーディオ出力で十分なPSRRを実現するには、一定ノードは大抵4.7Vなどの低さまでレギュレートされます。

MAX9724MAX9728のようなICは、その他の方法で達成されるレベル以上までPSRRを十分に上げます。これらのヘッドフォンアンプはデバイス内の主要ノードに内部サブレギュレーションを適用し、追加LDOを事実上不要にしています。

クリックとポップの抑制

クリック/ポップ抑制は、通常、ICがミュートされたり、パワーアップ(ダウン)時に生じる突然の困らせられることの多いトランジェントを最小化するICの能力を記述します。切迫した異常をマスクするためにダウンストリームの回路をミュートにすることができないので、この動作を出力ドライバで実現することは困難です。ヘッドフォンが差し込まれると、ヘッドフォンを駆動しているものが何であれ、必然的にオーディオシステムのトランジェント性能の成否を握ります。

ヘッドフォンドライバは通常単一電源から給電され、出力は図1で示すように、大きなDCブロッキングコンデンサでジャックソケットにAC結合されます。これによって、DC電圧がヘッドフォン全体に生じるのを防ぎます。通常動作時に、コンデンサのヘッドフォン側はグランド電位にあり、アンプ出力が電源電圧の約½にバイアスされるDCレベルを備えるため、ブロッキングコンデンサは全体にDC電圧を備えます。コンデンサは、電力が最初に印加された際にDC電圧に充電される必要がありますが、充電電流は負荷(ヘッドフォンのボイスコイル)を通して流れる必要もあります。どうやってこの電流が可聴信号を生成するのを防ぐことができるのでしょうか。

図1. 単一電源アプリケーションのヘッドフォンドライバ用通常設定であるこの回路にはヘッドフォンインピーダンス(ヘッドフォンからDCをブロックするために必要)を備えるハイパスフィルタを形成する直列コンデンサがあります。
図1. 単一電源アプリケーションのヘッドフォンドライバ用通常設定であるこの回路にはヘッドフォンインピーダンス(ヘッドフォンからDCをブロックするために必要)を備えるハイパスフィルタを形成する直列コンデンサがあります。

設計の中にはこの充電電流を、アンプの出力辺りにJFETとディスクリート部品を使って抑制するものもあります。また、ターンオントランジェントを遅くするためにRC時定数を提供する設計もあります。このアプローチでは、外乱の周波数成分を低下させて阻害要因を減らします。少なくとも、1つの製品は、back-to-backの指数関数型の傾斜(S字型形状)を使用して、電源投入時に生じるポップをさらに抑えています。RC指数関数のアプローチと異なり、その形状では、dv/dtの急激な変化を発生しません。

パワーダウントランジェントは、これらの出力コンデンサがGNDに放電される必要があるためさらに問題です。電源がないときに、どうやってアンプが出力コンデンサの放電を制御できるでしょうか。

別のアプローチ

理想的なアプローチは、出力コンデンサを完全に除去し、そうすることでヘッドフォンのボイスコイルを通した充電または放電の影響をなくすことでしょう。例えば、コンデンサは、ヘッドフォン駆動をDC結合し、ゼロボルト出力バイアスを備え、アンプを両極電源から給電することで除去することが可能です。しかし設計者は、ほとんどのバッテリ駆動設計で1つの単一電源に制限されます。これは、いくつかのオプションにつながります。

1つは、第3のアンプを使って、ヘッドフォンリターンをミッドレイルにバイアスし、それにより「擬似0V」出力バイアスを生成することです。メインステレオアンプもミッドレイルでバイアスされるのでDC結合コンデンサは除去することができます。したがって、第3のアンプは、両方のメインアンプからの電流のシンクとソースに対応できなければならなく、入力されるヘッドフォンジャックからのいかなるESD放電も扱えるように、十分に堅牢である必要があります(ジャックスリーブは筐体から必ず絶縁されていなければなりません。)。

別のオプションは、供給される正の電源から専用の負電源を生成するか、それ自体の負電源を生成する便利なヘッドフォンアンプを使用することです(図2)。後者のアプローチは、ESDやグランド処理の問題を少なくします。また、これによる余分の電圧幅は、ピーク間出力電圧をほぼ2倍にすることが可能になり、+3Vやそれ以下の電源で動作する場合に有効です。

図2. アンプがデュアル電源から給電されるようにするため、内蔵のチャージポンプは、正の電源電圧を反転します。直列コンデンサはもはや必要ありませんが、チャージポンプに必要な小さなセラミックコンデンサは、PCBエリアを最小限にします。
図2. アンプがデュアル電源から給電されるようにするため、内蔵のチャージポンプは、正の電源電圧を反転します。直列コンデンサはもはや必要ありませんが、チャージポンプに必要な小さなセラミックコンデンサは、PCBエリアを最小限にします。

MAX9724/MAX9728ヘッドフォンアンプは、正電源端子からそれ自体の内部負電源を生成します。各アンプは0VのDC出力バイアスを備えているため、出力DCブロッキングコンデンサは不要です。内部ロックアウト回路は、低すぎる電源電圧によって、または電源の投入/切断過程で生じるスプリアス動作を回避します。すなわち、ポップやクリックがありません。このアンプの出力電圧の振幅は、同等の単一電源のもののほとんど2倍とするため、信号の余裕が大きく出力電力も大きいという他の利点もあります。

さらなるハードル

実際に設計作業を進めるには、新製品を売り出す前に、通常は多くの妥協を強いられます。ESDの必要条件は、例えば、ヘッドフォンドライバとジャックソケット間にフェライトビーズまたは他のEMC対策を入れることかもしれません。これらのコンポーネントは、オーディオ周波数でかなりのインピーダンスを持つことがあります。そして、これはクロストークの問題や出力電力の損失を招くことがあります。しかし、注意深い設計とケルビン検出技術で、良いオーディオ性能を回復することが可能です。ヘッドフォンからのリターン電流についてもよく考慮されるべきです。100mA近くの電流では、グランドプレーンまたはPCBトラックの有限なインピーダンスによって、重大なIRドロップが生じることがあり、出力電力の低下および不十分なチャネル分離に再びつながります。グランドをDC-DCコンバータと共有する場合に、同様のメカニズムがSNRを劣化させます。専用のリターントラックまたは銅ベタがこれに関しては有効です。