アプリケーションノート 7317

多相バックコンバータ集積回路の効率を測定する

筆者: Eric Rule

要約:

多相バックコンバータの特性から、負荷と出力電圧の測定用接続、およびPCBレイアウトの対称性に応じて、静的な動作条件に対する見かけ上の効率が変化します。多相バックコンバータを評価するエンジニアは、この記事で解説する効率測定の微妙な部分、およびPCBレイアウトについて理解する必要があります。異なる評価ボード上で多相バックコンバータの効率を公平に比較する方法に対応する必要があります。このアプリケーションノートでは根本的な理由を説明し、多相バックコンバータで最も高精度の効率を測定する方法を提示します。


はじめに

多相DC-DCコンバータの効率の測定には注意が必要です。レイアウトの不均衡は各相間の電圧の差につながります。正しい数値に到達するために、これらのコンバータを評価するときエンジニアは入力と出力の電圧および電流をどのように測定しているかを注意深く考慮する必要があります。このアプリケーションノートでは、多相バック(ステップダウン)コンバータの微妙な部分について解説し、効率を適切に測定する方法を提示します。

背景

多相バックコンバータの特性から、負荷と出力電圧の測定用接続、およびPCBレイアウトの対称性に応じて、静的な動作条件に対する見かけ上の効率が変化します。多相バックコンバータを評価するエンジニアは、この記事で解説する効率測定の微妙な部分、およびPCBレイアウトについて理解する必要があります。異なる評価ボード上で多相バックコンバータの効率を公平に比較する方法に対応する必要があります。このアプリケーションノートでは根本的な理由を説明し、多相バックコンバータで最も高精度の効率を測定する方法を提示します。

あらゆるDC-DCコンバータの効率は、次式で計算します。

PINは、(電力源によって生成される電力ではなく)電力源から集積回路(IC)の入力に供給される電力として定義します。入力コンデンサの両端(または可能な限り端子の近く)の電圧を測定し、電力源とICの電源入力の間の電流計で入力電流を測定して、その2つを乗算することによってPINを概算します(P = V × I)。POUTは、(負荷によって消費される電力ではなく)バックコンバータの出力から負荷に供給される電力として定義します。単相バックコンバータでは、出力コンデンサの両端(または可能な限り端子の近く)の電圧を測定し、ICの電力出力と負荷の間の電流計で出力電流を測定して、その2つを乗算することによってPOUTを概算します。そして、効率(η)は入力電力に対する出力電力の比率です。

単相バックコンバータでは、1つのパワー段と1つの出力のみが存在します。そのため、測定するポイントは1つです。多相バックコンバータでは、電気的に接続された複数の出力があります。例として4相バックを考えます。4相バックには4つのインダクタ(各相当り1つ)、少なくとも4つの出力コンデンサ(各相当り1つまたはそれ以上)が必要で、4つの個別の相の出力を接続します。POUTを計算するには、どの出力電圧を測定すればよいでしょう?4つの相の出力電圧がすべて同一であると想定するのは論理的ですが、完全に真実ではありません。それらが同一になるのは、ボード上の1点で交わるときに測定した場合のみです。PCBのインピーダンスによって、ICのスイッチングノード端子から負荷へのルーティング時に各相の出力トレースに沿って電圧降下が生じます。優れた、対称形のレイアウトは、この影響を最小限に抑えます。しかし、レイアウトの非対称性は、バックの出力の不均衡につながる可能性があります。たとえば、第1の相から負荷への銅トレースが第4の相から負荷へのトレースより短い場合、第1の相の端子で生成される電圧は第4の出力の端子で生成される電圧より低くなります(それらは負荷のポイントで等しくなる必要があり、第4の相はより大きい電圧降下が発生するためです)。これは前述した効率の計算にとって重要です。この場合、第1の出力電圧のみを測定して他の相は同じであると仮定すると、実際の効率より低い値が得られることになります。そのバックは第4の相でより高い出力電圧を生成しており、4つの相の間で負荷電流が等しいと仮定すると、第4の相は計算よりも多くの電力を生成していることを意味します。このプロセスは逆方向にも発生し、現実よりも高い効率が測定される場合があることに注意してください。このように、多相バックコンバータの見かけ上の効率は、測定の方法によって変化します。この点を明らかにするために、誇張した例を考えます。

図1. 多相出力のブロック図図1. 多相出力のブロック図

図1は、4相バックの不均衡なルーティングを誇張した例を示しています。各相のインダクタ(L)および出力コンデンサ(C)は、図1には描かれていませんが存在することに注意してください。OUTxはICの出力コンデンサの端子で、VXはそれらのコンデンサで直接生成される電圧です(xは4つの相の1つ)。VOUTはポイントオブロード電圧を示し、IOUTは負荷によって消費される総出力電流を示します。負荷へのOUT4トレースの長さがOUT1トレースの長さより4倍長いPCBを考えます。この追加の長さが第1の相の4倍の抵抗値の原因になると考えます(4Rと1Rの差)。この例を使って、不均衡なレイアウトおよび負荷が効率の計算で誤差の原因になる可能性があることを説明します。

以下のように想定します。

VOUT = 1V
IOUT = 4A
I1 = I2 = I3 = I4 = 1A
R = 0.025Ω

以下を計算します。

V1 = (I1 × 1R) + VOUT = (1A × 0.025Ω) + 1V = 25mV + 1V = 1.025V
V2 = (I2 × 2R) + VOUT = (1A × 0.050Ω) + 1V = 50mV + 1V = 1.050V
V3 = (I3 × 3R) + VOUT = (1A × 0.075Ω) + 1V = 75mV + 1V = 1.075V
V4 = (I4 × 4R) + VOUT = (1A × 0.100Ω) + 1V = 100mV + 1V = 1.10V

PCB経路に沿った降下を補償するために、バックコンバータによって出力コンデンサで直接生成される電圧はVOUTより高い必要があることに注意してください。相1の降下は(1 × R)のみですが、相4には(4 × R)の降下があります。

実際のラボで、この多相バックの効率を計算する仕事を割り当てられたエンジニアは、VIN、VOUT、IIN、およびIOUTの4つの量を測定する必要があります。入力電圧および電流は非常に簡素で、コンバータへの入力源は1つのみのため、電圧計を接続する場所は1か所で電流計を挿入する場所も1か所です。出力電流も簡素で、負荷とバックの出力の間に1つの電流計を挿入します。しかし、出力電圧は少し注意が必要です。エンジニアが負荷のポイントに電圧計を接続し、読み値がVOUT = 1.0Vの場合、それにはローカル出力コンデンサから負荷のポイントまでのPCB損失が自動的に含まれるため、不正確な効率が計算されます。通常、マキシムのEVキットはケルビン検出テストポイントを備えており、エンジニアがその難題を回避するために役立ちます。

出力電流は相当り1Aで4つの相の間で均等に共有されると仮定して(バックコンバータは優れた電流共有ループを備えていると仮定)、各相の出力電力を計算し、さらに他の相も同じ電圧を生成していると仮定した場合の総出力電力を求めます。

VOUTをOUT1で測定した場合:
P1 = 1.025V × 1A = 1.025W

他の3つの相も1.025Vだと仮定すると、POUTは1.025W × 4 = 4.1Wになります。

VOUTをOUT2で測定した場合:
P2 = 1.05V × 1A = 1.05W

他の3つの相も1.05Vだと仮定すると、POUTは1.05W × 4 = 4.2Wになります。

VOUTをOUT3で測定した場合:
P3 = 1.075V × 1A = 1.075W

他の3つの相も1.075Vだと仮定すると、POUTは1.075W × 4 = 4.3Wになります。

VOUTをOUT4で測定した場合: P4 = 1.1V × 1A = 1.1W

他の3つの相も1.1Vだと仮定すると、POUTは1.1W × 4 = 4.4Wになります。

各相を個別に測定することによって実際の出力電力を求めます。

POUT = P1 + P2 + P3 + P4 = 1.025W + 1.05W + 1.075W + 1.1W = 4.25W POUT

この条件では、バックによって要求される固定の入力電力があります。その入力電力が5Wであると仮定します(ただの人為的な数値)。実際の出力電力を使用して、デバイスの効率を計算します。

効率 = POUT / PIN = 4.25W/5W = 85%

もしそのエンジニアがOUT1のみを測定していたら、計算される効率は4.1W/5W = 82%になります。
また、もしOUT4のみを測定していたら、計算される効率は4.4W/6W = 88%になります。
出力電圧測定をどこに接続するかによって、計算される効率は最大±3%も不正確になるわけです。これは、ICの選択によって生じる差にも匹敵します。

この例は、問題点が明確になるように考案したものですが、理論は成立しています。この理論を現実のICでテストするために、4相バックコンバータのMAX77711を使って以下の実験を行いました。

仮説

次の仮説を検討します。「多相バックコンバータでは、各相によって供給される電力を個別に測定し、それらを加算してすべてのPCB損失を除去することによって、最も高精度の効率を得ることが可能で、正確な出力電力を取得して効率の計算に使用することができる」。

理論によると、見かけ上の効率はレイアウトの品質および測定方法の両方によって、真の効率より低くまたは高くなる場合があります。1つの相のみの出力電圧を測定し、他は同じ電圧であると仮定することは、不正確な見かけ上のコンバータ効率につながります(誤差の大きさはレイアウトの品質によって変化します)。仮説は、すべての出力相を個別に測定することによって計算の誤差が除去されることを意味しています。

実験

MAX77711などの設定可能4相バックレギュレータの場合、EVキットではすべての可能な相構成の評価を可能にする必要があります。そのために、レイアウトは対称性をある程度犠牲にして設定自由度を実現しています。これによって、EVキットは仮説をテストするための優れた候補となります。3つの主な目的を持った実験を考えます。

  1. 4相の効率を測定する場合の最悪のシナリオ(効率の数値がどれほど低くまたは高くなる可能性があるか)を決定する
  2. コンバータの真の効率を決定する
  3. 効率測定の推奨事項を提示する

図2. 4相構成のMAX77711図2. 4相構成のMAX77711

図2は、4相構成(1出力)のMAX77711のEVキットを示しています。図1の論点を明確にするため、負荷をOUT4端子から取り出す場合に電流が流れる必要のあるトレースの長さの変化に注意してください。相1 (青)は最長の経路を辿り、相2および3 (それぞれ紫と緑)は2番目に長い経路を、そして相4 (黄)は最短の経路を辿ります。したがって、OUT4のPCB損失は最小の量で、OUT1は最大になります。

負荷と測定には16の固有の組み合わせがありますが、実験を簡素化するため小数のみに注目します。仮説の証明または反証には1つの組み合わせで十分です。負荷をOUT4端子に接続し、4相のそれぞれで出力電圧を測定します。以下のように実験を定義します。

VINの測定 – 入力コンデンサの両端(ケルビン検出テストポイントINxSおよびGNDxS)に電圧計を接続する。

IINの測定 – 電力源とバックの入力(SYSテストポイント)の間に電流計を接続する。

VOUTの測定 – 相xの出力コンデンサ両端(ケルビン検出テストポイントOUTxSとPGNDxSの間、ここでx = 1、2、3、または4)に電圧計を接続して出力電圧を測定する。

IOUTの測定 – 相4の出力端子と電気的負荷の間に電流計を接続して出力電流を測定する(OUT4に負荷を接続)。

何らかのステップ値で負荷をスイープし、1つの入力電圧、入力電流、出力電圧、および出力電流を記録する。

これらの数値を使って効率を計算する。xのそれぞれの値について効率の測定を繰り返し、すべての組み合わせをテストする。

最後に、最後の1回の効率のスイープを実施するが、各相の出力電圧用の電圧計(合計4つ)および各相の出力電流用の電流計(合計4つ)を使用する。入力の電圧計および電流計は同じままにする。このスイープで、最も真に近いレギュレータ効率が与えられる。

結果

図3. 効率と負荷の関係図3. 効率と負荷の関係、VIN = 7.4V、VOUT = 1.1V、ターボスキップモード

それぞれの場合にプロットされた効率データのグラフは、図3を参照してください。負荷は OUT4から取られているため、赤い曲線(最も低い電圧を生成するOUT4からVOUTを測定した場合)が最も効率が低いのは理にかなっています。VOUTをOUT4から測定する場合、それぞれのPCB損失を補償するために他の相によって生成される追加の出力電力は考慮していません。逆に、紫の曲線(最も高い電圧を生成するOUT1からVOUTを測定した場合)は、他の相が実際より多くの出力電力を生成していると想定しているため、最も高い効率になります。少し見づらいですが、緑と黄の曲線(それぞれOUT2とOUT3のVOUT測定値)は、お互いの真上に重なっています。

青の曲線は、MAX77711の真の効率が赤と紫の境界線の間にあることを示しています。しかし、注意深く測定を行わないと最大3%もの効率の誤差が生じます。

結論

図3に示されたデータは、仮説が正しいことを証明しています。多相DC-DCコンバータの効率の測定には、測定機器の注意深い配置が必要です。非対称のPCBレイアウトは損失につながる可能性があり、評価時にそれらを計算に入れることができます。最も高精度の効率を測定する方法は、各相の出力電力を個別に測定し、それらを加算して総出力電力を求めることです。

エンジニアが8つの計器を用意して、遭遇するすべての多相バックコンバータの効率を測定することは、常に実行可能とは限りません。エンジニアはこの記事の結果を念頭に置き、効率を評価するときはPCB、負荷、および測定セットアップの品質と対称性を評価する必要があります。確かな経験則としては、中央のポイントから負荷を取り、出力電圧を中央のポイントで(または可能な限り中央のポイントの近くで)測定すると良いでしょう。