アプリケーションノート 7296

MAX38908を使用したLDOリニアレギュレータの並列接続によって大電流アプリケーションに対応

筆者: Niranjan Kumar Bompally

要約:

負荷電流の大きいアプリケーションでは、LDOの電流定格やパッケージの制約のために、1つのLDOリニアレギュレータでは負荷要件を満たすことが非常に難しくなる場合があります。そのような大負荷電流の要件に対応する場合、LDOの並列接続が負荷電流と熱放散を共有するための1つの選択肢になります。このアプリケーションノートでは、LDOの並列接続のさまざまな手法について説明し、負荷共有の性能を比較します。


はじめに

高性能で大電力のポータブル電子機器の需要が増大する中で、ノイズレベルの低い大電流のLDOがますます必要とされています。電流制限とジャンクション温度の制約のために、1つのLDOで大きな負荷に対応することは困難になりつつあります。大電流が必要な下で入出力電圧差が大きくなると、LDOにおける熱放散も増大します。こうした状況では、LDOの並列接続が負荷要件と熱放散に対応するための最善の選択肢です。このアプリケーションノートでは、高性能LDOのMAX38908によってLDOの並列接続を実現するためのさまざまな手法について説明し、負荷共有の性能を比較します。

4A/2A高性能LDOリニアレギュレータのMAX38907/8/9について:

MAX38907/MAX38908/MAX38909は、高速過渡応答、高PSRR NMOS LDOで、入力電圧範囲は0.9V~5.5V、BIAS電圧範囲は2.7V~20Vです。このLDOファミリは、82mVのドロップアウトで最大4Aの負荷電流を供給することができます。MAX38908/MAX38909の出力電圧は、2つの外付けフィードバック抵抗を使用することで0.6V~5.0Vの範囲の値に調整することができます。

特長 性能
  • ノイズの低減と精度向上
    • 過渡偏位:28mV (4A負荷時)
    • BIAS PSRR:78dB (10kHz時)
    • IN PSRR:52dB (10kHz時)
  • 使いやすい堅牢な保護の実現
    • 設定可能なソフトスタートレート
    • 過電流および過熱保護
    • 出力-入力逆方向電流保護
    • パワーOKステータス端子
  • 小型化と信頼性の向上
    • 14ピンTDFN (3mm × 3mm)
    • 20ピンTQFN (5mm × 5mm)、および5 × 3バンプ、0.4mmピッチWLP

図1. VIN PSRRのグラフ図1. VIN PSRRのグラフ

MAX38908 LDOのアプリケーション回路を下の図2に示します。

図2. MAX38908のアプリケーション回路図2. MAX38908のアプリケーション回路

LDOの並列接続:

ここでは基本的に、LDOの並列接続のさまざまな手法について検討し、負荷共有の結果を比較します。以下はLDOの並列接続の各種トポロジです。

  1. LDOの直接並列接続。
  2. バランシング抵抗を使用したLDOの並列接続。
  3. オペアンプを使用したLDOの並列接続。

今回は次のユースケースについて検討します。

VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 7A、VBIAS = 10V

1. LDOの直接並列接続:

図3. MAX38908 LDOの直接並列接続図3. MAX38908 LDOの直接並列接続

図4. LDOを直接並列接続した回路における負荷共有図4. LDOを直接並列接続した回路における負荷共有

上の図4から、両デバイスのうち出力電圧が若干高いLDO-U2は4Aまで負荷電流を供給しています。負荷がLDOの最大許容負荷電流を超えてさらに増大した場合、LDO-U2の出力電圧は設定値を下回るレベルに減少し、LDO-U1が電流を共有します。LDO-U1から電流が流れ始めると、LDO-U2からの電流は減少して出力電圧が設定値に達し、LDO-U2は再びより大きな電流を共有し始めます。したがって、最大負荷は不均等な出力電圧のためにLDO-U2によって共有されます。

2. バランシング抵抗を使用したLDOの並列接続:

次の図5は、出力側にバランシング抵抗を使用したLDOの並列接続を示しています。図5に示すように、2つのLDOのIN端子は短絡され、入力電圧ソースに直接接続されていますが、OUT端子は同じ値のバランシング抵抗を介して負荷に接続されています。この回路では、出力電圧の高いLDOが電流を供給し、この電流によってバランシング抵抗両端の電圧降下が生じるため、そのLDOの実際の出力電圧は低下します。そのため、出力電圧が低いもう1つのLDOも負荷電流を共有するようになります。したがって、バランシング抵抗両端の電圧降下は、両方のLDOを流れる電流を均衡させつつ出力電圧を均衡させるように作用します。

図5. バランシング抵抗を使用したMAX38908 LDOの並列接続図5. バランシング抵抗を使用したMAX38908 LDOの並列接続

バランシング抵抗を使用した場合の負荷両端の電圧は、次の式で与えられます。

VLOAD = VOUTU1 - VRBAL1 = VOUTU2 - VRBAL2
VLOAD = VOUTU1 - (IOUTU1*RBAL1) = VOUTU2 - (IOUTU2 * RBAL2)

バランシング抵抗の値を計算するために、ここではLDOの出力電圧の精度が±1%であると見なし、各LDOからの出力電流の最大共有の許容差が各LDOの最大出力の20%、つまり800mAであると見なします。次の式は、バランシング抵抗の値を与えます。

出力電圧が2.7Vであるため、出力電圧の変動は54mVになります。そこで、バランシング抵抗は67.5mΩと計算されます。したがって、選択するバランシング抵抗は50mΩです。

図6. バランシング抵抗を使用したLDOの並列回路における負荷共有図6. バランシング抵抗を使用したLDOの並列回路における負荷共有

Rbalの式から、負荷電流の共有はバランシング抵抗を大きくすることでさらに改善することができます。バランシング抵抗の値をさらに大きくすると、バランシング抵抗両端の電圧降下はさらに増大し、実際の出力電圧は低下します。バランシング抵抗の値を選択する際は、負荷両端の実際の出力電圧が大幅に低下しないようにする必要があります。したがって、LDOを流れる電流の差が小さくなり、バランシング抵抗両端の電圧降下も小さくなるように、バランシング抵抗の値を選択します。優れたレイアウト設計は、LDOによる電流の均等な共有を促すものとなります。

3. オペアンプを使用したLDOの並列接続:

下の図7の回路では、LDOの並列接続は入力検出抵抗を介して行われています。電源入力と2つのLDOのIN端子に接続された2つの抵抗があります。電流が各抵抗を流れると、電圧はそれらの両端に比例的に発生し、これらの電圧は図に示すようにオペアンプに供給されます。オペアンプは、2つの入力端子に印加された差動電圧を検出し、電流検出抵抗が反転端子に接続されているLDO-U1のフィードバックを駆動します。次の図から、RSENSE2からの電流が増大すると、オペアンプはその電流の増大を検出し、LDO-U1のフィードバック回路からの電流をシンクし始めます。この電流シンクによって、LDO-U1は入力ソースからより多くの電流を取り込むため、RSENSE1抵抗における電圧降下が増大します。したがって、それは両方のLDOを流れる電流を均衡させるための負のフィードバックとして機能します。回路が定常状態で動作する時、U1、U2からの電流と出力電圧は均衡状態になります。

図7. オペアンプを使用したMAX38908 LDOの並列接続図7. オペアンプを使用したMAX38908 LDOの並列接続

上記の回路では、電流検出用に各LDO入力に50mΩの電流検出抵抗を使用し、オペアンプを使用して2つのLDOを流れる入力電流を比較しています。LDOによる電流の共有は、以前の手法よりもはるかに優れていることがわかります。この手法を使用した電流共有のグラフを下に示しています。両方のLDOを流れる電流の最大差は、7Aまでの負荷電流範囲全体で約51mAです。

図8. オペアンプを使用したLDOの並列回路における負荷共有図8. オペアンプを使用したLDOの並列回路における負荷共有

スタートアップ性能:

図9. テスト条件におけるスタートアップ性能:VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 7.3A図9. テスト条件におけるスタートアップ性能:VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 7.3A

上の波形において、緑色は入力電圧、ピンク色は出力電圧、黄色はLDO-U1の電流、青色はLDO-U2の電流です。

上の図9は、スタートアップ波形を示しており、電流バランシングがどのように機能するかを確認することができます。スタートアップ時には、LDO-U2はより多くの電流を取り込みます。これはオペアンプによって検出され、両方のLDOを流れる電流を直ちに均衡させます。両方のLDOを流れる電流は黄色と青色の波形で示されており、これらの波形は程なく整定して均等になります。

下に示すのは、オペアンプを使用したLDO並列回路の負荷過渡および負荷レギュレーションデータの波形です。

負荷過渡性能:

図10. テスト条件における負荷過渡性能:VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 0~7.3A図10. テスト条件における負荷過渡性能:VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 0~7.3A

負荷過渡時の出力電圧降下:0~7.3A - 82mV

図11. テスト条件における負荷レギュレーション性能:VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 0~7A図11. テスト条件における負荷レギュレーション性能:VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 0~7A

LDOの並列接続手法の性能比較:

負荷レギュレーションの比較:

図12. テスト条件における負荷過渡:VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 0~7A図12. テスト条件における負荷過渡:VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 0~7A

上記の波形は、図5と図7の両回路の負荷レギュレーション性能を示しています。負荷が増大するにつれて、バランシング抵抗を使用した回路の出力電圧は、オペアンプ回路の出力電圧よりもはるかに大きく低下します。

負荷共有性能の比較:

図13. テスト条件における負荷過渡:VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 0~7A図13. テスト条件における負荷過渡:VIN = 3.3V、VOUT = 2.7V、IOUT = 0~7A

上記のグラフは、図5と図7の両回路におけるLDOを流れる電流の差を示しています。バランシング抵抗を使用した回路と比較して、オペアンプ回路の電流共有ははるかに優れています。

バランシング抵抗を使用したLDOの並列接続 オペアンプを使用したLDOの並列接続
長所 - 複数のLDO並列接続に対して実装可能。
- 部品数が少ない。
- 実装が容易。
- LDOの電流共有が均等。
-  正確に必要な出力電圧を供給。
短所 - Rbalのために出力電圧が低下。 - 2つのLDOのみに限定される。
- 追加のオペアンプ回路が必要。

結論

以上の検討から、LDOの直接並列接続については、負荷電流の共有が起こらないため、適切な手法ではないと結論することができます。出力側にバランシング抵抗を使用したLDOの並列回路は電流の共有を改善しますが、この手法では負荷電流が増大するにつれて出力電圧が低下し、より大きな値の抵抗を使用して負荷電流の共有を改善することになります。この手法は、複数のLDO並列接続を伴うアプリケーションにも使用することができます。オペアンプを使用したLDOの並列回路は、両方のLDOによって負荷電流を均等に共有し、したがって熱放散を均等に共有するための最善の手法です。この手法には、負荷電流に関して厳密な負荷レギュレーションが実現するという利点もあります。