アプリケーションノート 6909

リン酸鉄リチウムバッテリの残量ゲージの考慮事項


要約:

特定の高Cレートアプリケーションは、リン酸鉄リチウム(LiFePO4またはLFP)バッテリによって給電されます。これらのバッテリタイプは、残量ゲージに関して特別な注意が必要です。このアプリケーションノートでは、これらのバッテリタイプに固有の特長について説明し、LFPバッテリ用に設定された残量ゲージアルゴリズムを使用したテスト結果を示します。


はじめに

世界中で使用されるリチウムイオン(Li+)バッテリの量は毎年増え続けています。これらのバッテリは高いエネルギー密度、低い自己放電レート、およびほぼないに等しいメモリ効果を特長とします。市場には多数のリチウムイオンバッテリのバリエーションがあり、それぞれが固有の特性を備えています。これらのバッテリは、それぞれのタイプに基づいて組み合わせて分類することができます。各タイプには、特定のアプリケーションの給電に関して固有の利点と欠点があります。表1は、リチウムイオンバッテリの主なタイプを示しています。このアプリケーションノートでは、使用例としてリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリに焦点を当て、より高精度を実現するための残量ゲージの考慮事項について説明します。

表1. タイプに基づくリチウムイオンバッテリの分類

バッテリタイプ 説明
コバルト酸リチウム(LCO) LCOは、現在使用されているリチウムイオンバッテリの中で最も一般的なタイプの1つです。非常に高いエネルギー密度を備えているため、エネルギー電池として使用されます。電力密度には限度があり、生産に使われる材料(特にコバルト)は比較的高コストです。
マンガン酸リチウム(LMO) LMOはLCOより高い安定性を備えています。高出力電池に使用されますが、エネルギー密度は低くなります。性能を強化するために、LMOはNMCタイプと組み合わされる場合があります。
ニッケル・マンガン・コバルト酸化物リチウム(NMC) NMCは高容量と高出力を提供し、LMOバッテリと組み合わせて安定性を高めることができます。
ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物リチウム(NCA) LCOタイプのバッテリと同様、NCAは主として高エネルギー密度を必要とするアプリケーションで使用されます。
チタン酸リチウム(LTO) LTOは最も安全なリチウムイオンのタイプの1つです。これらのバッテリは急速充電可能で、長寿命、さらに広い温度範囲で動作可能です。これらのバッテリは比較的高コストで、低い比エネルギーを備えます。
リン酸鉄リチウム(LiFePO4またはLFP) LFPは最も安全なリチウムイオンのタイプの1つで、非常に平坦な電圧放電曲線を備えることで有名です。リン酸鉄リチウムはこれらのバッテリの正極に使用され、負極には炭素が使用されます。他のタイプと比較して、これらのバッテリは通常は低容量で自己放電率が高くなります。これらのバッテリは他のほとんどのリチウムイオンバッテリより広い温度範囲にわたって使用可能です。

LFPバッテリ - 最初に

特長
鉛蓄電池および他のタイプのリチウムバッテリと比較して、LFPバッテリは温度と化学変化に対する安定性が高くなります。過充電や短絡などのフォルト条件時にも発火せず、熱暴走も起こしません。また、これらのバッテリは-40℃~+70℃という他のリチウムイオンバッテリより広い温度範囲で使用することができます。LCO、LMO、NMC、NCAセルが通常は1000サイクル以下であるのと比較して、LFPバッテリは1000~2000サイクルというより長いサイクル寿命も提供します。LFPセルは高電圧に長時間晒すことが可能で、そのときのストレスは他のタイプより大幅に低くなります。これらのバッテリは最大25Cという非常に高Cレートでの放電が可能です。これに比べて、他のリチウムイオンバッテリは通常は1C以下で放電します(ただし一部の極端な場合では最大10Cでの放電が可能です)。

欠点
LFPバッテリは公称電圧が3.2Vで、LCO、LMO、NMC、NCAセルの公称範囲である3.6V~3.8Vより低く、これは比エネルギーが低いことを意味します。また、これらのセルは湿度および水に対して敏感です。これらのバッテリが水と直接接触すると正極活物質の喪失が発生し、材料のエネルギー密度が低下します。そのため、厳格な品質管理の下で生産される高品質セルのみが、ある程度の外部湿度条件に耐えることができます。他のタイプのバッテリと同様、LFPバッテリも低温下では性能が低下する傾向があります。

標準アプリケーション
LFPバッテリは、多様な高Cレートアプリケーションで使用されます。例としては、小型電気自動車、電気芝刈り機、シザーリフト、ゴミ収集車、ロボット、家庭用エネルギーストレージ、ハイブリッド発電機、トラックAPUシステムなどがあります。このバッテリタイプのその他のアプリケーションには、気象観測装置、海洋ブイ、石油/ガスパイプライン機器、ナンバープレート監視装置、深度測定器、サーフボード、公園遊具などがあります。

LFPバッテリ監視の課題

LFPバッテリは非常に平坦な放電曲線およびヒステリシスを備えているため、これらのセルの監視は非常に難しくなります。図1は、LFPバッテリの標準的な放電曲線を示しています。一部の領域では、バッテリの長時間の放電にわたって電圧がほとんど低下していません。図2は、LFPセルのヒステリシスおよびそれに伴う充電状態(SOC)誤差を示しています。対照的に、図3はNCAバッテリの標準的な放電曲線を示し、放電中に電圧が大幅に低下しています。

図1. LFPバッテリの標準的な放電曲線図1. LFPバッテリの標準的な放電曲線

図2. LFPセルのヒステリシスとそれに伴う35%のSOC誤差図2. LFPセルのヒステリシスとそれに伴う35%のSOC誤差

図3. NCAバッテリの標準的な放電曲線図3. NCAバッテリの標準的な放電曲線

LFPセルに似た動作を示す他のバッテリタイプには、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO4)、フッ化硫酸鉄リチウム(LiFeSO4F)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)があります。

高精度のLFPバッテリ残量ゲージ
LFPセルは非常に平坦な電圧プロファイルを備え、ちょうど1%のSOC変化がオープン回路電圧(OCV)曲線上のわずか数mVの変化に相当します。さらに、LFPセルはOCV曲線にヒステリシスがあることで有名です。幸いなことに、LFPセルの監視時により高精度を実現する技法が利用可能です。たとえば、継続的OCV予測アルゴリズム(緩和、フル、またはエンプティ状態が不要)とクーロンカウンタの組み合わせによって、電圧感受性が他のクーロンカウント方式より大幅に減少することが実証されています。ほとんどの代替方式では、緩和状態のバッテリを観察し、測定された電圧に基づいて補正を実行する必要があります。それらの方法では、補正を行う頻度が低く(毎分多数の小さい補正を行うのではなく1日に数回)、補正時に誤差があると影響が大きくなります。補正時の誤差は通常は確定化され、次の補正まで残ることになります。そのため、アルゴリズムの選択とそのアルゴリズムによる電圧の使用は、LFPバッテリの場合は特に重要になります。最適なアルゴリズムは、常に電圧補正に小さい加重を与えることによって、これらの誤差を最小限に抑えます。そのため、電圧測定誤差に対する復元性が大幅に高くなります。

テスト対象セル
OCVアルゴリズムとクーロンカウント方式を使用して、ANR26650M1-B LFPセル(公称容量2500mAh)のテストを実施しました。

十分に調整された残量ゲージは、優れた残量ゲージ精度を提供する能力があることを実証しました。私たちは、1週間以上にわたってフルまたはエンプティに到達することなくバッテリが連続的に使用されるという、残量ゲージの限界を追求するテストパターンを選択しました。そのようなパターンの監視は、非LFPセルの場合でも非常に困難です。図4のグラフは、テストパターン時のSOC誤差が2%以内だったことを示しています。

図4. バッテリ電圧、電流、温度、およびSOC誤差を示すテストパターン。最初のサイクル以外、SOC誤差は2%以下に維持されています。図4. バッテリ電圧、電流、温度、およびSOC誤差を示すテストパターン。最初のサイクル以外、SOC誤差は2%以下に維持されています。

図5. 1週間以上にわたってフルまたはエンプティに到達することのない連続的な使用という複雑な場合で、高精度の残量ゲージ処理が実現されました。誤差は2%以下に維持されました。図5. 1週間以上にわたってフルまたはエンプティに到達することのない連続的な使用という複雑な場合で、高精度の残量ゲージ処理が実現されました。誤差は2%以下に維持されました。

図6. SOC誤差は-5℃においても2%以下に維持されました。図6. SOC誤差は-5℃においても2%以下に維持されました。

LFPバッテリ用の残量ゲージIC例
このテストの場合は、残量ゲージのMAX17201を使用してLFPバッテリを監視しました。MAX17201/11/05/15ファミリの他のどのICでも同様の結果になります。LFPバッテリのOCV-SOC曲線は、従来のリチウムコバルトタイプより大幅に平坦であるため、アルゴリズムのセル電圧およびOCVの解釈による影響が大きくなります。残量ゲージアルゴリズムが長時間にわたる高精度の、フル容量の測定を実現するためには、除外ウィンドウ(OCV-SOC曲線の中で最も平坦な領域とほとんどのヒステリシスを含む部分)の外部でバッテリのフル容量を計算する必要があります。MAX17201でこれを計算するために、フル容量学習はイネーブル時に除外ウィンドウ(たとえば、20%~72%)の外部で緩和が起きたときにのみ積算された充電セッションおよび放電セッションを使用します。また、学習が行われるためには2%以上のSOC変化が必要です。

図7は、LFPセルのOCV-SOC曲線、およびOCV除外領域を示しています。

図7. LFPセルのOCV-SOC曲線とOCV除外領域。不正な学習を防ぐために、この領域はフル容量の計算に使用されません。図7. LFPセルのOCV-SOC曲線とOCV除外領域。不正な学習を防ぐために、この領域はフル容量の計算に使用されません。

以下の手順を実行し、MAX17201 ModelGauge m5ファミリをLFP対応用に設定します。

  1. バッテリまたはバッテリデータを(担当のフィールドアプリケーションエンジニアを介して)マキシムに送付し、特性評価を行います。特性評価データはマキシムによってバッテリモデルに変換されます。
  2. nNVCfg1 (1B9h)レジスタのenSCに1を設定し、LFPモードおよびウィンドウブロッキングをイネーブルします。
  3. その他のバッテリモデルをロードします。詳細については、MAX1720x/MAX1721xソフトウェア実装ガイドを参照してください。

MAX17055およびMAX17260/1/3はLFPバッテリに対応し、特殊なモデル構成を備えています。優れたSOC精度を実現するには、使用する特定のLFPセルの特性評価とモデル化を行う必要があります。これらのICは、LFPおよびその他の「平坦な」OCVタイプに関連する課題専用の追加アルゴリズムサポートを提供します。

以下の手順に従って、MAX17260/MAX17261/MAX17263およびMAX17055をLFP対応用に設定します。

  1. バッテリまたはバッテリデータを(担当のフィールドアプリケーションエンジニアを介して)マキシムに送付し、特性評価を行います。特性評価データはマキシムによってバッテリモデルに変換されます。
  2. ModelCFG (DBh)レジスタに0x0060を書き込み、LFPモードおよびウィンドウブロッキングをイネーブルします。
  3. その他のバッテリモデルをロードします。詳細については、MAX17055ソフトウェア実装ガイドおよびMAX1726xソフトウェア実装ガイドを参照してください。

まとめ

LFPバッテリは特定の高Cレートアプリケーションに最適ですが、これらのバッテリタイプの高精度残量ゲージには特別な注意が必要です。このアプリケーションノートでは、OCV残量ゲージアルゴリズムとクーロンカウントを使用するテスト例について解説しました。このタイプのアルゴリズムは、他の残量ゲージ方式がLFPバッテリで遭遇する精度の課題の一部を克服します。