アプリケーションノート 5681

リチウムイオンバッテリのリサイクル入門

筆者: Fons Janssen

要約: このアプリケーションノートでは、古くなった機器から外したリチウムイオン(Li+)バッテリを他の電子機器(玩具など)で再利用する方法について説明します。これは、まったくマイクロコントローラ(またはそれに必要なソフトウェア)を必要とせずに実現可能です。1つ問題となるのは、それら旧式の機器のバッテリチャージャは、通常は再利用できないという点です。設計者は独自のチャージャ回路を作成する必要があり、このアプリケーションノートではその方法を詳しく説明します。

このアプリケーションノートと同様のものが2013年6月に「Elektor」誌で発表されました。

はじめに

リチウムイオン電池は機器の内部で充電されることが多いため、放電された機器から取り出したリチウムイオンバッテリを再利用するのは難しい場合があります。言い換えると、再利用可能な独立したチャージャが存在しません。幸いなことに、使用済み(または新品の)リチウムイオン電池用のチャージャを作るのはとても簡単です。
ほとんどの人と同様、あなたの周りにもリチウムイオンバッテリを電源に使用した古い機器がいくつかあるはずです。このタイプのバッテリは、さまざまなサイズおよび形状での製造が容易で、(NiMHおよびNiCdバッテリに比べて)容量が比較的大きいため、過去数年間に生産されたほとんどのポータブル機器で使用されてきました。
新しい、より優れた製品に交換された場合、古いMP3プレーヤーや携帯電話には何か使いみちがあるでしょうか?通常は、エレクトロニクス製品を他の用途に使うことはできませんが、バッテリは(たとえ玩具用であっても)まだ使用可能です。エレクトロニクスが趣味の人は創意工夫が得意な傾向があるため、たいていはバッテリを組み込んで再利用する方法を見つけます。たとえば筆者は、Lego®トレインの3つのペンライト電池をリチウムイオンバッテリに交換しました(図1を参照)。
図1. Legoトレインで使用する3つのペンライト電池を1つのリチウムイオンバッテリに交換した基板
図1. Legoトレインで使用する3つのペンライト電池を1つのリチウムイオンバッテリに交換した基板
しかし、まだバッテリ充電の問題が残ったままです。元の機器は、通常はそのバッテリ専用のチャージャ回路を内蔵しており、多くの場合PCB上のわずかな部分に実装されています。ポータブル機器の場合、通常は回路図が提供されないため、どの部品がチャージャ回路の一部かを判断するのは困難です。であれば、独自のリチウムイオンチャージャを作るしかありません。

回路

この記事で説明するチャージャ回路は、マキシム・インテグレーテッドのリチウムイオンチャージャICのMAX8677Aを中心としています(図2を参照)。このICは完全に自律的に動作するため、マイクロコントローラは(したがってソフトウェアも)不要です。充電プロセスの状態を示すために、数個のLEDがMAX8677Aによって使用されます。
図2. MAX8677Aの内部回路のブロック図
図2. MAX8677Aの内部回路のブロック図
MAX8677Aは非常に柔軟性が高く、Smart Power Selectorトポロジを備えています(図3を参照)。これは3つの電子スイッチで構成され、状況に応じて充電電流と負荷電流を管理します。外部電源がある場合、MAX8677Aは利用可能な電力をバッテリの充電と負荷への給電の両方に使用することができます。負荷がチャージャの供給能力以上の電力を必要とする場合、MAX8677Aはバッテリに追加の電流を供給させることができます。利用可能な外部電源がない場合、負荷は完全にバッテリのみによって給電されます。
MAX8677Aは、ピン15および16 (USB)を介してUSBポートから給電可能です。この場合、流れる電流は500mA (USB 2.0ポートの最大値)に制限されます。また、このICはピン2および3 (DC)を介してアダプタからも給電可能で、この場合の電流制限は最大2Aまで増大させることが可能です。
図3. Smart Power Selector技術は、需要に応じて充電電流と負荷電流を分配します。
図3. Smart Power Selector技術は、需要に応じて充電電流と負荷電流を分配します。
このアプリケーションノートのチャージャ回路(図4)の場合、各種の制限値の設定に関する柔軟性が高まることから、DC入力を使用します。入力での動作電圧は、4.1V~6.6Vです。電圧が高くなりすぎると、MAX8677Aは入力をオフにして過熱を防ぎます。このICは、最大14Vの電圧スパイクに耐えることができます。
充電状態は、D1、D2、およびD3によって与えられます。バッテリ充電中(LED D3)、バッテリ充電完了(LED D1)、またはバッテリ故障(LED D2)の、3つの状態が示されます。
図4. 完全なチャージャ回路は、主としてMAX8677AとミニUSBコネクタで構成されます。
図4. 完全なチャージャ回路は、主としてMAX8677AとミニUSBコネクタで構成されます。
このICで設定可能な電流制限には、最大充電電流に対するものと最大入力電流に対するものの2つがあります。後者の値は、常に前者より大きくする必要があります。そうでない場合、最大入力電流を上回ることはできないため、設定された最大充電電流に決して到達しなくなります。これらの制限値は、どちらも抵抗を使用して設定します。
最大充電電流:
ICHGMAX = 3000/RISET = 3000/R9 = 3000/5.6kΩ = 535mA
最大入力電流:
IDCMAX = 3000/RPSET = 3000/R6 = 3000/3.3kΩ = 909mA
明らかに、アダプタの電力定格、機器の消費電力、および目的の負荷電流に応じて、より適切な値を選択することができます。MAX8677Aは、最大1.5Aの充電電流を供給可能です。
最近の電源アダプタを使用して容易に回路への給電ができるように、ここではミニUSBコネクタを使用しました。これによって、5V電源を使用していることも確実になります。最大入力電流はアダプタの定格に応じて調整してください。この回路は、アダプタが少なくとも1Aの電流を供給可能な場合に正常に機能します。

NTCサーミスタはあるか?

多くのバッテリには負の温度係数(NTC)サーミスタが内蔵されており、高すぎる温度や低すぎる温度でバッテリが充電されるのを防ぐために使用されます。そのため、バッテリは正の端子(BAT+)、負の端子(BAT-)、およびNTCサーミスタ用接点の3つの接点を備えています(図5を参照)。3つの接点を備えたバッテリには、識別のために使用される通常の抵抗のみを内蔵したものもあることに注意してください。通常の抵抗の値は一定で、バッテリの温度によって変化しません。
図5. ほとんどの3接点のリチウムイオンバッテリは、図のように接続されたNTCサーミスタを内蔵しています。
図5. ほとんどの3接点のリチウムイオンバッテリは、図のように接続されたNTCサーミスタを内蔵しています。
図4に戻って、NTCサーミスタが使用される場合、THM端子とグランド間に(BAT-端子を介して)接続してください。抵抗(R7)もTHM端子とリファレンス電圧(VL)間に接続され、分圧器を形成します。抵抗の値は、+25℃の温度でNTCサーミスタと同じ値になるように選択します。+25℃でのTHM端子の電圧は、0.5 VLに等しくなります。温度が上昇または低下すると、NTCサーミスタの抵抗値が減少または増大し、THM端子の電圧も同様に変化します。デバイスは、この電圧が0.28 VL~0.74 VLの範囲のときにのみ充電します。最近のNTCサーミスタの場合、これは0℃~50℃の温度範囲に相当します。NTCサーミスタが利用可能でない場合は、R8を追加してTHM端子の電圧を0.5 VLにしてください。

接続のヒント

携帯電話のバッテリを再利用する場合は、最初から標準で保護回路を備えており、バッテリを過負荷や過放電から保護するようになっています。しかし、たとえば古いラップトップのバッテリパックから取り外したものなど、1つのセルのみを使用する場合は、自分で保護回路を作る必要があります。パック内の回路はパック全体を保護するように設計されているため、単一のセルの保護に使用することはできません。
単純なヒューズ(図4のFS1、PCB上の表面実装デバイスまたはSMDヒューズ)によって過負荷からの十分な保護が提供され、分解したセルが完全に使用可能になります。しかし、ヒューズは過放電に対する保護を提供しません。これらのタイプのセルが過度に放電されると、セルが損傷する可能性があります。これは、小型の白熱電球などの抵抗性負荷が長時間接続された場合に発生します。しかし、ほとんどの機器は電源電圧が特定の値を下回ると動作を停止するため、セルはそれ以上放電されません。したがって、ヒューズの提供する保護で十分かどうかは、接続する機器のタイプによって大きく異なります。

構造

このプロジェクトのために、我々は多数のSMDを使用するコンパクトなPCBを設計しました(図6を参照)。この設計ではPCBが非常に小型になるため、機器内に組み込むのが容易です。基板レイアウトおよびPCBのエッチングに使用したマスクは、どちらもDesignSpark PCBを使って作成したもので、マキシムのウェブサイトからダウンロードすることができます。
図6. このチャージャ用に設計したPCBは、既存の機器への組込みを容易にするために、できる限り小型化してあります。
図6. このチャージャ用に設計したPCBは、既存の機器への組込みを容易にするために、できる限り小型化してあります。
SMDの実装には、ある程度の器用さとはんだ付けの経験が必要です。TQFNパッケージのMAX8677Aの場合、4mm x 4mmのパッケージの底面に端子とエクスポーズドパッドがあるため、理想的にはリフロー炉を使用してください。しかし、手作業でデバイスをはんだ付けすることも可能です。以下のセクションで、その両方について説明します。

リフロー炉の使用

リフロー炉を使用したあとに、以下の接続を行う必要があります。LED、バッテリ、および負荷への接続用のホールがPCB上に設けてあるため、ワイヤを介して容易に接続することができます。ミニUSBコネクタには2つのプラスチックのピンがあり、PCB上の対応するホールに差し込むことでソケットが位置合わせされます。ミニUSBコネクタを使用しない場合は、この2つのホールを使って電源を接続することができます。その場合、電源電圧が5Vであることを確認する必要があります。

手作業によるTQFNパッケージのMAX8677Aのはんだ付け

リフロー炉を使う方がはるかに簡単ですが、十分な経験がある場合は、熱風式はんだごてを使ってMAX8677Aを実装することも可能です。ここで示す手法は、スルーホールメッキが施されていない自作のPCBで、通常のはんだごてを使用してデバイスを実装する方法を示しています(図7を参照)。
図7. 1つのホールを手作業ではんだ付けすることによってMAX8677Aを実装する手順
図7. 1つのホールを手作業ではんだ付けすることによってMAX8677Aを実装する手順
基板のエッチングを行う前に、ICのエクスポーズドパッドのセンターホールのみが残っていることを確認してください。その周囲にある他の8つのホールは、ソフトウェアで設計から除去するか、またはフェルトペンを使ってマスク上のホールを塗りつぶし、PCB上に生成されないようにしてください。
  1. エクスポーズドパッドの中心の位置に、ドリルで1.5mmのホールを開けてください。
  2. PCB上にチップを置いてください。
  3. チップの各辺に沿って、すべての接点をはんだ付けしてください。吸取り線を使用して、各部をきれいにしてください(すべての状況が良く見えるように、筆者は双眼実体顕微鏡を使用しました)。
  4. 表面のすべての接点が適切にはんだ付けされたら、基板を裏返してホールの中にはんだ片を数個投入してください。
  5. 1.5mmのホールにぴったり合う銅の単線を見つけ、やすりを使って一方の端を完全に平らにしてください。その端をホールに挿入し、はんだごてを使って加熱してください。しばらくすると、銅線が十分に熱くなってホール内のはんだ片が溶け始めます。銅線がわずかに引き込まれ、チップのエクスポーズドパッドと接触します。
  6. 次に、その銅線をPCBのはんだ面のグランドプレーンにはんだ付けしてください。
これで、チップのエクスポーズドパッドとPCBのはんだ面のグランドプレーン間に、適切な電気的および熱的接続が形成されます。

部品リスト

次の表に、基板への実装が必要な部品を示します。
Designation Description
Resistors (default: SMD0603)
R1, R2, R5 4.7kΩ
R3, R4 560kΩ
R6 3.3kΩ
R7 10kΩ
R8 10kΩ (only if there is not an NTC thermistor in the battery)
R9 5.6kΩ
Capacitors (default: SMD0603)
C1, C3 4.7µF (SMD0805)
C2 100nF
C4 68nF
Semiconductors
D1 LED, green, 3mm
D2 LED, red, 3mm
D3 LED, yellow, 3mm
IC1 MAX8677AETG+ (24-pin TQFN)
Miscellaneous
USB1 Mini-USB connector, PCB mount, SMD (e.g., Molex® 67803-8020, RS Components #720-6618)
FS1 Fuse, SMD, rating dependent on battery (e.g., LittelFuse® nano fuse 3A, Farnell/Newark #1596930RL)