アプリケーションノート 5680

マキシム・インテグレーテッドのリモートセンサー技術のためのパルストランスのテスト


要約: このアプリケーションノートでは、電力メーター用ICの71M654xファミリと併用するリモートセンサーICの71M6203、71M6201、71M6103、71M6113、または71M6601のために使用されるパルストランスの設計、テスト、評価、および特性判定の方法を説明します。トランスの設計およびテストは、マキシム・インテグレーテッドの電力監視ICの組み合わせ(MAX78700とMAX78615+LMU)にも適用可能です。


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はじめに

背景

リモートセンサーインタフェースIC (71M610371M611371M620171M620371M660171M6603)は、通常は小型、低コストのパルストランス経由でホストIC (71M6541D/F/G71M6541DT/FT71M6542F/G71M6542FT71M6543F/G/GH/H、および71M6545/H)に接続されます。小型、低コストのパルストランスを使用した同様の接続は、電力監視ICのMAX78700MAX78615+LMU間にも使用されます。このアプリケーションノートでは、電力メーターに組み込むマキシム・インテグレーテッドのリモートセンサーとともに使用されるパルストランスの設計、テスト、および評価の方法を説明します。
アナログの相当品(電流トランス、またはCT)と同様に、パルストランスも強い外部磁場の影響を受ける可能性があります。ワーストケースでは、トランスが飽和して誘導性を失うため、トランスは電力メーター機器内のドライバへの低抵抗の負荷になります。これにより差動ドライバが短絡し、結果として電源電圧が失われます。この状況が発生する以前にも、データの整合性が失われ、それとともにメーターの精度が失われます。
したがって、電力メーター用ICの71M654xと電流シャントセンサーに接続される1つまたはそれ以上のリモートセンサーICの71M6xxxで構成されるメーター用システムには、磁場に対する耐性がありません。メーター製造会社の選択肢としては、磁気シールドを使用するか、さらに良い方法としては、磁気耐性が必要な場合は高飽和コアを備えたパルストランスを指定します。そのようなトランスは、経験を積んだ磁気部品のメーカーであればほぼどこでも作成可能です。多くのメーター製造会社は、いつも使っている磁気部品会社によって作られた製品を使用したいと考えるでしょう。



トランスの設計とテスト

磁気効果からの保護は、万能なソリューションを実装できないことに注意してください。ACまたはDC磁界が存在するか、メーターは、磁場に埋没するのか単に装置の外部に設置された磁石に晒されるのか、あるいはメーターの筐体にトランスを磁界源から遠ざけるための十分なスペースがあるかどうかによって、それぞれ異なります。必要な絶縁電圧(一部の市場では最大10kVの場合もあります)によって、さらに製品のバリエーションが増えます。
これらを考えると、非常に多様なパルストランスが必要になります。この多様性は、通常は1つの業者が提供することは不可能です。さらに、メーター製造会社はパルストランスのセカンドソースを必要とする場合もあります。
そのため、メーター用ICの71M654xファミリと互換性のあるパルストランスを、どのように設計しテストするかという問題が出てきます。このアプリケーションノートでは、その問題に対する答えを示します。
以下では、パルストランスの基本的仕様について紹介します。これらの仕様どおりにトランスを作成するだけでは、適切な機能は保証されないことに注意してください。そのあとに、メーター用ICの71M654xとリモートセンサーの71M6xxxを使用してテストを行う必要があります。設計者がトランスを評価して適切な機能を確認することができるテスト装置およびテスト手順について説明します。

パルストランスの基本的仕様

基本的仕様を以下に示します。
  • 巻数比:1次側/2次側が1.08:1~1.1:1、タップなし
  • DC抵抗:1.2Ω以下
  • 電流容量:20mA以上
  • 差動動作電圧:3.3V
  • 動作温度範囲:-40℃~+85℃ (屋内アプリケーションの場合はこれより狭くても可)
  • インダクタンス:10kHz時に60µH以上(1次側)
  • 動作周波数範囲:16MHz以上
  • 絶縁:7kV、またはそれ以上(アプリケーションによる)、1分間
  • RF放射を制限するために巻線間容量(CWW)を最小限に抑えてください。放射は通常はCWWを介してシャントセンサーに混入し、そこからさらにグリッド配線に混入します。CWWの現実的な値は5pF~10pFで、これは1次側と2次側の巻線を物理的に分離する(ワイヤのオーバーラップをなくす)ことによって達成可能です。
  • 飽和磁束密度:700mT以上(要件が厳しい場合はより高い値が必要)
  • パッケージ:以下の条件を満たすSMTプラスチックパッケージ、またはフラットヘッダ。
    • 4ピン、所定のコアサイズに対して可能な限り狭幅であること
    • 1次側と2次側の端子間隔:15mm以上(空間距離および沿面距離)
    • 配線およびコアは非導電性モールド材で封止されていること



リモートセンサーインタフェース

ドライバ回路

図1は、ホストの71M654x内のドライバ回路とトランスおよびリモートセンサーICの71M6xxxを示します。差動ドライバは、基本的にそれぞれ4つのポジションを備えた2つのスイッチで構成されます。ポジションAは、トランスをV3P3SYS (3.3V、typ)およびGNDに接続します。この設定によって電力パルスが生成され、それがリモートセンサーIC内の電源によって整流されてそのDC電源を生成します。その他のスイッチの設定では、ドライバはより緩やかなデータパルスを生成するか(C)、トランスからフライバック電圧を除去するか(B)、またはドライバがリモートセンサーICからデータパルスを受信することができるようにフローティングにすることが可能です(D)。
図1. ドライバ回路とトランスおよびリモートセンサーIC
図1. ドライバ回路とトランスおよびリモートセンサーIC

波形曲線の形状およびタイミング

図2は、波形曲線の形状およびタイミングを示します。データパルスに比べてドライバのインピーダンスが低いため、電力パルスの方が大きい振幅で示されています。パルス幅と振幅の両方がリモートセンサーICによってデコードされます。データパルスが認識されるためには、特定の幅を備えている必要があります。そのため、トランスはパルスのタイミングを忠実に再現する必要があり、パルスのスペクトル成分が維持される場合にのみそれが可能です(最大で10次高調波までを評価)。
図2は、理想化された信号形状を示しています。差動プローブで取得された現実の信号形状の例を図3に示します(緑の掃引線)。
図2. ホストの71M654xとリモートセンサーICの71M6xxx間の信号形状
図2. ホストの71M654xとリモートセンサーICの71M6xxx間の信号形状
図3. ホストの71M654xとリモートセンサーICの71M6xxx間の信号形状のオシロスコープ画像
図3. ホストの71M654xとリモートセンサーICの71M6xxx間の信号形状のオシロスコープ画像

トランスのテスト

テストツールおよびテスト方法

トランスの機能のテストと検証を行うには、各種のテストツールが必要です(表1を参照)。すべてのテストでデモボード(71M6541F-DB71M6543F-DB/71M6543F-DB-CT)を使用し、実装されている3つの標準トランス(Wurth Electronics Midcom社の750110056)の1つまたは2つをカスタムトランスのプロトタイプ(DUT)に交換します。1つの750110056をボード上に残すことによって、比較テストを便利に行うことができます。
デモボードは、71M654x ICのフラッシュメモリ内にデモコードが含まれています。デモコードはコマンドラインインタフェース(CLI)を提供し、HyperTerminal®またはその他の任意のシリアル通信プログラムを備えたPCにボードを接続することによってアクセス可能です。接続、操作、およびコマンドセットの詳細については、特定のデモボードに関するユーザーマニュアルを参照してください1。デモコードは、リモートセンサーICの71M6xxxとの通信を開始するコマンドとともに、ループ内で通信リンクを実行するいくつかのコマンドを提供します。
差動プローブを備えたオシロスコープは、信号の形状を視覚的に比較するための優れたツールです。簡素なDMMを使用してリモートセンサーICの71M6xxxのローカル電源電圧を確認することができます。
ハイポットテスターを使用してトランスの絶縁特性を調べてください。
最後に、永久磁石を使用してトランスの耐磁性をテストすることができます。
表1. テストツール
Test Tool Test Coverage
DMM Verify supply voltage at 71M6xxx remote sensors (pin 1 to pin 4)
Oscilloscope with differential probe Verify curve shape, eye test
71M654x demo board with 71M6xxx remote sensors Test function of interface
Hipot tester Isolation
Magnet and flux-meter Resistance to magnetic fields

71M6543F-DBデモボードによるテストのセットアップ

71M6543F-DBデモボードを使用してテストを行う方法を説明します。
71M6543F-DBデモボードは、3つのWurth Electronics Midcom 750100056トランス(各位相に対して1つ)を含んでいます。標準トランスで信号形状を監視する場合は、オシロスコープの差動プローブをIAP/IAN、IBP/IBN、またはICP/ICNの各端子に接続します。オシロスコープを信号に同期させるため、以下のCLIコマンドを使用して71M6543FのTMUX端子(TP21)上に同期パルスを生成することができます。
  • RI2502=20 (位相AのリモートセンサーICの71M6x0xの場合)
  • RI2502=21 (位相BのリモートセンサーICの71M6x0xの場合)
  • RI2502=22 (位相CのリモートセンサーICの71M6x0xの場合)
コマンド6R1.20 (位相A)、6R2.20 (位相B)、または6R3.20 (位相C)を発行することによって、通信リンクの簡単なテストを行うことができます。これらのコマンドは、71M6xxxリモートセンサーインタフェースの温度センサーからの読み値(STEMP)を、2バイトの16進形式(例:0xFFDF)で返します。負の読み値は、MSBが1であることによって示されます。リモートセンサーICによって通知される温度は、次のとおりです。
T = 22℃ + (STEMP × 0.33 - (STEMP2) × 0.00003)℃
たとえば、STEMP = 0xFFDFの場合、それと等価な10進数は-32です。温度は22℃ - 10.59℃ = 11.4℃と計算されます。
6Rn.20コマンドで温度が高信頼性かつ一定して(つまり、パリティエラーなしで)表示される場合、通信リンクが双方向とも機能しているという意味に解釈することができます。温度に数℃の変動があるのは正常です。

アイダイアグラム

リモートセンサーインタフェース上の信号のタイミングは、適切な機能にとって非常に重要です。リモートセンサーICからのデータパルスは、電力パルスの立上りから355ns後に71M654xによってサンプリングされます(図4を参照)。これが完了する直前に、データパルスは35nsの期間にわたって積分されます。積分期間中に、信号が明確に正または負に定義される場合、つまり、この期間中にゼロを通過しない場合は、71M654xによって容易に検出可能です。データパルスの出現が早すぎるか遅すぎる場合、またはそのタイミングが変化する場合(ジッタ)、検出は困難でデータエラーが発生します。
図4. データパルスの理想的タイミング
図4. データパルスの理想的タイミング
図4のような簡単なオシロスコープ画像では、詳細はわかりません。無限残像が可能なオシロスコープでアイダイアグラムを生成し、信号を長時間観察するのが最良の方法です。時間または温度変化とともにデータパルスのタイミングが変化する場合は、オシロスコープ上で閉じたアイとして現れます。
アイダイアグラムテストは時間と温度によるジッタを示し、トランスに対する適切なテスト基準を提供します。
推奨テスト手順は、以下のとおりです。
  1. DUT (トランスのプロトタイプ)をデモボード上のオリジナルの標準トランスの位置に挿入します。
  2. デモキットに付属する5VDC電源でデモボードを起動します。
  3. 前述のRI2502コマンドの1つを発行することによって、TP21 (TMUXOUT)上で同期パルスを確立します。
  4. 差動プローブを備えたオシロスコープを使用して、トランスの71M654x側の信号を監視します。オシロスコープを無限残像モードに設定し、20ns~25ns/divisionの時間分解能を選択します。
  5. オシロスコープのトリガ設定を同期パルスに設定します。
  6. 正と負のデータパルスによって形成され、同期パルスの下に現れるアイを観察します。時間および温度変化に対して、以下が当てはまる必要があります。
    • アイが絶対に閉じないこと。この条件は、ジッタが多すぎるか温度とともにタイミングが変化していることを示します。
    • アイの幅が40nsまたはそれ以上であること。
    • データパルスがサンプリングされるトリガポイントは、電力パルスの立上りから355ns後です。355nsのトリガポイント直前の35nsの間は、データパルスの極性が明確に定義される必要があります。
トランスからのフライバックが遅いとリモートセンサーICからの応答が時間的にずれ、データパルスの出現が遅くれ過ぎる原因になります。その場合は、71M654xのRFLY_DISビットをセットすると役に立つ可能性があります。このレジスタは、I/O RAM 0x210Cのビット3です。RFLY_DIS = 1の場合、フライバックフェーズではトランスはフローティングではなく、71M654xによってアクティブに駆動されるため、立下り時間が短くなります。
図5は、71M6543F-DBデモボード上の正と負のデータパルスのオシロスコープキャプチャを示します。赤い矢印で示した垂直の点線マーカーは、電力パルスの立上り後355nsに調整されています。2つの黄色い矢印で示したタイムスライスは35ns幅で、データパルスの積分期間を示します。このデータパルスのアイは47ns幅です。データパルスは電力パルスより大幅に振幅が小さく、また積分期間中は正または負のいずれかとして明確に定義されていることに注意してください。
図5. オシロスコープで取得したデータパルスのタイミング
図5. オシロスコープで取得したデータパルスのタイミング

ループ読取りテスト

71M6543F-DBデモボードの例に戻ります。
71M6543F-DBデモボード用の標準デモコードはループで実行される読取りコマンドをサポートし、実行時にデータおよびパリティエラーの統計が取られて表示されます。6Ta.bコマンドの例を以下に示します。
>6T1.14
resp:0xD65F ,6100 ,d:0 ,p:0 ,t:0
この例では、位相AのリモートセンサーICの内部ヒューズが6100回読み取られ、データ(d)またはパリティ(p)エラーなしと通知されました。ヒューズの値は0xD65Fでした。
>6T1.14
resp:0x0000 ,29300 ,d:59 ,p:59 ,t:0
resp:0x0000 ,29400 ,d:159 ,p:158 ,t:0
resp:0x0000 ,29500 ,d:259 ,p:258 ,t:0
resp:0x0000 ,29600 ,d:359 ,p:358 ,t:0
resp:0xFFFF ,29700 ,d:459 ,p:458 ,t:0
resp:0xFFFF ,29800 ,d:559 ,p:558 ,t:0
resp:0xD65F ,29900 ,d:595 ,p:594 ,t:0
resp:0xD65F ,69300 ,d:595 ,p:594 ,t:0
上の例では、最初の6行でヒューズが適切に読み取られず、0x0000および0xFFFFの値が返されています。
>6t
resp:0x00B5 ,16400 ,d:0 ,p:0 ,t:0
この例では、バンドギャップトリムヒューズが16,400回読み取られました。0個のデータ(d)および0個のパリティ(p)エラーが発生しました。この例で使用されたリモートセンサーICは71M6103でした。71M6601や71M6603など、その他のリモートセンサーICは0x0000を返すため、テストケースとして適切ではありません。テストは71M6103で実施してください。

テストシーケンス

推奨テストシーケンスは、以下のとおりです。
  1. DUT (トランスのプロトタイプ)をデモボード上のオリジナルの標準トランスの位置に挿入します。
  2. デモキットに付属する5VDC電源でデモボードを起動します。
  3. リモートセンサーICの71M6xxxのピン1とピン4間に現れる電源電圧を測定します。これは2.7VDC以上、できれば3.0VDC以上にしてください。
  4. 前述のRI2502コマンドの1つを発行することによって、TP21上で同期パルスを確立します。
  5. 差動プローブを備えたオシロスコープを使用して、トランスの71M654x側の信号を監視します。信号は図3に示したものに類似し、傾斜が急峻で、電力パルスはデータパルスに比べて振幅が大きくなります。
  6. CLIのM15コマンドを発行し、LCDに電流を表示させます。シャントセンサーに電流が印加されていない場合、全チャネルで表示は0に近くなります。
  7. DUTを装着したチャネルに1A~100Aの範囲のさまざまな電流を印加し、そのチャネルの表示を観察します。表示には注入した電流が高精度で反映されます(±0.5%以内)。
  8. 前述のストレージオシロスコープでアイダイアグラムを取得します。最初のデータパルスのアイダイアグラムが、全動作温度およびボード電源電圧にわたって許容可能であることを確認してください。
  9. 数分間にわたってループ読取りテストを実行します。
  10. メーターの温度範囲に応じたさまざまな温度、およびさまざまなボード電源電圧で、ループ読取りテストを繰り返します。

参考文献

  1. アプリケーションノート5469 「User Manual for 71M6543F-DB and 71M6543-DB-CT

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