アプリケーションノート 5339

デジタル衛星機器制御(DiSEqC)対応ファントムアンテナ電源システムの設計

筆者: Andrea Longobardi

要約: このアプリケーションノートは、車載デュアル、高電圧LDO/スイッチのMAX16948を使用した、デジタル衛星機器制御(DiSEqC)通信規格と互換性のあるファントムアンテナ電源システムの設計について解説します。提示されたアプリケーション回路は、リモートアンテナ電源を提供するとともに、ラジオヘッドユニットからリモートアンテナへの一方向の通信を可能にします。このシステムアーキテクチャは、DiSEqCトーンバースト周波数の柔軟な選択が可能で(100Hz~30kHz)、ユーザーはそれぞれのアプリケーションに最適な周波数を選択することができます。

同様の記事が「Power Systems Design」誌の2012年11月号に掲載されています。

MAX16948とDiSEqC規格

MAX16948は、車載デュアル高電圧、低ドロップアウトリニアレギュレータ(LDO)/スイッチで、出力電流検出を備えています。このデバイスは、同軸ケーブルを介して、車載システムのリモート無線周波数(RF)ローノイズアンプ(LNA)にファントム電源を供給し、最大電流はチャネル当り300mAです。このデバイスは、8.5Vの固定安定化出力電圧または1V~12Vの可変安定化出力電圧(LDOモード)を供給します。
デジタル衛星機器制御(DiSEqC)規格はEutelsatによって開発された通信プロトコルで、マスターとして定義される衛星レシーバ(デコーダ)と、アンテナスイッチャ、ローノイズブロック(LNB)、アンテナポジショナなどの、スレーブとして定義される衛星周辺機器の間で使用されます。DiSEqC通信システムは既存の同軸ケーブルのみを使用するため、DiSEqCはコストの削減と信頼性の向上に最適です。DiSEqCは非プロプライエタリのコマンドを使用するオープン規格です。
ファントムアンテナケーブル上で一方向のDiSEqC通信を可能にする場合は、22kHzのトーンバーストがラジオヘッドユニットから送信され、リモートアンテナによって受信される必要があります。このトーンバーストの電圧振幅は650mVで、これはDiSEqC規格によって示された値です。ファントムアンテナの同軸ケーブルは、LNAへの給電および受信した無線信号の送信にも使用されることに注意してください。そのため、DiSEqCレシーバはケーブル上の無線信号を除去できる必要があります。

アプリケーション回路

DiSEqCアプリケーション回路(図1)において、MAX16948はLDOモードで使用され、安定化出力電圧を動的に変化させることによってDiSEqCパルスを生成します。青い線で囲んだ部分はラジオヘッドユニットで、DiSEqCトーンバーストトランスミッタおよびチューナとしても使用されるリモートアンテナ電源(MAX16948)が含まれています。赤い線で囲んだ部分はリモートアンテナで、物理的なアンテナ、LNA、およびDiSEqCレシーバ(低電力コンパレータのMAX931)で形成されます。
図1. DiSEqCアプリケーション回路
図1. DiSEqCアプリケーション回路
同軸ケーブルは、ラジオヘッドユニットとリモートアンテナ間の通信(無線信号およびDiSEqCトーンバースト)を可能にするとともに、リモートLNAへの給電にも使用され、コストおよびケーブル重量を軽減します。
MAX16948はLDOモードに設定され、外部NMOSがオフ(DiSEqCトーンバーストオフ)のときに5Vの電圧出力となります。この出力電圧は、MAX16948のデータシートおよびアプリケーションノート5271 「Selecting External Components for an Automotive Dual Remote Antenna Current-Sense LDO/Switch」で説明されているように、抵抗R1とR2の大きさの設定によって得られます。これ以外のリモートアンテナ給電電圧(VOUT)が必要な場合は、次式を使用してR1およびR2を選択してください。
式1.
ここで、VFBは安定化状態でのフィードバック端子の電圧(公称1V)で、R2は1kΩ以下である必要があります。
外部NMOSがオンになると、抵抗R3がR2と並列に接続されます。これにより、レギュレータの出力電圧は5.65Vになります。この回路構成を使用すると、ユーザーはマイクロコントローラを介して外部NMOSをオン/オフすることにより、DiSEqCの22kHzのトーンバーストを容易に生成することができます。これ以外のリモートアンテナ給電電圧が必要な場合は、次式を使用して抵抗R3を選択してください。
式2.
RLIMとRSENSEは、出力電流制限を200mAに設定し、ADCのフルスケール範囲を4Vに設定します(MAX16948用の外付け部品の選択の詳細については、アプリケーションノート5271 「Selecting External Components for an Automotive Dual Remote Antenna Current-Sense LDO/Switch」を参照)。明確化のために、回路図にはMAX16948の1つのチャネルのみを示しています。第2のチャネルについても、同じ考察が有効です。
出力インダクタ(LOUT)は、無線信号を除去し、MAX16948のLDOレギュレータとの衝突を防止するために必要です。AM帯の下限周波数が148kHzであることを考慮すると、1mHの出力インダクタで十分です。
無線信号はバイパスコンデンサ(CRX)を備えたチューナによって同軸ケーブルから抽出されます。
LNAへの給電に使用されるリモートアンテナ電源は、インダクタLSUPとコンデンサCSUPで構成されるローパスフィルタを介して取得されます。第一近似として、電源フィルタはRLCローパスフィルタです(図2)。
図2. 電源フィルタ
図2. 電源フィルタ
-3dB通過帯域は、DiSEqC通信に使用される周波数より低い必要があります。
低電力コンパレータのMAX931はDiSEqCレシーバの役割を果たし、LNAと同じ電源電圧によって給電されます。負のコンパレータ入力(IN-)は、MAX931自体によって提供されるREF電圧に接続され、正のコンパレータ入力(IN+)はDiSEqCトーンバーストが存在しないときにOUTの電圧出力を0にするために抵抗分圧器(R4およびR5)を使用して分極されます。
DiSEqCトーンバーストを検出するために、同軸ケーブルと負のコンパレータ入力間に22nFのコンデンサ(CDiSEqC)が接続されています。トーンバーストが同軸ケーブル上で送信されると、IN+の電圧がIN-の電圧を上回り、コンパレータの出力にパルスが生成されます。IN+端子の過電圧を防止するために、IN+とコンパレータの電源入力(V+)間に保護ショットキーダイオードDDiSEqCが接続されています。
ケーブル上の無線信号の伝搬に起因する誤った出力パルスのトリガを防止するために、MAX931のコンパレータ入力間(IN+とIN-の間)に1nFのバイパスコンデンサ(CBP)が配置されています。
リモートアンテナから受信されLNAで増幅された無線信号は、コンデンサ(CTX)を使用してケーブル上に注入されます。

ベンチテスト

波形発生器を外部NMOSのゲートに接続して、8つの5V振幅22kHzトーンバーストを生成するベンチテストを実施しました。もう1つの波形生成器で振幅500mVの正弦波RF信号を取得し、CTXコンデンサを介して注入することにより、LNA出力無線信号をエミュレートしました。MAX931の出力をオシロスコープで監視することにより、送信されたトーンバーストが受信されるかどうかを確認し、注入した無線信号がDiSEqC通信に干渉しないことを確かめました。
図3aおよび図3bは、実施したテストのオシロスコープ波形を示します。図3aは、AM帯の下限周波数に相当する148kHzの無線信号(振幅500mV)を注入した場合の結果を示します。図3bは、AM帯の下限周波数(148kHz)の2次低調波である37kHzの無線信号(振幅500mV)を注入した場合の結果を示します。
図3a. 148kHzのRF信号(振幅500mV)
図3a. 148kHzのRF信号(振幅500mV)
図3b. 37kHzのRF信号(振幅500mV)
図3b. 37kHzのRF信号(振幅500mV)

結論

ここで提示したDiSEqCアプリケーション回路は、DiSEqC通信規格と互換性のあるアンテナファントム電源用の低コストで柔軟なソリューションです。追加のベンチテスト結果から、100Hz~30kHzの範囲のDiSEqCトーンバースト周波数を選択した場合にも、DiSEqC通信は依然として動作することが確認されました。これにより、DiSEqC通信に最適な周波数に調整する柔軟性が提供され、同軸ケーブル上の他のRF信号との干渉が最小限に抑えられます。さらに、トーンバーストのデューティサイクルを安定化し、MAX931コンパレータにヒステリシスを追加することによって、最高のDiSEqC通信性能を達成することも可能です。
このアプリケーション回路は、一方向のDiSEqC通信を可能にします。リモートアンテナからの受信アクノリッジ信号が必要な場合は、MAX16948の負荷電流を変調することによって生成することができます。そのための簡単な方法としては、DiSEqCメッセージが受信された時点でリモートアンテナ内のLNA電源と並列に追加の負荷を接続します。ラジオヘッドユニット内のマイクロコントローラは、MAX16948の電流検出出力(SENSE)の負荷電流の変動をサンプリングすることによってアクノリッジを受信することができます。切り替え式の追加の負荷は、リモートアンテナ内でLNA電源に接続されたプルアップ抵抗と直列にNMOSスイッチを接続することによって容易に追加可能です。