アプリケーションノート 5281

柔軟性の高いASK/FSK ISM-RFトランスミッタMAX7060の設定

筆者: Richard Young

要約: このアプリケーションノートは、ASK/FSKトランスミッタのMAX7060の柔軟性について説明しています。現在提供されている評価キット(EVキット)は特定の周波数帯(すなわち288MHz~390MHz)でデバイスを使用する場合向けに最適化されていますが、この文書ではヨーロッパで一般的に使用される周波数である433.92MHzでの動作を改善するためにEVキットの回路を変更する方法について説明します。マッチング/フィルタ構成の2つの代替案を示します。1つはドレイン効率を最適化するもので、もう1つはより高い送信出力を実現するものです。これまでのマキシムのISM-RF (産業、科学、および医療用無線周波数)トランスミッタの特長および機能を示し、MAX7060と先行製品との比較を可能にします。MAX7060のいくつかの設計ガイドラインと使用上の注意について解説します。

はじめに

ASK/FSKトランスミッタのMAX7060は、あらゆる面で柔軟性を備えたICです。第1に周波数の柔軟性が高く、フラクショナルN PLLを備えているためfXTAL/4096のステップで285MHz~420MHz (15MHzの水晶使用時)または304MHz~448MHz (16MHzの水晶使用時)の動作が可能です。これにより、特定の地域でのみ利用可能なものを含む、450MHz以下のすべての主要なISM (産業、科学、および医療システム)周波数での送信が可能となっています。また、フラクショナルNアーキテクチャによって非常に高精度のFSK変調が可能になり、最高70kbpsのマンチェスター符号化データ速度を実現します。
また、MAX7060は送信出力の面でも柔軟性があり、内蔵の電圧デジタル-アナログコンバータ(VDAC)で指数関数的にスケーリングした電圧をパワーアンプ(PA)に供給するように設計されています。ICが十分なVDDで動作している場合、VDACは約1dBステップで30dB近い調整範囲を可能にします。また、この出力ステッピング機能を使用してASK送信時のエンベロープ形成を行うことにより、米国および海外市場の両方で規制の要件への準拠が容易になります。
0~7.5pFを0.25pFステップで選択可能なプログラマブルコンデンサにより、柔軟なPAのマッチングが提供されます。システムテスト時に、所定の動作ポイント(送信周波数およびPAコード)で電流ドレインの最小化および/または効率の最大化を実現する「capコード」(すなわち、容量値のコード)を見つけることにより、その条件の組合せでのトランスミッタの性能を最適化することができます。また、動作環境の変化に適応させるために必要に応じてPA負荷を調整することも可能です。
周波数、出力、およびPAコンデンサをすべてSPIコマンドで制御可能であるため、あらかじめ最適化された複数の組合せの中からマイクロコントローラを使用してプログラムで選択することにより、ISM周波数間のホッピングが可能です。逆に、SPI制御が望ましくないシステムで動作させる場合は、ICに組み込まれたピンストラップ機能を使用して、ICの端子の内の6つを電源またはグランドに接続することにより、24の周波数/出力の組合せの内の1つが実装可能です。
この2つの選択肢(SPI制御と非SPI制御)に加えて、MAX7060は革新的なプログラム機能を備えており、非SPI制御(すなわち、ピンストラップ機能)によるマニュアルモードで利用可能なものと同じ組合せを、わずか1つのレジスタ(emulationレジスタ)のみへの書込みによってプログラムすることができます。この方式を使用することによって、マスターマイクロプロセッサに対するプログラミングの複雑性とコードスペースが大幅に低減する一方で、MAX7060の柔軟性とプログラム機能はそのまま維持されます。
MAX7060の電源構成も柔軟です。このICはボタン電池によって供給されるような2.1V~3.6Vの電圧、または4.5V~5.5Vの電源での動作が可能で、後者の場合は内蔵レギュレータが作動します。レギュレータは中核的なICの回路ブロックの大部分に約3.2Vを供給するのに対し、VDACは送信出力制御特性のリニアリティを最大限にするためにより高い電源電圧で動作します。
MAX7060はこれらの機能をすべて内蔵しているため、必要とされるわずかな外付け受動部品のみで、少ないPCB実装面積でフル機能のトランスミッタを実装することができます。しかし、この文書でこれから示すように、それらのわずかな受動部品を適切に選択することが、特定のアプリケーションの必要に応じてMAX7060の性能を調整する上で重要になります。

問題の現状

最初に、簡単な歴史を...

MAX7060の最初のアプリケーションは、完全に国内(すなわち、北米)市場での動作のみを必要とし、288MHz~390MHzの範囲の複数の周波数を対象としていました。そのため、MAX7060の評価(EV)キット(MAX7060EVKIT)の部品は、その対象帯域での動作に適するように選択される傾向がありました。MAX7060EVKITを15MHzの水晶およびEVキットのデータシートに記載されたマッチング/フィルタ部品を使用して動作させた場合、MAX7060は288MHz~390MHzの周波数帯にわたり最大+15dBmを50Ωの負荷に対して供給することができるとともに、-20dBcというFCC Part 15の高調波の要件に適合します。
一方、EVキットで16MHzの水晶を使用した場合、MAX7060は304MHz~448MHzで動作可能で、これには米国およびヨーロッパの両方で一般的に使用される周波数の433.92MHzが含まれます。しかし、MAX7060EVKITをそのまま使用して433.92MHz用に設定した場合は、すぐに効率の低さが明らかになり、高調波についてもやはりFCC Part 15には適合するものの、より低いPAコードを選択することによってTX出力を低下させない限り欧州電気通信標準化機構(ETSI)の要件には適合しません。基本的に、オリジナルのEVキットは433.92MHzの動作を希望する人にとって、MAX7060を紹介するには好ましいものではありませんでした(特にヨーロッパ市場で) 。
このアプリケーションノートは、MAX7060の真の能力をより完全に説明することによって、この認識を修正することを目的としてします。

オリジナルのEVキットの実装内容

図1は、MAX7060のEVキット上に存在するマッチング/フィルタ回路を表しています。高調波フィルタは、C56、L2、およびC55で構成されます。C4およびL1は、図中でCparPAと表記されているICパッケージおよびPCBトレースの寄生容量とともに、PAのマッチングを行います。その他の部品のC7、R3A、およびC10は電源バイパス用で、L1の上端にACグランドを作ります。これにより、この分析ではL1がCparPAと並列であると考えることができます。
図1. MAX7060EVKITのマッチング/フィルタ回路の簡略図
図1. MAX7060EVKITのマッチング/フィルタ回路の簡略図
50Ωシステムでの動作の場合、1つの設計方式として、フィルタ出力のインピーダンスが50Ωのままになるように高調波フィルタを対称形にする方法があります。その上で、C4を使用してインピーダンス変換を行い、L1のリアクタンスと容量効果のリアクタンスが互いに相殺するポイントでPAにより大きい実負荷がかかるようにします(この方式の例については、付録Aを参照)。
しかし、国内用帯域の低い周波数にわたりMAX7060の同調を可能とするために、EVキットのC4には100pFが選択されています。その結果、C4はカップリングコンデンサとしてのみ動作し、高調波フィルタのローインピーダンスの負荷を直接PAに伝達します。PA側では、この負荷がL1とCparPAで形成される並列LCの両端に現れます。並列RLC回路のQは次式で表すことができます。
式1. (式. 1)
また、L1は51nHであるため、339MHzでの誘導性リアクタンスは約109Ωになり、その結果Qは0.5以下となります。意図したとおり、この組合せは広帯域の同調とハイパワーの出力を実現します。

しかし足りないものが...

図2を調べることにより、なぜオリジナルのEVキットのマッチング方式にとって433.92MHzでの動作が問題なのか明らかになります。ヨーロッパ市場では国内用帯域の中心より100MHz近く高い周波数が使用されるという事実により、1つのマッチングで両方の市場を最適にカバーするのは困難です。さらに悪いことに、288MHzの2次高調波を減衰するように高調波フィルタを設定する必要がありますが、それは同時に433.92MHzの基本波を部分的に減衰する結果となります。
図2. 米国内とヨーロッパの低周波数帯域の相対的な位置関係
図2. 米国内とヨーロッパの低周波数帯域の相対的な位置関係
すべてを考慮した場合、MAX7060のデータシートに433.92MHzでの性能よりはるかに優れた315MHzでの性能が記載されているのは当然です。しかし、マキシムの他のISM-RFのEVキットの多くが315MHz (最も一般的な国内の周波数)または433.92MHzでの動作用に最適化されているように、MAX7060EVKITのマッチング/フィルタ部品を変更して同様の目標を達成することは確かに可能です。

433.92MHzでの性能向上の例

代替マッチング/フィルタ方式1:+10dBmでのドレイン効率の向上

マキシムのISM-RF製品ファミリのデータシートにしばしば記載される動作ポイントは、電源電圧2.7Vで送信出力が+10dBmです。このデータポイントは、ボタン電池駆動のソリューションを実装するお客様は、バッテリ寿命を保護するために非常に高効率の送信動作を維持する必要があるという想定に基づいています。そのような動作は本来MAX7060が重視していたものではありませんが、MAX1472MAX1479MAX7044、およびMAX7057などのはるかに単純なトランスミッタと比較した場合のこのICの性能について見込みユーザーから質問されることは珍しくありません。MAX7060のデータシートに記載された433.92MHz動作時の数値で向かい合った場合、「大幅に劣る」ということになります。しかし、そこで話が終わりというわけではありません。
図3は、2.7V電源を使用する場合により効率的な+10dBmのTX出力を実現するために使用される部品の値を示します。MAX7060はMAX7057と非常に似ているため、MAX7060EVKITのこの代替構成はMAX7057の標準アプリケーション回路のマッチング/フィルタ回路を出発点として使用しています。実際、これは非常に優れた出発点であることが明らかになり、さらに調整が必要なのはC4の値のみです。変更後のマッチングではC4は15pFで、これによりPAの負荷が100Ω以上の実効抵抗となるようにインピーダンスが増大します。その結果、PAでの所定の電圧振幅に対し、より低い出力が生成されます。
図3. +10dBmでの効率を改善したMAX7060のマッチング/フィルタの図
図3. +10dBmでの効率を改善したMAX7060のマッチング/フィルタの図
PAにかかる抵抗値を増大させた場合(しばしばRopt、すなわち所定のTX出力を実現するための最適な抵抗値と呼ばれるもの)の効果を図4に示します。PAコード0~28 (0hex~1Chex)については、新しいマッチングより元のマッチングの方が常に高い出力を生成しています。しかし、目的の出力である+10dBmに達した時点で、新しいマッチングが必要とする動作電流は大幅に小さく(図5)、それに応じて全体的効率が改善されます(図6)。
図4. +10dBmでのオリジナルのマッチングと新しいマッチング/フィルタのTX出力の比較
図4. +10dBmでのオリジナルのマッチングと新しいマッチング/フィルタのTX出力の比較
図5. +10dBmでの新しいマッチング/フィルタによる動作電流の低減
図5. +10dBmでの新しいマッチング/フィルタによる動作電流の低減
図6. +10dBmでの新しいマッチング/フィルタによる全体的効率の向上
図6. +10dBmでの新しいマッチング/フィルタによる全体的効率の向上
トランスミッタICの効率について検討する場合、(図6に示すような) ICの全体的効率と、PA出力デバイス自体のみの効率の間に違いがあることを指摘する必要があります。全体的効率(式2)は、ICの全動作電流を使用して計算されるため、水晶発振器、PLL、PAプリドライバ、インタフェース回路、および 最終段のFETによる寄与が含まれます。
式2. (式. 2)
しかし、最終段のFETを流れる電流を(回路図のR3Aに配置した電流計でのテストにより)分離すること可能で、かつPAVOUT端子でVDACを同時に監視することができる場合は、式3を使用して、最適化されたマッチングによって50%近いドレイン効率が生じることを示すことができます。
式3. (式. 3)
他のすべての回路ブロックによる寄与は、全体的効率の計算の中で固定であり、それらの電流をユーザーが変更または制御することはできません。効率の改善は、代替マッチング/フィルタ方式1で行ったように、PAマッチング/フィルタでのみ可能です。

代替マッチング/フィルタ方式2:+14dBmでのETSI準拠の高調波

前項で示したシナリオではバッテリ電力の温存が最重要だったのに対して、他のアプリケーションでは高い送信出力が必要とされ+4.5V~+5.5Vの電源電圧が利用可能な場合があります。これらの場合は、5V電源をVDD5端子に供給し、MAX7060の内蔵電圧レギュレータから他の回路ブロックに約3.2Vを供給させるのが望ましい方法です。これらの条件下では、VDACは5V電源によってバイアスされるため、コード範囲の末尾付近まで優れた出力制御のリニアリティ(約1dB/code)を維持することができます(MAX7060のデータシートの「標準動作特性」の項を参照)。
オリジナルのEVキットのマッチングでは、ETSIに準拠した433.92MHzでのフルパワー動作は不可能なため、堅牢なTX出力(最大+14dBm)を備え、しかしETSI規格に適合する高調波レベルを備えた、個別のマッチングを試す価値があると思われました。注意すべき点として、ヨーロッパにおける433.92MHzでの最大許容送信はわずか+10dBmですが、測定値はアンテナを接続した状態で計測され、ほとんどの小型アンテナは(当然PCBトレースアンテナも含めて)送信用として非効率的です。MAX7060は+14dBmが可能なPAを備えているため、このような損失の多いアンテナを部分的に補償することができます。逆に、はるかに高効率のアンテナを利用可能な場合は、混合(トランスミッタ+アンテナ)出力が+10dBmを下回るまで単にPA出力を1dBステップで低減させることができます。
図7は、ETSIに準拠した+14dBmのマッチングを実現するために使用した部品の値を示します。入力π型フィルタが変更され、元のフィルタと変更したフィルタのスプレッドシート分析により、このフィルタはもう元のフィルタのような433.92MHzの減衰を伴わないことが分かります。国内用帯域(すなわち、288MHz~390MHz)での動作時には、元のフィルタは(C55/C4接合部で) 35Ω~65Ωの範囲の出力インピーダンスを示すのに対し、433.92MHzでのインピーダンスは相当高い領域に含まれ、出力の低下につながっていました。新しい組合せは433.92MHzでのフィルタの出力インピーダンスが約40Ωになり、高出力能力が以前より高い周波数に効果的に移動します。また、図8および図9に示すように、新しい動作ポイントはデータシートの標準動作特性の記載より大幅に小さい電流で電力を供給します。
図7. ETSIに準拠した+14dBm用のMAX7060のマッチング/フィルタの図
図7. ETSIに準拠した+14dBm用のMAX7060のマッチング/フィルタの図
図8. ETSIに準拠した+14dBm用のマッチング/フィルタでの出力の向上
図8. ETSIに準拠した+14dBm用のマッチング/フィルタでの出力の向上
図9. ETSIに準拠した+14dBm用のマッチング/フィルタでの動作電流の低減
図9. ETSIに準拠した+14dBm用のマッチング/フィルタでの動作電流の低減
新しいフィルタで達成された高調波減衰の改善はわずかですが、L1が3分の1以下に低減されたPAで、より大幅な改善を達成しています。これは、PA回路に反映されるRが同じである限り、Qが3倍になることを意味します(式1を参照)。その結果、バッテリの高調波が除去されます。
上記で説明したマッチング/フィルタの代替組合せは、どちらも433.92MHzの動作を強化するための試みであり、明らかにMAX7060はオリジナルのEVキットのマッチングで可能なものよりはるかに高い性能を実現することができます。しかし、ここで提示したソリューションはどちらも実現可能な最高のものとは限らず、次に新しい要件が発生した場合にどのような手順を取れば良いかについての洞察を提供するものであることに注意してください。興味深いことに、433.92MHzでETSIの要件に適合する+14dBmのマッチング/フィルタは、PA出力の可変コンデンサを使用してより低い周波数での動作用に調整する限り、315MHzでも非常に優れた性能を発揮します。現在までに実施した実験では、cap[4:0]ビットに16hex (PAOUT端子への5.5pFのシャントCの追加に相当)を設定することで、315MHzで最大+15dBmのTX出力が可能になるとともに、FCCの高調波に適合し、元のマッチングからの効率の低下はごくわずかでした。

マキシムのISM-RFトランスミッタの機能の比較:MAX1472とMAX7060の比較はなぜ公平ではないか

マキシムのISM-RF製品ラインの最初のトランスミッタは、MAX1472でした。単純さと効率の面で、このデバイスは非常に優れており、2.7V電源から+10.3dBmを生成するとともに、動作電流は9.6mAのみであり、そのうちPA以外の電流はわずか1.7mAでした。しかし、その後お客様が必要とするようになった機能も備えていませんでした。
  • フルパワー動作の位相ノイズはETSI規格に適合していませんでした(その欠点に対応するためにMAX1479が開発されました)。
  • ASK変調のみに対応していました(MAX1479でFSK変調が追加されました)。
  • より高い出力レベルのサポートは不可能でした(+13dBmを実現するためにMAX7044が開発されました)。
  • 固定レシオのPLLのため、水晶の交換によってのみ周波数の変更が可能でした(MAX7057でフラクショナルN PLLが導入されました)。
  • 低出力水晶LOのため、負荷容量の小さい(4.5pF)水晶を使用する必要がありました(MAX7057では、より強力なLOによりこの点が改善されました)。
  • 送信出力を変更する唯一の方法は電源電圧を変えることでした。
その後、これらの制約に対応するとともに、それ以前のマキシムのISM-IFトランスミッタでは利用不可能だった機能を導入するために、MAX7060が開発されました。しかし、それらの改良には、動作電流の増加およびそれによる全体的効率の低下という形の犠牲が伴いました。
表1に、上記の各ICで利用可能な機能を、それぞれのデータシートに記載されている動作データとともに示します。MAX7060の場合、比較に使用したデータはMAX7060のデータシートからの引用ではなく、このアプリケーションノートですでに説明した、より高効率のマッチング/フィルタによるものです。
表1. マキシムのISM-RFトランスミッタICの機能の比較
Feature MAX1472 MAX1479 MAX7044 MAX7057 Rematched MAX7060
ASK Modulation X X X X X
FSK Modulation   X   X X
ETSI-Compliant Phase Noise   X   X X
Frequency Agility (Frac-N)       X X
10pF C Load on Crystals       X X
TX Power of +13dBm or More     X   X
Load Tuning       X X
Operate from +3V or +5V Supply         X
Adjustable TX Power         X
TX Performance at 433.92MHz
Nominal TX Power at 2.7V (dBm) +10.3 +9.2 +12.5 +9.2 +10.4
Op Current, ASK, 100% Duty Cycle (mA) 9.6 11.4 14.0 12.4 14.8
Op Current, ASK, 0% Duty Cycle (mA) 1.7 3.3 1.9 4.5 4.9
表1のデータに基づいてMAX1472とMAX7060のドレイン効率を比較する前に、他のいくつかの要素について考慮する必要があります。
  • MAX1472のプリドライバ電流は約0.5mAで、PAがディセーブルされている場合はオフになります。そのため、MAX1472のPAのFETが実際に消費する電流は7.4mA (すなわち、9.6mA - 1.7mA - 0.5mA)です。
  • MAX7060のプリドライバ電流は約1.5mAで、PAがディセーブルされている場合はオフになります。そのため、MAX7060のPAのFETが実際に消費する電流は8.4mA (すなわち、14.8mA - 4.9mA - 1.5mA)です。
  • MAX1472のPAのインダクタは2.7V電源に直接接続されるのに対し、MAX7060の回路のL1はPAVOUTに接続され、ICを2.7V電源で動作させた場合その測定値は2.45Vでした(平坦で、図4の電力特性に類似)。
ここで式3をこの2組の数値(すなわち、TX出力と電流)に適用した場合、MAX1472は53.6%のドレイン効率を達成するのに対し、MAX7060は53.3%を達成します。2つのデバイスの最大の違いは、全体的効率の計算です。式2を使用した場合、MAX1472の全体的効率が41.3%であるのに対して、機能豊富なMAX7060で達成可能な全体的効率はわずか27.4%です。「代替マッチング/フィルタ方式1」をさらに最適化することにより、MAX7060のドレイン効率を多少改善することが可能ですが、MAX7060の設計に組み込まれた機能と柔軟性の増大に伴う「効率の犠牲」を克服することはできません。
さらに、高出力および最大の出力制御範囲が必要なためにMAX7060を+5V電源で動作するように設定する必要がある場合、効率のペナルティに内蔵電圧レギュレータが含まれることになります。式2の分母に(上記の例の2.7Vと異なり) VDDとして5Vが存在するため、全体的効率はさらに低下します。この意味で、ここで示す2つの新しいマッチング方式による効率の数値を比較するのは公平ではありません。それぞれの代替方式は、ドレイン効率(すなわち、バッテリ寿命)の最適化または高い送信出力の実現という特定の目的を意図しているためです。2つを両立させることはできません。

MAX7060の適用:最も良い技法

前項では、ある種のトレードオフと比較について検討しました。MAX7060を使用して設計を行う際には、他にもいくつか覚えておくと役立つ一般的ガイドラインおよび注意事項があります。

必ずPAの容量を使用すること

可変PA容量に関して考えられる誤りがいくつかあります。第1の誤りは、PAの容量をまったく利用しないというものです。単一周波数動作の場合はコードを変更することなく最高の性能を達成可能ですが、複数の周波数での動作が必要になった時点で、cap[4:0]ビットを利用しない場合は効率が最高とは言えなくなってしまいます。また、PA負荷の同調不良により高調波が十分に減衰されない可能性があるため、規制に関する問題が発生するリスクも増大します。
2つ以上の周波数でMAX7060が動作するアプリケーションの場合、最も低い周波数で一定量のPA容量が適用され、高い周波数ほど段階的に除去していくことを想定するのが最良の方法です。これまでに試したマッチング/フィルタの組合せから、433.92MHzではPA容量をほとんどあるいはまったく追加しない状態で最良の動作が達成されると思われます。逆に、それよりはるかに低い周波数(すなわち、315MHz)に移動した場合は、PA容量のかなりの部分(すなわち、代替マッチング/フィルタ方式2の場合で、7.5pFのうちの5.5pF)の適用が必要になります。注:capコードがゼロのまま315MHzで性能が最適化されるようにマッチング/フィルタ部品を選んだ場合、それより高い送信周波数で同じマッチング/フィルタの組合せが最適に動作することは不可能になります。これが第2の誤りです。
MAX7060のベンチ特性評価の際に、PA容量を使用して送信出力を微調整し、288MHz~390MHz (すなわち、オリジナルのマッチングの国内用帯域)の範囲の5つの周波数にわたって同じPAコードでほぼ一定の出力レベルを維持するという一連の実験が実施されました。各周波数において事前に決めた量のPA容量を適用することにより、出力の平坦性を1dBの数分の1の範囲に維持することができました。同様に、ドレイン効率を基準として一連のcapコードを選択することにより、複数の周波数にわたって各ポイントで最適なドレイン効率の動作とすることが望ましい場合も考えられます。
しかし、いずれの場合も、最適な組合せを決定するためには、capコードがその全範囲にわたって変化する間に、TX出力、高調波レベル、VDAC出力、およびPA電流を測定する必要があります。そのような一連の測定による結果を、図10および図11に示します。これらの結果は、EVキットで代替マッチング/フィルタ方式1を使用し、しかし315MHzで動作させて取得したものです(どちらの代替マッチングも315MHzではなく433.92MHzでの最適化を目的としていたことを思い出してください)。
図10. 315MHzでのTX出力およびドレイン効率とcapコードの関係(代替マッチング/フィルタ方式1を使用)
図10. 315MHzでのTX出力およびドレイン効率とcapコードの関係(代替マッチング/フィルタ方式1を使用)
図11. 315MHzでのPA電流および2次高調波とcapコードの関係(代替マッチング/フィルタ方式1を使用)
図11. 315MHzでのPA電流および2次高調波とcapコードの関係(代替マッチング/フィルタ方式1を使用)
これらの結果から、以下のような固有のトレードオフが明らかになります。
  • 小さいcapコードでの動作によってさらに0.5dB~1dBの出力が利用可能になりそうですが、それと同じ動作ポイントでの消費電流が大幅に増大し、FCCの高調波にも適合しなくなります。
  • 最高の高調波性能と最小の電流の間には十分な相関関係がありそうですが、そのどちらの最適ポイントでもドレイン効率は最大になりません。
どこかで妥協する必要があるため、この特定のマッチングを使用する315MHzでの動作には、一般的に15dec~23decの範囲のcapコードを使用することが推奨されます。この範囲内では、高調波は十分に仕様に適合し、効率はピーク値からそれほど遠くなく、電流は最小値に近くなります。逆に、この例から明らかなように、最大のTX出力を最も重要な基準として選択し、電流、ドレイン効率、および高調波性能がどうなるかを無視するのは第3の誤りであり、重大な結果を招きます。
MAX7060の負荷調整機能はかなり独自の機能であるため、所定のアプリケーション環境でどのように利用するのが最善かを実験によって確定することが強く推奨されます。

両方の効果を(同時に)望まないこと

この文書で示した代替マッチングで強調されている違いは、さらなる検討に値します。高いTX出力および出力制御のリニアリティを目標とするか、またはより低い(ボタン電池の)電源電圧での効率的な動作を目標とするかを選ぶことができますが、両方の目標を同時に達成することはできません。それにはいくつかの基本的な理由があります。
高出力を可能とするために、MAX7060の最終段FETはそれまでの(MAX7044以外の)どのISM-RFトランスミッタよりも大型です。それでも、スイッチオン時にFETは約13Ωの抵抗値(すなわち、Rsw)を示します。この一定の抵抗により、避けることのできない電力損失が発生します。この文書ですでに述べたように、高出力で送信するためには、PAに対するRoptを小さい値(50Ω以下)にする必要があります。この場合、Rswの値がRoptのかなりの部分を占めるため、ドレイン効率に影響します(スイッチモードPAの背景となる理論の一般的な解説については、アプリケーションノート3589 「高効率、低コストのISM帯域トランスミッタのためのパワーアンプ理論」を参照)。
効率に対するもう1つの影響は、そのままの電源(すなわち、何であれVDD5端子に接続されているもの)とPAのインダクタの間に位置する、VDACの存在が原因で生じます。VDACには一定の出力抵抗値があり、この抵抗値に伴うI²R損失は、PAを介してより多くの電流を消費する高出力のマッチングほど大きくなります。
これと対照的に、より低電圧のアプリケーションでMAX7060が高効率向けにマッチングされる場合、RoptはRswよりはるかに大きいためスイッチ損失の影響が減少します。同時に、PAを介して消費される電流が小さいためVDACの損失も低減されます。しかし、VDDの値が3.6V以下の場合は、出力制御特性が平坦になります(電源が2.7VでVDAC出力が2.6V以下の場合を示した図4を参照)。一般に、VDDを3.6Vから2.1Vに300mVステップで低減した場合、1ステップごとに1つのPAコードが制御範囲から失われますが、残りの特性(平坦な領域から下)は非常に優れたリニアリティを維持します。
データシートの標準動作特性は3.6Vおよび2.1VのVDD限界値での制御範囲を示していますが、MAX7060が公称3Vのボタン電池 (たとえば、モデルCR2032)から給電される現実のアプリケーションでは、バッテリ電圧はその寿命の大部分にわたり約2.7Vになります。そのような条件下での動作を対象とする場合、トランスミッタの効率的な動作を優先し、それによってバッテリ寿命を延長するために、制御範囲の上位のコードを犠牲にする必要があります。

周波数に依存する効果に注意すること

MAX7060は2つ以上の周波数間のホッピングが求められるアプリケーションに最適であるため、周波数に敏感ないくつかの要素について常に考慮する必要があります。第1に、マッチング/フィルタ回路のインピーダンス/アドミタンス値は周波数に依存するため、同じ受動部品の組合せによってPAに与えられるRoptは、常に周波数が高いほど大きくなります。周波数が互いに接近している場合(たとえば、315MHzと345MHz)、Roptの変化量はわずかですが、周波数の間隔がもっと大きい場合(たとえば、315MHzと433.92MHz)、Roptの変化量は、代替マッチング/フィルタ方式1の場合で23%、代替マッチング/フィルタ方式2の場合で49%になります。そのため、433.92MHzで達成可能な出力レベルは常に315MHzの場合より低くなりますが、どちらの代替マッチングもオリジナルのEVキットのマッチングより両者の差を小さくすることが可能です。
現実には、ISM-RFアプリケーションで一般に使用される小型アンテナは低周波数では送信アンテナとしての効率が悪く高周波数では効率が良い傾向があるという事実によって、出力レベルの差は部分的に相殺されることになります(詳細については、アプリケーションノート3401 「マキシムの300MHz~450MHzトランスミッタを小型ループアンテナにマッチング」および4302 「300MHz~450MHzトランスミッタ用小型アンテナ」を参照)。しかし、出力の低下に加えて、高周波数ほどPLL電流が増大するため、全体的効率に対する第2の影響が存在します。これに関しても、代替マッチングによって433.92MHzでの性能が改善されましたが、315MHzで達成可能な性能よりも常に若干低いものになります。

PCBおよび部品の依存関係に注意すること

ほとんどの場合、MAX7060のデータシートの標準動作特性に記載されたデータおよびここで示した代替マッチングによるその他のデータは、どちらもMAX7060のEVキットのドキュメントに示されたPCBを使用したものです。新しいアプリケーションの設計にMAX7060を使用する際には、チュートリアル4636 「Avoid PC-Layout "Gotchas" in ISM-RF Products」 (英文)で解説されているガイドラインに沿って注意深くPCBの開発およびレイアウトを行ってください。アプリケーションのPCBの寄生インダクタンスおよび寄生容量がEVキットと同じになることは考えにくいため、最適化を達成するにはマッチング/フィルタ部品のある程度の試行錯誤が必要になります。
MAX7060で最高の性能を達成するために、高品質の受動部品を使用することが推奨されます。許容誤差、Q、および寄生パラメータに関するベンダー間のばらつきが原因で、同じ公称値を選択する場合でさえ最適とは言えない結果につながる可能性があるため、すべての部品(特にチップインダクタ)について特定のメーカーを選ぶのが最良の方法です。

測定方法に注意すること

R3Aの代わりにDMMを使用することによってPA電流を測定する際には、必ずレンジ設定を注意深く選択してください。メーターによっては、mAスケールの場合に15Ωもの直列抵抗を示すものがあり、代替マッチング/フィルタ方式2などの高出力構成では、利用可能なPA電圧が200mV以上も低下してしまいます。Aスケールを使用することにより、直列抵抗をはるかに小さくすることが可能です(ユーザーは各自のDMMのマニュアルを確認してください)。
ベンチトップ電源から少し離れた位置にPCBを配置する必要があるテスト装置を使用する場合は、電圧降下が確実に小さくなるように十分なゲージのフィードケーブルを使用してください。あるいは、表示されている電圧をPCB上の負荷ポイントで維持することが可能な、リモートセンス機能を備えたベンチトップ電源を使用してください。
送信出力の測定では、10dB、50Ωのアッテネータを同軸の接続に配置することでラインのインピーダンスが安定し、測定結果を歪曲する可能性のある反射エネルギーが最小限に抑えられます(較正によりデータから除去することができるように、必ずケーブル+アッテネータの損失の特性評価を行ってください)。

付録A. スミスチャートを使用したMAX7060のマッチング/フィルタ回路の例

この項では、MAX7060用のマッチング/フィルタ回路を構成する方法の例を示します。この例では、π型フィルタによって50Ωのインピーダンスが維持され、次に433.92MHzで動作するPAの位置で最大100Ωの実インピーダンスに変換されます。回路のさまざまなノードに現れるインピーダンスを、スミスチャート上で示します(スミスチャートの作成および使用方法のチュートリアルについては、チュートリアル742 「インピーダンスマッチングとスミスチャート:基礎」を参照)。
図A1. 433.92MHzでの50Ωのπ型フィルタのインピーダンス/アドミタンス円
図A1. 433.92MHzでの50Ωのπ型フィルタのインピーダンス/アドミタンス円
図A1は、チャートの中心(1 + j0Ωに正規化された値がEVキットのSMAコネクタでの50Ω終端を示す位置)からスタートして、12pFのシャントコンデンサ(C56)、16nHの直列インダクタ(L2)、およびもう1つの12pFのシャントコンデンサ(C55)の追加を段階的に示しています。この構成により、最後のインピーダンスは47 + j1.5Ωとなり、出発点の50Ωに非常に近くなります。注:ここで示す部品の値は、容易に入手可能なものです。仮に12.5pFのコンデンサが入手可能だとすれば、最後のインピーダンスを正確に50Ωにすることができますが、部品の許容誤差に起因するわずかな量の変動によって理想値からの偏差が発生します。PCBの寄生容量および寄生インダクタンスも不完全なマッチングの原因となるため、賢明な設計手順として、アプリケーションのPCB上ですべての理論上のマッチングを確認する必要があります。
図A2. 433.92MHzでの50Ωから100Ωへの変換のインピーダンス/アドミタンス円
図A2. 433.92MHzでの50Ωから100Ωへの変換のインピーダンス/アドミタンス円
π型フィルタの47 + j1.5Ωの出力インピーダンスからの続きで、図A2は直列コンデンサ(C4)およびシャントインダクタ(L1)の追加によって発生するインピーダンス変換を示しています。この場合、7pFによって、100Ωのシャント抵抗の定コンダクタンス円に達するまで反時計回りにインピーダンスを回転させるために必要な容量性リアクタンスが提供されます。ここで、CparPAによるサセプタンスとπ型フィルタからの反射量の和に釣り合うようにL1を選択することにより、PAの実負荷は100Ωになります。図で言えば、図A2の黄色い円の中に終着点が来れば良いわけです。π型フィルタの場合と同様、最適な結果に達するためには若干の値の調整が必要になる可能性があります。
ここで示した例では、πフィルタの入力および出力インピーダンスが等しくなるような部品の値を意図的に使用していますが、明らかに以下を含む複数の選択肢が可能です。
  • 直列インダクタをこれより小さくした場合、第2のシャントコンデンサによって終着点はインピーダンスの実数部が50Ω以下のチャート領域に来ます。
  • 直列インダクタをこれより大きくした場合、第2のシャントコンデンサによって終着点はインピーダンスの実数部が50Ω以上のチャート領域に来ます。
  • そもそも入力に接続されるデバイスのインピーダンスが(多くのアンテナがそうであるように) 50Ωではない場合、マッチングの出発点がチャートの中心ではなくなります。しかし、C56、L2、およびC55を適切に選択することにより、フィルタ出力でのインピーダンスが50Ωに戻るような回路とし、C4およびL1によってPAの負荷を再び100Ωに変換することが可能です。
ISM-RFアプリケーションで一般的に使用されるタイプのアンテナとのマッチングの詳細については、アプリケーションノート3401 「マキシムの300MHz~450MHzトランスミッタを小型ループアンテナにマッチング」および4302 「300MHz~450MHzトランスミッタ用小型アンテナ」を参照してください。

参考文献

詳細については、以下に示す他のマキシムのアプリケーションノートおよびチュートリアルを参照してください。
アプリケーションノート1954 「Designing Output-Matching Networks for the MAX1472 ASK Transmitter」 (英文)
アプリケーションノート3815 「UHF ISMトランスミッタの放射電力と電界強度
アプリケーションノート4302 「300MHz~450MHzトランスミッタ用小型アンテナ
チュートリアル4636 「Avoid PC-Layout "Gotchas" in ISM-RF Products」 (英文)