アプリケーションノート 5095

DC誤差バジェット計算器で最適な電流検出アンプの選択を簡素化

筆者: Akshay Bhat

要約: このアプリケーションノートでは、電流検出アンプ(CSA)の総DC誤差バジェットを計算するための体系的な手法について説明します。誤差の原因を個別に取り上げ、総誤差バジェットを見積もる方法を示します。最後に、選択したCSAの総誤差をすばやく計算するために開発された計算器ソフトウェアの使用方法をステップバイステップで説明します。

同様の記事がドイツにおいて「Elektronikpraxis」誌の2013年2月6日号に掲載されています。

はじめに

集積化した電流検出アンプ(CSA)は、電子回路の電流を測定する際によく使用されます。CSAは、電流経路に挿入された検出抵抗両端の小さな電圧降下を増幅して、極めて重要なシステムレベルの機能を実行します。例として、過電流保護や監視デバイス、プログラム可能な電流ソース、リニアおよびスイッチモード電源、バッテリチャージャ、燃料計などが挙げられます。要求される電流検出の仕様や実装方式はこれらのアプリケーション自体と同じく多様ですが、CSAの誤差バジェットの解析はすべての設計の基本要素です。CSAの誤差仕様とその相互作用について完全に理解することは、アプリケーションに適したデバイスを選択する際に極めて有益です。もちろん、そうした理解があれば、土壇場で設計を繰り返すような事態を極力回避することもできます。
このアプリケーションノートでは、CSAの誤差の原因を説明し、総誤差バジェットを見積もるための方法論について概説します。マキシム・インテグレーテッドが開発した計算器ソフトウェアの使用方法をステップバイステップで説明します。シンプルなウェブベースのGUIを備えたこのソフトウェアは、選択した任意のマキシム製CSAについて総DC誤差バジェットを算定します。アプリケーション例を通じて、読者はこの計算器の基本操作について学ぶことができます。設計上のヒントやメッセージフラグは、CSAの仕様に合わない回路条件についてユーザーに注意を促すものです。

電流検出アンプにおける誤差の原因

CSAには、よく見られるDC誤差の原因がいくつかあります。それぞれについて簡単に検討します。

入力オフセット電圧

オペアンプの場合と同様に、CSAの入力オフセット電圧(VOS)は、出力電圧をゼロに駆動するためにCSAの入力間に印加する必要がある電圧として定義されます。単一電源環境ではCSAの出力が出力電圧低(VOL)のリミットを下回ることはないため、通常、オフセット誤差は直接測定されません。したがって、図1に示すように、入力VOSはVSENSE軸上における実測VOUTの線形回帰とVSENSE伝達曲線の交点として推定した方が正確です。
図1. 出力電圧を検出電圧に対してプロットしたグラフからオフセット電圧を求める
図1. 出力電圧を検出電圧に対してプロットしたグラフからオフセット電圧を求める
VOUT1がVSENSE = VSENSE1における実測出力電圧であり、VOUT2がVSENSE = VSENSE2における実測出力電圧である場合、VOSは次の式で計算することができます。
式1. (式. 1)
入力オフセット電圧から生じるCSAの出力換算オフセット誤差は、次の式で与えられます。
ERRORVOS = G × VOS (式. 2)
ここで、G = 予想されるアンプの利得です。
オフセット電圧誤差成分を極力抑える方法の1つは、抵抗値が大きい検出抵抗を選択することです。抵抗値が大きいと検出電圧が高くなるため、誤差バジェットのオフセット電圧誤差成分が縮小します。ただし、注意事項があります。外付けのRSENSE抵抗を選択する際は、抵抗器両端の許容可能な電圧降下または電力損失とCSAのオフセット誤差との微妙なバランスを取らなければなりません。大きな検出抵抗を使用することができない大電流の高精度アプリケーションでは、高精度なCSAを選択する方が妥当と考えられます。

利得誤差

利得誤差は、CSAの理想的な差動利得に対する実測差動利得の偏差(%)として定義されます。理想的な利得は内部的に固定されているか、または外付け抵抗の比によって設定されます。利得誤差は次の式で規定されます。
式3. (式. 3)
ここで実測利得は、図1から次のように得られます。
式4. (式. 4)
したがって利得誤差は、伝達関数の理想的なスロープに対する実測スロープの偏差(%)を示します。
利得誤差成分から生じる出力換算誤差は、次の式で規定されます。
式5. (式. 5)

利得の非直線性

完全にリニアなCSAでは、伝達曲線のスロープが一定になります。出力振幅が線形領域内にある場合は、通常、利得の非直線性はオフセットや利得誤差に比べてごくわずかです(この領域は、CSAのデータシートにある出力電圧高と出力電圧低の仕様によって規定されます)。したがって、利得の非直線性から生じる誤差は、総誤差バジェットの計算時に無視しても差し支えありません。

コモンモード除去比

コモンモード除去比(CMRR)は、両方の入力に共通した入力信号のあらゆる変動を除去するCSAの能力を示します。データシートにあるCMRRの仕様は、通常、入力に対して規定されています。CMRRは次の式で定義されます。
式6. (式. 6)
コモンモード入力電圧の変動から生じる最大出力換算誤差は、次の式で規定されます。
ERRORCMRR = G × 最大値[絶対値(最低VCM - データシートVCM), 絶対値(最高VCM - データシートVCM)] × 10-CMRR/20 (式. 7)
ここで、
データシートVCM = データシートでCSAの利得誤差とオフセット誤差の特性評価の際に使用されているコモンモード電圧。
最低VCM = ユーザーの回路で印加される最低コモンモード電圧。
最高VCM = ユーザーの回路で印加される最高コモンモード電圧。

電源電圧変動除去比

電源電圧変動除去比(PSRR)は、電源電圧VCCのあらゆる変動を除去するCSAの能力を示します。データシートにあるPSRRの仕様は、通常、その効果を印加された差動信号と比較することができるように、入力に対して規定されています。電源電圧の変動から生じる最大出力換算誤差は、次の式で規定されます。
ERRORPSRR = G × 最大値[絶対値(最低VDD - データシートVDD), 絶対値(最高VDD - データシートVDD)] × 10-PSRR/20 (式. 8)
ここで、
データシートVDD = データシートでCSAの利得誤差とオフセット誤差の特性評価の際に使用されている電源電圧。
最低VDD = ユーザーの回路で印加される最低電源電圧。
最高VDD = ユーザーの回路で印加される最高電源電圧。

検出抵抗の許容誤差

大部分のCSAで外付けの電流検出抵抗が使用されるため、総誤差バジェットを計算する際は検出抵抗の許容誤差も考慮する必要があります。この誤差成分を極力抑えるには、許容誤差の小さい抵抗を使用します。さらに、大電流アプリケーションでは、最良の結果を得るために4線式のケルビン接続型抵抗を使用することが強く推奨されます。
検出抵抗の許容誤差から生じる出力換算誤差は、次の式で与えられます。
式9. (式. 9)

出力抵抗の許容誤差

MAX9934のような電流出力付きのCSAは、出力電流を電圧に変換する終端抵抗とともに使用されることがよくあります。電流出力には、複数のCSAを同一の終端抵抗で多重化することができるという注目すべき利点があります。電流出力アーキテクチャのもう1つの利点は、出力抵抗がADCグランドに終端された場合、CSAがグランドバウンス誤差の影響を受けにくくなるという点です。ただし、出力抵抗の許容誤差は総誤差の計算で別途考慮する必要がある成分です。出力抵抗の許容誤差から生じる誤差は、次の式で与えられます。
式10. (式. 10)
ここで、GM = トランスコンダクタンス利得です。

システムの誤差バジェット

設計者は、CSAの総誤差を計算する際にワーストケース方式を採用するのが妥当と考えがちです。この方式では、総誤差は個別の誤差原因すべてを単純に合計して計算されます。ワーストケース方式では誤差のリミットを超えないことが保証されますが、過度に保守的で不正確な見積もりになる場合がほとんどです。ワーストケース方式では、個別の誤差原因すべてが相関しており、それらの極性が同じであることが暗黙の前提となっています。
もう1つの方式は、二乗和平方根(RSS)による解析です。この場合、総誤差は各誤差の二乗和の平方根です。RSSは、ランダムな(正規分布またはガウス分布の)測定値の2つの分布を追加する際、得られる分布の標準偏差が初期分布の標準偏差の二乗和の平方根に等しくなるという事実に基づいています。CSAの場合のように個別の誤差原因が相関していないときは、RSS方式の方がワーストケース方式よりも現実的です。保証されたワーストケースの数の個別誤差を使用する場合は、RSSによる解析によって最も合理的な結果が得られます。
RSS方式について興味深い事実の1つは、個別の誤差項よりも大きな総誤差が得られる一方、支配的な誤差項がその他すべての項を圧倒することがよくあるという点です。
RSS方式を使用した場合、電圧出力CSAの総誤差バジェットは次の式で与えられます。
式11. (式. 11)
RSS方式を使用した場合、電流出力CSAの総誤差バジェットは次の式で与えられます。
式12. (式. 12)
これらの計算では、すべての誤差原因が同一ノード(通常、入力または出力のどちらか)に対して規定されていることが不可欠です。CSAでは通常、利得がユニティを上回り、したがって出力誤差の絶対値が入力誤差の規模よりも大きくなるため、この条件は重要です。

電流検出誤差バジェット計算器

設計者が選択したCSAの総誤差を見積もる際に役立つ新しい計算器が、マキシム・インテグレーテッドによって開発されました。無料で利用可能なこのソフトウェアでは、ユーザーはいくつかのフィールドにアプリケーション固有の情報を入力するだけです。この計算器は、選択されたCSAのデータシートから該当する仕様をあらかじめ自動的に入力し、RSS方式を使用して予想される最大総誤差を出力します。また、データ入力時に不注意によるミスがあった場合は、ユーザーに通知します。たとえば、入力検出電圧が推奨されるフルスケール検出電圧を超えている場合、電源電圧が適正な範囲にない場合、出力振幅の制約条件が満たされていない場合などに、ユーザーに対して警告します。
このツールを使用する場合は、下記のリンクをクリックし、以下の説明に従ってください。(japan.maximintegrated.com/tools/calculators/current-sense-error/index.cfm)

電流検出誤差バジェット計算器の使用方法

CSAが次の仕様を満たしている必要がある過電流保護回路の設計を検討します。
  1. 入力トリップポイント = 50A (単方向)
  2. 検出抵抗の許容誤差 = 0.5%
  3. 検出抵抗 = 1mΩ未満
  4. 電源電圧範囲 = 4.5V~5.5V
  5. 入力コモンモード電圧範囲 = 12V~18V
  6. 総誤差バジェット = 2%未満(個別の誤差が総誤差バジェットを超えることはないため、CSAの利得誤差は2%未満、VOSは1mV未満であると考えられる)

ステップ1. パラメータによる検索

上記の基準に基づいたパラメータによる検索から、次のCSAが候補になります。MAX9922MAX9918MAX9929FMAX4080MAX4373MAX4172

ステップ2. 電流検出誤差計算器の入力

総誤差バジェットに基づいて上記のリストを絞り込むため、電流検出誤差バジェット計算器を使用します。「マキシムCSAデバイスの型番」ドロップダウンボックスからCSAを1つ選択し、アプリケーション固有の入力パラメータを入力します(図2)。
図2. ユーザーが入力する必要がある入力フィールド
図2. ユーザーが入力する必要がある入力フィールド

ステップ3. データシートの仕様の確認

この計算器は、選択されたCSAのデータシートから最大オフセット誤差、最大利得誤差、CMRR、PSRRの仕様を自動的に入力します。デフォルトでは、これらの仕様はCSAのMAX9922について図3に示したとおり、T = 25℃に対応します。
図3. 計算器が選択されたCSAのデータシートから該当する仕様をあらかじめ入力
図3. 計算器が選択されたCSAのデータシートから該当する仕様をあらかじめ入力
ここで「Calculate」ボタンを押すと、ソフトウェアによって計算された総誤差を確認することができます。

ステップ4. データシートのオーバーライド

計算器が利得、オフセット誤差、利得誤差、CMRR、PSRRの値をあらかじめデータシートから入力した場合でも、それらは変更可能です。必要な場合、それらの値をユーザーが指定した値で置き換えることができます。たとえば、設計者がソフトウェアでオフセット電圧の効果を較正して除去することが考えられます。この場合、精度の低いCSAでも誤差バジェットの要件を満たせるかもしれません。また、別のユーザーがデフォルトのT = 25℃よりもデータシートにあるワーストケースの温度仕様に関心を向けることも考えられます。
あらかじめ入力された数値の代わりに別の値を指定するには、「オーバーライドを入力」フィールドを使用してアプリケーション固有の調整を行います。MAX9922の例では、「Calculate」ボタンを押すと図4に示す誤差が得られました。出力電圧がデバイスの出力電圧高のリミットを超えることはできないため、計算器はユーザーに対して利得を削減するように促しています。
MAX9922の利得は調整可能であるため、対応する「オーバーライドを入力」フィールドで利得を60V/Vに削減します。図5は、利得を更新した後の総誤差バジェットを示しています。
図4. デバイスの制約条件のいずれかが満たされていない場合のエラーメッセージの例
詳細画像
(PDF, 1.3MB)
図4. デバイスの制約条件のいずれかが満たされていない場合のエラーメッセージの例
図5. 選択したCSAの誤差バジェットの計算値
詳細画像
(PDF, 1.1MB)
図5. 選択したCSAの誤差バジェットの計算値

ステップ4. 別のCSAの選択

検討中の別のCSA (MAX9918など)について誤差バジェットを評価するには、「マキシムCSAデバイスの型番」ドロップダウンボックスで選択を変更します。入力パラメータを入力し直す必要はありません。それぞれCSAを選択した後に「Calculate」ボタンをクリックすると、対応する誤差バジェットが表示されます。表1は、この例で検討対象としたすべてのCSAについて誤差バジェットの数値を示しています。結果から、このアプリケーションの総誤差バジェットの基準を満たしているのはMAX9922とMAX9918だけであることがわかります。
表1. 計算器を使用して計算した総誤差バジェット
Part Total Error (%) Conditions
T = 25°C T = -40°C to +85°C
MAX9922 0.64 0.79 Gain = 60
MAX9918 1.13 1.93 Gain = 60
MAX9929F 1.39 3.45
MAX4080S 1.43 2.55
MAX4373F 2.84 6.18
MAX4172 2.57 O/P termination = 6kΩ

要約

このアプリケーションノートでは、CSAの選択肢をすばやく論理的に特定するための高性能なツールである電流検出誤差バジェット計算器を紹介しています。また、CSAの誤差仕様に関する理解を深めることの重要性について説明しています。こうした知識と計算器を組み合わせれば、設計者がアプリケーションに最適なCSAを選択する際に役立ちます。計算器の基礎である誤差解析のRSS方式は、複数の電子部品や電子回路についてシステムレベルの精度を計算する際にも適用することができます。
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