アプリケーションノート 4906

較正入力を備えたホットスワップコントローラによって2つの負荷電流の高精度監視が可能

筆者: Dwight Larson

要約: このアプリケーションノートでは、ホットスワップコントローラMAX5977とADCを1個使用して、高電力のプライマリ領域と低電力のハウスキーピング領域の、2つの領域の負荷電流を高精度かつ独立して監視可能にする方法について説明します。集積MOSFETパワースイッチのMAX5976を使用して、ハウスキーピング領域に簡単でコスト効率の高い電力制御を提供することができます。両領域の監視機能がMAX5977内で統合されているにもかかわらず、2つの領域の保護と制御は完全に独立した状態を維持しているため、信頼性と安全性が向上します。

はじめに

ストレージ、プロセッシング、またはネットワークインタフェースカードが高可用(常時オン)システムにおいて保守点検や置換えを受けるように設計される場合、ホットスワップまたはホットプラグコントローラを使用する必要があります。このホットスワップ回路は、システムからのカードの挿抜時のカードへの電力のオン/オフを制御します。また、この回路は、負荷カード上のフォルトイベント時の過電流に対してもシステムを保護します。より高度なホットスワップコントローラは現在、負荷電圧および電流を監視可能な機能を備えており、これを使って負荷電力を計算することができます。この情報は、制限された電源出力の効率、冷却、および割当てを最適化する際に非常に役立ちます。

負荷カードがより大容量でより複雑になった場合、カードへの電力を2つ以上の領域に分割して、1つの領域を低電力要件の「ハウスキーピング」電源とし、もう1つの領域でカードにメイン電源を供給することは優れた考えです。この方法では、ハウスキーピング電源が管理目的のために最初に起動し最後にシャットダウンすることができ、高電力領域は別個に制御されます。しかし、電力監視または計測が必要な場合、電力を2つの領域に分割すると、両領域の電力の測定を可能にするには、通常2つのシングルチャネルホットスワップコントローラ(または最低1つの2チャネルコントローラ)を使用する必要があります。

このアプリケーションノートでは、ホットスワップコントローラMAX5977とADC1個を使用して、両領域の負荷電流の高精度かつ独立した監視を可能にし、集積MOSFETパワースイッチのMAX5976によってハウスキーピング領域への電力の簡単かつ高効率の制御を提供する方法について説明します。

MAX5977の較正機能

マキシムのMAX5977は、ホットスワップコントローラの通常機能を実行し、ハイサイドnチャネルMOSFETスイッチを駆動して、ターンオン電圧スルーレートを制御し、過電流状態から保護します。これに加えてMAX5977は、2500µA/Vの利得を持つ高精度電流検出トランスコンダクタンスアンプも備えており、これを使って負荷電流監視用の外付けADCに給電することができます。電流検出システムの高精度較正を可能にするために、MAX5977はそのトランスコンダクタンスアンプの入力を代替の「較正検出」入力に切り替えることができます。この機能は、CAL入力によって制御されます。

CALがロジックローのとき、電流検出アンプはINとSENSE間の電圧を検出し、(VIN – VSENSE) x 2500µA/Vに等しい電流が通常動作時の電流監視用のCSOUT出力であるようにします。しかし、CALがハイに駆動された場合、MAX5977は、電流検出アンプの負入力をCALSENSEに切り替えて、CSOUT電流が(VIN - VCALSENSE) x 2500µA/Vに等しくなるようにします。高精度電圧がINとCALSENSE間に印加された場合、このモードを使って、アンプおよびADCの利得とオフセット較正のデータを収集することができます。図1に、このMAX5977標準アプリケーションを示します。この場合、高精度電流シンクと較正抵抗をCALSENSE信号の確立に使用しています。

図1. フルスケール電流検出較正信号を備えたMAX5977標準アプリケーション
図1. フルスケール電流検出較正信号を備えたMAX5977標準アプリケーション

2つの電力領域の電流の測定

MAX5977の較正機能は本質的には高精度電流検出アンプ用の入力マルチプレクサであるため、両方の抵抗がコモンIN電位に接続されていれば、代替の電流検出抵抗を測定することができるように用途を再設定することができます。図2に、基本アプリケーション回路を示します。メイン電流検出抵抗はSENSE入力に接続され、補助(ハウスキーピング領域)の検出抵抗はCALSENSE入力に接続されています。これで、負荷電流は2つの領域のぞれぞれで独立して測定することができます。MAX5977は高電力領域に制御と保護を提供し、MAX5976などの単純な集積化された負荷スイッチは低電力ハウスキーピング領域を制御し保護します。

図2. 2領域電流監視用のMAX5977アプリケーション回路
図2. 2領域電流監視用のMAX5977アプリケーション回路

マイクロコントローラは、マイクロコントローラ本体に内蔵されたADCまたは外付けADCによってデジタル化された負荷電流データを収集して処理します。メイン電流を測定するために、マイクロコントローラはCALをローに駆動し、CSOUTのセトリングを少し待った後、ADCに結果を変換して通信するように指令します。同様に、補助電流を測定するために、マイクロコントローラはCALをハイに駆動して、同じ基本シーケンスを繰り返します。

両領域のトランスコンダクタンス出力信号が同じCSOUT利得設定抵抗を共有するため、補助とメインの電流検出抵抗値は、スケーリングの簡素化または最高の分解能を目的として選択される必要があります。

メインおよび補助電流のスケーリングと加算を簡素化する場合、検出抵抗は同じ値にする必要があります。これによって、2つの電流測定値を直接加算して、両領域の総電流を決定することができます。

最高の分解能の場合、両方の電流検出信号はADCに供給するために同じフルスケール出力電圧を持っている必要があります。これは、メインと補助検出抵抗の値を2つの領域の最大負荷電流と同じ比率で選択することによって容易に行うことができます。
IMAIN (max)/IAUX (max) = RCALSENSE/RSENSE
これによって、最大負荷状態下でCSOUTのフルスケール電圧が両領域で同じになるように確保されます。たとえば、図1の回路は、メイン経路に1mΩを、補助経路に20mΩを使用しており、最大負荷のメイン電流が最大負荷の補助電流の20倍の大きさとなることを示唆しています。

容易な加算を提供し良好な分解能を達成するという折衷案の場合、補助検出抵抗をメイン検出抵抗の2進倍数として選択してください。この倍数は、上述の最大負荷電流比に近い値である必要があります。この処理では、マイクロコントローラでの単純な2進左シフト演算によって、メインの電流変換結果は補助の電流結果と同じ「単位」にスケーリングされます。

タイミングとサンプリング

図3は、CALが20kHzでスイッチングされている時に、40.0kΩのCSOUT抵抗を駆動するMAX5977を示します。この例では、VIN - VSENSE = 5mV、およびVIN - VCALSENSE = 25mVです。CALがローのとき、VCSOUTは5mV x 2500µA/V x 40.0kΩ = 500mVで、CALがハイのとき、VCSOUT = 25mV x 2500µA/V x 40.0kΩ = 2500mVです。これらのレベルは、それぞれ2.5VのADCフルスケール入力の20%と100%に対応します。この未加工のCSOUT信号は、10µsのCAL立上りまたは立下りエッジ範囲に十分収まります。高精度アンプのMAX4236がハイインピーダンスのCSOUT信号を調整しバッファするために追加された場合、その0.3V/µsのティピカル出力スルーレートは十分高速であるため、ほぼ同じセトリング時間を提供することができます。

図3a. 未加工のVCSOUTセトリング時間
図3a. 未加工のVCSOUTセトリング時間
図3b. MAX4236のバッファによるセトリング時間
図3b. MAX4236のバッファによるセトリング時間

1つのアプリケーションの可能性として、真の差動12ビットSAR ADCのMAX1393 を使ってバッファCSOUT信号のデジタル化があります。このSPI™駆動ADCの場合、1回の変換に16のシリアルバスクロックサイクルが必要です。2MHzのシリアルデータレートでは、変換は8µsで完了することができます。実際、このADCがサンプル/ホールド入力回路を採用しているため、CAL入力が切り替えられてCSOUTが新しい値にセトリングしている間に実際の変換が発生する可能性があります。図4は、10kspsで各信号をサンプリングした場合のバッファCSOUT信号とシリアルデータクロックタイミングの例を示します。

図4. 各10kspsで2つの電力領域の負荷電流をサンプリングするMAX1393 ADC
図4. 各10kspsで2つの電力領域の負荷電流をサンプリングするMAX1393 ADC

利点

2つの異なる電流経路の測定にMAX5977の較正機能を使用することは、いくつかの利点を提供します。

較正機能それ自身によって、検出抵抗部の高いコモンモード電圧を処理可能な外付けマルチプレクサが不要になり、サイズと複雑さが低減されます。ADCを1つしか必要としないため、ソリューションのコストが大幅に削減されます。両方の測定が同じ電流検出アンプと利得設定抵抗を使用するため、測定精度は両領域で同じです。電流検出信号のフィルタリングが望まれる場合、これをバッファアンプの周囲に実装することができ、必要なフィルタ部品は1セットのみです。

また、このソリューションは、フレキシビリティも追加します。これは、マイクロコントローラが必要に応じて時間とリソースをメインと補助電流の測定に割り当てることができるためです。たとえば、2つの領域の測定は1対1で交互にすることができます。あるいは、システムは主としてメイン経路の測定と監視に集中することができ、時折補助経路の定期的な「スポットチェック」を実行することができます。言い換えると、システムの監視対象の「帯域幅」は、動作状態に応じてメイン経路と補助経路の間に異なった割り当てをすることができます。

両領域用の監視機能がMAX5977内で統合されているにもかかわらず、2つの領域の保護と制御は完全に独立した状態を維持しているため、信頼性と安全性が向上します。

結論

MAX5977の較正機能は、専用の電流検出アンプに比べてユニークで、特にMAX5977のホットスワップと電子回路ブレーカ機能との組合せは注目に値します。この機能は、インサーキット較正の改善に使用可能であるだけでなく、2つの独立した電源領域の負荷電流の測定にも適用可能で、高信頼負荷カードの設計と動作を簡素化します。