アプリケーションノート 4872

電流制限の自動調整による集積FETパワースイッチの保護

筆者: Dwight Larson

要約: 負荷のタイプによっては、起動時に動作時を上回る電流が必要になる場合があります。また、起動時の電流が比較的小さく抑えられる一方、動作時に大きな電流が必要となる負荷もあります。このアプリケーションノートでは、起動完了後に電源回路の過電流保護レベルを上下に自動調整するアプリケーション回路について説明します。

はじめに

電源とその負荷の間にスイッチとヒューズを配置すると、電力の制御と保護が可能になります。単なるスイッチとヒューズよりも優れた方式の1つが、可動部を含まず、保守の必要もない単一パッケージで同じ機能を果たす集積回路です。このアプリケーションノートでは、MAX5976ホットスワップ電源ソリューションの内蔵パワーMOSFETとドライバ回路でオン/オフ制御と保護を実現する方法を説明します。目的の過電流保護レベルは、単一の外付け抵抗器によってグランドに対して設定します。
具体的な機能上の詳細や特長はさまざまですが、ほとんどの集積負荷スイッチでは、一連の基本的な動作原理が採用されています。起動時には、負荷スイッチ内のドライバ回路が負荷電流とMOSFETスイッチの温度を監視しつつMOSFETをオンにします。MOSFETが完全にオンになる前に起動時の電流がプログラム済みの過電流制限に達した場合は、ドライバ回路がゲート駆動をしばらく抑制します。その結果、負荷スイッチデバイスは定電流ソースのように機能します。この動作モードは一定時間、継続可能です。この時間間隔の終了時に出力が入力電圧近くまで上がっていない場合、負荷スイッチはシャットダウンし、障害ステータス出力をアサートして起動失敗を指示します。起動タイマーが切れる前に出力が正常に上がった場合は、パワーグッドステータス出力がアクティブ状態になります。
起動後のある時点で負荷電流がプログラム済みの過電流制限を超えた場合は、負荷スイッチが電子回路ブレーカとして機能し、内蔵パワースイッチをシャットダウンします。これによって、上流側の電源が出力過負荷や短絡条件から保護されます。

起動後の過電流スレッショルド変更

負荷デバイスの中には、起動時に動作時を上回る電流が必要になるものがあります。たとえば、大きな入力バイパス容量を伴う負荷では、大きな充電電流が必要であっても、いったん起動すれば消費される動作電流がごくわずかである場合があります。同様に、モータを搭載した装置(ディスクドライブなど)では、回転立ち上げ時に大きな電流が必要となる一方、いったん十分な速度に達すると、モータの消費電流が大きく減少する場合があります。
こうしたケースで最適な保護を実現するには、動作時の小さな電流に合わせて過電流保護スレッショルドを設定した方が有利です。しかし、この設定では、起動時にMAX5976などの負荷スイッチによって電流がクランプされて出力電圧が上がらず、電流不足の状態になります。実際、この条件下では出力電圧がフォールドバックする場合もあります。
この問題を解決するため、単純な反転方式で負荷スイッチのオープンドレインパワーグッド出力(PG)を利用し、起動後にもう1つの電流制限設定抵抗を並列に接続します。この設計(図1)では、起動完了後、負荷に供給される電流が減少します。起動時には出力電圧が入力を下回りますが、PG出力がローをプルし、電流制限がRCB1によって設定されます。出力が上がり16msのパワーグッド遅延時間が経過した後、PG出力はハイインピーダンスになります。これによってQ1のゲートが上がり、2つめの抵抗器RCB2がRCB1と並列に接続され、過電流スレッショルドが引き下げられます。
図1. PG出力で外付けトランジスタを制御し、起動後に過電流制限を引き下げる
図1. PG出力で外付けトランジスタを制御し、起動後に過電流制限を引き下げる
この回路の動作を図2に示します。この図では、MAX5976を起動して330µF、8.9Ωの負荷に適用しています。まずMAX5976によって、突入電流をRCB1 = 17.4kΩで設定した3Aにクランプします。VOUTが立ち上がった後、負荷抵抗を流れる電流は1.3Aです。VOUTが立ち上がってから16ms後にPG出力がハイになることでRCB2 = 12.1kΩがRCB1と並列に接続され、回路ブレーカのリミットが1.25Aに引き下げられます。MAX5976回路ブレーカコンパレータは、このやや過電流の状態をさらに4.8msだけ許容した後にシャットダウンします(過負荷がさらに大きい場合は、回路ブレーカコンパレータがもっと早くトリップします)。
図2. R<sub>CB1</sub> = 17.4kΩとR<sub>CB2</sub> = 12.1kΩの条件で図1の回路を起動して330µF、8.9Ωの負荷に適用
図2. RCB1 = 17.4kΩとRCB2 = 12.1kΩの条件で図1の回路を起動して330µF、8.9Ωの負荷に適用
逆に、負荷の中には、出力電圧が上昇していく間、負荷スイッチの内蔵MOSFETでの過大な電力消費を避けるためにゆっくりと起動しなければならないものもあります。その後、MOSFETが十分に強化されると、電流の供給を増やしても過大な損失が生じることはありません。この場合は、単にMAX5976のPG出力そのものを使用して並列構成の抵抗器を制御します(図3)。起動が完了するとPG出力がハイインピーダンスになり、並列抵抗が切り離されて負荷に供給される電流が増大します。
図3. オープンドレインPG出力を起動後の過電流制限引き上げに使用
図3. オープンドレインPG出力を起動後の過電流制限引き上げに使用

コンセプトの拡張

他の信号を使用してCB回路の抵抗を切り替えることもできます。こうした柔軟性は、パワーマネージメントに幅広い可能性を開きます。たとえば、監視型のパワーオンリセット(POR)デバイスを使用すれば、PGのデフォルト遅延時間を大きく超えて起動タイミングを延長することができます。ディスクドライブのモータの回転を動作速度まで立ち上げる処理に対応するため、こうした機能が必要になる場合があります。

高度に設定可能な過電流保護回路を実現するには、集積負荷スイッチをMAX5434などのデジタルポテンショメータと組み合わせます。この構成では、マイクロコントローラ(または製造設備)で必要に応じて過電流制限をプログラムすることができ、物理的に部品を変更する必要がありません。図4はこのアプリケーション回路を示しています。
図4. MAX5976と不揮発性デジタルポテンショメータMAX5434を組み合わせて設定可能な過電流制限を実現
図4. MAX5976と不揮発性デジタルポテンショメータMAX5434を組み合わせて設定可能な過電流制限を実現
熱的制約が非常に大きいアプリケーションでは、負温度係数(NTC)サーミスタを使用して電流制限を設定することができます。NTCサーミスタは、負荷が過熱し始めると自動的に低下する保護スレッショルドを実現します。これによって、初期の障害が回復不可能なレベルに深刻化するのを防ぐことができます。

結論

MAX5976や類似したデバイスでは、単一の抵抗器を使用してソフトスタートと過電流保護レベルを設定するため、基本的なアプリケーション回路に単純な変更を加えるだけで、起動時と動作時の電流要件が大きく異なる複雑な負荷に対応することができます。集積負荷スイッチの高い集積度と優れた性能に、状態依存型の高度な過電流保護を組み合わせるのは簡単です。