アプリケーションノート 4170

電流検出アンプの入力オフセット電圧をスキューさせることによる電流測定精度の向上


要約: 一部のアプリケーションでは、測定精度を向上するために電流検出アンプの入力オフセット電圧(VOS)を較正する必要があります。これは、出力ロー電圧(VOL)と入力VOSの相互作用があるため、簡単な作業ではありません。このアプリケーションノートでは、単方向の電流検出アンプの入力VOSを意図的に「スキュー」させる簡単な方法を記します。この方法によって、VOLからの通常の制限がない全ての入力VOSを測定することが可能となり、電流測定の全体的な精度が向上します。MAX4080の電流検出アンプをこの手法の例として利用することができます。

同様の記事が2009年3月23日にPlanet Analogのウェブサイトに掲載されました。

はじめに

電流検出アンプは、負荷電流をリアルタイムに監視する電子機器で一般的に使われる高性能なICです。システムコントローラは負荷電流の特性自体を修正する電源管理アルゴリズムを実行し、柔軟性のある過電流保護方式を満たす為にこの負荷情報を使用します。

電流検出アンプは、入力コモンモード電圧を除去するとともに微小な差動電圧を増幅します。電流検出アンプは、この役割において従来のオペアンプベースの差動アンプと同様に動作します。ただし、これらの2つのアンプのアーキテクチャの間には重要な違いがあります。電流検出アンプの入力コモンモード電圧は、電源(VCC)の電圧を超えることが許されています。たとえば、VCC = 5VからMAX4080電流検出アンプに給電すると、アンプは76Vの入力コモンモード電圧に耐えることができます。独自のアンプアーキテクチャを使用することで、電流検出アンプは、抵抗の不整合から生じるコモンモード除去の制限(CMRR)によって動作を妨げられることがありません。たとえば、MAX4080のDCのCMRRは、100dB (min)になります。対照的に、従来のオペアンプベースの差動アンプ性能はCMRRによって悪影響を受け、その実効入力VOSは信号チェーンを通じて増幅されます。

図1. 高精度の単方向電流検出アンプであるMAX4080
図1. 高精度の単方向電流検出アンプであるMAX4080

較正による精度の向上

MAX4080の入力オフセット電圧(VOS)の精度は25℃で±0.6mV (max)、-40℃~+125℃の温度範囲で±1.2mV (max)になります。ただし、アプリケーションによっては、入力VOSをさらに較正して最終的な計測の精度を向上させる必要があります。この較正を行うために、VOSは通常、生産時に測定されファームウェアにストアされます。その後、機器を実際に現場で使用するときには、このVOSをリアルタイムにディジタル補正します。

製造の利便性を考えた較正の望ましい方法は、負荷電流がゼロ(入力差動電圧がゼロ)のときにVOSを測定することです。この手法では、出力VOSを計測して、以降のすべての測定値からこの電圧を減算します。あいにく、この方法には欠点があります。VOL (出力ロー電圧)と入力VOSの仕様が相互に作用するため、入力VOSが正しく出力電圧に反映されません。実際、この相互作用は、すべての単一電源アンプの特性として存在します。

利得が20で仮定のゼロ入力VOSのMAX4080Tの例を考えてみます。この場合、アンプの出力端で真のゼロが計測されると予想されます。しかし、ゼロ入力の差動電圧でも、アンプが(10µAのシンク電流で) 15mV未満の電圧を出力するとは保証されません。実際、出力電圧の測定値をVOSの較正にそのまま使用すると、アンプに0.75mVの入力VOS (15mV/20 = 0.75mV)が存在すると考えられます。

同様に、MAX4080TでVOL = 0の場合は、正入力VOSによって正出力VOSが生成されると予想されます。ただし、負入力VOSは、出力電圧の測定には「反映」されません。これは、アンプは実際には、グランドより下の電圧を出力できないからです。したがってまとめると、ゼロ入力の差動電圧による出力電圧の測定値を「そのまま」使用して入力VOSを較正することはできないということです。

生産時にVOSの較正に通常使用する方法には、以下の2つがあります。
  1. MAX4081などの双方向の電流検出アンプを約1.5Vの基準電圧で使用します。このアンプが1.5Vで正式に出力電圧の測定値を変換することで、ゼロ入力の差動電圧は1.5V ±VOSによって生ずる誤差を出力します。この1.5Vの電圧は、アンプのVOLよりもはるかに高いため、誤差解析には影響を及ぼしません。したがって、VOSの誤差は、出力電圧と理想的な1.5V入力の基準電圧との間の差異を測定することで計算することができます。この方法には、ダイナミックレンジを低減するという欠点があります。ADCの入力レンジは、0V~5Vから1.5V~5Vに30%低減します。さらに、この方法では、単方向の測定に使用するために高価な双方向の電流検出アンプを必要とします。最後に、低ドリフトの1.5Vの基準電圧を生成したり、この1.5Vの基準電圧を測定するために第2チャネルを使用したりすることは、魅力的なことではありません。

  2. 2点測定法では、値が既知の2つの差動入力電圧(負荷電流)を電流検出アンプに印加します。最初に出力電圧の測定値に直線近似を適用し、ゼロ検出電圧まで外挿することで、入力VOSを計算します。次に、その電圧の測定値を利用して較正します。この方法には欠点があります。生産時に正確な「既知」の電流値を2つ使用することは不便であり、テスト時間が増大します。VOLの制限によって微小な検出電圧にて誤差が生じるため、結局、ゼロ入力の差動電圧に近い正確な測定はまだ実現されていません。

入力抵抗による入力VOSの発生

このアプリケーションノートでは、電流検出アンプの入力VOSを測定するための3つ目の方法を紹介します。再度、MAX4080を例として使用します。この手法はゼロ入力の差動電圧を印加して、VOLとVOS間の相互作用を解決しています。これによって、この手法の生産ラインでの使用が容易になります。

すべての電流検出アンプで入力バイアス電流が発生します。このため、(たとえば入力フィルタ用に)入力抵抗を使用すると予期しない利得とオフセット誤差が発生する可能性があり、入力抵抗を使用するときには十分に検討する必要があります。これらの問題は、アプリケーションノート3888 「入力直列抵抗付き電流検出アンプの性能」に詳細が記載されています。ここで示された方法は同様の手法を使用していますが、この場合の入力抵抗は意図的に不整合にされています。このようにして、意図的に出力VOSを発生させます。MAX4080は、プロセス変動に応じて温度補償される5µA (typ)と12µA (max)のバイアス電流を備えています。RS-に直列に接続した2kΩの抵抗を使用することで(図2)、それぞれ10mVおよび24mVの標準的な入力VOSがプロセス変動に応じて生成されます。この追加入力VOSによって、基本MAX4080におけるVOLとVOSのいずれの制限も無効にするのに十分な200mV (typ)と480mV (max)の出力オフセットが生成されます。この入力抵抗によって生じるVOSの誤差には、入力抵抗のドリフト特性(通常100ppm)とバイアス電流(ごくわずか)の両方に基づく温度依存性があります。

図2. RS-に直列に接続した外付けの2kΩ抵抗を使用するよう構成されたMAX4080
図2. RS-に直列に接続した外付けの2kΩ抵抗を使用するよう構成されたMAX4080

+100ppmの温度特性を持つ抵抗は、100℃の変化に対して抵抗値が+1% (すなわち、+20Ω)変化します。入力抵抗による追加入力VOSのドリフトは、バイアス電流のプロセス変動に対して、通常は約+0.1mV、最大では+0.24mVになります。このドリフトは、較正を使用しない場合に、プロセス変動によって通常予想される入力VOSの双方向誤差±0.6mVのほんの20%にすぎません。

全温度範囲にわたって15mVのVOLと±1.2mVの入力VOSに対応するには、追加入力VOSは概算で少なくとも、1.2mV + 15mV/20 = 1.95mV ≈ 2mVにする必要があります。表1は、温度に対するテスト結果を示しています。ここで、MAX4080のVOSのドリフトはごくわずかであるため、VOSで測定されたすべてのドリフトは入力抵抗の使用とそのppmドリフトに起因するものとなります。

表1. 入力抵抗の有無による温度テストの結果
VOS -40°C +25°C +85°C +125°C
No Input Resistors -0.015mV 0mV -0.005mV -0.01mV
2kΩ in Series with RS- 9.69mV 9.73mV 9.76mV 9.80mV

結論

このアプリケーションノートでは、MAX4080などの電流検出アンプの入力抵抗を適切な抵抗値にすることで、既知の入力VOSを生成する方法を紹介しています。機器の製造元は、この方法を使用してゼロ入力電流にて生産ラインでVOSを較正することで、リアルタイム測定の精度を向上することができます。
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