アプリケーションノート 3977

D級アンプ:基本動作と開発動向


要約: D級アンプは高効率であることから、ポータブルでコンパクトな高出力アプリケーションに最適です。従来のD級アンプは、パルス幅変調(PWM)出力波形からオーディオ信号を抽出するためにローパスフィルタを外付けする必要がありました。これに対し最近のD級アンプは最先端の変調方式を採用しており、多くのアプリケーションで外部フィルタリングが不要になるとともに、電磁干渉(EMI)も低減されています。外部フィルタが不要になることで基板スペース要件が減るだけでなく、多くのポータブル/コンパクトシステムのコストを大幅に削減することができます。

はじめに

オーディオシステムの設計に携わるエンジニアであれば、A級、B級、AB級といったリニアなオーディオアンプに対し、D級アンプは電力効率が優れていることをよく知っています。AB級などのリニアアンプの場合、相当の電力が、素子のバイアスと出力トランジスタをリニア動作させるために消費されてしまいます。これに対してD級アンプは、電流を負荷に流し込むスイッチとして機能するため、出力段で浪費される電力が最小限ですみます。D級アンプで発生する電力損失は、ほとんどが、出力トランジスタのオン抵抗、スイッチング損失および間接的な自己消費電流によるものです。アンプ内で消費される電力は、そのほとんどが熱で消費されます。D級アンプではヒートシンクが不要か、必要な場合でもかなり小さくてすむことから、コンパクトな高出力アプリケーションに最適です。

これまで、PWMによるD級アンプは、高い電力効率というメリットはあっても、外部フィルタの部品コスト、EMI/EMC準拠、リニアアンプに対して低いTHD+N性能などのデメリットによって注目されませんでした。しかし、今日のほとんどのD級アンプは、最新の変調方式とフィードバック技術によって、このような問題がかなり軽減されています。

D級アンプの基礎

最新のD級アンプで使用される変調器方式にはさまざまな種類がありますが、最も基本的な方式は三角波(のこぎり波)オシレータを使ったパルス幅変調(PWM)です。PWMを使用したハーフブリッジD級アンプのブロックダイアグラムを図1に示します。この回路は、パルス幅変調器と2つの出力MOSFET、それに増幅されたオーディオ信号を復元する外付けのローパスフィルタ(LFとCF)で構成されています。図に示すように、pチャネルとnチャネルのMOSFETは、出力ノードをVDDとグランドへと交互に接続する電流ステアリングスイッチとして動作します。出力トランジスタは、出力をVDDとグランドのどちらかへ切り替えるため、D級アンプの出力は高周波の方形波となります。大部分のD級アンプのスイッチング周波数(fSW)は、一般に、250kHzから1.5MHzまでです。出力方形波は、入力のオーディオ信号によってパルス幅変調されています。このPWMは、入力オーディオ信号と内部で発生する三角波(のこぎり波)を比較し生成されます。この変調方式は、一般に、三角波オシレータがサンプリングクロックとして使われる「ナチュラルサンプリング」とも呼ばれます。こうして現れる方形波のデューティサイクルは、入力信号レベルに比例します。入力信号がないとき、出力波形のデューティサイクルは50%に等しくなります。入力信号レベルによって、PWM出力波形は図2のように変化します。

Figure 1. This simplified functional block diagram illustrates a basic half-bridge Class D amplifier.
図1. 基本的なハーフブリッジD級アンプの機能ブロックダイアグラム

Figure 2. The output-signal pulse widths vary proportionally with the input-signal magnitude.
図2. 出力信号のパルス幅は、入力信号の振幅に比例して変化します。

増幅されたオーディオ信号をこのPWM波形から取り出すため、D級アンプの出力をローパスフィルタに入力します。図1のLCローパスフィルタは、受動的な積分器として動作し(フィルタのカットオフ周波数が、出力段のスイッチング周波数に対して、少なくとも1桁低いと仮定します)、フィルタの出力では方形波の平均値に等しい値が得られます。また、ローパスフィルタであることで、高周波のスイッチングエネルギーが抵抗性負荷で消費されることも防ぎます。ここで、フィルタリング後の出力電圧(VO_AVG)と電流(IAVG)が、1回のスイッチング期間において一定であると仮定します。fSWが、オーディオ入力の最も高い周波数よりはるかに高いことから、これはかなり正確な仮定です。これにより、デューティサイクルとフィルタリング後の出力電圧との関係は、インダクタ電圧とインダクタ電流の単純な時間領域解析で導くことができます。

インダクタを流れる瞬間的な電流は、次式で表されます。

Equation 1

ここでVL(t)は、図1に示す極性で表わしたインダクタの両端の瞬間的な電圧です。

負荷に流れる平均電流(IAVG)は、1回のスイッチング周期において一定であると仮定されているため、スイッチング周期(TSW)の始まりのインダクタ電流は、図3に示すように、スイッチング周期の最後のインダクタ電流と等しくならなければなりません。 これを数学的に表現すると、次式のようになります。

Equation 2

Figure 3. Filter inductor current and voltage waveforms are shown for a basic half-bridge Class D amplifier.
図3. 基本的なハーフブリッジD級アンプにおけるフィルタのインダクタに流れる電流と電圧の波形

式2は、1回のスイッチング周期についてインダクタ電圧を積分すると0にならなければならないことを表わしています。式2を用いて図3に示すVL(t)波形を考察すると、式2が成立するためには、面積(AONとAOFF)の絶対値が互いに等しくなければなりません。これにより、フィルタリング後の出力電圧をスイッチング波形のデューティ比によって表すことができます。

Equation 3

式4と式5を式3に代入すると、次式が得られます。

Equation 6

これをVOについて解くと、次のようになります。

Equation 7

ここで、Dは出力スイッチング波形のデューティ比です。

フィードバックによる性能改善

D級アンプの多くは、PWM出力をデバイス入力に戻す負帰還を利用します。閉ループを構成するとデバイスの直線性が向上するとともに、デバイスの電源除去比が高くなるというメリットがあります。これに対し、開ループアンプは、本質的に(あったとしても)最小限の電源除去比しか得られません。閉ループの方式では、出力波形を検出し、アンプの入力へフィードバックするために、電源電圧の変動が出力で検出され、制御ループによって補正されることになります。ただし、このような閉ループ設計のメリットは、フィードバックを利用するすべてのシステムと同じく、安定度の問題を犠牲にする可能性がついてきます。つまり、どのような動作条件でも十分な安定度が得られるように、制御ループを注意深く設計し、補償しなければならないのです。

通常のD級アンプでは、パルス幅変調器の非直線性と出力段、電源電圧変動による帯域内ノイズを大きく減らすことができるノイズシェーピング型のフィードバックループを使用し動作します。この方式は、シグマデルタ変調器で使われるノイズシェーピングとほぼ同じです。このノイズシェーピング機能を説明するため、図4に、1次のノイズシェーピングの簡略化したブロックダイアグラムを示します。フィードバック回路は、一般に、抵抗分圧器を使ったネットワークとしますが、簡単にするため、図4の例ではフィードバック比を1としています。理想的な積分器は利得が周波数に反比例するため、この積分器の伝達関数は1/sという簡単な形になります。また、PWMブロックはユニティゲインであり、かつ、制御ループに対する位相シフトがゼロであると仮定します。基本的な制御ブロックの解析から、出力を表す次式が得られます。

Equation 8

Figure 4. A control loop with 1st-order noise shaping for a Class D amplifier pushes most noise out of band.
図4. 1次のノイズシェーピングの制御ループをD級アンプに付加し、ノイズの大半を帯域外に押し出します。

式8では、ノイズ項En(s)にハイパスフィルタ関数(ノイズ伝達関数)が掛けられており、入力項、VIN(s)にはローパスフィルタ関数(信号伝達関数)が掛けられています。このノイズ伝達関数のハイパスフィルタ応答がD級アンプのノイズとなります。出力フィルタのカットオフ周波数を適切に選べば、このノイズの大半を帯域外に押し出すことができます(図4)。この例では1次のノイズシェーピングとしましたが、最近のD級アンプは高次のノイズシェーピングを利用し、直線性と電源除去比のさらなる最適化を図っています。

D級方式—ハーフブリッジ 対 フルブリッジ

D級アンプの中には、フルブリッジ出力段を持つものも数多く存在します。フルブリッジでは、ふたつのハーフブリッジ段を使って負荷を差動駆動します。このような負荷の接続方法は、一般に、ブリッジ接続負荷(BTL)と呼ばれます。図5に示すように、フルブリッジ構成は、負荷を導通経路を交互に切り替えるように動作します。これにより、負電源を用意したり、DC成分をブロックするコンデンサを用意することなく、負荷に正負両方向の電流を流すことができます。

Figure 5. A traditional full-bridge Class D output stage uses two half-bridge stages to drive the load differentially.
図5. 従来のフルブリッジD級アンプの出力段では、2つのハーフブリッジ段を用い、負荷を差動駆動します。

図6は、従来のBTL接続PWM型D級アンプの出力波形です。図6からわかるように、互いに補完する形の出力波形となっており、負荷の両端にPWM信号が差動的に加わります。この場合も、ハーフブリッジ型方式と同じように出力へLCフィルタを外付けし、低周波のオーディオ信号を取り出すとともに高周波エネルギーが負荷で消費されないようにする必要があります。

Figure 6. Traditional full-bridge Class D output waveforms complement each other, thus creating a differential PWM signal across the load.
図6. 従来のフルブリッジD級アンプの出力波形は互いに補完し、負荷の両端に差動のPWM信号が印加されます。

フルブリッジD級アンプは、AB級のBTLアンプと同じメリットを持つ上、電力効率が高いという特長があります。BTLアンプの第一のメリットは、単一電源動作時に、DC成分をブロックするコンデンサが出力に必要ないという点です。ハーフブリッジアンプの場合は、出力がVDDとグランドの間で変化し、アイドル時にはデューティサイクルが50%となるため、同様にはいきません。出力にVDD/2というDCオフセットが現れるということです。フルブリッジアンプとすると、このオフセットが負荷の両側に発生するため、出力に流れるDC電流はゼロになります。第二のメリットは、負荷を差動駆動するため、電源電圧が同じなら、ハーフブリッジアンプに対して倍の出力信号スイングが得られる点です。これはつまり、同じ電源電圧で動作するハーフブリッジアンプに対し、理論上、4倍の最大出力が得られることを意味します。

しかし、フルブリッジのD級アンプとするためには、ハーフブリッジ方式に対して倍の数のMOSFETスイッチが必要になります。一般にスイッチ数が増えるほど伝導損失とスイッチング損失が大きくなることから、これをフルブリッジアンプのデメリットだと考える人もいます。しかし、これは、出力電流と電源電圧の両方が大きい高出力のパワーアンプ(10W以上)においてのみです。このためハーフブリッジアンプは、いくぶん高効率なために、高出力アプリケーションでよく採用されます。高出力のフルブリッジアンプは、一般に、8Ω負荷に対して、80%から88%という電力効率を示します。それに対し、MAX9742などのハーフブリッジアンプは、8Ω負荷でチャネル当り14W以上の出力を出した場合でも、90%以上の電力効率を実現することができます。

出力フィルタの省略—フィルタレス変調方式

従来のD級アンプが抱える大きな問題は、LCフィルタを外付けしなければならない点です。これは、ソリューションのコストを押し上げ、実装面積が必要になるだけでなく、フィルタ部品の非直線性によって歪みが発生する可能性も出てきます。幸いなことに、最近のD級アンプでは最新の「フィルタレス」変調方式によって、外部フィルタを省略できるか、少なくとも最小にできるようになりました。

図7は、MAX9700のフィルタレス変調器方式の簡略化したファンクションダイアグラムです。従来のPWM BTLアンプと異なる点は、ハーフブリッジごとに専用コンパレータが用意され、それぞれの出力を独立に制御できるようになっていることです。変調器は、差動オーディオ信号と高周波ののこぎり波によって駆動されます。両方のコンパレータの出力がともにローであるとき、D級アンプの出力は両方ともハイになります。同時に、NORゲートの出力がハイになりますが、RONとCONによるRC回路で遅延を行っています。NORゲートの遅延出力が定められたスレッショルドを越えると、スイッチ、SW1とSW2が閉じます。この結果、OUT+とOUT-がローになり、次のサンプリング周期が始まるまで、ローの状態が保たれます。この方式では、両方の出力が、RONとCONによって決まる最短時間(tON(MIN))の間、オンになります。図8に示すように、入力信号がゼロのときは、出力は、tON(MIN)に等しい、同相のパルス幅になります。入力のオーディオ信号が増加、あるいは減少すると、一方のコンパレータがもう一方よりも先に遷移します。この動作と最小オンタイム回路により、一方の出力のパルス幅を変化させると同時に、もう一方の出力のパルス幅をtON(MIN)に保ちます(図8)。言い換えると、それぞれの出力の平均値には、出力オーディオ信号を半波整流したものが含まれていることになります。それぞれの出力の平均値の差分をとれば、完全な出力オーディオ波形が得られます。

Figure 7. This simplified functional diagram shows the MAX9700's filterless Class D modulator topography.
図7. MAX9700のフィルタレスD級変調器方式の簡略化したファンクションダイアグラム

Figure 8. The input and output waveforms are shown for the MAX9700's filterless modulator topography.
図8. MAX9700のフィルタレス変調器方式の入力波形と出力波形

MAX9700の出力は、アイドル時、同相信号となるため、負荷には差動電圧が印加されず、外付けフィルタなしで自己消費電力を最小限に抑えることができます。マキシムのフィルタレスD級アンプは、出力からオーディオ信号を取り出すために、外付けLCフィルタに頼るのではなく、スピーカ負荷が持つインダクタンスと人の耳によってオーディオ信号を取り出す形となっています。スピーカの電気抵抗(RE)とインダクタンス(LE)により、次式のカットオフ周波数を持つ1次のローパスフィルタを構成します。

Equation 9

ほとんどのスピーカにおいて、この1次の減衰で十分にオーディオ信号を復元することができ、スピーカの電気抵抗で消費される高周波スイッチングエネルギーが過剰になることも避けられます。減衰しきれなかったスイッチングエネルギーがスピーカを動かすことがあっても、その周波数は人間の可聴周波数外であり、聴感に影響を与えることはありません。フィルタレスのD級アンプを使用する場合、高い出力を得るためには、アンプのスイッチング周波数においてスピーカが誘導性負荷である必要があります。

スペクトラム拡散変調方式によりEMIを最小化

フィルタレス動作が抱える問題点は、スピーカケーブルからEMI放射が発生する可能性がある点です。D級アンプの出力波形は高速過渡エッジの高周波数の方形波であるため、出力スペクトラムには、スイッチング周波数とその整数倍の周波数のところに大きいスペクトルエネルギーがあります。デバイス近傍に外付け出力フィルタがないため、この高周波エネルギーがスピーカケーブルから放射される可能性があります。マキシムのフィルタレスD級アンプでは、スペクトラム拡散変調と呼ばれる技術によってEMI問題の可能性を軽減しています。

スペクトラム拡散変調方式では、D級アンプのスイッチング周波数をディザリングまたはランダムに変化させます。スイッチング周波数は、通常、定格スイッチング周波数の最大±10%の範囲で変化させます。スイッチング波形は、サイクルごとにランダムに変化させても、デューティサイクルは影響されないため、スイッチング波形に含まれるオーディオ成分は変化しません。図9a図9bは、スペクトラム拡散変調の効果を示すMAX9700の広帯域の出力スペクトラムです。通常は、スペクトルエネルギーがスイッチング周波数およびその高調波に集中するのですが、スペクトラム拡散変調では、出力信号のスペクトルエネルギーが効果的に拡散されます。つまり、出力スペクトラム中に含まれるエネルギーの総量に変化はありませんが、全体のエネルギーが、より広い帯域に分散されます。この結果、出力に生まれる高周波エネルギーのピークが低くなり、スピーカケーブルからEMIが放射される可能性も最小にします。スペクトラム拡散変調としたことによって、スペクトラムノイズの一部がオーディオ帯域に混入する可能性はありますが、混入したノイズは、フィードバックループのノイズシェーピング機能によって抑止されます。

Figure 9a. The wideband output spectrum is shown for the MAX9700 using a fixed switching frequency.
図9a. 固定スイッチング周波数動作のMAX9700の広帯域出力スペクトラム

Figure 9b. Spread-spectrum modulation redistributes the spectral energy of the MAX9700 over a wider bandwidth.
図9b. スペクトラム拡散変調によりMAX9700のスペクトルエネルギーが広い帯域に拡散

マキシムのフィルタレスD級アンプの多くは、スイッチング周波数を外部クロック信号に同期させることができます。この機能を活用すれば、アンプのスイッチング周波数を影響を受けにくい周波数帯に設定することができます。

スペクトラム拡散変調は、フィルタレスD級アンプのEMI性能を大幅に高めますが、FCCやCEで規定された放射基準に適合できるスピーカケーブルの長さには一定の限界があります。スピーカケーブルが長すぎて放射試験に合格できない場合には、出力波形の高周波成分をさらに減衰させるため、外付け出力フィルタが必要になる場合もあります。スピーカケーブルがそれほど長くない一般的なアプリケーションでは、フェライトビーズ/コンデンサによるフィルタを出力に追加すれば十分です。EMI性能はレイアウトの影響も大きいため、FCCやCEのレギュレーションを満足するためには、PCBレイアウトのガイドラインにも厳密に従う必要があります。

まとめ

最近のD級変調技術の進歩で、今までリニアアンプの優勢だったアプリケーションでもD級アンプが使われるようになりました。現代のD級アンプは、高い電力効率に加えて、AB級アンプの特長(高い直線性と少ない実装面積)も、すべて、持つようになりました。現在、さまざまなアプリケーションに適したいろいろな種類のD級アンプが提供されています。バッテリ寿命、実装面積要求とEMI適合が重視される低電力のポータブルアプリケーション(携帯電話やノートパソコンなど)から、ヒートシンクの小型化と発熱量の削減が非常に重要となる高出力アプリケーション(車載オーディオシステムやフラットパネルディスプレイなど)まで、さまざまなアプリケーションがあります。D級アンプの基本の理解とその今日の技術的発展を理解すれば、アプリケーションに適したアンプを選び、それぞれが持つメリットとデメリットを正しく比較検討できるようになるでしょう。

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