アプリケーションノート 3952

低コスト、低部品数のGPSレシーバの設計


要約: L1帯GPS衛星からの信号は、商用や私用の無線機器分野で最も微弱な信号となるものです。GPSレシーバのアンテナにおける受信出力は、積分熱雑音フロアに完全に埋もれてしまうレベルです。そうした微弱な信号を正しく復調するためには、レシーバが十分な高感度を備えるとともに、帯域外干渉を除去する必要があります。このアプリケーションノートでは、低コスト、低部品数の自律型商用GPSレシーバの設計に当たって考慮すべき、主要なシステムパラメータについて解説します。このシステムは、受信感度-139dBmを目標にしています。

GPS (Global Positioning System:全世界測位システム)は、米国防総省によって設計され資金提供されている、衛星ベースの高度なナビゲーションシステムです。このシステムは、地球の周りで常にその位置と時刻を放送している24個の衛星で構成されています。これらの衛星は6種類の軌道のいずれかを通って移動しており、通常は1つの軌道上に4個の衛星が存在します。地上のGPSレシーバは、5個から12個の範囲の衛星信号を受信することが可能です。地上の位置確定を捕捉するためには、少なくとも4個の衛星の信号が必要となります。3つはGPSレシーバの緯度、経度、高度の計算に使用され、第4の信号は同期のための正確な時刻を提供します[1]。

図1に示すように、各衛星は2つのユニークなDSSS (direct-sequence spread-spectrum:ダイレクトシーケンススペクトラム拡散)信号を、2種類の搬送波周波数で送信しています。スペクトラム拡散テクノロジーを使用しているのは、狭帯域干渉に対する高度な防御方法を提供するためです。第1の搬送波周波数はL1帯(中心周波数1575.42MHz)に属し、もう1つはL2帯(中心周波数1227.6MHz)に属しています。民間利用を目的とするL1帯には、2つの信号が含まれています。1つはC/A (coarse acquisition)コード、もう1つはP (precision code)コードと呼ばれるものです。軍事利用のみを目的とするL2帯では、Pコードだけが搬送されています。24個のL1衛星信号は、アップコンバートと送信後においては、それぞれが32種類の全く異なったPRN (Pseudo-Random Noise:疑似ランダム雑音)コードの中の唯一のコードを使って2.046MHzの帯域幅にわたって拡散(符号化)されることにより、互いに干渉することなく全ての信号が同じ周波数を占有することができます。

Figure 1. P code and C/A code GPS signals in the L1 and L2 bands.
図1. L1帯およびL2帯のPコードとC/AコードのGPS信号。

PRNコードを使用したGPS信号の拡散によって、個々の衛星信号が他から区別されるだけでなく、干渉からも保護されます。干渉に対する耐性は、システムのプロセスゲインに大きく依存します。プロセスゲインが高いほど、GPS信号は広帯域に拡散されます。広い帯域幅に信号が拡散することで、狭帯域干渉によるデータ破損範囲が、希望信号のごく一部だけにとどまります。逆拡散(despreading)処理の後では、狭帯域干渉波が拡散されてしまいます。GPSアプリケーションの場合、各PRNコードシーケンスは1023bit長であり、1.023Mbpsの速度で信号の拡散を行います[2]。処理利得は、次式で定義されます。

処理利得 = 10 log (チップレート/データレート) = 43dB (式1)

ただし、(このアプリケーションの場合は)チップレート = 1.023Mcps、データレート = 50bps です。

逆拡散されたGPS信号の品質によってGPSレシーバの精度が決まり、ビット誤り率(bit-error rate:BER)の結果によって定量化されます。ベースバンドプロセッサが10-5のBERを要求するものと想定すると、それに対するBPSK変調を使用した相関器以降のEb/N0値は9.5dBに達します(AWGN環境下) [3]。Eb/N0は、スペクトル雑音密度に対するbit当たりのエネルギーの比として定義されます。相関器以降で必要なEb/N0値9.5dBから処理利得の43dBを減算すると、相関器入力における信号対ノイズ比(signal-to-noise ratio:SNR)は-33.5dBになります。ソフトウェアGPSの実装損失を3.5dBと想定すると、量子化器の入力において必要なSNR (SNRQUANTIZER)は-30dBとなります。2.046MHzのサンプル帯域幅にわたって、統合雑音電力(kTB, T = +290°K)は約-111dBmでした。目標である-139dBmの感度を達成するために必要となるカスケード受信雑音指数(NF)は、アンテナにおけるSNR (SNRANTENNA = -139dBm/-111dBm)の-28dBと、SNRQUANTIZERの-30dBとの差になります。

NF = SNRANTENNA - SNRQUANTIZER = -28dB - (-30dB) = 2dB (式2)

GPSアプリケーションが、統合ソリューションの一部として携帯電話やその他のパーソナルハンドヘルドデバイスに内蔵されるようになると、同一ユニット内で隣接する応用回路によって引き起こされる干渉の許容範囲が大きな問題になってきました。この許容範囲の特性を調べる方法の1つは、レシーバの-1dB減感点を測定するというものです。たとえば、GPSと同時に動作するデュアルバンドCDMA携帯電話を考えてみましょう。標準的なCDMAのパワーアンプにおける送信出力は+25dBmです。トリプレクサとGPSバンドパスフィルタのトポロジによる帯域外(out-of-band:OOB)信号のトータルアイソレーションを70dBと想定すると、GPSレシーバは-45dBmのOOB妨害電波レベルに耐える必要があります。

コストとサイズを削減するため、多機能デバイスの設計に当たって、ほとんどのメーカーは単一の共通リファレンス周波数を使いたいと考えます。しかし、従来型のGPSレシーバは16.36MHzのリファレンス周波数でのみ動作します。設計するGPSレシーバが単独のユニットであれば、柔軟なリファレンス入力は必要ありません。しかし、今日のハンドヘルドデバイスは、10.0MHz、13MHz、14.4MHz、19.2MHz、20.0MHz、26.0MHzなど、様々なリファレンス周波数を必要とします。したがって、コストの削減とサイズの縮小が重要である場合、柔軟なリファレンス入力を備えたGPSレシーバがそれらのデバイスにとって好都合になります。

これら3つの要件をすべて満たすGPSレシーバICの1つが、MAX2741です。このデバイスにはシンセサイザが内蔵されており、2MHz~26MHzのリファレンス周波数を受け入れることで柔軟な周波数設定を提供します。外付けLNAとの組み合わせで、MAX2741は2dB未満のカスケードNFを実現します。また、800MHzの携帯電話帯と1800MHzのPCS帯の妨害電波について-37dBmという-1dB減感レベルを維持することによって、-45dBmのOOB妨害要件も満足します。

従来、GPSレシーバ内における、受信したPRNコードから1組の既知のPRNコードへの相関処理は、専用のGPSベースバンドプロセッサICによって行われてきました。ソフトウェアGPSテクノロジーのブレークスルーによって、相関と計算の作業をアプリケーションプロセッサ内に格納したソフトウェアで代行することが可能になります。専用ベースバンドプロセッサの排除によって、GPSソリューションのコストが劇的に低下するだけでなく、サイズも一気に小型化します。

MAX2741とソフトウェアGPSの組み合わせによって、-139dBmの感度を達成可能な、低コスト、低部品数の自律型商用GPSレシーバの設計が実現します。

同様の記事が、Electronic Products誌の2006年2月号に掲載されています。

参考文献

  1. J. Meel著 「Spread Spectrum (SS)」 第2版、De Nayer試験所、1999年12月発行。
  2. Darius Plausinaitis著 「GPS and Other GNSS Signals」、オールボー大学電子システム学科、2006年10月発行。
  3. R. E. Ziemer/W. H. Tranter共著 「Principles of Communications」 第4版、John Wiley & Sons, Inc.、1994年12月発行。

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