アプリケーションノート 3884

RS-485の長距離化と高速化はどこまで可能か?


要約: 産業用データ通信システムの設計者から、次のような質問が良く出ます。マルチドロップの中速度シリアルデータ通信の実装の中で、最もコスト効率に優れたものは何か? どの程度の距離で、どの程度のデータ速度まで高い信頼性で実現することができるか、その方法は?設計上のトレードオフは常に、短い距離で高い速度か、長い距離で低い速度か、という選択でした。したがって最も重要な質問は、所定のデータ速度でどのくらいの距離まで信頼性のあるデータの送受信が可能か、ということになります。MAX3469を使用して、RS-485の性能を実証します。

はじめに

RS-232からギガビットEthernet、さらにその上まで、様々なシリアルデータ通信プロトコルが存在します。各プロトコルはそれぞれ特定のアプリケーションに適したものですが、すべての場合において、物理(PHY)層のコストと性能を考慮する必要があります。この記事では、RS-485プロトコルおよび同規格に最も適するアプリケーションに焦点を絞ります。また、ケーブル敷設、システム設計、および部品選択の関数という形で、データ速度を最適化する方法を示します。

プロトコルの定義

RS-485とは何か?Profibusとは何か?それらは他のシリアルプロトコルと比べてどのような違いがあり、どんなアプリケーションに最も適するのか?こうした質問に答えるために、以下の概説ではRS-485 PHYの特徴と能力をRS-232およびRS-422と比較します。[1] (この記事全体を通して、RSはそれぞれに該当するANSI EIA/TIA規格を指します。)

RS-232は、モデム、プリンタ、およびその他のPC周辺機器の通信規準として始まった規格です。ボーレート最大20kbpsのシングルエンドチャネルを提供し、後に1Mbpsに拡張されました。RS-232のその他の仕様としては、公称±5V送信および±3V受信(スペース/マーク)、コモンモード除去2V、最大ケーブル負荷容量2200pF、最大ドライバ出力抵抗300Ω、最小レシーバ(負荷)インピーダンス3kΩ、および最大ケーブル長100ft (typ)などとなっています。RS-232システムはポイントトゥポイントであり、マルチドロップには対応していません。あらゆるRS-232システムは、これらの制約を受け入れる必要があります。

RS-422は、電気的ノイズの多い産業環境向けの、単方向、全二重の規格です。単一のドライバと複数のレシーバが規定されています。信号経路は差動型であり、50Mbps以上のビットレートに対応します。レシーバのコモンモード範囲は±7V、ドライバの出力抵抗は最大100Ωであり、レシーバの入力インピーダンスは最低4kΩまで対応します。

RS-485規格

RS-485は、複数の「バス接続された」ドライバとレシーバを特徴とする、双方向、半二重の規格であり、各ドライバはバスを放棄することができます。すべてのRS-422仕様に適合していますが、より頑強です。より高いレシーバ入力インピーダンスと、より大きなコモンモード範囲(-7V~+12V)に対応しています。

レシーバの入力感度は±200mVであり、すなわちマークまたはスペースを認識するためには、レシーバに+200mV以上または-200mV以下の信号レベルが印加される必要があります。レシーバの入力インピーダンスは最低12kΩ、ドライバの出力電圧は最小で±1.5V、最大で±5Vです。

駆動能力は32単位負荷、すなわち32個の12kΩレシーバを並列に駆動することができます。レシーバの入力インピーダンスがこれより高い場合は、1つのバス上の単位負荷の数を増やすことができます。ドライバにかかる組合せ(並列)負荷が32単位負荷(375Ω)を超えないという条件で、任意の数のレシーバをバスに接続することが可能です。

ドライバの負荷インピーダンスは最大54Ωであり、これは標準的な24AWGツイストペア環境において、2つの120Ω終端抵抗と並列な32単位負荷に相当します。RS-485は、POS、産業、および電気通信の各アプリケーションに最適な選択肢です。広いコモンモード範囲によって、より長いケーブル上および工場のフロアのようなノイズの多い環境でのデータ転送が可能になっています。また、レシーバの入力インピーダンスが高いことで、より多くのデバイスをライン上にドロップ可能です。

ProfibusとFieldbus[2]は、主として産業プラントで使用されているバスであり、RS-485の拡張版です。これらのプラント配線システムは、センサの計測、アクチュエータの制御、データの収集と表示、およびプロセス制御システムとセンサ/アクチュエータ網とのデータ通信の管理を行います。

注:旧式および既存の産業プラントには複雑な配線インフラが敷設されており、リプレースは困難です。

ProfibusとFieldbusは、システム全体を規定しています。RS-485は、それらをサポートするネットワークのPHY層に関する規格です。ProfibusとFieldbusの仕様は若干異なります。Profibusは、RL = 54Ωで最低2.0Vの差動出力電圧を要求します。Fieldbusは、RL = 54Ωで最低1.5Vの差動出力電圧を要求します。Profibusの転送速度が12Mbpsであるのに対し、Fieldbusは500kbpsです。スキューと容量に関する許容値は、Profibusアプリケーションの方が厳しくなります。

それぞれのプロトコルに最適な用途は?

  • RS-232:モデム、プリンタ、その他のPC周辺機器との通信。標準的な最大ケーブル長は100ftです。
  • RS-422:単一のバスマスタ(ドライバ)を必要とする産業環境。典型的なアプリケーションとして、プロセスオートメーション(化学製品、醸造、製紙)、ファクトリオートメーション(自動車、金属加工)、空調、セキュリティ、モータ制御、モーション制御などがあります。
  • RS-485:2つ以上のバスマスタ/ドライバを必要とする産業環境。典型的なアプリケーションはRS-422と同様で、プロセスオートメーション(化学製品、醸造、製紙)、ファクトリオートメーション(自動車、金属加工)、空調、セキュリティ、モータ制御、モーション制御などがあります。

RS-485のデータ速度を制限する要素には何があるか?

次に示す要素が、所定のデータ速度でどのくらい遠くまで信頼性を維持して送信できるかに影響します。
  • ケーブル長:一定の周波数において、信号は長さの関数の形でケーブルによって減衰されます。
  • ケーブルの構造:Cat5 24AWGツイストペアは、RS-485システムで使用される非常に一般的なケーブルタイプの1つです。ケーブルにシールドを追加することでノイズ耐性が強化され、それによって一定の距離におけるデータ速度が増大します。
  • ケーブルの特性インピーダンス:分布容量と分布インダクタンスはエッジを鈍らせ、ノイズマージンを減少させ「アイパターン」を劣化させます。分布抵抗は信号レベルをじかに減衰させます。
  • ドライバの出力インピーダンス:高すぎると、ドライバの能力が制限されます。
  • レシーバの入力インピーダンス:低すぎると、ドライバが扱えるレシーバの数が制限されます。
  • 終端:長いケーブルは送電線のような動作を示す場合があります。ケーブルをその特性インピーダンスで終端することにより、反射が減少し、実現可能なデータ速度が増大します。
  • ノイズマージン:大きいほど良好です。
  • ドライバのスルーレート:エッジが鈍い(スルーレートが低い)ほど、より長いケーブル上での伝送が可能になります。

いくつかの経験的データ

以上の背景知識を踏まえて、次に図1のような実際の配線システムを考えてみましょう。図に示したケーブルは、RS-485システムで最も一般的なものの1つであるEIA/TIA/ANSI 568 Cat5ツイストペアです。ケーブル長300ft~900ftに対して得られたデータ速度は、1Mbps~35Mbpsの範囲です。

図1. テストの機器構成
図1. テストの機器構成

システム設計者は2つの競合するメーカの製品からドライバとレシーバを選択することが多いのですが、ほとんどの設計者の主な関心は、RS-485ドライバがどのくらいの距離までどのくらいの速度で信号を駆動できるかという点にあります。マキシム製ドライバ(この例ではMAX3469)と、それに相当する別のメーカ製のドライバの性能を、図2および3に示します。

図2. 特定のビットレートとケーブル長におけるジッタのグラフ。ジッタは±100mVの差動で測定しています。
図2. マキシム製MAX3469に相当するRS-485ドライバデバイスのアイパターン[3]

図3. 特定のビットレートとケーブル長におけるジッタのグラフ。ジッタは0Vの差動で測定しています。
図3. マキシム製MAX3469のアイパターン

ドライバの差動出力を観察することによって、信号の完全性をテストします。80mVと-400mVのスレッショルド間のトリガポイントを探すようにオシロスコープを設定してください(レシーバの入力範囲が20mV~-200mVであることから、それにノイズマージンを加味してこの2つのスレッショルドを選択しました)。次に、パルス(ビット)が「合体」し始めた時点で、シンボル間干渉(ISI)と呼ばれるパラメータに対する歪み、ノイズ、および減衰の全体的寄与を、アイパターンを使って判定してください。

ISIによって、パルス間が十分識別可能になるレベルまでビットレートを低下させなくてはならない事が判断できます。図1の回路に対するテストでは、トリガポイントとアイパターンの間に一貫した明らかな相関関係が見られます。National Semiconductor社のアプリケーションノート977[4]で説明されている手法で測定すると、このアイパターンは50%のジッタを示しています。0V差動および±100mV差動でジッタを測定すると、図4および5に示すデータが得られます。

図4. マキシム製MAX3469に相当するRS-485ドライバデバイスのアイパターン.[4]
図4. 特定のビットレートとケーブル長におけるジッタのグラフ。ジッタは±100mVの差動で測定しています。

図5. マキシム製MAX3469のアイパターン
図5. 特定のビットレートとケーブル長におけるジッタのグラフ。ジッタは0Vの差動で測定しています。

与えられたポイントトゥポイント接続について、特定のケーブル長に関連づけられたビットレートを、±100mV差動(図4)または0V差動(図5)で図示することができます。200mV以上の差動信号で正しくスイッチすることが分かっているため、+100mVと-100mVのスレッショルドによって、レシーバが正しくスイッチすることを保証することができます(図5のデータは、0V差動入力でスイッチする理想的なレシーバにのみ当てはまります)。

アイダイアグラムと障害モード

39Mbps、340ftのCat5ケーブルという条件で、図2のドライバの出力は信号が目の中心を通るアイパターンを示します。この状況は、ビットエラーの可能性を示しています。しかしマキシム製デバイスは、同じデータ速度でもそうした状況は示しません(図3)。マキシム製のトランシーバは、対称形の出力エッジと低い入力容量によって、より良い性能を提供します。

この2つのドライバは、上で説明したテストに関しては同等品です。しかし、より高いデータ速度とより長いケーブル上では、マキシムのドライバの方がより頑強です。図5は、マキシムの部品がポイントトゥポイントネットワークにおいてどの程度の速度でどの程度の距離データを駆動することができるかという評価を提供しています。経験的に、ビットエラーの出現は50%のジッタ上限にほぼ対応しています。

様々なソースによる研究データ

業界全体で一般に受け入れられている距離とデータ速度の最大値は4000ftと10Mbpsですが、(もちろん)両方同時に成立するわけではありません。しかし、最新のデバイスと慎重なシステム設計を組み合わせることによって、より長いケーブル上でより高いスループットを実現することができます。

プリエンファシス[5]はデータ速度と距離の関係を改善する技術であり、RS-485通信に適用可能です(図6)。ドライバのプリエンファシスやレシーバのイコライゼーションがないRS-485のトランシーバは、1700ftのケーブル上で1Mbpsの固定データ速度で動作させたとき、一般に10%のジッタを伴います。そのデータ速度でドライバのプリエンファシスを追加すると、ジッタを増やさずに距離を倍の3400ftに伸ばすことができます。逆に、プリエンファシスによって一定の距離でのデータ速度を増大させることも可能です。プリエンファシスなしで400kbpsで動作するドライバは、一般に4000ftで10%のジッタを伴います。プリエンファシスを追加することによって、その距離で最大800kbpsの送信が可能になります。

図6. データ速度とケーブル長の関係。
図6. データ速度とケーブル長の関係。

信頼性のある伝送が可能な最大ケーブル長を計算するもう1つの方法は、Cat5ケーブルのメーカが提供している減衰と周波数の関係を示す表を使うというものです。許容できる減衰の一般的規準は、ケーブル全長で-6dBVというものです。この値を、メーカの減衰データと組み合わせることで、特定の周波数について最大ケーブル長を計算することができます。

ヒントと秘訣

入手可能なRS-485トランシーバは、システム性能を向上させるいくつかの機能を備えています。
  • プリエンファシス(前述):シンボル間干渉を低減します。
  • 単位負荷低減レシーバ:1/8単位負荷までの低負荷デバイスが利用可能であり、1つのバス上に最大256個のデバイスを接続することが可能です。そうしたデバイスは、バス負荷の軽減も可能にし、ひいては、より長いケーブルまたはより高いデータ速度が可能になります。
  • 高速デバイス:現在入手可能なドライバは、最高52Mbpsのデータ速度が可能になっています。これは、低伝搬遅延と低スキューに特別な配慮を行うことで実現されています。
  • ESD防護:これはデータ速度の強化にはなりませんが、確実に動作するシステムとデータ速度ゼロの(壊れた)システムとの差を分ける可能性があります。入手可能なデバイスは、最大±15kVまでの組込みのESD防護を提供しています。
  • 適切な配線[6]:RS-485は差動伝送を規定しており、それにはグランド線に加えて、信号を送信するための2本の信号線(一般には24AWGツイストペア)が必要になります。2本の信号線は極性が反対の信号を搬送するため、放射EMIとEMI干渉の問題が大幅に減少します。この配線の一般的な特性インピーダンスは120Ωですが、これは反射その他の送電線効果を除去するために、ケーブル両端の終端に使用する抵抗値でもあります。図7および8に、適切に配線されたシステムを示します。
図7. 単一送信/単一受信ネットワーク
図7. 単一送信/単一受信ネットワーク

図8. 複数トランシーバネットワーク
図8. 複数トランシーバネットワーク

結論

このように、RS-485ネットワークは電気的ノイズの多い環境で信頼できるデータ伝送を実現することができます。データ速度とケーブル長の間のトレードオフを考慮することによって、数百メートルのケーブル上で(かつリピータなしで) 50Mbpsを超えるデータ速度を実現するシステムを設計することができます。

類似の記事がPlanet Analog onlineに2005年6月8日付けで掲載されています。

参考文献
  1. より全般的な情報については、マキシムのアプリケーションノート736「RS-485 Differential Data Transmission System Basics」参照。
  2. マキシムのアプリケーションノート1833「Using RS-485/RS-422 Transceivers in Fieldbus Networks」。
  3. Texas Instruments社のデータブック「Data Transmission Circuits, Vol. 1」(1995/1996年)、pp. 4-9~4-24、および4-37~4-48参照。
  4. National Semiconductor社のアプリケーションノート977「LVDS Signal Quality: Jitter Measurements Using Eye Patterns Test Report #1」参照。
  5. より詳しい説明は、マキシムのアプリケーションノート643「Preemphasis Improves RS-485 Communications」参照。
  6. マキシムのアプリケーションノート763「Guidelines for Proper Wiring of an RS-485 Network」参照。
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