アプリケーションノート 3881

D級アンプの電磁波妨害を最小限にするスペクトラム拡散変調モード


要約: このアプリケーションノートでは、クラスD (スイッチモード)アンプに関する2つの異なる技術について考察します。すなわち、パルス幅変調(PWM)とスペクトラム拡散変調です。通常、PWMのクラスDアンプには、レイルトゥレイルに近いスイングや高速スイッチング周波数によって生じる電磁波妨害(EMI)を低減するために高価で大きなフィルタリング部品が必要です。しかし、現在では、クラスDアンプのためのスペクトラム拡散変調技術によって、設計者は、オーディオ性能やアンプの効率を損なうことなくこれらのフィルタリング部品を不要にすることができます。

はじめに

クラスDアンプは、クラスABアンプよりも高効率であるため、ポータブルオーディオのアプリケーションの設計者にとって魅力的なアンプです。ただし、従来のPWMクラスDアンプでは、電磁波妨害を低減するために、大きな高価なフィルタリング部品が必要であり、一部の設計者はクラスDアンプをポータブルアプリケーションに利用することができませんでした。マキシムのクラスDアンプのためのスペクトラム拡散変調技術を使えば、設計者はオーディオ性能やアンプの効率を損なうことなくこれらのフィルタリング部品を不要にすることができます。この結果、高効率のクラスDアンプをポータブルオーディオのアプリケーションに容易に採用することができるようになります。

従来のパルス幅変調アンプのトポロジ

図1は、標準的なPWMのブリッジ接続負荷(BTL)のクラスDアンプのトポロジを示します。標準的なPWM方式は、内部で生成されたのこぎり波を入力段の基準として利用します。コンパレータはアナログ入力電圧を監視してのこぎり波と比較します。のこぎり波の入力の大きさが入力電圧を超えると、コンパレータの出力がローになります。コンパレータの出力端でインバータを利用することで、BTL出力の第2区間にて相補PWM波形を生成します。

レイルトゥレイルに近いスイングや高速スイッチング周波数によって高周波(RF)の放射と妨害が生じるおそれがあるため、PWMアンプは通常、出力に大きなフィルタリング部品が必要となります。この高周波干渉を低減して、PWM信号のデューティサイクルからオーディオ成分を取り出すには、通常、LCフィルタが必要です。

図1. 従来のパルス幅変調のトポロジ
図1. 従来のパルス幅変調のトポロジ

スペクトラム拡散変調アンプのトポロジ

高価で大きな出力LCフィルタを採用しなくてもすむ代替の方法は、アンプが高効率を維持しつつEMIが低減するようなスイッチングプロセスに変更するという方法です。マキシムのクラスDアンプは、まさにこの目標を達成しています。このアンプは、独自のスペクトラム拡散変調モードを備え、広帯域のスペクトル成分を平坦化し、スピーカとケーブルからのEMI放射を最小限にしています。図2は、MAX9700を使用してマキシムのクラスDアンプのトポロジを表しています。

マキシムのクラスDアンプの変調方式は、内部で生成されたのこぎり波と相補信号のペアを入力段で利用します。相補入力信号を利用することができない場合、ICの内部で差動入力が生成されます。

図2. モノクラスDアンプのトポロジ
図2. モノクラスDアンプのトポロジ

コンパレータはクラスDの入力を監視して相補入力電圧とのこぎり波とを比較します。コンパレータAは、のこぎり波の大きさが入力電圧を超えると、0Vの信号を出力します(対応するクラスDの出力(OUT+)をVDDにプルアップします)。コンパレータBは、のこぎり波が入力電圧を超えると、出力端に0Vの電位を供給します(同様に、対応するクラスDの出力(OUT-)をVDDにプルアップします)。両方のクラスDの出力がハイにプルアップされると、単純NORゲートの出力端でタイマが開始されます。時定数はτ = (1/(RTON * CTON)となります。一定の時間(τ)で、クラスDの両方の出力がGNDにプルダウンされて各コンパレータはリセットされます。このシーケンスによって、第2のコンパレータの出力端に最小幅パルスtON(MIN)が生成されます。入力電圧が上昇または下降すると、一方の出力(作動する第1のコンパレータ)のパルスの期間は増大しますが、もう一方の出力パルスの期間はtON(MIN)が維持されます。これによってスピーカ両端の全電圧(VOUT+~VOUT-)が変化します。

図3. 入力信号を加えた、マキシムのクラスDのBTL出力(FFMモード)
図3. 入力信号を加えた、マキシムのクラスDのBTL出力(FFMモード)

固定周波数変調対スペクトラム拡散変調

マキシムのクラスD技術は、2つの変調モードを採用しています。すなわち、(1)固定周波数変調(FFM)モードと(2)スペクトラム拡散変調モードです。FFMモードでは(図3)、のこぎり波の周期は、従来のPWM技術と同様に一定に保たれます。スペクトラム拡散変調モードでは(図4)、のこぎり波の周期はサイクルごとに変化します(標準±10%)。図4では、効果を示すために、のこぎり波の周期の変化を誇張しています。

図4. 入力信号を加えた、マキシムのクラスDのBTL出力(スペクトラム拡散変調モード)
図4. 入力信号を加えた、マキシムのクラスDのBTL出力(スペクトラム拡散変調モード)

スペクトラム拡散変調モードのサイクル間の変化は、指定された帯域幅(nfo ±10%。ここでnは正の整数)にわたって高調波成分を同様に拡散することによって、基本周波数(fo ±10%)におけるエネルギの低減に対応しています。スイッチング周波数の倍数において大量のスペクトルエネルギが存在するのではなく、エネルギは、周波数とともに増大する帯域幅にわたって拡散されます。数MHzを超えると、広帯域のスペクトルは、EMIの場合のホワイトノイズのように見えます。FFMモードでは、エネルギは高いピークを備えた狭い帯域に含まれます(図5a)。スペクトラム拡散変調モードでは、エネルギを幅広く抑制し、ピークエネルギは低減します(図5b)。図5bで、第3高調波はノイズフロアでほとんど消失していることがわかります。

図5a. マキシムのFFMモード
図5a. マキシムのFFMモード

図5b. マキシムのスペクトラム拡散変調モード
図5b. マキシムのスペクトラム拡散変調モード

EMI放射を最小限にするスペクトラム拡散変調

スピーカケーブルがそれ程長くなければ、マキシムのスペクトラム拡散技術によって、クラスDアンプの真の「フィルタレス」動作が可能となります。クラスDアンプを含んだ消費者製品がEMI規制に適合することができるようにするため、従来のPWMアーキテクチャには通常、大出力用LCフィルタが必要です。マキシム独自のスペクトラム拡散技術によって、クラスDアンプの放射妨害波が低減されるため、出力フィルタリングを用いずに(あるいは最小限のフィルタリングで) EMI規制に適合させることができます(付録を参照)。

EMI規制では、最終製品が、準ピーク値検出限度(たとえばCE (欧州共同体、欧州規格)やFCC (連邦通信委員会、米国規格)によって確立された値)に適合して電磁波障害を最小限に抑えることが必要となります。これらの規制機関では、電磁波妨害とは電子機器や電気機器の実効性能を妨害、阻害、または低下させる電磁波障害であると定義しています。準ピーク値検出では、信号のスペクトル成分の繰り返し周波数によって、測定した信号レベルに重み付けする必要があります。繰り返し周波数が低下すると、準ピークの読取り値が減少します¹。

スペクトラム拡散変調は、準ピーク値検出の「平均化」性質を利用して、EMIの測定値を大幅に低減しています(表1)。スペクトラム拡散変調では、クラスDアンプのピーク基本周波数は帯域幅にわたってランダム化されます(通常、基本スイッチング周波数の±10%)。準ピーク値検出がアナライザの120kHz分解能の帯域幅を使用して実装されている場合、基本スイッチング周波数と最初の数次の高調波を除いて、スイッチングエネルギは、いずれの単一中心周波数にも一時的に存在するだけです。

表1. MAX9759の放射妨害波のデータ(MAX9759EVKit、スペクトラム拡散変調モード、3インチのツイストペアのスピーカケーブル、「フィルタレス」)
表1

結論

クラスDアンプのレイルトゥレイルに近いスイングと高速スイッチング周波数によって高周波放射と妨害が生じるおそれがあります。この高周波妨害を低減するため、オーディオ成分がトランスデューサで再生される前に、大きくて高価なLCフィルタを通常利用しています。しかし、マキシムのスペクトラム拡散変調技術を使えば、効果的なPCBレイアウトと比較的短いスピーカケーブルを採用した低電力の実装において、真の「フィルタレス」動作を実現することができます。

¹ 準ピーク値検出の詳細については、国際電気標準会議の国際無線障害特別委員会(CISPR)のReference Publication 16を参照してください。

付録

フィルタトポロジの概要
クラスDのパワーアンプには3つのタイプのフィルタトポロジがあります。(1) FB-C。フェライトビーズとコンデンサ、(2) LC。インダクタとコンデンサ、および(3)「フィルタレス」です。特定の設計用として選択するフィルタリングのタイプは、アプリケーションのスピーカケーブルの長さとPCBレイアウトによって異なります。これらの3つのフィルタトポロジの長所と短所を以下に示します。

FB-Cフィルタリング
スピーカケーブルが普通の長さのアプリケーションでは、FB-Cフィルタリングは規制のEMI限度に対して十分なマージンがあります。FB-Cフィルタのトポロジは、LCフィルタリングと比較して小型でコスト効率の高いソリューションです。ただし、FB-Cフィルタリングは、10MHzを超える周波数で初めて効果を発揮するため、多くのアプリケーションで実用的ではありません。さらに、10MHz未満の周波数でスピーカケーブルの引き回しが良くないと、導電放射の障害が生じる可能性があります。

LCフィルタリング
対照的に、L-Cフィルタリングは、約30kHzで抑制効果が発揮されます。これは、長いスピーカケーブルが実装され、PCBレイアウトが抑制に対して最適化されていない設計では、「安全」なフィルタリングの選択肢となります。ただし、LCフィルタリングは高価で大きな外付け部品が必要となるため、ポータブルアプリケーションの選択肢にはならない場合があります。30MHzを超える周波数でインダクタが自己共振とならないようにするためには、追加の部品が必要になる可能性があります。

「フィルタレス」フィルタリング
「フィルタレス」アンプのトポロジは、追加のフィルタリング部品が不要なため、最もコスト効率に優れたソリューションです。クラスDアンプは、短いツイストペアのスピーカケーブルによって放射妨害波の規格に適合することができます。ただし、FB-Cフィルタリングと同様に、スピーカケーブルの引き回しが良くないと、導電放射の障害が生じる可能性があります。スピーカがアンプのスイッチング周波数にて誘導性がある場合には、マキシムのクラスDアンプは、「フィルタレス」で動作することが可能です。スイッチング周波数での高インダクタンスによって、出力電圧のスイッチング時に比較的一定した過電流が維持されます。