アプリケーションノート 3880

携帯電話のヘッドフォンアンプにおけるRF感受性の最小化

筆者: Adrian Rolufs

要約: 最近のオーディオアンプの多くは高周波RFを考慮した設計になっていませんが、アンプが強いRF干渉にさらされる状況は増えています。このアプリケーションノートでは、GSM携帯電話を例に使用して、ヘッドフォンアンプにおけるRF感受性の影響を最小化する設計ソリューションを提示します。RFノイズ耐性を考慮して設計されたアンプの例として、MAX9724を取り上げます。

問題

現代のエレクトロニクス設計では、オーディオアンプが強いRF電界に晒される状況が増えています。オーディオアンプの多くは高周波RF干渉を考慮した設計になっておらず、RFキャリアからの情報を誤ってオーディオ帯域に復調してしまう可能性があります。

この問題の特に重大な例の1つが、GSM (Global System for Mobile Communications)携帯電話システムです。GSM規格では、時分割多重接続(TDMA)を使用して複数の電話機が同時に1つの基地局と通信を行うことを可能にしています。GSM携帯は、周波数217Hzでデータをバースト送信します。その結果、217Hzで強力に電界が変調されることになりますが、これは完全に可聴帯域内です。GSM携帯は800MHz~1900MHzの周波数範囲で動作しますが、217Hzのエンベロープ周波数は常に存在します。

GSM携帯の内部に設置されるアンプは、RF搬送波の217Hz変調エンベロープを除去するか、または電界から完全にシールドする必要があります。アンプをオーディオソースに接続する入力トレースが、アンテナの役割を果たします。これらのアンテナは、4分の1波長がトレース長に一致する周波数で最も高い効率を示します。900MHzの信号では4分の1波長が7.5cmになり、1900MHzでは3.5cmです。その結果、どちらかの長さに近いトレースは、近くのパワーアンプから高い効率でRF干渉信号を受信します。

上記の問題をさらに悪化させるのが、携帯電話に搭載されるオーディオアンプの数が常に増え続けているという点です。ステレオヘッドフォンアンプが、音声信号と音楽信号を外部のヘッドフォンに提供します。ステレオスピーカアンプが、スピーカフォン機能と再生機能を提供します。したがって、それぞれのオーディオアンプについて、携帯が送信するRFエネルギーに影響されないことを保証するための配慮が必要になります。スピーカアンプもヘッドフォンアンプもRF信号を受信する可能性がありますが、ヘッドフォンアンプの方が信号レベルが低いため、最も多くの問題が生じます。幸い、これらのアンプにおけるRFノイズの影響を最小化する方法がいくつか存在します。

ソリューション1−ベースバンドICへのオーディオアンプの集積化

ヘッドフォンアンプのRF感受性の問題を回避する方法の1つは、ヘッドフォンアンプをベースバンドプロセッサに集積化するというものです。それによって、オーディオソースとアンプの間の経路が減少します。この方法は、アンテナの効率を低下させるだけでなく、回路密度の増大にもつながります。入力が問題の周波数における効率的なアンテナではなくなるため、RF干渉が可聴ノイズになることはありません。

この集積化方式にも、欠点があります。このソリューションでシステムのRF感受性は低下しますが、通常ベースバンドプロセッサに組み込まれるのは低コストなヘッドフォンアンプであるため、音質が犠牲になります。さらに、これらのアンプは単一電源から給電されるため、出力における信号にはVDD/2を中心とするバイアスがかかります。そうした信号をヘッドフォンスピーカに接続するためには、DCブロッキングコンデンサが必要になります。これらのDCブロッキングコンデンサは貴重な基板面積を消費し、システムの低周波数応答を低下させ、オーディオ信号の歪みを増大させます。

ヘッドフォンアンプとベースバンドプロセッサを接近させることは、感受性の高いアナログ回路をノイズの多いディジタル回路に近付けることにもつながります。この点でも、接近によってアンプのノイズ出力が増大します。最後に、集積化によってヘッドフォンアンプの適切なグランド処理も困難になり、システムの音質がさらに低下することになります。

ソリューション2−入力および電源の慎重な基板レイアウト

ヘッドフォンアンプの集積化によって生じる問題を回避するには、専用のヘッドフォンアンプICを使用する必要があります。RFノイズの排除を特に意識した設計ではないヘッドフォンアンプを使用していても、慎重な基板レイアウトによって良好な音質と低いRF感受性を実現することができます。入力トレースは最もRF感受性に寄与しやすいため、それらのトレースを2つのグランドプレーンの間に配線して、外部のRF電界からシールドすることが不可欠です。入力トレースのアンテナ効率を低下させるため、問題となる最も高いRF周波数の4分の1波長よりもトレースを大幅に短くしてください。

アンプの電源接続もRF信号を拾う可能性があります。基板の設計者は、電源ノイズを低減するためにバイパスコンデンサを使用するのが普通ですが、RF周波数ではそうしたコンデンサの自己インダクタンスによって効果が低下しがちです。図1は、1µFと10pFのセラミックコンデンサについて、インピーダンスと周波数の関係を示したものです。可聴周波数帯では、1µFのコンデンサの方がグランドに対するインピーダンスが低く、より良いノイズ抑制を提供します。1MHz以上の周波数では、デバイスの自己インダクタンスが容量を上回り始め、その結果インピーダンスが増大します。10pFのコンデンサを1µFのコンデンサと並列に追加することによって、800MHZ~1900MHzのGSM周波数範囲では小さい方のコンデンサが1µFコンデンサの自己インダクタンスをバイパスします。

図1. アンプの電源接続もRF信号を拾う可能性がある。上のデータは、1µFのコンデンサの方が10pFのコンデンサよりもグラントに対するインピーダンスが低く、したがってノイズ抑制効果が大きいことを示している。
図1. アンプの電源接続もRF信号を拾う可能性がある。上のデータは、1µFのコンデンサの方が10pFのコンデンサよりもグラントに対するインピーダンスが低く、したがってノイズ抑制効果が大きいことを示している。

ソリューション 3−RF耐性のあるアンプのデザインイン

プロセッサ/アンプ集積化でも基板のレイアウトでもRF感受性を克服することができますが、より簡単なソリューションとして、RF電界に対する脆弱性のないヘッドフォンアンプを出発点にする方法があります。MAX9724のように、RFノイズを排除するよう慎重に設計されたアンプは、多くの場合、特別な基板設計を必要とせずにRF感受性の問題を解決することができます。したがって、このアプローチは製品開発の単純化とコストの最小化につながります。

図2は、MAX9724の改善されたRF感受性を、RF干渉に対する耐性のないアンプとの比較で示しています。RF感受性をテストするため、絶縁されたRFチェンバーに(感受性低下のための変更を加えていないプリント基板に実装した)アンプを設置しました。このRFチェンバーは、他の電界が存在しない環境の中に、制御された電界を生成することができるものです。チェンバー内では、RF信号で励起される2枚の電極間に電界が生成されます。RF感受性のテスト用に、100MHz~3GHzの範囲の100MHz間隔で50V/mの一定強度の電界をプリント基板に印加しました。強度50V/mの電界を選んだのは、実際のアプリケーションでデバイスが晒される可能性の高い電界強度をシミュレートするためです。1kHzの正弦波による100%振幅の変調をRF搬送波に適用することによって、ワーストケースの信号を生成してアンプのテストに使用しました。アンプの出力で測定したノイズ値は、アンプによって復号化された1kHzエンベロープの振幅になります。

図2. データから、RF干渉に対する耐性のないアンプに比べて、MAX9724のRF感受性が改善されていることが分かる。
図2. データから、RF干渉に対する耐性のないアンプに比べて、MAX9724のRF感受性が改善されていることが分かる。

GSMの重要な周波数において、MAX9724は競合するアンプに対し少なくとも39dBの改善を示しています。-70dBV以下というアンプ出力が、最も静かな環境を除いては事実上聞こえない程度に静かなものであるとすると、GSMの各周波数でこのレベルまたはそれ以下だったMAX9724は、十分な静粛性を備えていると言えます。しかしRF耐性のないアンプは、テストしたほとんどのRF周波数で可聴音を出力しました。

結論

RF感受性は、携帯電話のオーディオアンプが直面している非常に重要な問題です。ヘッドフォンアンプをベースバンドプロセッサに集積化することで問題を回避できますが、このアプローチでは忠実度の犠牲を強いられるのが一般的です。外付けのヘッドフォンアンプを使用する場合、RFノイズが聞こえないことを保証する方法が2つあります(前述のソリューション2および3)。
  1. 入力信号トレースのシールドと短縮化によって、アンプに加わるRFエネルギーの量を最小化する。
  2. 内部でRFエネルギーを排除し、出力に結合されるノイズの量を最小化する、RF耐性のあるアンプを選択する。
状況によっては、これらの手法の内の1つだけで十分にRF感受性を低下させることができる場合もありますが、RF耐性のあるヘッドフォンアンプと慎重な基板レイアウトの組み合わせなら、たとえ最も困難なシステムでも確実に問題を解決することが可能です。


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