アプリケーションノート 3735

オーディオDACの性能調査

筆者: Adrian Rolufs

要約: オーディオDACのMAX9850は広い範囲のマスタクロック周波数で動作することができ、その性能レベルは、クロック周波数に応じて異なります。さまざまなマスタクロック周波数を選択することによって設計の容易さと性能とのバランスを取ることができます。このアプリケーションノートはマスタクロック周波数とサンプル速度の比をさまざまに変えた場合のMAX9850の性能を解析してマスタクロック周波数の性能に及ぼす影響を示します。

MAX9850はオーディオDACであり、広い範囲のマスタクロック周波数から優れたオーディオ性能を得ることができるユニークなクロック回路を特長とします。通常のオーディオDACは使用するサンプル速度の正確な倍数を持つマスタクロック周波数を必要とします。例えば、サンプル速度が48kHzとすると、最も普通に使用されるマスタクロックは48kHz x 256 = 12.288MHzです。MAX9850は標準的なオーディオクロック速度で動作することができますが、普通に得られる、例えば12MHzのシステムクロックでも、性能がダウンしますが、動作します。広い範囲のマスタクロック周波数が可能であるため、MAX9850ではマスタクロックを選択して、設計の容易さと性能を適切にバランスさせることができます。

整数モード1

最高の性能を得るためには、マスタとスレーブの両方の整数モードを使うことができます。これらのモードではマスタクロックは使用されているサンプル速度の正確な整数倍とする必要があります。マスタモードではMAX9850がワードおよびビットクロックを出力するように設定されます。他方、スレーブモードではMAX9850がワードおよびビットクロックを入力するように設定されます。図1はマスタ整数モードで動作しているMAX9850のFFTを示しています。入力信号は48kHzでサンプルしたフルスケールの1kHz正弦波です。マスタクロックは同期した12.288MHzです。

図1. マスタ整数モード。MCLK = 12.288MHz、FS = 48 kHz、0dBFS
図1. マスタ整数モード。MCLK = 12.288MHz、FS = 48 kHz、0dBFS

マスタ整数モードにおける歪の大きさはすべての周波数で-90dB以下です。その結果のTHD+Nは-85dBです。現れる歪はすべて高調波であり、ほとんどの聴衆の可聴限界でマスクされるほどのレベルとなっています。MAX9850はMP3のような非可逆(lossy)アルゴリズムによって既にエンコードされているオーディオを再現する再生システムを意図しているため、このモードで生成される歪は再生チェインの音質の制限要素となるようなことはありません。

図2では、MAX9850は図1と同じクロック、サンプル速度、および入力信号としたスレーブモードで動作しています。性能はこのことによる影響を受けておりません。それはすべてのクロックは同期しており、相互に正確に整数倍となっているからです。

図2. スレーブ整数モード。MCLK = 12.288MHz、FS = 48kHz、0dBFS
図2. スレーブ整数モード。MCLK = 12.288MHz、FS = 48kHz、0dBFS

非整数モード

整数モードでは最高の性能が得られますが、サンプル速度FSの正確に整数倍としたクロック周波数(正確であるためには16 x FSの正確な倍数)が必要です。普通、整数モードに対応するクロック周波数はシステムの他の場所では使用されていません。多くの携帯用のオーディオシステムでは、普通、使用可能なクロック周波数は12MHzです。その理由はそれがUSBに使われているからです。このクロックはシステムで既に使用可能であるため、専用のクロックではなく、オーディオ用としてこのクロックを使用することが簡単です。どのようなオーディオ用サンプル速度にとっても12MHzは正確に16 x FSの倍数ではありませんが、それは48kHzの整数倍です。その結果、整数モードを使用することができませんが、非整数回路によって妥当な内部クロック速度を容易に作り出すことができます。図3は48kHzでサンプルした1kHzを作るために12MHzを使用するシステムの周波数スペクトルを示しています。MAX9850のこのモードでの性能は低下しますが、整数モードで得られる性能から大きくは低下しません。最大の高調波はなお、ラフには信号振幅の-90dBを下回ります。しかし、その代わりに信号に高調波ではない歪要素が現れます。その場合、THD+Nは-83dBに悪化するだけです。

図3. マスタ非整数モード。MCLK = 12MHz、FS = 48kHz、0dBFS
図3. マスタ非整数モード。MCLK = 12MHz、FS = 48kHz、0dBFS M

スレーブモード(図4)に切り替えると、非高調波要素が除去されて整数モードに匹敵する性能が得られます。

図4. スレーブ非整数モード。MCLK = 12MHz、FS = 48kHz、0dBFS
図4. スレーブ非整数モード。MCLK = 12MHz、FS = 48kHz、0dBFS

図5は入力を44.1kHzでサンプルしたマスタ非整数モードにおいて12MHzクロックで動作するMAX9850出力のFFTを示します。MAX9850はサンプル速度とマスタクロックが整数倍の関係になっていなくても1kHzの正弦波を再生することができます。性能の悪化は歪が増加するという形で現れます。また、歪はすべて高調波歪によるのではなく、非整数クロックでDACを動作させるために必要とするデータとクロックの操作によります。このモードではTHD+Nは-71dBと測定されます。

図5. マスタ非整数モード、MCLK = 12 MHz、FS = 44.1kHz、0dBFS
図5. マスタ非整数モード、MCLK = 12 MHz、FS = 44.1kHz、0dBFS

整数モードではマスタとスレーブモードの切替えは性能に影響しませんが、非整数モードでは、そうなりません。マスタからスレーブ動作に切替えると、変換器の性能がさらに低下します。これは図6に示されており、THD+Nは-65dBと大きくなります。

図6. スレーブ非整数モード、MCLK = 12MHz、FS = 44.1kHz、0dBFS
図6. スレーブ非整数モード、MCLK = 12MHz、FS = 44.1kHz、0dBFS

入力振幅の関数としての歪

大信号振幅では信号がある種の歪を隠すことが起こります。優れた音質を維持するためには、信号振幅が減少するにつれて、歪も減少しなければなりません。図7図11は信号レベルを-30dBFS~-60dBFSまで変化させた場合のMAX9850の出力スペクトルを示しています。マスタクロックとサンプル速度が整数関係にあるモードに対しては、すべての歪要素は-30dBFSの信号レベルにおけるノイズフロアを下回ります。44.1kHzと12MHzのようなサンプル速度とマスタクロックが非整数の関係にある場合は、低振幅歪だけが残ります。-60dBFSレベルでは方式に固有の歪がスペクトル上で見えるようになります。この歪はサンプル速度またはマスタクロックに直接関係せず、したがって、すべてのケースにおいて同じになります。

図7. マスタ/スレーブ整数モード、MCLK = 12.288MHz、FS = 48kHz、-30dBFSおよび-60dBFS。
図7. マスタ/スレーブ整数モード、MCLK = 12.288MHz、FS = 48kHz、-30dBFSおよび-60dBFS

図8. マスタ非整数モード、MCLK = 12MHz、FS = 48kHz、-30dBFSおよび-60dBFS。
図8. マスタ非整数モード、MCLK = 12MHz、FS = 48kHz、-30dBFSおよび-60dBFS

図9. スレーブ非整数モード、MCLK = 12MHz、FS = 48kHz、-30dBFSおよび-60dBFS。
図9. スレーブ非整数モード、MCLK = 12MHz、FS = 48kHz、-30dBFSおよび-60dBFS

図10. マスタ非整数モード、MCLK = 12MHz、FS = 44.1kHz、-30dBFSおよび-60dBFS。
図10. マスタ非整数モード、MCLK = 12MHz、FS = 44.1kHz、-30dBFSおよび-60dBFS

図11. スレーブ非整数モード、MCLK = 12MHz、FS = 44.1kHz、-30dBFSおよび-60dBFS。
図11. スレーブ非整数モード、MCLK = 12MHz、FS = 44.1kHz、-30dBFSおよび-60dBFS

結論

フルスケールの信号レベルでは、モードによっては大きい歪が測定されます。それは測定されますが、はっきりと聞こえる訳ではありません。その理由は人間の耳が大きい信号をとらえて、静かな歪要素を無視するからです。これと同じ考えかたは多くの非可逆圧縮方式(MP3やAAC)で採用されており、圧縮の一部はよりパワーの大きい信号によってマスクされる信号を除去することによって達成されています。両方のケースにおいて、音質を大きく犠牲にすることによって多量のデータを削減することができます。同様に、変換器は音質に悪影響を与えることなく、ある程度の量の歪を発生してしまいます。

人間の耳が低レベルの信号を聴くとき、信号の中の歪の検出にさらに優れています。それはマスク効果を提供する大信号が存在しないからです。このような低レベル信号ではMAX9850はノイズフロアに近いかまたは下回る歪を発生し、良好な音質を維持します。

MAX9850は、また、動作モードに関係なく優れた信号対ノイズ比とダイナミックレンジを達成します。-60dBFSの入力信号によって生成されるスペクトルは動作モードに関係なく同じであるため、ダイナミックレンジはすべてのモードで同じです。同様に、ノイズフロアはすべての動作モードで同じであり、したがって、すべてのモードで信号対ノイズ比は同じとなります。

性能が一番よくないモードにおいても、MAX9850は実用となる結果を得ることができます。音質が最重要ではないシステムでは、どのようなシステムクロックでもデバイスに接続することができ、良好に機能します。さらに高いオーディオ品質が要求されるシステムに対しては、オプションが、なお、用意されていて、専用のオーディオクロックを用意してDACを完全同期モードで動作させます。

付録:測定用の設定

回路ボード MAX9850EVKIT
信号発生器 PSIA-2722ビット深さを備えたオーディオ精度のSYS-2722:PSIA-2722を備えた16ビットのオーディオ精度のSYS-2722
シグナルアナライザ PSIA-2722ビット深さを備えたオーディオ精度のSYS-2722:PSIA-2722を備えた16ビットのオーディオ精度のSYS-2722
22Hz~22kHz帯域幅
A荷重フィルタリング
FFT入力A/D:HiRes A/D @ 65536
FFTサンプル数:32768
FFTウィンドウ:Blackman-Harris
平均化: 4
電源 Agilent E3630A 3出力DC電源 AVDD = 3.0V、PVDD = 3.0V
クロック源 PSIA-2722によって発生させる12.288MHz
EVキットの水晶発振器により発生させる12MHz

1MAX9850の設定に関する完全な詳細はMAX9850のデータシートを参照してください。

次のステップ
EE-Mail EE-Mail配信の登録申し込みをして、興味のある分野の最新ドキュメントに関する自動通知を受け取る。
© , Maxim Integrated Products, Inc.
このウェブサイトのコンテンツは米国および各国の著作権法によって保護されています。コンテンツの複製を希望される場合は お問い合わせください。.
APP 3735:
アプリケーションノート 3735,AN3735, AN 3735, APP3735, Appnote3735, Appnote 3735