キーワード: 振幅シフトキーイング, ASK, オン/オフキーイング, OOK, RKE, データスライサ, FSK, 短距離UHFバンド, 260MHz, 470MHz, MAX1470, max1473, max1471, max7030, max7032, 復調ASK信号
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このアプリケーションノートでは、コンパレータのスレッショルド形成と、無信号時におけるコンパレータ出力の「チャタリング」防止という、データスライスの2つの側面について検討します。後者は一般的に「スケルチ」と呼ばれる動作であり、データコンパレータのいずれかのピンに単純な電圧オフセットを印加することで実現できます。このオフセットは、電源から直接取る方法と、ヒステリシスを使用する(データスライス用コンパレータの出力電圧の一部をフィードバックさせる)方法があります。
以下では、スレッショルドの形成方法を3種類、スケルチの導入方法を3種類紹介しますが、これらはすべて外付けの抵抗やコンデンサを数個追加するだけで実現できます。
図1. ASK復調器の出力
図2. MAX1473 ASKレシーバのブロック図
図3. MAX1473に内蔵されたデータスライサブロックのブロック図(外付け部品を含む)
図4. 基本的なデータスライス回路
図5. 基本的なデータスライスのスレッショルド形成時におけるDSNとDSPの信号
図6. 迅速なスレッショルド形成のための回路および波形
図7は、2種類の抵抗とコンデンサの組み合わせに対する2つのDSN波形を示しています。瞬間的ジャンプに最も近いDSNのスレッショルド電圧を生成する部品の組み合わせは、以下のガイドラインに従ったものになります:
図7. ピーク検出器を使用した組み合わせDSN電圧の時間的変化
RとCの選択を具体的な例で見てみましょう。データ速度4kbps NRZのASKの場合、R1-C4のローパスフィルタはおよそ5ビット間隔に相当する時定数にすべきであり、5 x 0.25ms、すなわち1.25msになります。R1とC4には、次の値を選ぶと良いでしょう:
R1 = 25 kΩおよびC4 = 0.047µF
C13はC4と等しくし、R2はR1よりずっと大きくします(10倍で良いでしょう):
R2 = 250 kΩおよびC13 = 0.047µF
この選択によって、DSNのスレッショルド電圧はV0からV0 + Vs/2にジャンプし、その後V0 + 0.55Vsで安定することになります。
迅速にスライシングスレッショルドを確立するためのこのアプローチでは、スレッショルドにわずかな誤差が生じることに注意してください。さらに、スレッショルド電圧の初期値から最終的な値への変化(非常に小さな変化です)に対応する時定数は、以下の積によって与えられます:
時定数= (R1 || R2 x (C4 + C13))
これは、R1-C4の平滑回路の時定数の約2倍です。各コンデンサの値を減らすことでこの変化を補正することもできますが、その必要はありません。最初のジャンプから後のスレッショルドの変化はわずかなため、ピーク検出器の寄与分を含まない回路ほど時定数が重大な問題にはならないからです。
最大/最小ピーク検出器を使用するのが、迅速なスライスのスレッショルド確立を改良する方法の1つです。MAX1471 ASK/FSKレシーバ、MAX7042 FSKレシーバ、およびMAX7030/MAX7031/MAX7032トランシーバは、最大/最小ピーク検出器を備えており、単一のR-C平滑回路は不要になっています。図8に、これらのピーク検出器と、それぞれに付加された外付けの抵抗およびコンデンサを示します。各コンデンサがピーク電圧を保持し、各抵抗がそれぞれ対応するコンデンサ用の放電経路を提供します。この設計によって、データフィルタの出力電圧にピークの変化があったとき、ピーク検出器が動的に追従できるようになります。最大ピーク検出器と最小ピーク検出器を一緒に使用することで、データストリームの最大および最小電圧レベルの中間の値にデータスライサのスレッショルド電圧を形成することができます。これらのR-CペアのRC時定数は、このアプリケーションノートですでに見た単純なスレッショルド平滑回路の場合と同様、ビット間隔のおよそ5倍に設定する必要があります。
図8. 最大/最小ピーク検出器を備えたデータスライス回路
AGCの利得切り替えや通電時の過渡電圧など、何らかの原因でベースバンド信号の振幅に大きな変化が生じた場合、ピーク検出器が誤ったレベルを「つかむ」可能性があります。誤ったピークが検出されると、スライスレベルが不正になります。RC時定数が数ビット長に設定されているため、ピーク検出器がすぐに回復するとは限りません。しかし、デュアルピーク検出器を備えたマキシムのすべてのレシーバは、ピーク検出器の出力をリセットする(ピーク検出器を短時間に信号に追従させる)方法を、少なくとも1つ備えています。MAX7042 FSKレシーバの場合、短時間だけENABLEピンをローにプルダウンし、その後論理ハイの設定に戻すことで、ピーク検出器がリセットされます。MAX7030およびMAX7031トランシーバも同じ方法でピーク検出器をリセットすることができますが、その他にAGC機能の状態が変化するときとT/Rスイッチが受信状態に入るときにもピーク検出器がリセットされます。MAX1471 ASK/FSKレシーバとMAX7032 ASK/FSKトランシーバは、シリアルポートを介してピーク検出器をリセットすることができるのに加えて、レシーバがスリープモードから復帰するたびに自動的にピーク検出器がリセットされます。
図9は、電源電圧をDCオフセットのソースとして使用する単純なスケルチ回路です。通常、必要なのはデータフィルタ出力DFOとコンパレータの正負いずれかの入力ピンの間の抵抗値の50倍から100倍の大きな抵抗だけです。図9の最初の回路では、小さなオフセットがDSPに印加されています。もしオフセットが約30mVなら、2つのことが起こります。第1に、無信号時にDSPのDC電圧に乗るノイズによってDSP電圧がDSNのスレッショルドレベルを下回ることがなくなります。そして第2に、DATAOUTピンがハイすなわちVDDに保持されます。図9の2つめの回路では、オフセットがDSNに付加されています。この場合、DSPのDC電圧に乗るノイズによってDSP電圧が増大したDSNのスレッショルドを上回ることがなくなり、DATAOUTピンはローすなわちGNDに保たれます。スケルチ回路によって感度がわずかに(抵抗ディバイダを慎重に選らんだ場合で約1dB~2dB)低下し、復調信号が存在する場合、DATAOUTにおける正のデータパルスが若干広く、負のデータパルスが若干狭くなります。
図9. 電源電圧を使用する2種類の単純なスケルチ回路
図10. 抵抗ヒステリシス回路によるスケルチ機能
抵抗ヒステリシスの場合と同様、DATAOUT信号のごく一部をDSPピンにフィードバックしますが、今回は容量ディバイダC7-C9を通して行います。典型的なコンデンサの値は、C7が10pf、C9が1000pfです。DSPに印加されるオフセットは、これまでと違って、次式で与えられる時定数で減衰する過渡オフセットになります:
R8 x (C9 + C7)
時定数の長さに応じて、オフセットが減衰するまでの間DSP上のノイズがスライスのスレッショルドを下回ることがなくなります。これによって、実質的にDATAOUTピンがハイになっている時間が長くなり、DATAOUTのチャタリングの頻度が低下します。容量ヒステリシスによってチャタリングが完全になくなるわけではありませんが、遷移の回数が減少することになります。
C9が存在するため、R8との組み合わせで復調ASK信号の経路上にもう1つのローパスフィルタが形成されることに注意してください。フィルタを通過する信号が緩慢になりすぎないよう、このフィルタの時定数に対応する極はSallen-Keyデータフィルタの帯域幅よりも大きくする必要があります。
図11. 容量ヒステリシス回路と波形