アプリケーションノート 3503

スペクトラム拡散によるクロック生成


要約: 電子システムの設計者にとって、電磁障害(EMI)の低減は、今もなお設計上の重要な課題です。スペクトラム拡散クロック(CLK)は、このEMIを低減する効率的な方法です。このアプリケーションノートでは、スペクトラム拡散CLKの定義方法について説明し、EMIの抑制を概算するための簡単な式を紹介します。この式は、マキシムのクロック(CLK)生成チップMAX9492で生成したデータを用いて検証しています。

ディジタル信号には2つの主要な形態があります。ディジタルデータとディジタルクロック(CLK)です。

ディジタル信号は、今日のディジタル電子製品における主要な信号形態です。通常、ディジタル信号はCMOSやTTLなどシングルエンドの信号方式のフォーマットで生成されます。ディジタルデータ信号は、パルス幅の異なる一連のパルスと捉えることができるのに対し、通常、CLK信号は同じパルス幅の方形パルスが連続しています。

ディジタルデータ信号とCLK信号のどちらの周波数成分にも高次の高調波が含まれています。信号そのものおよび高調波がともに、電子システム内や電子システム間で電磁障害(EMI)を引き起こします。EMIを低減する簡単かつ効率的な方法は、CLK周波数[1、2]にディザを加えることです。このアプリケーションノートでは、スペクトラム拡散CLK (MAX9492)について紹介し、CLK用に規定されたパラメータを使用してEMIの低減量の迅速な計算を提供します。

スペクトラム拡散CLK:定義および測定

CLK周波数をディザリングすることによってスペクトラム拡散CLKを生成するということは、見かけ程簡単ではありません。ここでは、スペクトラム拡散CLKを構成するパラメータの定義から始めます。パラメータとは、拡散率、拡散様式、変調速度、および変調波形です。拡散率は、元のCLK周波数fCに対するディザリング(すなわち拡散)周波数の幅の割合です。拡散様式には、ダウン拡散、センター拡散、アップ拡散があります。拡散周波数の幅をΔfと仮定した場合、拡散率δは次式で定義されます:

ダウン拡散:δ = -Δf/fC × 100%

センター拡散:δ = ±1/2Δf/fC × 100%

アップ拡散:δ = Δf/fC × 100%

変調速度fmは、CLK周波数の拡散サイクルレートを求めるために使用するもので、CLK周波数がΔfを介して変化し、元の周波数に戻るまでの時間です。変調波形は、時間に関するCLK周波数の変動曲線を描いたもので、ほとんどの場合のこぎり波で表されます。図1は、変調波形を示し、その変調波形とδおよびfmとの関係を示しています。

図1. スペクトラム拡散CLKの周波数プロファイル
図1. スペクトラム拡散CLKの周波数プロファイル

CLKスペクトルをより平坦化するには、「Hershey Kiss™」という名前の特別な曲線を変調波形として使用します(図2)。

図2. 「Hershey Kiss」変調波形
図2. 「Hershey Kiss」変調波形

図1または図2に示した波形によるCLK拡散では、拡散幅の電力密度は一様になります。図3は、周波数拡散を行った場合と行わない場合の、MAX9492のCLKスペクトルの曲線を示しています。この場合、拡散率δは、ダウン拡散の-2.5%です。変調速度fmは30kHz、CLK標準周波数fCは133.33MHzです。このスペクトルプロットは、Rohde & Schwarzスペクトルアナライザを使用し、100kHzの分解能帯域幅と10Hzの掃引速度にて測定しました。グラフが示すとおり、スペクトルのピークは約13dB低減し、同様の減衰がfCの高調波でも起こります。これは、スペクトラム拡散CLKによって、スペクトルのピークにてEMIを13dB低減可能であることを示しています。

図3. 拡散のある場合とない場合のMAX9492のCLKスペクトル
図3. 拡散のある場合とない場合のMAX9492のCLKスペクトル

EMI低減レベルのおよその概算

設計者は、EMIの抑制がどの程度スペクトラム拡散CLKのパラメータに関連するのかをよく質問します。この関連性を調べるために、まず拡散CLKのスペクトルを計算します。上記の定義から、信号スペクトルとは、周波数に関する電力密度です。分析を簡単にするため、CLK信号の基本波のみを対象とします。非拡散CLKの場合、信号は次のように表すことができます。

Eqn01

また、拡散CLKの場合は、次のように表すことができます。

Eqn02

ここで、Eqn03は変調波形です。非拡散CLKのスペクトルは、以下の振幅を備えた周波数fCにおけるスペクトルラインです。

Eqn04

このスペクトルはスペクトルラインであるため、その振幅はスペクトルアナライザの分解能帯域幅Bには依存しません。ただし、拡散CLKのスペクトル振幅は、分解能帯域幅Bに依存します。拡散CLKの電力は、幅がΔfの周波数帯域にて、ほぼ一様に拡散しているため、スペクトルアナライザの分解能帯域幅Bで測定した概算電力は、次のようになります。

Eqn05

したがって、EMI低減レートSは、次式で表すことができます:

EMI抑制レート(dB) Eqn06 (1)

スペクトラム拡散CLKのパラメータ(拡散率δ、CLK周波数fC、および変調様式)を再び引用すると、Sは以下の方法で計算することができます:

ダウン拡散またはアップ拡散:Eqn07 (2a)

センター拡散:Eqn08 (2b)

EMI抑制レートSは、fSW << fm << fC、fSWはスペクトルアナライザの掃引速度)である限り、変調速度fmには無関係であることがわかります。

例として、MAX9492のδとfCの値がそれぞれ-2.5%と133.3MHzとします。これらの値を(2a)式に代入すると、EMIの低減レートは、次のように計算することができます:

Eqn09

図3で測定したように、EMIのピーク低減量は12.91dBで、スペクトラム拡散の平均レベルに対するEMIの低減量は15.07dBです。一般にピーク間のEMI低減量を概算するとき、式2から得られた概算値は、スペクトラム拡散のリップルのため1dB~2dBだけ大きくなる可能性があります。ただし、ピークと平均レベルの間の低減量については、概算値は測定した低減量に極めて近くなります。

設計者は、この簡単なEMI低減量の概算法を使用することによって、電磁環境適合性の規制で要求される、所望のEMI低減レートに対する拡散率、CLK周波数、およびスペクトル分解能帯域幅を迅速に求めることができます。



参考資料
[1] アプリケーションノート1995 「民生品における放射ノイズを減少するために スプレッドスペクトラム発振器を使用
[2] Intel®社の技術仕様、"CK00 Clock Synthesizer/Driver Design Guidelines" (English only)。

HersheyおよびHershey Kissesは、Hershey Chocolate and Confectionary Corp.の商標です。
次のステップ
EE-Mail EE-Mail配信の登録申し込みをして、興味のある分野の最新ドキュメントに関する自動通知を受け取る。
© , Maxim Integrated Products, Inc.
このウェブサイトのコンテンツは米国および各国の著作権法によって保護されています。コンテンツの複製を希望される場合は お問い合わせください。.
APP 3503:
アプリケーションノート 3503,AN3503, AN 3503, APP3503, Appnote3503, Appnote 3503