アプリケーションノート 3396

信号コンディショニングICによる歪みゲージブリッジセンサの駆動


要約: 歪みゲージセンサ(高信頼性、高再現性、および高精度)は、製造、プロセス制御、および研究等の業界で幅広く使用されています。歪みゲージセンサは、圧力センサ、重量測定、力とトルクの測定、および材料分析に使用することができるよう、歪みを電気的な信号に変換します。歪みゲージは単純に抵抗器であり、その値はゲージが取り付けられた物質内の歪みによって変化します。この記事では、MAX1452センサ信号コンディショナにおける温度補償を取り上げています。MAX1452によるブリッジ励起の柔軟な手法によって、ユーザは幅広い設計の自由度を得ることができます。この記事では、電流ブーストを使用する場合と使用しない場合の電圧駆動に焦点を当てていますが、他にも多くのブリッジ駆動構成を適用できます。その他の設計考慮事項としては、制御ループ上での外付け温度センサの使用、およびこのループにOUT信号を供給することによるセンサ(すなわち、測定パラメータの非線形性)の線形化の実現があります。

実用化されている歪みゲージは広範囲のゼロ歪み抵抗特性を備えています。センサの材料と技術は広範囲に対応可能になっていますが、広く使用される中で、いくつかの値(120Ωと350Ωなど)が一般によく普及しています。過去においては標準値で入力抵抗のマッチングネットワークを含んだ基本磁気偏向計に簡単に接続することができるようにして歪み測定を簡素化していました。

箔ゲージのタイプと組成

箔ゲージの製造では、限定した数の合金を利用することで、歪みの加わった状態でのゲージと物質の温度係数の違いを最小限にしています。鉄、ステンレス、およびアルミニウムがセンサ材料の大部分を占めています。ベリリウム銅、鋳鉄、およびチタンも使用されていますが、「大多数」は合金により、温度に適合性のある歪みゲージを大量かつ低コストで製造可能にしています。350Ωのコンスタンタン箔歪みゲージが、おそらく最もよく使用されています。

厚膜および薄膜のゲージは、信頼性があり製造が容易なため自動車アプリケーションにとって魅力的であり、通常、絶縁材を表面に蒸着したセラミックまたは金属基板で作製されます。ゲージ材料は、蒸着プロセスによって絶縁層の上に蒸着されます。センシングゲージと内部結線はレーザ気化を用いて、あるいはフォトマスクと化学エッチング手法を用いて金属上に刻まれます。ゲージと内部結線を保護するため保護絶縁層が追加される場合もあります。

ゲージ材料は通常、希望どおりのゲージ抵抗、応力による抵抗変動、およびセンサとベース金属間の温度係数の最適マッチング(温度安定性を確保するため)を得るために選択した金属を、独自の方法で混合したものです。ゲージとブリッジの公称抵抗器3kΩ~30kΩはこの技術のために開発されたもので、圧力センサと力センサを製造するために使用されています。

ブリッジ励起手法

箔、薄膜、または厚膜を用いた歪みゲージセンサでは通常、ホイートストンブリッジが利用されています。ホイートストンブリッジはゲージの歪みによって生じた抵抗の変化を差動電圧に変換します(図1)。+Exc端子と-Exc端子に励起電圧を加えると、歪みに比例した差動電圧が+VOUT 端子と -VOUT 端子に現れます。

図1. ホイートストンブリッジ構成における歪みゲージの結線
図1. ホイートストンブリッジ構成における歪みゲージの結線

ハーフアクティブのホイートストンブリッジ回路(図2)では、ブリッジの2つの素子だけが、物質内の歪みに反応するゲージです。この構成での出力信号(一般にフルスケール負荷で1mV/V)は、フルアクティブブリッジの信号に比べて2分の1になります。

図2. ハーフアクティブのホイートストンブリッジ構成における歪みゲージの結線
図2. ハーフアクティブのホイートストンブリッジ構成における歪みゲージの結線

もう1つのフルアクティブブリッジ回路(図3)では、4つ以上の350Ωのアクティブ歪みゲージを使用しています。特性ブリッジ抵抗器は350Ωで、出力感度は2mV/Vですが、歪みが加えられる物質はゲージの広範囲にわたって分散されています。

図3. 16ゲージのホイートストンブリッジ構成
図3. 16ゲージのホイートストンブリッジ構成

センサの性能に対する温度の影響

温度は、ゼロ負荷の出力電圧の偏移(オフセットともいう)および負荷状態下(フルスケールの出力電圧として定義)での感度の変化を引き起こし、センサの性能に悪影響を及ぼします。センサの製造業者は、図1~図3に示すように、温度検知抵抗器を回路に組み入れることによってこのような変化の一次的な影響を補償することができます。

温度が変化すると、抵抗器RFSOTCとRFSOTC_SHUNTがブリッジの励起電圧を調整します。一般に、RFSOTCの材料は正の温度係数を持ち、温度の上昇につれてブリッジの励起電圧が低減します。センサの出力は、温度の上昇につれて負荷に対する感度が増大します。ブリッジの励起電圧が低減すると、センサ出力が低減されることで、固有の温度影響が効率的に相殺されます。抵抗器RSHUNTは温度や歪みには影響を受けないため、RFSOTCが提供するTC補償の量をトリミングするのに使用されます。RSHUNTの値を0Ωにすると、RFSOTCのすべての影響が相殺され、一方、値を無限にすると(開回路)、RFSOTCのすべての影響が有効になります。この手法は、一次的な温度に対する感度を十分に補償しますが、より複雑で高次の非線形の影響には適用できません。

オフセット変化の温度補償は、温度検知抵抗器をブリッジの1つのアームに挿入することで達成可能です。これらの抵抗器は、図1~図3にROTC_POSまたはROTC_NEGとして示しています。この場合もシャント抵抗器(ROTC_SHUNT)が、ROTC_POSまたはROTC_NEGによってもたらされる温度の影響の量をトリミングします。ROTC_POSまたはROTC_NEGのいずれを使用するかは、オフセットが正または負のいずれの温度係数であるかによって決まります。

電流による励起駆動を有効にする方法

電流を使用してブリッジセンサを励起することは困難です。その理由はブリッジの抵抗が負荷によって変化するからであり、また電流が、内蔵の感度補償ネットワーク(図2に示したRFSOTCとRFSOTC-SHUNT)を無効にするからです。

これらの問題を回避して電流による励起駆動を有効にする方法がいくつかあります。簡単な方法は、電圧駆動を実現する構成においてMAX1452を使用することです。この回路には、電圧励起で必要なハイレベルの電流を提供するために必要となる最小数の外付け部品が含まれています。MAX1452は、完全かつ高度に集積された信号コンディショニングICであり、センサの励起、信号のフィルタリングと増幅、およびオフセットと感度の温度線形化を実行します。

MAX1452は、圧力検知によく使われる、シリコンのピエゾ抵抗トランスデューサ(PRT)用に主として設計されたものです。MAX1452は、16ビットのデルタ-シグマ型DAC (D/Aコンバータ) 4個と温度センサ、さらに温度指数係数テーブルを搭載してブリッジセンサの温度補償と線形化を実現しています(図4)。温度補償と増幅は、センサ素子と電圧出力間のアナログ信号経路にて遂行されます。このICは、最小限の外付け回路を追加して電圧ベースの励起と特別な電流駆動機能をホイートストンブリッジに提供することによって、箔や厚膜の歪みゲージに容易に対応することができます。

図4. MAX1452は高度に集積化された、ブリッジセンサ用の信号コンディショニングICです。
図4. MAX1452は高度に集積化された、ブリッジセンサ用の信号コンディショニングICです。

MAX1452にはPRT電流励起回路が含まれています(図5)。この回路にはカレントミラー(T1およびT2)が実装され、小さなリファレンス電流を14倍増幅し、PRTセンサを2kΩ~5kΩの範囲で駆動できるレベルにします。リファレンス電流は、RISRCとRSRCに電圧を加えることで引き出すことができます。この電圧は、オペアンプU1周りのフィードバックループの16ビット高精度フルスケール出力D/Aコンバータ(FSO DAC)によって設定されます。

図5. PRT用ブリッジ励起回路図
図5. PRT用ブリッジ励起回路図

FSO DACはシグマ-デルタ型アーキテクチャを備え、フラッシュメモリにある温度指数の係数テーブルからそのディジタル入力を取り出します。1.5℃の温度増分によって、4msごとに16ビットの固有の係数をDACに提供します。DACの出力電圧は、pチャネルMOSFET T1のゲートを駆動し、これによってFSO DACの出力に等しい電圧を生み出すのに十分な電流をRISRCおよびRSTCに供給します。T1を流れる電流は、14倍にミラーリングされてT2を流れ、これがブリッジ駆動電流になります。

抵抗器RSTCによって、温度の関数としてのセンサ励起電流の一次変調が可能となります。シリコンPRTトランスデューサでは、電流がブリッジを通過するときに生じるセンサブリッジ電圧から温度を得ます。このようなセンサでは、ブリッジ抵抗と温度の間の伝達関数が極めて良好です。ブリッジを電流で励起することによって、生じたブリッジ電圧を調整し、オフセットと感度の一次補償にこれを使用することができます。これは、ブリッジ電圧(ピンBDR)をフルスケール出力温度補償DAC (FSOTC DAC)のリファレンス入力に転送することによって達成可能です。ただし、箔や厚膜の歪みゲージを使用するときには、通常、電流励起は適用されないことを覚えていてください。

電圧駆動回路

MAX1452の内蔵の75kΩ抵抗器が、RISRCおよびRSTCの役割を果たすか、SW1とSW2のスイッチにより外付けの抵抗器の経路が指定できます(図5参照)。ISRCピンによってオペアンプにアクセスすることが可能で、ブリッジ駆動からの電圧フィードバックが可能となります。図6図7、および図8は、3種類の電圧駆動回路を表しています。

図6. 高抵抗センサ用の回路図(外付けのデバイスは不用)
図6. 高抵抗センサ用の回路図(外付けのデバイスは不用)

図7. 低抵抗センサ用にnpnトランジスタを備えた回路図
図7. 低抵抗センサ用にnpnトランジスタを備えた回路図

図8. 外付けの R<sub>SUPP</sub> 駆動を使用した回路
図8. 外付けの RSUPP駆動を使用した回路

2kΩ以上の高抵抗センサの場合、図6に示す単純な回路によって電圧駆動の励起をブリッジに供給することができます。SW1とSW2を開くと、FSOTC DAC変調回路が無効となります。オペアンプのフィードバックループは、ピンISRCをBDRに接続することで行われ、これによってブリッジ励起電圧からのフィードバックを得ることができます。ブリッジに電流を供給することで、トランジスタT1とT2 (並列)はブリッジ電圧を上げてFSO DAC電圧に等しくします。

ホイートストンブリッジ回路に結線された低抵抗(120Ω~2kΩ)の歪みゲージまたは厚膜抵抗器は、T2からじかに駆動できません。エミッタフォロア構成(図7)で外付けのnpnトランジスタを使用することによりこの問題を解決できます。npnトランジスタを流れる電流は、コレクタにてVDD電源レイルからじかに引き込まれます。オペアンプU1は、T1とT2を十分に導通することで、npnトランジスタをオンにしてブリッジ電圧を上昇させます。ループを閉じるには、ISRCにおけるブリッジ電圧をオペアンプにフィードバックします。ブリッジ電圧はFSO DAC出力に一致するように調整され、安定性を得るためブリッジの両端に小さな0.1μFコンデンサを追加します。

npnトランジスタのベースエミッタ電圧(VBE)は大きな温度係数を持ちますが、U1へのフィードバックによりその影響は式から除外されます。VBEが大きくなる低温では、以下に示すように最大ブリッジ電圧は限定されます。

VBRIDGEMAX = VDD - VT2SAT - VBE

VBEの温度係数と同様、TNPNの利得には温度成分があり、これも制御フィードバックループにより式から除外されます。

十分な駆動電流を低抵抗ブリッジに供給するもう1つの方法は、小さな外付け抵抗をT2と並列に追加することです(図8のRSUPP)。RSUPPの値によってブリッジの電圧が所望の値よりもわずかに小さくなるようにします(VDD = 5.0Vの場合で3.0V)。次にT2は、ブリッジ電圧を所望の値にまで上げる追加電流を供給します。OFF状態におけるT2は、T2が供給することのできる最小電流であるため、RSUPPは、ワーストケースの低ブリッジ電圧に合わせて大きさを調整する必要があります。また、T2の最大電流能力(VBDR = 4.0Vで2mA)によって、許容可能な最大ブリッジ電圧変調が決まります。この回路は、感度温度係数(TCS)が比較的低いブリッジセンサに役立つものであり、大きなブリッジ電圧変調を必要としません。

RSUPPの温度係数によってもたらされる感度の影響は、U1へのフィードバックによって規制されます。回路を設計するときに十分な駆動電流のマージンを確保するため、必ずRSUPPに対する最大と最小の電源ディレーティングを検討してください。

まとめ

MAX1452の柔軟なブリッジ励起手法によって、ユーザは幅広い設計の自由度を得ることができます。この記事では、電流ブーストを使用する場合と使用しない場合の電圧駆動に焦点を当てていますが、他にも多くのブリッジ駆動構成を適用できます。その他の設計考慮事項としては、制御ループ上での外付け温度センサの使用、およびこのループにOUT信号を供給することによるセンサ(すなわち、測定パラメータの非線形性)の線形化の実現があります。