アプリケーションノート 3395

リモートキーレスエントリ(RKE)システムの要件


要約: リモートキーレスエントリ(RKE)は、自動車の購入者を魅了してきました。これは、新車でのRKEの人気やアフターマーケットの品目としての人気を見れば明らかです。このアプリケーションノートでは、RKEシステムの概要を示し、距離、バッテリ寿命、信頼性、コスト、および規制遵守などの要件への適合について説明します。ここでは、いくつかの回路と設計手法を示し、また将来のシステムについての予測をいくつか提示します。これには双方向通信が含まれます。

リモートキーレスエントリ(RKE)システムは、爆発的に普及しています。新しい車両へのRKEの装備率は、北米で80%、ヨーロッパで70%を超えています。便利であるという明らかな利点に加えて、RKEで作動する車両イモビライザー技術によって車の盗難を最小限に抑えています。ヨーロッパの自動車製造業者は、保険会社と協力して、この技術を車両に組み込んでいます。保険会社は、自動車保険を獲得する条件としてこの技術を要求しています。この傾向はドイツで始まったものですが、数年のうちにヨーロッパ全体に広まると予想されています。

これらのシステムの多くは、片方向(単信)通信を利用しています。しかし、第2および第3世代のシステムでは、キーに対して応答し、たとえば車に給油が必要であることや左前タイヤのタイヤ圧を増やす必要のあることなどを通知するかもしれません。

RKEシステムは、キーフォブ(またはキー)内のRFトランスミッタで構成され、RFトランスミッタが短いバースト状のディジタルデータを車両内のレシーバに送信します。このレシーバでデータが復号され、レシーバが制御するアクチュエータによって車両のドアやトランクを開閉します。ワイヤレスの搬送周波数は現在、米国/日本で315MHzおよびヨーロッパで433.92MHz (ISM帯域)です。日本では、変調はFSK (周波数偏移変調)ですが、世界のその他の地域ではほとんど、ASK (振幅偏移変調)が使われています。キャリア(搬送波)は、2つのレベルで振幅変調されます。電力を節減するため、低レベルは通常ゼロに近く、完全オンオフキーイング(OOK)を生成しています。

詳細なRKEの説明と設計の目的

代表的なRKEシステム(図1)には、キーまたはキーフォブにマイクロコントローラが実装されています。車のロックを解除するには、キー上の押しボタンを押してマイクロコントローラを起動します。マイクロコントローラは、64または128ビットのデータストリームをキーのRFトランスミッタに送信し、ここでキャリアが変調され、簡単なプリント回路ループアンテナを通じてデータが放射されます(効率はよくありませんが、プリント基板の一部として作られたループアンテナは、安価で広く使用されています)。

図1. RKEシステムは、キーフォブの回路(図の下側)で構成され、車両内のレシーバ(図の上側)にデータを送信します
図1. RKEシステムは、キーフォブの回路(図の下側)で構成され、車両内のレシーバ(図の上側)にデータを送信します。

車両内のRFレシーバは、このデータを取り込んで、もう1つのマイクロコントローラに送ります。マイクロコントローラはデータを復号し、該当するメッセージを送信してエンジンを起動したりドアを開けたりします。マルチボタンのキーフォブによって、運転席のドアを開けるのか、すべてのドアを開けるのか、あるいはトランクを開けるのか等を選択することができます。

ディジタルデータストリームは、2.4kbpsと20kbpsの間で送信され、通常、データプリアンブル、コマンドコード、数ビットのチェックビット、および使用するたびにコードを変えることによって車両のセキュリティを確保する「ローリングコード」で構成されています。このローリングコードがなければ、送信した信号が誤って別の車両のロックを解除する可能性があり、また信号が車泥棒の手に渡ってこの信号を使って後で車に入力されるおそれがあります。

いくつかの主要な目的によって、RKEシステムの設計が決まります。大量に生産されるあらゆる自動車部品と同様、RKEシステムも低コストで信頼性の高い製品でなければなりません。トランスミッタとレシーバの両方で電力消費を最小限に抑える必要があります。なぜなら、キーフォブのバッテリ交換は煩わしく、またカーバッテリの再充電は極めて厄介であるからです。これらの要求に加えて、RKEシステムの設計者は、レシーバの感度やキャリアの許容誤差などの技術パラメータを調整して、低コストと最小消費電流という制約の下で最大伝送距離を得ることが必要となります。

設計の制約の中には、米国のFCC規制のように、短距離デバイスに対する地方条例によって規定された制約もあります。短距離デバイスを使用するのに免許は不要ですが、製品自体は、国によって異なる法律や規制によって管理されています。米国の場合、これに該当する文書は、連邦規則集(CFR)タイトル47のパート15となります。これには、260MHz~470MHzの帯域(第15.231節)と902MHz~928MHzの帯域(第15.249節)が含まれます(http://www.access.gpo.gov/nara/cfr/waisidx_01/47cfr15_01.htmlを参照)。

RKEの設計範囲を限定するFCC規制について、ここでいくつかの例を示します。

  • 第15.231節によると、デバイスは、コマンド信号または制御信号、IDコード、緊急時の無線制御信号を送信することが許されていますが、音声や映像、玩具の制御信号、またはデータの連続送信は許されていません。
  • 伝送時間は5秒を超えてはなりません。また定期的な間隔での周期的な伝送は1秒間(最大)だけ許されています。ただし、その伝送の頻度が1時間に1回未満の場合に限ります。
  • 送信アンテナから3メートルでの最大電界強度は、基本波(260MHz~470MHz)に直線的に比例するものとし、その値は3750μV/m~12500μV/mの範囲とします。
  • キャリアから20dB下がった点における帯域幅は、中心周波数の0.25%を超えてはなりません。またスプリアス発射は、基本波から20dB減衰します。
次の項では、RKEシステムの設計に伴ういくつかの問題について考察します。最初に搬送周波数の生成から始めます。

キャリアの生成

第1世代のRKEの回路には、RFキャリアを生成するための表面弾性波(SAW)デバイスがトランスミッタに実装され、また局部発振器(LO)がレシーバに実装されていました。残念ながら、初期の標準SAWデバイスの不確実性は、少なくとも±100kHzであり、温度に対する周波数の安定性は貧弱なものでした。レシーバ側では、キャリアを受け取れるようにIFバンドパスを十分に広くしているため、過剰なノイズも受け入れてしまいます。このため、キーフォブの信号に応答できる車両との距離が制限されることになります。

現在、SAWデバイスに代わるものとして水晶ベースの位相ロックループ(PLL)があります。特にヨーロッパや日本ではRF放射の規制がますます厳しくなっているため、PLLへの移行が望まれます。水晶ベースのPLLトランスミッタはSAW共振器よりも若干コストが高くなりますが、一般的に10倍の精度が得られます。したがってレシーバのIF帯域幅を狭めることができ、S/N比を上げて伝送距離を延ばすことが可能です。

初期のSAWデバイスは、その公称周波数を、1.74MHz幅の433MHz帯域(433.05MHz~434.79MHz)の中央に置き、想定されるプロセスと温度変動に対して信頼性のある操作を確保していました。したがって、433MHzアプリケーションの公称キャリア周波数は現在433.92MHzとなり、PLLの水晶はそれに応じて選択する必要があります。

今日のレシーバとトランスミッタのチップにはPLL回路が組み込まれているため、その他に必要な作業は、チップの2つの端子間に適切な水晶を接続するだけです(以下の補足記事(RKE用のIC)を参照)。たとえば、MAX1470のPLLには、64分周ブロックとローサイド挿入を備えた10.7MHz IFが含まれています(このチップは433.92MHzで動作可能ですが、そのイメージ除去性能は315MHzで最適化されています)。315MHzで動作するために必要な水晶周波数(メガヘルツ単位)は、fXTAL = (fRF-10.7)/64 = 4.7547です。チップ端子XTAL1とXTAL2に5pFの負荷容量がかかった状態で315MHzにて発振するように指定した水晶を選択する必要があります。水晶周波数のトリミングの詳細については、アプリケーションノート1017 「MAX1470スーパーヘテロダインレシーバ用の水晶発振器の選び方」を参照してください。

電力の節約

RKEシステムでは、バッテリ寿命は非常に重要であるため、システムは可能なあらゆる方法を使用して動作電流とオン時間を最小限に抑える必要があります。レシーバPLL内の電圧制御発振器(VCO)は、この点に関して細部まで配慮した良い例を示しています。レシーバは、車両への入力要求を見逃さないようにするため、ほぼ絶えずチェックする必要があります。電力を節約するため、レシーバは、各チェックの間の短い間隔の間もできるだけ頻繁にシャットダウンを試みています。

キーフォブのトランスミッタは通常、4つの10msデータストリームを連続して発行し(合計で約40ms)、レシーバが少なくともそのうちの1つを確実に取り込めるようにしています。レシーバは、20msおきにポーリングを行い、タイミングエラーやノイズに対するマージンとして少なくとも2つのデータストリームを復号します。対象のデータであるかどうかを判定するためには、0.75msの復号時間が必要です(7または8つの受信ビットの判定に十分な時間)。

復号時間に加えて、ポーリング動作では、最初にレシーバ回路が「起動」して安定するまでの時間を見越しておく必要があります。ほとんどのアンプ回路は、直ちに起動することができますが、VCOの水晶は電気機械部品であるため、発振を開始するまでの時間、さらに希望の周波数で安定するまでの時間を必要とします。従来のスーパーヘテロダインレシーバでは、このために2ms~5msを必要とします。しかし、MAX1470のVCOは、水晶内の振動を維持するための電力だけを供給することによって、わずか0.25msでこれを実行します。したがって、MAX1470は、各20msの間の、わずか1ms (復号化の0.75msプラス安定化の0.25ms)で起動し、キーフォブの伝送を検出します(図2)。また、高速起動のMAX1470では正味のエネルギを節約できるため、5Vの代わりに3.3Vでも動作します。これによって、バッテリ寿命が(従来のスーパーヘテロダインレシーバに比べて) 4倍~5倍に延長されます。

図2. キーフォブの伝送をモニタするためには、着信信号を復号する前に、RKEレシーバで、起動と安定化の時間を確保する必要があります。
図2. キーフォブの伝送をモニタするためには、着信信号を復号する前に、RKEレシーバで、起動と安定化の時間を確保する必要があります。

RKEは、あくまでも短距離向けの技術であり、その距離は最大20m、または1m~2m (パッシブRKEシステムの場合)になります。それでも、低電力で低コストの設計バジェットで短距離伝送を確保することは、RF回路にとって難しい課題となります。簡単にするため、送受信アンテナは、小さなプリント基板上に円形または長方形の銅トレースのループで構成され、アンテナのインピーダンスを送受信チップにマッチングさせるための単純なLCネットワークを備えています(アプリケーションノート1830 「How to Tune and Antenna Match the MAX1470 Circuit」を参照してください)。

低ノイズアンプ(LNA)を追加?

低送信電力がFCCの規制を受けるということ、バッテリ容量が小さいということ、さらに送信アンテナの方向が不確実であるということによって、RKEレシーバチップに最大限の感度が要求されます。レシーバの感度を向上する1つの方法は、外付けの低ノイズアンプを追加することですが(図3)、この手法に付き物のダイナミックレンジでの制約がアプリケーションで受け入れられない場合があります。MAX1470スーパーヘテロダインレシーバに基づいた次の解析を考察します。

図3. 外付けのLNA(MAX2640)を追加することによってレシーバの感度は向上しますが、3次インターセプトポイントは低下します。
図3. 外付けのLNA (MAX2640)を追加することによってレシーバの感度は向上しますが、3次インターセプトポイントは低下します。

レシーバの感度は、次式に示すように、そのノイズ指数、キャリア変調の検出に必要な最小S/N比、およびシステム内の熱雑音によって左右されます。

S = NF + n0 + S/N,   式1

ここで、Sは必要な最小信号レベル(dBm)、NFはレシーバのノイズ指数(dBm)、n0はレシーバの熱雑音電力(dBm)、およびS/Nは適切な検出に必要な出力の信号対ノイズ比(dBm)です(通常、許容ビットエラー率に基づく)。

簡単にするため、マンチェスタ符号化データであるという仮定に基づいてS/Nを5dBと推定します。定義では次のようになります。

n0 = 10log10(kTB/1E-3)

ここで、kはボルツマン定数(1.38E-23)、Tは温度(ケルビン絶対温度)、およびBはシステムノイズの帯域幅です。室温にて(T = 290゚K)、1Hz帯域幅についてn0 = -174dBm/Hz、300kHzのIF帯域幅についてn0 = -119dBmです。

システム感度(S)が-109dBmと仮定します。式1を使用して計算するとNF = 5dBとなります。ノイズ指数(NF)とノイズ係数(F)との関係は、(NF)dB = 10logFとなります。ここで、F = 10(NFdB/10)。したがってF = 3.162となります。複数の2ポートデバイスをカスケード接続した場合、ノイズ指数は次式で表されます。

FTotal = F1 + (F2-1)/G1 + (F3-1)/(G1*G2) + . . .   式2

式2によって、外付けのLNAをシステムに追加した後の新しいノイズ係数を計算します。マキシムのMAX2640 LNAの場合、NF = 1dBで利得 = 15dBとなります(すなわち、F1 = 1.26でG1 = 31.62)。元のシステムのノイズ係数は3.162でした。したがってFTotal = 1.327となり、これは1.23dBです。式1に代入すると次のようになります。

S = 1.23 - 119 + 5 = -112.77dB

元の感度は-109dBmと仮定していましたので、そのカテゴリでは3.77dBしか得られませんでした。ここで、3次インターセプトポイント(IIP3)によって示される、ダイナミックレンジに対する影響に注目します。MAX1470は、内蔵LNAの利得が16dBmで内蔵ミキサのIIP3が-18dBm、IIP3全体で-34dBmです。利得が15dBの外付けのLNAを追加すると、この数値は-49dBmに低下します。つまり、外付けのLNAを追加することによって、感度はほぼ4dB向上したものの、システムのダイナミックレンジは15dBも低下したということです。与えられたアプリケーションにおいて、このようなトレードオフが許されるかどうかを判断する必要があります。

今後の予測

次期のRKEシステムの開発は、双方向(半二重)通信です。当初これは、特定の高級車で利用可能な「パッシブRKE」として登場しました。ポケットにキーを入れておけば、車に近寄るだけで、継続的にポーリングを行っているトランスミッタが到着を検出します。射程内に入ると(1m~2m)、キーと車両は双方向通信を確立し、ドアを開けます。最新の双方向システムには、ユーザが家を出る前に車のエンジンを暖めることのできるリモートスタート機能に加えて、通常の肯定応答機能が含まれます(「はい。ドアはロックされています」)。

今後の開発には、タイヤ圧検知(TPS)の技術も含まれています。TPSは、パッシブRKEと同様、現時点では特定のトラックや高級車でしか利用できません。TPSシステムはRKEと多くの共通点があります。RKEキーフォブの回路と非常によく似た回路が、タイヤ圧と温度のセンサとともに、各タイヤのバルブシステムに取り付けられます。次に、各タイヤから車両内のレシーバ(RKEレシーバに酷似)への定期的な伝送によって、タイヤに発生する問題を早期に運転者に通知します。TPSとRKEには多くの共通点があり(短距離、簡単な変調、節電が必要など)、今後のシステムでは、回路の機能を共用および統合してコストを節減することになると思われます。

RKEは、運転者に車の状態や給油やオイルの必要性などについて(すべてドアが開く前に)通知するハーフデュープレクスシステムに進化する可能性もあれば、そうでない可能性もあります。RKEが十分に頑丈で信頼性の高いことが実証されれば、おそらく最終的には、キーとそれに伴うドアのハードウェアは廃れることになるでしょう。

RKE用のCMOS IC

マキシムは、RKE市場向けの専用集積回路を製造する製造業者のうちの1つです。キーフォブについては、マキシムはこのタイプで世界最小のトランスミッタ(300MHz~450MHzのMAX1472)を販売しており、3mm x 3mmの8ピン小型SOT23パッケージで提供されます。電源電圧の範囲が2.1V~3.6Vであるため、1個のリチウム電池でデバイスを動かすことができ、スタンバイモードでわずか5nAの電流しか消費しません。

マンチェスタ符号化データの伝送中、MAX1472は最大100kbpsのデータレートをサポートし、3.0mA~5.5mAの間の消費電流で、-10dBm~+10dBmの電力を50Ωの負荷に供給します。水晶ベースの位相ロックループ(PLL)によって高精度な搬送周波数が生成されるため、レシーバ内のIF帯域幅を狭めることができ、伝送距離を延ばしています。消費電力をできるだけ抑えるため、内蔵発振器はすばやく起動します。イネーブル信号を受け取ってから起動するまでに必要な時間はわずか220μsです。

車両レシーバについては、300MHz~450MHzスーパーヘテロダインASKレシーバのMAX1473を検討してください。MAX1473は、完全差動の内蔵ミキサにおいて、-114dBの感度と50dBのRFイメージ除去を実現しています。MAX1473は、315MHzまたは433MHzのいずれかの動作で最適化されており、3.3Vまたは5Vで動作し、低ノイズアンプ(LNA)、水晶ベースのPLL (局部発振器用)、および10.7MHzのIFリミティングアンプ(受信信号強度インジケータ(RSSI)付き)を搭載しています。内蔵のデータフィルタとデータスライサによってディジタルデータ出力が得られます。代替製品としては、MAX1470レシーバを選択することができます。このレシーバはMAX1473とよく似ていますが、315MHz専用に最適化されています。MAX1470は、3.0V~3.6Vの電源電圧で動作します。

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