アプリケーションノート 3245

閉ループDC-DCコンバータのネットワーク解析のための注入トランス


要約: 変流器を変圧器として稼動させることで、テストの付属品として販売されている注入トランスの費用対効果に優れた代替手段を提供します。

多くの工学研究所にはネットワークアナライザが備わっていますが、DC-DCコンバータの閉ループ解析のための注入トランスは、ほとんどの場合備わっていません。Agilent社はこのようなトランスをテスト機器の付属品として販売していますが、極めて高価です。またRidley Engineering社やVenable社も注入トランスを販売しています。この市販の注入トランスの仕様は優れたものですが、同様に高価です。これらが単純なトランスであることを思い出してください。代替手段として、変流器を変圧器として稼動させることによって、費用対効果に優れた注入トランスを得ることができます。

トランスを設計するときに達成が最も困難なパラメータは広い帯域幅です。一方では、低周波性能を確保するために、より大きなコアとより多くの巻数が必要となり、トランスの物理サイズが大きくなります。また他方では、高周波性能を確保するために、良好な結合、小型化、および最小限の巻数が必要となります。

幸いなことに、変流器はほとんどのアプリケーションで受け入れ可能です。例えば、Pulse Engineering社のPE-51687は、フェライトコアに巻数100の1次巻線がありますが、2次巻線はありません。コアを貫通する穴を利用することで、撚線を用いて、任意の2次巻数を指定して巻くことができます。撚線は被テスト回路への接続部の役割を果たし、2次巻数に応じた駆動レベルが得られます。

ここでは変圧器を構築するため、1次電圧を制御する必要があります。トランスの1次リアクタンスがソースのリアクタンスよりも大きい場合、50Ωの抵抗器を1次巻線と並列に接続すれば、ネットワークアナライザのソースは正しく終端処理されます。低周波の場合、1次巻線の誘導性リアクタンスは、トランスで見られるテブナン等価(25Ω)よりも大きくなければなりません。PE-51687の1次インダクタンスは20mHであるため、トランスが動作しなければならない最低周波数は、Xl = 2 × 3.1416 × Freq × Lprimとなります。

式を並べ替えて整理すると、Freq = 25/(6.28 × 20mH) = 200Hzとなります。

200Hzという低周波のカットオフは小さな信号には適していますが、電圧が高くなると、コアのボルト秒定格を超えてしまい、コアの飽和を引き起こす可能性があります。PE-51687の1次巻線は、600V × ms (600msで1V)と規定されています。したがって、駆動電圧レベルによって低い周波数応答も制限することができます。

高周波数応答は、1次巻線の容量によって制限されます。例えば、PE-51687の応答は5MHzまで可能ですが、この周波数を超えるとピークに達します(図1)。ピークは非常に大きくなりますが(+15dB)、2次巻線と並列にある22Ωの抵抗器によって減少することに留意してください(図2)。ほとんどの場合、ピークは、ネットワークアナライザの掃引周波数の上限を制限することによって回避することができます。

図1. 2次巻線の巻数が8の場合のPE-51687トランスの周波数応答
図1. 2次巻線の巻数が8の場合のPE-51687トランスの周波数応答

図2. 2次巻線に22Ωの抵抗を取り付けた場合のPE-51687トランスの周波数応答
図2. 2次巻線に22Ωの抵抗を取り付けた場合のPE-51687トランスの周波数応答

図1と図2 (および後述の図5)のネットワークプロットは、図3のテストのセットアップで示されるように、X10 (-20dB)のFETプローブとアナライザの50Ωでバッファリングされた入力で0dBmのネットワークアナライザのソースによって駆動されたものです。このテストのトランスは、テフロンで絶縁した24-AWGワイヤによる巻数8の巻線を備えています(テフロンは、半田付けの温度に耐える断熱性を備えているため、回路の接続に便利です。ただし、ここではいずれのワイヤも使用可能です)。巻数比が100:8の場合、トランスの挿入損失は-21.9dBです。したがって、測定値(-42dBm)はFETプローブの損失を含んでいます。

図3. ループ利得を測定するための注入トランスのセットアップ
図3. ループ利得を測定するための注入トランスのセットアップ

注入トランスを備えた閉ループシステムをテストするには、ある点でループを切断する必要があります。この点では、ネットワークアナライザのAポート(図3)で反射されるインピーダンスはローインピーダンスでなければならず、またRポートで反射されるインピーダンスはハイインピーダンスでなければなりません。これらの条件が重要となる理由は、クロスオーバを超える閉ループ利得が1よりもはるかに低い場合、トランスによって注入される信号の大部分がRポートに現れるからです。

例えば、Rポートで反射されるインピーダンスがAポートで反射されるインピーダンスよりも9倍しか高くない場合、Aポートには信号の1/10しか現れません。真のループ応答であるにもかかわらず、9/10はRポートに現れます。この状況では、ネットワークアナライザの入力インピーダンスを本来の50Ωレベル以上に上昇させるためのインピーダンスバッファ(すなわちFETプローブ)が必要となります。

ループ利得テストは、場合によっては、ネットワークアナライザの50Ω負荷を許容することができます。ただし、多くの電源における出力インピーダンスは50Ωよりもはるかに小さいため、Aポートでの読み込みは問題にはなりません。ネットワークアナライザの50Ω入力を過度に駆動することのないよう注意してください。ほとんどのアナライザは入力を5VRMSに制限しています。また、この修復の費用が高価な場合があります。減衰量が-20dBのFETプローブを使用すると、ブロッキングコンデンサを使用しなくても、ほとんどのアナライザは50Vまで測定することができます。

テストのセットアップの設定が完了すれば、信号注入に適したレベルを決定します。ネットワークアナライザにとっては、ノイズフロアを上回る大きな信号レベルが適していますが、電源は、注入された大きな信号に比例して動作しない場合があります。この場合、スルーレート、電流制限、またはクリッピングによって回路の動作が決定される可能性があります。したがって、出力リップルより少しだけ大きな信号をお勧めします。

PE-51687の100:8の巻数比によって、ほとんどの出力リップル電圧よりも大きな信号を簡単に得ることができます。0dBm (224mVRMS)入力の場合、トランスの出力は18mVRMS (50mVp-p)となります。これはテストを行うには良好な初期値です。ネットワークアナライザの出力ソースによって注入レベルを調整することができます。この調整だけでは適切な範囲が得られない場合、2次巻数を増減することによって駆動レベルを調整することもできます。

低周波動作用として、Pulse Engineering社のPE-51688は、1次インダクタンスが80mHで巻数200の1次巻線を備えており、50Hzまでの有効な信号を供給することができます。このボルト秒定格は1200V × µsです。高周波の場合には、巻数50のPE-51686が良好な選択肢となります。超高周波(最大100MHz)の場合、ロゴスキーコイルを使用します。これらの高帯域幅の変流器は1次巻線の各巻線をシャントする内部抵抗器を備え、また1次巻線とコアの周囲にファラデーシールドを備えています。

シャント抵抗器の値に巻数を乗ずることによって、ほぼ完ぺきな50V値が得られ、また各巻線の抵抗器によってトランス全体に減衰機能が分散されます。このようなトランスは、高価ではあるものの、ほとんどがリングフリーで、100MHzの信号を容易に出力することができます(図4)。図5のネットワークプロットは、巻数1の2次巻線を備えた50:1 (1V/A)のトランス(Pearson Electronics社またはStangenes Industries社より購入可能)を示しています。

図4. ロゴスキー変流器
図4. ロゴスキー変流器

図5. 巻数1の2次巻線を備えた1V/A、50:1のロゴスキーコイルの周波数応答
図5. 巻数1の2次巻線を備えた1V/A、50:1のロゴスキーコイルの周波数応答

信号注入の電流検出方式のトランスを使用することの主な短所は、低周波での性能が貧弱であるということです。ほとんどのボード線図は50Hz未満でノイズが発生し、80dBを超えることが多く、ほとんどのネットワークアナライザのノイズフロア制限値を拡張します。ただし、ほとんどのDC-DCシステムは50Hz未満で良好に動作するため解析を必要とすることはありません。低周波測定が必要な場合には、トランスのコアを大きくするか巻数を増加する(あるいはその両方を実施する)ことが必要となります。これらの変更によってトランスの物理サイズが大きくなるため、テストの段階で不都合を生じる可能性があります。周波数の上限値を低減することもできます。現在、ほとんどのシステムのクロスオーバ周波数は10kHzをかなり上回っています。これはPE-51687変流器にとって理想的なものです。

この記事に類似した内容が2004年10月号の「Power Electronics Technology」に掲載されています。