アプリケーションノート 3229

システムの温度測定と保護に適した温度センサーの選び方


要約: システム内の温度を測る方法は、サーミスタや熱電対、RTD、温度センサーICなど数多くあり、それぞれ、状況に応じた利点や欠点があります。本稿では、よく使われる温度検出方法を比較し、プリント基板温度や周囲温度、CPUやFPGAといった消費電力の多い回路の温度検出にどの方法が適しているかを検討します。

温度検出技術

多くの電子システムでは、センサーで温度を監視し、温度の異常上昇から保護します。以下によく利用される技術を列挙します。

熱電対とは、異なる金属の電線2本を結合したものです。結合部には、温度とほぼ比例する起電力が発生します。特長は、温度範囲が広い(最大1250℃)、低コスト、出力電圧が低い(Kタイプで40µV/℃程度)、直線性が比較的よい、少し複雑な信号調節を必要とする(冷接点補償と増幅)などです。熱電対にはいろいろなタイプがあり、アルファベットで区別されます。最もよく使われるのはKタイプです。マキシムでは、Kタイプの熱電対の信号調節を行うIC (MAX6674とMAX6675)を用意しています。このICを使うと、熱電対出力の増幅や冷接点補償、ディジタル化などに必要な部品点数が大幅に削減され設計が簡単になります。熱電対は、プローブ状、あるいは裸リードの状態で供給されます。

RTDは、基本的に抵抗であり(白金線で作られることが多い)、電気抵抗が温度に応じて変化します。特長は、温度範囲が広い(最大750℃)、精度や再現性が高い、直線性が比較的よい、信号調節が必要である、などです。RTDの信号調節では、通常、高精度電流ソースと高分解能ADCを使用します。コストが高くなることがあります。RTDの供給形態は、プローブや表面実装パッケージ、あるいは裸リードです。

サーミスタは温度依存性のある抵抗であり、多くが導電性材料の成形により作られます。よく使われるサーミスタは、負の温度係数(NTC)の抵抗を持っています。特長は、温度範囲が比較的広い(最大150℃)、コストは低~中程度(精度による)、直線性は悪いが予測可能、信号調節が必要である、などです。サーミスタの供給形態は、プローブや表面実装パッケージ、裸リードのほかに、スペシャルパッケージも数多くあります。マキシムでは、サーミスタの電気抵抗をディジタル値に変換するICを用意しています。

IC温度センサーは、アナログ出力かディジタル出力のあるシリコンベースの検出回路です。特長は、温度範囲が比較的広い(最大約150℃)、低コスト、直線性が良好、その上信号調節やコンパレータ、ディジタルインタフェースなどの付加機能を備えている点です。ディジタルフォーマットは数多く、3線式、4線式(SPI™など)、2線式(I²CおよびSMBus™)、1線式(1-Wire®、PWM、周波数、時間)などに対応しています。他の検出技術では、信号調節やA/D変換、サーモスタット機能などによってコストアップするのに対し、センサーICは通常すべてを備えていることに注目してください。IC温度センサーは、基本的に表面実装パッケージで供給されます。

システムの温度測定ターゲットに適した温度センサーの選び方

適切なセンサー技術を選ぶためには、まず、温度測定のターゲットの特性と条件を正しく理解しなければなりません。一般的な温度測定ターゲットを以下に列挙し、その要約を表1にまとめてあります。

プリント基板

プリント基板の温度測定には、表面実装センサーが最適です。RTDとサーミスタとICセンサーは表面実装パッケージで供給されており、測定温度範囲がプリント基板温度検出とコンパチブルです。RTDは精度が高く、測定再現性が高いのですが、サーミスタやICセンサーよりも一般に高コストとなります。サーミスタは非直線性が強いのですが、予測可能です。狭い温度範囲で使う場合には、外付け抵抗1、2個の追加で、かなりの直線性が得られることがよくあります。高い精度が必要でなければ、サーミスタは安価です。ただし、高精度サーミスタにすると、ある程度のコストがかかります。計算やルックアップテーブルによる線形化が必要になると、システムのコストと複雑度が大幅に増加します。ICセンサーは線形性に優れるだけでなく、ディジタルインタフェースを持つ、サーモスタット機能を持つなどの特長があります。このような特長によって、プリント基板温度の測定では、システムコストや設計難易度、性能などの面で他のセンサー技術よりも優れた結果を得ることができます。

プリント基板温度を正確に測定するポイントの1つは、センサーを適切な場所に配置することです。多くの場合、特定の部品や部品グループの温度を測定し、安全な動作温度範囲を超えないようにしたり、温度による部品性能の変化を補償したりします。センサー位置が重要なケースでは、SOT23のような小型パッケージの温度センサーを使用して、他のレイアウトに影響しないようにして、適切な位置に配置します。電気的なノイズが多い場所や温度関連回路から離れた場所にセンサーを配置する場合、ディジタル出力が便利です。

表1. システム温度モニタ用に適したセンサータイプ
Measurement Target Best Sensor Types Advantages Disadvantages
PC board IC (analog) Cost, linearity  
IC (digital) Cost, digital output, linearity  
Thermistor Cost Nonlinearity
RTD Repeatability Cost
Air Thermistor Cost, low thermal mass Nonlinearity
Thermocouple Cost, low thermal mass Signal conditioning (increases cost)
RTD Repeatability Cost
IC (analog or digital) Cost, linearity Surface-mount ICs are difficult to isolate from PC board temperature
CPU, FPGA, Power
Device, Module, etc.
(measured under or
near device)
IC (analog) Cost, linearity  
IC (digital) Cost, digital output, linearity  
Thermistor Cost Nonlinearity
RTD Repeatability Cost
CPU, FPGA, Power
Device, Module, etc.
(contact)
Thermistor Cost, low thermal mass Nonlinearity
Thermocouple Cost, low thermal mass Signal conditioning (increases cost)
RTD Repeatability Cost
CPU, FPGA, Power
Device, Module, etc.
(with thermal diode)
IC (remote digital temperature sensor) Linearity, digital output, response time, accuracy  

周囲温度

周囲温度の測定には、センサー温度が周囲の空気の温度には影響され、かつ、温度の異なる他の部品(プリント基板や電源、CPU)の影響を受けないようにしなければならないという難しさがあります。リードの長いサーミスタや熱電対、RTDを使い、検出素子がプリント基板温度の影響を受けないようにするという方法があります。リードが十分に長ければ、リード線を温度が異なるであろうプリント基板につないだ状態で検出素子は周囲温度の環境の中にあるとみなされます。図1(a)は周囲温度を測定するためにプリント基板の表面より上にサーミスタを実装した例を示します。

他のタイプのセンサーの信号調節に役立つICがあります。例えばMAX6603はRTD用の便利なアナログインタフェースを備え、MAX6691やMAX6697などはサーミスタ-ディジタル機能があり、MAX6674とMAX6675はKタイプの熱電対信号をディジタルに変換します。図1(b)はMAX6675とKタイプ熱電対測定周囲温度を示します。

表面実装ICは周囲温度を測定するにはより困難です。ICセンサーの最善の熱経路はリードを通してであり、このリードはプリント基板と同じ温度にあるからです。プリント基板が周囲温度(例えば十分に電力を消費して温度を上げる部品を含む場合)にない場合、表面実装ICは周囲温度を測定しません。しかし、ディジタル出力やサーモスタット機能のような追加のシステム機能があるのでIC温度センサーは周囲温度検出に使われることもあります。これは、通常、周囲温度にある小型の「サテライト」プリント基板に配置することで達成されます。

ICセンサーをプリント基板より上に配置するTO-92のような従来のICパッケージでもリードを通して熱をよく伝導し、結果として測定温度はプリント基板温度と同じになります。TO-92パッケージの優れたソリューションは、図1(c)にあるように、回路基板より上にある長くて薄い線のツイストペアの端でパッケージを実装することです。ここで、マキシムの1-Wireディジタルインタフェースを使った高精度センサーDS18S20は周囲温度を測定します。

図1(a). 周囲温度を監視するサーミスタ。長いサーミスタのリードは基板表面からの熱絶縁を提供することに注意。サーミスタ温度はMAX6697やMAX6691のようなICを使ってディジタル形式に変換可能。
図1(a). 周囲温度を監視するサーミスタ。長いサーミスタのリードは基板表面からの熱絶縁を提供することに注意。サーミスタ温度はMAX6697やMAX6691のようなICを使ってディジタル形式に変換可能。

図1(b). 周囲温度を検出するために熱電対を使って、MAX6675は冷接点補償を行い、熱電対の出力をディジタル形式に直接変換。
図1(b). 周囲温度を検出するために熱電対を使って、MAX6675は冷接点補償を行い、熱電対の出力をディジタル形式に直接変換。

図1(c). 高精度1-Wire温度センサーICのDS18S20はツイストペア線の端で実装され、センサーをプリント基板から絶縁。この場合DS18S20はデータ線から給電される。データと電力はマイクロコントローラのI/Oピンで制御。
図1(c). 高精度1-Wire温度センサーICのDS18S20はツイストペア線の端で実装され、センサーをプリント基板から絶縁。この場合DS18S20はデータ線から給電される。データと電力はマイクロコントローラのI/Oピンで制御。

CPU、グラフィックスプロセッサ、FPGA、パワーデバイス、モジュールなど

消費電力の大きい部品の温度は、多くの場合、表面実装センサー(サーミスタやIC、RTD)をデバイスの下、あるいは近くに配置して測定することができます。このような方法が取れない場合や、デバイスに測定が必要なヒートシンク、または他の表面がある場合には、長いリードの付いたセンサー(熱電対やRTD、サーミスタ)を測定対象表面に取り付けて測定可能です。測定温度が約150℃を超える場合、熱電対かRTDを使用します。750℃前後、またはそれ以上では、熱電対しか選択肢がありません。

CPU、グラフィックスプロセッサ、FPGA、パワーデバイス、モジュールなど(熱ダイオード内蔵)

部品によっては、特にCPUやグラフィックスプロセッサ(GPU)、FPGAといった高性能ICでは、温度検出用のダイオード接続バイポーラトランジスタを内蔵しているものがあります。温度検出用トランジスタがICダイ上に形成されているため、他の検出方法と比較して測定精度がはるかに高く、温度時定数がかなり小さくなります。

マキシムでは、サーマルダイオードによる温度測定を精度よく行い、出力をディジタル化する専用ICを各種用意しています。サーマルダイオードの数では、1本のものから、最大で4本の計測を行うことができるものもあります。信号レベルは小さい(200µV/℃程度)のですが、熱電対よりは大きいレベルです。内蔵フィルタか外付けフィルタを使い、レイアウトに若干の注意を払えば、コンピュータやサーバ、ワークステーションといった電気的にノイズの多い機器で広く使われるリモートダイオードセンサーを活用することができます。このようなICの多くには、監視対象ICの保護機能があります。たとえば、温度がターゲットとする安全動作温度範囲を超えると、システムをシャットダウンするのに使用することができる過熱アラームピンです。図2は、リモートダイオードセンサーの例(MAX6642)です。このICは、サーマルダイオードと自身の温度を測定し(150℃まで)、過熱アラーム出力を持っています。なお、過熱アラーム出力を作動させる温度は、SMBus経由でプログラミングすることができます。

図2. MAX6642は、世界最小のリモート温度センサー。ALERTピンを備え割込信号やシステムシャットダウン信号として用いると、監視対象ICを過熱による損傷から保護可能。
図2. MAX6642は、世界最小のリモート温度センサー。ALERTピンを備え割込信号やシステムシャットダウン信号として用いると、監視対象ICを過熱による損傷から保護可能。

まとめ

システム設計者には採用可能なさまざまな温度検出技術があります。どの技術が適しているかは、測定するターゲット温度と、コストや回路サイズ、設計期間などのシステム要件によって異なります。設計時に遭遇する温度測定に関する問題に対して優れた性能と低い全体コストで解決することができるように、マキシムではさまざまな温度検出用ICを用意しています。