アプリケーションノート 2696

T3/E3/STS-1ネットワークの冗長性保護


要約: 信頼性が収益性につながる。これは、どんなシステムを設計するときにも考慮すべき重要なテーマです。特に電気通信業界では、競争の激化が原因で、購入した機器を最大限に利用する必要が高まっています。サービスプロバイダ各社は、使用しているネットワーク機器の稼働率が99.999% (通称「ファイブナインズ」)であることを要求しています。これは、単に競争力を維持するためだけでなく、収益性を維持するためにも必要です。したがって、ネットワーク機器のメーカーには、新しいシステムの設計に当たってこの期待を上回るという重責が課せられています。

そのための方法の1つが、設計の重点に冗長性を組み込んだシステムを設計することです。このコンセプトは新しいものではありませんが、新しいのは、T3、E3、またはSTS-1ネットワークインタフェースの場合における、この問題へのアプローチ方法です。かつては、ポート数が規格体系的に少なかったため、ネットワークインタフェースの冗長性を設計するのは些細なことでした。冗長性が必要とされた場合、様々な方法で回路をネットワークにスイッチイン/スイッチアウトすれば良かったのです。しかし、帯域幅に対する需要の増大に伴ってポートの数も増え、設計における冗長性の必要も増してきました。この記事では、マキシムのT3/E3/STS-1ラインインタフェースユニット(Line Interface Unit:LIU)を使って、特にDS315x製品ファミリ(DS3151、DS3152、DS3153、およびDS3154)に関して、どうすれば冗長性保護方式を実装することができるかという点に注意しながら、T3/E3/STS-1ネットワークインタフェースに対する冗長性保護方式のいくつかの種類について解説します。

冗長性方式の種類

1:1保護

ネットワークルータ、WANアクセス、DSLAM、T/E ATMアップリンク、またはマルチプレクサのいずれを設計する場合でも、そのデバイスはおそらく製品寿命のほぼ全体に相当する期間にわたって機能する必要があると思われ、したがって冗長性ソリューションの使用を考慮する必要があります。そのための方法はいくつか存在します。ポート数が少ないときには、多くの場合にリレーが使用されており、有効なソリューションとなっています。図1に、このタイプの保護方式を示します。設計の中でラインカードが選択されていることに注意してください。プライマリカードに問題があればプロテクションカードに切り替えて、影響が出るほど長くネットワークのサービスを中断させることなく、プライマリカードの代わりをさせることができます。この保護方式では、両方のラインカードに同一のものを使用します。この点は、交換用カードの在庫を確保しておく際に重要となります。伝送信号中の反射によってパルスマスク不適合の可能性が生じるのを防ぐために、ラインカード1とラインカード2をつなぐ配線長は可能なかぎり短くする必要があります。LIUからBNCコネクタまでの配線長は、5インチ以下にすることが推奨されます。

図1.
図1.

1:4保護

ナンバーラインカードが3枚以上になると、冗長性を使って効率的にネットワークインタフェースを保護するのは格段に難しくなります。マトリックスカードを使ってそれぞれのラインカードを通信ネットワークにスイッチアウトする方法も考えられます。この方法でも機能はしますが、マトリックスカードに障害が発生した場合が問題です。このカードを交換のために、システムをオフラインにしてカードの修理または交換を行う必要があります。

マキシムは、プロテクションカードを動作させたままでユーザがラインカードの入れ替えを行うことができる冗長性方式を開発しました。図2では、DS315xラインインタフェースユニットの他、リレーやローカル発振器など、すべてのアクティブなデバイスがラインカードに使用されています。この設計では、プライマリカードとプロテクトカード間の信号の多重化を行うようなマトリクスカードを使用していません。その代わりに、BALUNネットワーク(Balanced-to-Unbalancedネットワーク)を使用したソリューションを設計しました。これは、パワースプリッタ/コンバイナと呼ぶこともできます。パワースプリッタは、入力信号を受け取って、位相と振幅を一定に揃えて、複数の出力を提供する受動デバイスです。図2では、2つの独立したラインカードに接続されたBNCの直前に埋め込まれたパワースプリッタ/コンバイナがあるのが見て取れます。一方の出力はそのパワースプリッタに対応するプライマリカードに接続され、もう一方は下のカードに配線されますが、配線先は次のカードのLIUではなく、いわゆるプロテクトバスです。ラインカードNに障害が発生した場合、プロテクトバス上のラインカードN + 1に対応するリレーが閉じられ、プロテクトカードが有効化されてデータが引き続きT3/E3/STS-1ネットワークに転送されます。その後、障害が発生したラインカードNを、サービスを中断することなく交換できます。

図2.
図2.

パワースプリッタ

すべてのT3/E3/STS-1ネットワークアプリケーションについて、パワースプリッタからの出力信号は、同一の振幅、任意の2つの信号間における位相差0度、各出力信号間の絶縁性が高く、入力から出力までの挿入損失が最大3.0dBであるべきです。3.0dBより少しでも高いと、すべての電気通信ネットワークアプリケーションにおける重要な要件である、パルスマスクテンプレートへの適合に問題が生じる可能性があります。

図3に、一般的な「T型」パワースプリッタの記号配線図を示します。このデバイスは、センタータップのトランスであり、入力側に抵抗、その後に2つのインダクタがつながれています。これらは出力または(場合によっては) 2つの入力の役割を果たします。トランスの両端をつなぐ抵抗が、この機能の設計の鍵になっています。これは、ポートAとポートBのインピーダンスのバランスに役立つとともに、入力ポートCからの2つのポート間に高い信号絶縁を得られることにもつながります。

図3.
図3.

このデバイスを、LIUのRxすなわち受信側のようにパワースプリッタとして使用する場合、ポートAとポートBの負荷を正確に一致させることで信号の絶縁が得られます。またこれらのポートに生成される電圧は、同じ振幅と極性が出力されます。両方のポートの電圧が等しいため、抵抗間を流れる電流は発生せず、2つのポート間に望み通りの絶縁が生じます。図4は、この回路を図示したものです。対称性によって、I1とI2が同じであることが分かります。したがって、ノードAとBの電圧も等しくなります。

図4.
図4.

このデバイスを、LIUの送信側でパワーコンバイナとして使用する場合も、このパワースプリッタの利用で、AとBの間には高い絶縁性が実現できます。ポートAに信号を入力すると、インダクタを通る電流の流れが発生し、ポートBに到達する時点で180°の位相ずれを生じます。しかし、抵抗を流れる電流も存在し、そちらはポートBに達した時点で位相ずれを起こしていません。したがって、RINTの抵抗値として特定の値を選べば、インダクタの電流と同じ振幅で位相が反対の電流になることを保証できます。その場合、ポートBにおける電圧の変化はなく、2つのポートからの高い絶縁性が達成されます。

与えられた任意のT3、E3、またはSTS-1ネットワークについて、ポートAとポートBの間に100%の絶縁を生じさせるためのRINTの値はどうなるでしょう?パワースプリッタ/コンバイナのネットワークを図5に再掲します。この状況で、指定された電圧をポートCで得るために、ポートBに電流を流します。次の式は、適切なRINT抵抗によって絶縁を実現し、ポートAで0Vを得る方法を示しています。

図5.
図5.

トランスの相互インダクタンスが十分に大きく、2つのノード間に漏れ電流が生じる可能性がないことから、式を簡単にするため、V1が1V、R = 75Ω、I3 = I4と想定することができます。したがって、次の式を導くことができます。

Equation 1.

Equation 2.

Equation 3.

Equation 4.

Equation 5.

Equation 6.

式5をRINTについて解き、I1を式3で置き換えます。その結果、式7を得ます。

Equation 7.

I2とI4を式2と式6を使って置き換え、I5を式4で置き換えると、式8を得ます。

Equation 8.

V3を式1に置き換えて、式9を得ます。

Equation 9.

上述のようにV2を0Vにしたい場合、RINTを求めると150Ωになります。RINTがそれ以外の値の場合、V1の電圧によってV2に電圧が生じます。RINTが150Ωに等しいと、2つのポート間に望み通りの絶縁が達成されます。V3の電圧は、式1によって2分の1に減衰することに注意してください。このため、ネットワークインタフェースの電気通信パルスマスク仕様への適合に問題が生じる可能性があります。ポートC (V3)の電圧降下に対処するため、DS315x LIUでは[n × (0 × 10) + (0 × 8)]に位置する各ポートのテストレジスタで送信機のゲインを増大することができるようになっています(nは0~3のポート番号)。

図3に示した1 × 4冗長性保護方式に接続されたDS315x LIUのパルスマスクを、図6に示します。テストレジスタを有効化することで、たとえパワースプリッタ/コンバイナによる余分な負荷が発生しても、DS315x LIUはE3のパルスマスク仕様に必要な電圧を容易に発生できます。この設計の図面とBOMリストは、マキシムのWebサイト(japan.maximintegrated.com/telecom)でご覧いただけます。

図6.
図6.

結論

IPサービスプロバイダの競争が激化する中で、高い信頼性とコスト効率を兼ね備えたソリューションの供給に関するネットワーク機器メーカーへの要求も増大することになります。マキシムのDS315x LIUによる冗長性方式を使用することによって、この目的を達成することができます。