アプリケーションノート 2412

残量ゲージ用にリチウム電池の特性を測定する方法


要約: 高精度なバッテリ残量ゲージは、さまざまな環境条件と動作条件の下でのバッテリ動作に関するいくつかの特性を把握して利用しています。この必要な情報を収集するためには、既知の条件の下でバッテリの特性を測定する必要があります。このアプリケーションノートでは、データを収集して解釈する方法も含めた、バッテリの特性を段階的に測定する方法について説明します。また、残量ゲージのソフトウェアアルゴリズムで使用することができるよう、マキシムバッテリ管理デバイスの評価ソフトウェアにこのデータを組み込む方法についても説明しています。

はじめに

リチウム電池の残存容量を正確に推定するには、温度やさまざまな電流の負荷とともに電池がどのように変化するのかを知ることが必要です。このアプリケーションノートでは、リチウム電池の特性を測定し、そのデータを収集および解釈し、次に、残量ゲージ用のマキシムバッテリ管理デバイスの評価ソフトウェアにこのデータをロードする方法について説明しています。このデバイスは、積算電流レジスタ(ACR)を用いてリチウム電池に対する電流の流入と流出をモニタし、残量ゲージによって、計算した電池のフルポイント/エンプティポイントとACRとを比較して残存容量を求めます。

リチウム電池の特性を測定する手順

1. 充電と放電のプロファイルを求める

リチウム電池の特性を測定する最善の方法は、可能な限り実際のアプリケーションに近い環境を作り出すことです。この環境としては、保護回路、アプリケーションの標準アクティブ電流とスタンバイ電流で構成される放電プロファイル、充電プロファイル、およびアプリケーションが置かれる可能性のある周囲温度があります。このため、電池の充電と放電をシミュレートする方法、および温度を変化させる機能が必要となります。通常、特性の測定のために使用する温度は、10℃刻みで0℃~40℃です。評価ソフトウェアで、10℃間隔の温度ポイントが必要となります。

アクティブ電流は、エンドユーザがアプリケーションを使用するときに、リチウム電池から取り出される標準電流です。またスタンバイ電流は、アプリケーションがアイドル状態のときにリチウム電池から取り出される標準電流です。

評価ソフトウェアの残量測定部によって参照されるアクティブエンプティポイントとスタンバイエンプティポイントは、それぞれアクティブ電流とスタンバイ電流の負荷をかけた状態で、リチウム電池が(ユーザが定義した)エンプティ電圧に到達したときの容量と定義されます。エンプティポイントを図1に示します。これについては、ステップ5に記載しています。アクティブ電流負荷とスタンバイ電流負荷のエンプティ電圧は、別々に定義することができます。フルポイントは、充電回路によってリチウム電池が完全に充電されたと見なされたときの容量と定義されます。残量ゲージを用いてマキシムバッテリ管理デバイスを使用する方法の詳細については、アプリケーションノート131 「Lithium-Ion Cell Fuel Gauging with Maxim Battery Monitor ICs」を参照してください。

図1. 段階的に放電したときの、ある期間にわたる電圧と電流
図1. 段階的に放電したときの、ある期間にわたる電圧と電流

2. デバイスのオフセットレジスタを較正する

特定デバイスのデータシートに規定されているとおり、マキシムバッテリ管理デバイスをリチウム電池に適切に接続することができれば、次のステップはデバイスのオフセットを較正することです。使用している特定デバイス用の評価ソフトウェアを使用すると、オフセットの較正は容易です。回路上に負荷がないことを確認し、[Meters]タブの[Calibrate Offset]ボタンをクリックします。評価ソフトウェアを使用していない場合は、アプリケーションノート224 「Calibrating the Offset Register of the DS2761」の、オフセットをステップごとに較正する方法を利用することができます。

3. データのログ記録を開始する

評価ソフトウェアを使用すると、簡単にデータのログを記録することができます。単に、[Data Log]タブに移動し、[Sample Interval]を15秒に設定して[Log Data]をクリックするだけです。15秒の間隔を推奨する理由は、巨大なファイルを作成することなく、すべてのデータポイントを取り込むのに十分なデータを記録することができるからです。すべてのリアルタイムデータが、[Stop Logging Data]ボタンをクリックするまで、指定のファイル名でログ記録されます。

4. 室温で電池の充放電サイクルを実施する

重要となる最初のステップは電池を慣らし運転することです。通常、リチウム電池の容量は、その寿命の最初のサイクルの間に数パーセントだけ変化します。電池の特性を測定する前に、20回の完全な充電と放電のサイクルを実施することをお勧めします。このときデータのログを記録する必要はありませんが、データのログを記録しておけば、最終データを分析するときに考慮に入れる必要のある、デバイスの追加オフセットをモニタすることができます。

5. 最高温度で較正を開始する

最高温度で特性の測定を開始することをお勧めします。その理由は、一般的にリチウム電池は最高温度において容量が最大となるからであり、このデータが残りのデータの良好な参照点となるからです。電池を最高温度で安定させてから、スタンバイエンプティポイントまで電池を完全に放電させてください。次に、アプリケーションの充電プロファイルにしたがって電池を完全に充電します。これがその温度でのフルポイントになります。その後、アクティブ電流の負荷をかけた状態で、ユーザが定義したアクティブエンプティ電圧まで電池を放電してアクティブエンプティポイントを求めます。最後に、スタンバイ電流の値に負荷を変更し、引き続き電池をスタンバイエンプティ電圧まで放電してスタンバイエンプティポイントを求めます。

プロセスを高速化するために、アクティブ電流の負荷からスタンバイ電流の負荷まで電流を低下させることを選択することができます。図1に示した例を考えてみましょう。ここでは、アクティブ電流は200mAと定義し、またスタンバイ電流は5mAと定義しました。さらにエンプティ電圧は両電流について3.3Vと定義しました。したがって、200mAの負荷をかけた状態で3.3Vまで電池を放電すると、アクティブエンプティポイントに到達することになります。次に電池を数秒間休ませた後、100mAの負荷を電池にかけることで、再びエンプティ電圧に到達させます。引き続き、電流の負荷を段階的に50mA、20mA、10mAに下げてエンプティ電圧に到達させ、最終的には5mAまで下げて、スタンバイエンプティポイントに到達させます。これによって、長時間をかけて5mAの負荷の下で電池を放電しなくても、同じポイントに到達させることができます。

6. 各温度で繰り返す

温度のスタンバイエンプティポイントに到達すると直ちに、次の温度に進んで完全充電を開始します。充電が完了すると、それがその温度でのフルポイントになります。その後にアクティブエンプティポイントおよびスタンバイエンプティポイントまで放電します。このプロセスを続けて、所望するすべての温度ポイントを1ポイントずつ実行します

特性データからデータポイントを求める

評価ソフトウェアは、リアルタイムデータをタブ区切り形式でテキストファイルにログ記録し、スプレッドシートに簡単にインポートすることができるようにしています。その後、このデータをソートまたはグラフ化することによって、必要なデータを見つけることができます。

7. 必要なデータポイントをすべて検出する

次にログファイルをソートして、すべてのフルポイント、アクティブエンプティポイント、およびスタンバイエンプティポイントにマークを付けることができます。これを実施するための簡単な方法は、データをスクロールし、電流の列を調べて電流の読取り値の変化を書き留め、スプレッドシートの未使用の列に「x」を記入することです。たとえば、電流が充電から放電に変化しているときにはフルポイントをマークします。また、アクティブ電流の負荷が終了しているときにはアクティブエンプティポイントとしてマークします。さらに、電流が放電から充電に変化しているときにはスタンバイエンプティポイントとしてマークします。その後、スプレッドシートアプリケーションのAutoFilter機能を使用すれば、マークした重要ポイントを容易に閲覧することができます。

表1は、リチウム電池の特性測定に際してDS2761が収集したデータの例を示しており、重要データポイントを選別してラベルを付けています。この例で使用している充電プロファイルは、電圧が4.2Vに到達するまで900mAの定電流充電でした。したがって、電流が70mA未満に減少するまで、電池は4.2Vの定電圧で充電しました(これをフルポイントと定義)。アクティブエンプティポイントは、350mAの負荷をかけた状態での3.0Vと定義しました。スタンバイエンプティポイントは、3mAの負荷をかけた状態での2.7Vと定義しました。電池は、40℃、30℃、20℃、10℃、および0℃で特性を測定しました。

ステップ4において電池のサイクルの間にデータのログを記録した場合、エンプティポイントを比較することによって、増加または減少のいずれの傾向があるのかを調べることができます(これは、電流の読取り値における特定のオフセットを示すことになります)。電池のサイクルは一定温度で行われるため、オフセットが完全に相殺された場合、エンプティポイントはすべて一列に並ぶことになります。オフセットが検出された場合、リチウム電池の正確な特性を得るために、ACRの列に追加するオフセットとしてデータに取り込む必要があります。

表1. リチウム電池の特性データ
Time Voltage Current Temperature ACR Mark Label
1:13:26 AM 3.25 918.317 40 62.38 x Start
2:12:41 AM 4.158 480.817 40 927.97 x Break
2:41:34 AM 4.197 68.688 39.75 1032.7 x Full
5:26:54 AM 3.035 -345.297 40.125 81.19 x Active Empty
7:36:03 AM 2.757 -2.475 39.875 71.04 x Standby Empty
8:35:50 AM 4.163 440.594 30.125 930.2 x Break
9:06:28 AM 4.197 69.307 30 1032.2 x Full
11:50:18 AM 3.006 -344.678 30.375 94.06 x Active Empty
1:44:11 PM 2.757 -3.094 30.125 80.69 x Standby Empty
2:45:07 PM 4.168 376.856 20.125 929.95 x Break
3:18:54 PM 4.197 69.926 21.125 1031 x Full
6:00:16 PM 2.987 -345.297 20.625 110.15 x Active Empty
7:46:43 PM 2.757 -3.094 20.5 90.1 x Standby Empty
8:51:04 PM 4.177 306.312 10.375 928.71 x Break
9:29:26 PM 4.197 70.545 10.5 1028.5 x Full
12:06:02 AM 2.962 -346.535 10.875 130.94 x Active Empty
2:01:00 AM 2.757 -3.094 10.75 100.5 x Standby Empty
3:16:05 AM 4.182 230.817 0.625 919.06 x Break
4:00:59 AM 4.197 69.926 0.5 1019.3 x Full
6:28:55 AM 2.943 -350.248 1.25 161.63 x Active Empty
9:18:10 AM 2.777 0 0.875 113.61 x Standby Empty

8. 容量のデータポイントを求める

各温度におけるリチウム電池のフルポイントとエンプティポイントを求めるために使用するデータは、ログファイルのACR列から得られるデータです。フルポイントとエンプティポイントは相対的なデータポイントであり、1つの固定データポイントを参照する必要があります。最高温度におけるスタンバイエンプティポイントを参照ポイントとして選択する理由は、これが一般的に特性測定の間にACRが到達する最低ポイントであるからです(このポイントは表1で強調表示されています)。したがって、すべての読取り値はこのポイントよりも大きくなり、容易にデータを保存することができるようになります。

表2は、表1から選んだ重要な各ポイントでのACRの読取り値を示しています。40℃におけるスタンバイエンプティポイントを参照ポイントとして選択しているため、すべてのACRの読取り値から71.04mAhrを減算してその他のフルポイントとエンプティポイントを求めます。40℃におけるスタンバイエンプティポイントを基準としたフルポイントとエンプティポイントの簡単な表を表3に示します。この表を評価ソフトウェアに入力することで容易にデバイスに格納することができます。

表2. 表1から抜き出したフルポイントとエンプティポイント
Temperature 0 10 20 30 40
Full 1019.3 1028.5 1031 1032.2 1032.7
Standby Empty 113.61 100.5 90.1 80.69 71.04
Active Empty 161.63 130.94 110.2 94.06 81.19

表3. 40℃におけるスタンバイエンプティポイントを基準としたフルポイントとエンプティポイント
Temperature 0 10 20 30 40
Full 948 957 960 961 962
Standby Empty 43 29 19 10 0
Active Empty 91 60 39 23 10

9. ブレークポイントを求める

残りの充電時間を推定するために重要となるデータポイントがブレークポイントです。このブレークポイントは、図2に示すように、充電中のACR曲線を2本の線分を用いて近似するために使用します。ブレークポイントはユーザが選択するものであり、2本の線によって得られる近似値の誤差が最も少なくなるようにACR曲線を「折り曲げる」ポイントとなります。

図2. 20℃で充電中の、ある期間にわたるACRと2線近似値.
図2. 20℃で充電中の、ある期間にわたるACRと2線近似値.

ブレークポイントを求める最も簡単な方法は、充電中のある期間にわたってACRをグラフ化し、曲線が折れ曲がる地点を視覚的に求めることです。中間温度のACR曲線を選択し、すべての温度についてそのブレークポイントを使用することをお勧めします。ブレークポイントは、フルポイントより下回るmAhr数の値で保存されます。図2では、ブレークポイントはフルポイントより約100mAh下回っています。

10. 充電時間の推定のデータポイントを求める

FuelPackアルゴリズムが正確な残り充電時間の推定値を返すためには、各温度におけるブレークポイント、エンプティからフルまでの時間(分)、およびブレークポイントからフルまでの時間(分) が必要となります。データ全体を見直して、すべてのブレークポイントをマークする必要があります。これは、フルポイントを見つけて、ステップ9でブレークポイントとして選択したmAhr数を見直すことによって行うことができます。

表4に示すように、表1のデータから、前の温度(充電を始めたときの温度)における各スタンバイエンプティポイント、ブレークポイント、およびフルポイントのそれぞれについてタイムスタンプを選択します。表4は、それぞれのデータポイントにおけるACRも示しています。次に、表5に示すように、これらのタイムスタンプを使用して、各温度におけるエンプティとフルの間の時間(分)、およびブレークポイントからフルまでの時間(分)を計算します。評価ソフトウェアの残量測定アルゴリズムは、充電データとして価値のある3つの温度に十分なEEPROMだけを割り当てます。したがって、0℃、20℃、および40℃でのデータがデバイスに書き込まれます。

表4. 各温度におけるスタンバイエンプティポイント、ブレークポイント、およびフルポイントのタイムスタンプ
Temperature 0 20 40
  Time Stamp ACR Time Stamp ACR Time Stamp ACR
Standby Empty 2:01:00 AM 100.5 1:44:11 PM 80.69 1:13:26 AM 62.38
Break 3:16:05 AM 919.06 2:45:07 PM 929.95 2:12:41 AM 927.97
Full 4:00:59 AM 1019.06 3:18:54 PM 1031 2:41:34 AM 1032.7

表5. 残り充電時間の推定に必要なデータポイント
Temperature 0 20 40
Empty to Full (minutes) 120 95 88
Break to Full (minutes) 45 34 29
Break Point (mAhrs) 100    

デバイスにデータをプログラムして残量ゲージを開始する

11. 適切なデータを用いてデバイスをプログラムする

評価キットを使用し、表3および表5のデータを用いてデバイスをプログラムします。図3に示されているように、[Pack Info]タブの[Fuel Gauging Data]サブタブのテキストボックスにそのデータを手動で入力し、[Write]ボタン(図示されていません)をクリックします。データは、デバイスのスクラッチパッドに書き込まれた後、EEPROMにコピーされます。

図3. 残量測定に必要なデータを評価ソフトウェアにロード
図3. 残量測定に必要なデータを評価ソフトウェアにロード

12. ACRを同期させる

リチウム電池の容量を正確に報告するための最後のステップは、電池の容量にデバイスのACRを同期させることです。これを行うための簡単な方法は、アプリケーションの充電プロファイルにしたがってリチウム電池を完全に充電してから、ACRをその温度でのフルポイントに設定することです。評価ソフトウェアを用いてこれを行うためには、図4に示すように、[Fuel Gauging]タブの[Start Fuel Gauging]ボタンをクリックすることによって残量ゲージを起動します。充電が完了すれば、[Fuel Gauging]タブの[Full]ボタンをクリックします。これでACRは電池の容量と同期が取れることになります。

図4. 評価ソフトウェアの[Fuel Gauging]タブ
図4. 評価ソフトウェアの[Fuel Gauging]タブ

残量ゲージが提供するデータの詳細については、アプリケーションノート131 「Lithium-Ion Cell Fuel Gauging with Maxim Battery Monitor ICs」を参照してください。

まとめ

マキシムの残量測定アルゴリズムには、アプリケーションによってリチウム電池を充電および放電するときの電池の容量を正確に追跡することのできる方法が含まれています。これには、電池の容量に関する知識、およびアプリケーションが置かれる可能性のあるさまざまな負荷と温度の下での電池の挙動に関する知識が必要です。マキシムが提供する評価ソフトウェアを使用して特性データを収集して保存しておけば、残量ゲージによって電池の残存容量を正確に推定することができるようになります。


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