アプリケーションノート 2032

トリムレスIF VCO:第1回:設計上の検討事項


要約: このアプリケーションノートでは、トリムレスで固定周波数のIF電圧制御発振器(VCO)の実現に必要な設計上の基本事項についての調査結果を説明し、適正な回路動作を保証する上での問題点を指摘します。VCOは、ほとんどのワイヤレスシステムのアーキテクチャで必須の部品です。デュアルコンバージョン手法では、IFからベースバンドおよび/またはベースバンドからIFへの周波数変換を制御するために固定周波数のIF VCOが必要となります。

追加情報:トリムレスIF VCO:第2回:新しいICで実装を簡素化

2回にわたる本記事の第1回では、トリムレスで固定周波数のIF電圧制御発振器(VCO)の実現に必要な設計上の基本事項についての調査結果を説明し、適正な回路動作を保証する上での問題点を指摘します。VCOは、ほとんどのワイヤレスシステムのアーキテクチャで必須の部品です。デュアルコンバージョン手法では、IFからベースバンドおよび/またはベースバンドからIFへの周波数変換を制御するために固定周波数のIF VCOが必要となります。

デュアルコンバージョンシステムは2つの発振器を必要とします。通常、第1の発振器(RF VCO)が入力チャネル周波数の全域にわたって同調し、第2の発振器(IF VCO)が周波数配列によって決められた単一の周波数で動作します。RF VCOは、モジュール、IC、またはディスクリート部品の回路として入手できますが、モジュールとICが一般的です。IF VCOの場合、小型でコスト効率の高いモジュールは、ほとんど市場には存在しません。この理由としては、任意の値の多くのIF周波数が必要であることや、製造時にレーザトリミング(調整)が不可能な大きなインダクタ値が必要であることなどが考えられます。このため、IF VCOは通常、ディスクリート回路またはICの一部として実現されています。

マキシムは、ワイヤレスシステムで使用できるように設計された新しいVCO ICを業界に先んじて新しく開発しました(他のボードレベルのRF/IFのICにはこのVCO機能がありません)。本記事の第2回においては、このICを紹介し、その開発過程について述べ、さらにこのICによって可能になる簡単でコスト効率に優れたアプリケーションについて詳述します。

ディスクリート部品のVCOは、ほとんどのシステムの性能目標(同調範囲、出力電力、位相ノイズ、消費電流、コストなど)を満たすだけの柔軟性を備えています。しかし、現代の大量生産による低価格製品の場合、生産ラインで発振周波数を調整することは許されません。このため、RFエンジニアは、組み立て時に調整を必要としないVCO (すなわちトリムレスVCO)の開発を余儀なくされています。この設計は容易ではありません。部品定数、温度、および電源電圧の許容変動範囲の全域において発振器が希望の周波数に同調するには、VCO設計の基本事項の理解はもちろんのこと、相当な技術開発上の努力が必要とされます。以下にトリムレスIF VCOの設計に関する事項について説明しますが、それによってこうした技術開発作業の規模の大きさについて理解していきたいと思います。

VCOトポロジ

実用的なRF VCOを作成するために利用できる発振器トポロジはいくつかありますが、多くの市販VCOモジュールおよび無数のディスクリートVCO回路において性能が実証されているのは、Colpittsコモンコレクタトポロジです(図1)。このトポロジは、IFからRFにわたる広範囲の動作周波数に対して有用です。

図1. 基本的なColpitts発振器
図1. 基本的なColpitts発振器

低コストの表面実装インダクタおよびバラクタダイオードからなるインダクタ・コンデンサ(LC)タンク回路により、フレキシブルかつ低コストで、比較的高性能のVCOを構成することができます。この発振器タンクは発振周波数を制御する並列共振回路です。この場合、インダクタまたはコンデンサが少しでも変化すると、発振周波数も変化します。インダクタとバラクタは、並列または直列モードネットワークとして可変共振を実現できます。

並列モードネットワークは、大きなバラクタ値が実用性に欠け、インダクタ値を大きくできるような低い周波数において使用できます。また、並列モード構成の場合、発振器の解析が容易です。本記事では、並列モードLCタンクを使用したColpitts発振器を例にとってトリムレスIF VCOについて解説します(図2)。

図2. VCOにおけるColpittsトポロジの使用
図2. VCOにおけるColpittsトポロジの使用

Colpitts発振器はいくつかのテキスト(Clarke、Hess共著(1978年)、Hayward (1994年)、Rohde (1998年))で説明されており、さらに一般的な発振器の挙動、特にColpittsトポロジの挙動を予測するためのさまざまな数式が得られています。発振器は回路のフィードバックアンプモデルで一般化されています。正確な発振周波数を表現する式は、このモデルの中のインピーダンスを数式化することによって導出できますが、これらの表現は複雑なもので、設計プロセスを考える上でほとんど参考になりません。

別の方法として、Colpitts発振器を簡単に(ただし精度を落として)解析する方法があります。この方法は発振器の一次設計に役立つはっきりとした理解しやすい設計式を与えてくれます。まずColpitts発振器を正フィードバック付のLCアンプとして描き直します(図3)。この見方は、ループ利得、発振振幅および位相ノイズを計算するときに有用です。始動時の挙動と発振周波数を予測するため、もとの回路を負インピーダンスプラス共振構造として書き直すこともできます(図4)。これら2つの見方から得られる式を組み合わせることによって、Colpitts発振器を支配する1組の式を得ます(Meyer、1998年)。

図3. LCアンプモデル
図3. LCアンプモデル

図4. 反射アンプモデル
図4. 反射アンプモデル

Colpitts発振器の基本設計式

寄生成分を無視するとして、この解析の基本式においてはCC > C1およびC2、そして C1 > Cπ (Cπはベース・エミッタ容量)と仮定します。発振周波数(fO)は以下のように計算してください。



共振タンク回路のQ値(QT)を次式で計算してください。



発振振幅を次式で見積もってください。



ループ利得およびスタートアップ基準を次式で計算してください。





キャリアからのオフセット周波数(fm)におけるColpitts発振器の位相ノイズ(PN)は、次式で計算してください。

トリムレスVCO法

トリムレスVCOの開発は、考え方としては比較的単純です。周波数をシフトさせるエラーソース(たとえば部品の公差)をすべて克服するのに十分な余剰同調範囲を発振器が備えている場合は、発振器周波数調節を排除できます。一見したところ、十分に発振器同調範囲を提供してすべてのエラーソースに対応した処理をするのが直感的で簡潔な方法に見えます。しかし、与えられた同調電圧範囲において、容量の有限の変動により周波数同調範囲に根本的な限界が課されます。さらに、VCOの電気的性能の必要条件により、この限界に達する前に同調範囲が制限されることもあります。

残念なことに、過剰な同調範囲を持つ発振器はいくつかの短所があります。非常に広い範囲を得るには、バラクタからタンクへの強い容量カップリングを必要とするため、タンク回路のQが著しく低下します。その結果、位相ノイズが大きくなり(タンク振幅対トランジスタノイズの低下)、同調ラインノイズへの感受性が大きくなるとともに(これは周波数変調に直結します)、スタートアップの問題としてバラクタ両端の電圧スイングが過剰になる可能性があり、ループフィルタの設計が困難になります。これらの要因から、同調範囲を過剰にとることは望ましくないという結論が得られます。実際、同調範囲はすべてのエラーソースを吸収するのに必要な最小範囲を超えるべきではありません。

Glossary
CO = varactor coupling capacitance
CT = total tank capacitance
CVAR = varactor capacitance
fm = offset frequency of PN in Hz
fO = frequency of oscillation
gm = bipolar transistor (oscillator) transconductance
in = collector shot noise
IQ = oscillator transistor bias current
QL = inductor Q
QT = tank Q
QV = effective varactor Q
REQ = equivalent tank parallel resistance
RS = varactor series resistance
VO = RMS tank voltage

同調範囲が広いと、2つの周知の現象(タンク回路のQの減少と同調ラインのノイズ)によって発振器の位相ノイズが大きくなります。同調範囲を広くするためには、バラクタのタンク回路へのカップリングを強くする必要があります。式2に示すように、このカップリングによってCV (実効可変容量)のQが減少し、結果的に式6により位相ノイズが増加します。

位相ノイズを減少させる上での2つ目の要因は、同調入力上の熱雑音です。この熱雑音はFM側波帯雑音を生じます。このノイズは同調範囲の増加とともに増加し、発振器固有の位相ノイズを超える可能性があります。熱雑音によって生じる位相ノイズは次式で与えられます。



いずれの場合も、同調範囲が増加するのに伴って位相ノイズが悪化することが明らかです。このため、トリムレスVCOにおいて位相ノイズを低く保つには、保証帯域幅を達成し、予想されるエラーソースに対応するために適当な同調範囲にすることが重要です。

バラクタが強くカップリングインされるにつれて、バラクタ両端に現れるタンク電圧スイングが大きくなりますが、バラクタの順方向バイアスを防ぐにはバラクタ電圧スイングを制限する必要があります。このため、タンク内の信号電力が制限され、さらに発振器の位相ノイズも制限されます。最後に、タンク回路の等価直列抵抗(ESR)が高くなりすぎるとスタートアップの問題が生じることがあります(各式を参照)。周波数同調範囲の非常に広いVCOは(特に極端温度においては)、正しくスタートアップしない場合があります。では、適当な同調範囲を提供することを目標とした場合、どれだけであれば十分といえるのでしょうか。

発振周波数中のエラーソース

トリムレスVCOの周波数同調範囲は、発振周波数の中のエラーソースに対応するために広くなっています。エラーソースは2種類あります。1つは部品定数の誤差、もう1つは設計時の中心合わせから生じる誤差です。発振周波数を設定するLC部品は当然ながら理想的なものではないため、以下の問題が生じます。
  • 部品間のばらつき(公差)
  • 理想的でない性能(リード線のインダクタンス、容量および直列抵抗に起因する周波数応答の制限)
  • 回路レイアウトの中の寄生容量および寄生インダクタンスに起因する誤差
一方で、設計時の中心合わせの誤差は、設計プロセス中にVCOの同調範囲の中心を合わせる際の不確実性から生じます。

部品公差誤差

LC発振器の中で発振周波数が影響を受ける容量性部品および誘導性部品の部品毎の精度には限界があり、この公差の誤差が発振周波数の誤差に寄与します。表1に発振器内の周波数設定部品の標準的な公差を示します。

表1. 発振器の周波数設定部品の公差
Component
Tolerance
Varactor
±15% at VTUNE = 0.4V,
±10% at VTUNE = 2.4V
Inductor
±5%
Capacitors
±5%
Parasitic Capacitance
±10%
Parasitic Inductance
±6%
Oscillator-Device Impedance
±15%

設計時の中心合わせの誤差

設計時の中心合わせは、発振周波数を確定する際の誤差の源として見過ごされることが多々あります。利用可能な周波数範囲を最大限に使用するには、同調リミットが希望の発振周波数に対して対称的でなければなりません。しかし、部品定数の初期値あるいは平均値をモデル化するときの不正確さのためにこの中心決めに誤差が生じ、その結果エラーソースを吸収するために利用できる同調範囲が減少します。温度、電源電圧、部品公差などのすべての条件において発振周波数を保証するには、同調範囲がこの誤差を吸収するのに十分なだけ広くなっている必要があります。

発振周波数の式において各要素に変動測定指数を乗算することにより、全周波数誤差を計算することができます。



さまざまな誤差に起因する正味の周波数スキューを計算する際の最も迅速な方法は、回路のLおよびCの値に基づいた発振周波数の詳細な式を含むスプレッドシートプログラムを利用する方法です。

周波数シフトおよび同調範囲

同調電圧をVTUNE(LOW)からVTUNE(HIGH)に変化させることによって得られる周波数同調範囲は、高周波数および低周波数の終点(fHIGHおよびfLOW)を持っています。「中心」周波数(fCENTER)は、fHIGHとfLOWの中間点として定義されます(図5)。理想的には、fCENTERが希望の発振周波数になるような位置に同調範囲を配置すべきです(図5a)。しかし、部品誤差および設計時の中心合わせの誤差のために周波数同調リミットがずれることがあります。

最悪条件においてシステムが十分な同調電圧を提供できず、周波数範囲が不十分である場合、希望の発振周波数を得ることはできません(図5b)。必要な同調範囲を注意深く決定することが重要であることは明らかです。これは、すべてのエラーソースによって生じる周波数スキューを計算し、最悪条件においてfLOW < fOSC かつ fHIGH > fOSCであることを確認することによって達成できます(図5c)。

図5. 同調範囲および周波数シフト
図5. 同調範囲および周波数シフト

設計の確認

回路基板のレイアウトと部品定数の選択を完了した時点で、その設計の確認と測定が(他の大部分のRF回路と比べてさらに)必要になります。少なくとも、同調範囲、始動時の挙動、位相ノイズなどが設計目標に適合していることを確認する必要があります。さらに、統計的に有為な製造回数にわたって測定を行うことにより、同調範囲と平均中心周波数および希望の発振周波数に対する平均中心周波数の位置を決定する必要があります。

希望の電気的性能を備えた堅牢性に富む再現可能な設計を実現するには、上述のすべての作業が必要です。この作業は通常何回か反復して行う必要があるため、使用に耐え、生産価値のあるディスクリート部品設計を実現するには何ヶ月もかかることがあります。トリムレスIF VCOの開発には、詳細な回路設計、すべてのエラーソースの考慮、回路基板上での確認、および良好な結果を保証するための生産監視を必要とします。マキシムは(第2回で説明する)新しいICにより、この困難な課題を克服しています。このICは、トリムレスIF VCOの実現に必要な時間を著しく短縮するとともに、VCO設計上の問題を解決します。

本記事の第2回においては、このICを紹介し、その開発について論じるとともに、詳細な説明および性能の概要を提供します(エンジニアリングジャーナルVol. 40)。本素子の簡便性、小型サイズ、およびコスト効果を実証するアプリケーションも紹介します。

参考資料

  1. Clarke, Kenneth, and Donald Hess. 1978. Communications Circuits: Analysis and Design. Chap. 6.
  2. Hayward, Wes. 1994. Radio Frequency Design. Chap. 7.
  3. Meyer, Dr. Robert. 1998. Internal communication.
  4. Rohde, Ulrich. 1998. Microwave and Wireless Synthesizers. Chap. 4.
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