アプリケーションノート 1995

民生品における放射ノイズを減少するために スプレッドスペクトラム発振器を使用


要約: 合衆国内のラジオ周波数(RF)放射を規制する政府機関である連邦通信委員会(FCC)は、1975年にFCCパート15と呼ばれる新しい規制を定めました。これらの規制は、ラジオおよびTVトランスミッタ、または航空機誘導および緊急ビーコンのような高出力RFエネルギーを意図的に放射する制御装置に関したものではなく、TV、自動車、およびウォーキトーキーや電子遠隔コントロールのような低電力で非規制下にあるRFラジエータなどRFエネルギーを否意図的に放射してしまう装置に対する制御を追求したものでした。1980年代および1990年代に、電子レンジから携帯電話まで電子デバイスの種類が増え、これらのデバイス間のクロスインタフェアランス(相互干渉)が問題となりました。放射放出の問題に対処する従来の方法は、シールド、慎重な基板レイアウト、そして好ましくない放射を減らすフィルタリングからなっていました。電子機器が小型化するにつれ、通信アプリケーションから借りてきたもうひとつの技術、スプレッドスペクトラムが使われました。このアーティクルではスプレッドスペクトラムの背景と歴史について述べ、民生用エレクトロニクス機器において放射を減らす技術として今日どのように使われているのかについて説明します。

概要

合衆国内のラジオ周波数(RF)放射を規制する政府機関である連邦通信委員会(FCC)は、1975年にFCCパート15と呼ばれる新しい規制を定めました。これらの規制は、ラジオおよびTVトランスミッタ、または航空機誘導および緊急ビーコンのような高出力RFエネルギーを意図的に放射する制御装置に関したものではなく、TV、自動車、およびウォーキトーキーや電子遠隔コントロールのような低電力で非規制下にあるRFラジエータなどRFエネルギーを否意図的に放射してしまう装置に対する制御を追求したものでした。

何年か前にダラス/フォートワース空港で起きた、これらの規制確立の起動力となった良い例があります。パイロットが最近開発された電子フライトコントロールシステムを使って離陸および着陸する時にロスオブコントロール(制御不能)状況が起きることを報告しました。FCCは、周辺郊外の家庭で使われている遠隔制御の車庫ドア自動開閉器の干渉が原因であることを突き止めました。パート15規制は、この問題に関して、他の電子デバイスが動作不能を起こすようなRFエネルギーを放射する米国内で販売される全ての電子装置は試験され認証されることが義務付けられていると述べています。

1980年代および1990年代に、電子レンジから携帯電話まで電子デバイスの種類が増え、これらのデバイス間のクロスインタフェアランス(相互干渉)が問題となりました。電子レンジはペースメーカと干渉し、ケーブルモデムはコードレス電話と干渉してしまうような状態が起きました。同じくコンピュータのモニタからは周辺の他の電子機器と干渉を起こすに十分なRFエネルギーが放射されていました。

FCCおよびヨーロッパの電磁適合性(Electro Magnetic Compatability (EMC))局などの他の規制機関は、全ての電子製品からの放射に関する規制強化をすることによりこれらの問題に対応しました。米国では、FCCパート68により、産業用および商業用電子デバイスが規制されました。パート68、クラスAは、産業環境で使用される装置に関係し、パート68、クラスBは消費者製品を取り扱っています。本文では、クラスBの電子機器についてのみ述べます。

放射の低減

変化する電子信号をもつ電子機器はいずれも放射します。一定の周波数で動くクロックをもつPCマザーボードの場合、マスタ発振器の周波数の周りに集中するRFエネルギーを放射します。

定義:

放射感受性とは、電子機器の外部RFエネルギー源からの干渉に対する感度です。

放射とは、PCまたはモニタのような電子機器によって、否意図的に放出された他の電子機器にある程度影響を与えるかもしれないRFエネルギーです (図1)。

EMC (電磁環境適合性):電子機器の、「付近に存在するよい電磁」機器である特性。(適用可能な規格の範囲内で)電磁干渉を引き起こさず、影響も受けない。 参照:電気/電子用語の定義

EMI (電磁干渉):電磁放射による不要のノイズ。参照:電気/電子用語の定義

PCマザーボードから放出されたRFエネルギーを測定すると、発振器の中心周波数に放射スパイクが存在します(図1)。FCCの消費者製品に対する要求条件(FCCパート68、クラスB)は、放射が特定される最大値以下でなければならないことを求めています。

図1. 標準的な水晶発振器の放射とFCC最大値との比較
図1. 標準的な水晶発振器の放射とFCC最大値との比較

皮肉にも、その規格は放射される全エネルギーを減らすものではなく、1つの周波数で放射されうるエネルギーピーク量のみを減らすものです。

放射を減少させる従来の古い方法は、閉じ込めるものでした。PCは、マザーボードから放射されるエネルギーを遮断し放散するために、接地されたスチールキャビネットをシールドとして使いました。電子デバイスの入れ物として使われたプラスチックキャビネットには、同様の目的が達成できるように金属層の塗装が施され接地されました。電子製品の数が増え、次第に小型化してくると、閉じ込めの手法を達成することが難しくなってきました。電子機器のより高速なクロック周波数はより速い高調波周波数を含んでおり、設計者はEMIフィルタリングのようなシールドを使い、放射を減少させるために慎重に回路のレイアウトを行わざるをえなくなりました。このようなアプローチは、消費者用電子製品が縮小化するにつれて、費用もかかり困難になってきました。これらのピーク放射を減少させる新しい方法が必要となってきました。

システムクロック周波数を拡張あるいはディザすることによって、放射を狭いスペクトラム上に「スミアする」ことができ、1つの周波数におけるピーク放射を減少することができます。これにより、設計技術者の仕事が簡素化され、製造された製品のコストが減少されます。過去数年間、ピーク放射を減少するためのスプレッドスペクトラムクロック発振器は、PCマザーボードから プリンタまで全ての製品において広く使われています。

スプレッドスペクトラムの歴史

第二次世界大戦中、米国海軍は、無線制御の魚雷が送信無線と同一周波数の強力なRF信号によって「ジャム(電波妨害)」されてしまうという問題を抱えていました。これは、放射妨害感受性の一例です。1942年8月11日に、Hedy Keisler MarkeyとGeorge Antheilが申請した「秘密通信システム」(米国特許番号2 292387)の特許がおりて、この問題が解決されました。このデバイスは、トランスミッタの周波数間で急速にスイッチさせるメカニズムを使っています(現在、このような手法は周波数ホッピングと呼ばれています)。魚雷のレシーバに取り付けられた同じようなデバイスが同様の周波数間をスイッチして、トランスミッタ信号を捕獲しました。魚雷を制御する信号は、単一周波数の外部RF信号によってジャムされるほど長く1つの周波数に留まらなかったのです。半世紀後に、携帯電話やコードレス電話などの通信デバイスの干渉を減少させるために、この手法の更に高度なバージョンが使用されました。

放射を減少させるためにスプレッドスペクトラムテクノロジーを使う

消費者製品の放射を減少させる手法にスプレッドスペクトラムという用語が使用される一方、そのアプリケーションは、コードレス電話などのデバイスに使用されているものとは異なっています。コードレス電話では、トランスミッタおよびレシーバの両動作周波数が一致して周波数帯域を掃引し、1つの周波数での外部からの放射による影響を減少させます。

PCのような消費者製品における否意図的なトランスミッタのRF減少のためのスプレッドスペクトラムテクノロジーの使用は、ある周波数帯でPCを駆動するクロックの掃引が関係します。つまり、どの放射もその帯域中に拡散され、総エネルギーの少量が1つの周波数で放射されます。これによって、1つ周波数でのピークエネルギーが減少され、FCCによって義務付けられているレベル以下になります。

上記の方法は、信号レベルの関数として周波数を移動させる発振器へ信号を適用します。最も単純な形で、三角波信号が発振器に適用され、それが三角波の振幅の関数として発振器の周波数を変化させます(図2)。実際、 適用された信号波形は、この三角波の例からほんの少し変化することもあります。

図2. 発振器ディザ
図2. 発振器ディザ

図3. クロックスペクトラムディザ比較
図3. クロックスペクトラムディザ比較

図3は、前述の水晶発振器の放射放出出力と比較した、ディザされたDS1086発振器の放射出力です。また、このグラフは、0%のディザされた出力および4%のディザされた出力のDS1086を示しています。このグラフでは、発振器周波数を「スプレディング(拡散すること)」 によって、いかに特定周波数の放射ピークを減少しFCCが義務付けるレベル以下にするかを示しています。ディザ信号の周波数は、ディザされている発振器の周波数よりも大幅に低くなるように選択されます。その結果、発振器によって駆動される電子製品は、高速の周波数変化による影響を受けません。また、コンデンサやインダクタのような回路内の反応型部品によって可聴ノイズが生じないように周波数の可聴範囲よりも上で選択されます。上記グラフは水晶発振器の放射エネルギスペクトラム、EconOscillator™の「0%」スプレッド、EconOscillatorの4%スプレッドを示しています。2%スプレッドもありますがここでは表示していません。「0%」スプレッドは、EconOscillatorアーキテクチャに固有のディザ特性により実際約½%~1%スプレッドになります。

DS1086

DS1086は発振器出力にディザを誘起するように設計されたEconOscillatorで、プリンタからゲーム機コンソールに至るまでシステムの放射を減少させます。このデバイスは、2線式インタフェースを介して10kHz毎に調整できるプログラム可能な66MHzから133MHzまでのクロック周波数発生器で構成されています。これは、マスタ発振器周波数を2X (ここでx = 0~8)で割るプリスケーラと関連して、260kHzから133MHzまでの広範な周波数の選択を提供します。入力ピンは、クロック出力のゲート制御を提供し、ディザをオンオフし、マスタ発振器をディセーブルします。 「0%」、2%、および4%の3つのディザオプションが選択できます。他のメーカーの低EMI発振器とは異なり、DS1086は、動作に外付水晶またはクロックリファレンスを必要とせず、市場で入手可能な、最小の実装面積をもつ低EMIクロックとなっています(図4)。これは、8ピンSOパッケージで提供されます。

図4. スプレッドスペクトラムEconOscillator DS1086
図4. スプレッドスペクトラムEconOscillator DS1086

他のEconOscillatorのように、DS1086は、中心周波数出力を発生するために、較正済み電圧制御発振器(VCO)と共に、高精度に制御されるデジタル-アナログコンバータ(DAC)を使っています。周波数のディザリングは、三角波電圧信号をVCO入力に加算することによって出力周波数に注入されます。三角波の振幅が出力クロックのディザ率を決定します。これはアプリケーションに応じて0%、2%、または4%に設定可能です。0%ディザの選択には、すべてのEconOscillatorのアーキテクチャに固有の約1%のディザがあることを留意して下さい。この特性を持つ標準EconOscillatorでも水晶発振器と比較すると、追加の回路なしで、放射スペクトラムで最高10dBmの減少があります。

まとめ

消費者電子機器のFCC放射放出遵守規準は、回路設計者にとって設計を一層難しいものにしました。より高速のクロック速度はより高い高調波周波数が含まれ、放射放出を減少させるために、設計者はシールド、EMIフィルタリング、および慎重な回路のレイアウトを強要されます。システムクロックの中心周波数に周波数変調(FM)または「ディザリング」を加えることで、放射放出は狭いスペクトラムで拡がり、任意の1周波数でのピーク放射が低減され、FCC要件を満たすことができます。

これにより、設計者のエンジニアリング業務が簡素化され、製品の製造コストが減少されます。過去数年間、スプレッドスペクトラムクロック発振器の使用が広がってきました。このクロックの特長は、通常200ppmから300ppmくらいまでのかなり正確な周波数の短期的な安定性です。長期的な周波数安定性は、発振器の中心周波数の½%から4%の範囲の周波数値で掃引されます。

DS1086のデータシート、アプリケーションノート、およびオンラインのインタラクティブ周波数計算器は以下リンクでご利用いただけます:

http://japan.maximintegrated.com/datasheet/index.mvp/id/3610

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