アプリケーションノート6071

アプリケーションに最適なレギュレータの選択:パート3、部品の選択

筆者: Don Corey, Principal Member of Technical Staff, Maxim Integrated

要約:このアプリケーションノートは、パワーレギュレータに関する3部構成のシリーズのパート3です。パート1では、レギュレータの制御方式について解説し、電流モード(CM)と電圧モード(VM)制御の重要な違いについて検討しました。パート2では、パルス周波数変調、ヒステリシス、および固定オン時間制御手法について解説しました。これらの各種コンバータタイプの基本を理解したところで、パート3ではレギュレータの例をいくつか取り上げ、部品の選択から実際の設計へと進みます。

概要

パート1:デューティサイクルと負荷ユーセージの重要性について簡単に概説します。主として、レギュレータの制御方式、それらのタイプ、重要なパラメータ、および補償方式に焦点を当てます。最後に、内蔵FETと外付けFETの違いについて簡単に説明します。

パート2:固定オン時間、ヒステリシス、およびパルス周波数変調(PFM)トポロジーを取り入れた、電圧モード(VM)と電流モード(CM)制御以外のトポロジーについて解説します。また、アプリケーション用にこれらのレギュレータタイプを選択する方法を説明します。

パート3:締めくくりとして、アプリケーションに最適なレギュレータの選択とシミュレーションの方法を説明します。

はじめに

このアプリケーションノートは、パワーレギュレータに関する3部構成のシリーズのパート3です。このパートでは、レギュレータの例をいくつか取り上げ、部品の選択から実際の設計へと進んで、設計者がアプリケーションに最適なレギュレータを選択し、周囲の部品を最適化するために役立つ基本的な式を提供します。

アプリケーションに最適なレギュレータの選択:パート1」では、電流モード(CM)と電圧モード(VM)という、パルス幅変調(PWM)コンバータ用の2つのレギュレータ制御方式について解説しました。また、これらの制御モード間の重要な違いについても解説しました。そのアプリケーションノートで、適切なレギュレータの選択にとって製品アプリケーションが非常に重要であることを説明しました。

アプリケーションに最適なレギュレータの選択:パート2」では、一般的に使用されている他のレギュレータ制御トポロジーについて検討し、それぞれのアプリケーションの利点を説明しました。VMおよびCM PWM制御以外に、最近のレギュレータはその他の主な制御方式であるパルス周波数変調(PFM)、ヒステリシス、および固定オン時間トポロジー(COT)を取り入れています。それぞれについて解説したあと、スキップモードなどの2次的な制御方式について簡単な説明を付け加えました。

DC-DCコンバータの設計のための基本的な式

部品の選択とシミュレーション設計の例を見る前に、スイッチングコンバータ用のインダクタおよびコンデンサの選択に使用される基本的な式を理解することが重要です。

インダクタの選択

スイッチングコンバータ用のインダクタを選択するための式は、インダクタの基本的な式から導かれます。

DI/DT = ΔV/L

したがって、次式になります。

L = ΔV DT/DI

ここで、

  • diはピークトゥピークインダクタリップル電流で、LIR × IOUTとして定義されます。LIRの標準値は0.3です。
  • dt = VOUT/VIN × 1/fSWで、fSWはコンバータのスイッチング周波数です。
  • ΔVはインダクタ両端の電圧で、VIN(MAX) - VOUTとして定義されます。

上記のすべてをまとめると、次式が導かれます。

L = VOUT × (VIN(MAX) –VOUT)/VIN(MAX) × fSW × IOUT(MAX) × LIR

実際的な例はどうでしょう?設計者が以下の要件を備えたDC-DCレギュレータを設計する必要があるとします。

IOUT = 2.7A、VIN(MAX) = 12V、およびVOUT = 5V

この例では、30%のLIR値を選びます。次式から開始します。

Lmin = 5V × (12V - 5V)/12V × 600kHz × 2.7A × 0.3 = 6µH

この設計の場合、最も一般的な標準値は5.6µHまたは6.8µHです。インダクタ値が6.8µHの場合、公称ピークトゥピーク電流は0.72Aです。このとき、インダクタのピーク電流は2.7A + 0.5 × 0.72A = 3.06Aになります。インダクタを選択する場合、飽和定格は非常に重要です。ISAT (A)の定格は、ステップダウンコンバータの最大電流制限以上である必要があります。MAX17504は、この設計用に検討することができる3.5Aレギュレータです。データシートによると、最大電流制限は5.85Aであるため、インダクタのISAT (A)定格は5.85A以上である必要があります。

インダクタ選択のもう1つの重要なパラメータは、DC直列抵抗(DCR)です。DCRは電力損失の源であるため、設計者は常にインダクタのサイズと効率のトレードオフに直面します。もう1つの考慮すべき電力損失は、コア損失です。インダクタの電流定格には、連続(IRMS)とピーク(ISAT (A))の2つがあります。IRMSは、通常は40℃のインダクタ温度上昇を生成するDC電流として規定されます。ISAT (A)は、インダクタンスの特定のロールオフを生成するピーク電流です(ロールオフはオープン回路の値からの低下率として規定され、5%~50%の場合があります)。参考文献の節に含まれている「Estimate Inductor Losses Easily in Power Supply Designs」1という題名の記事は、インダクタの電力損失を理解するための参考書として非常に役立ちます。非常に便利な無料の、オンラインのインダクタ設計ツールが多数あります。インダクタ選択のための優れたオンラインツールの1つにVishayのものがあり、同社のウェブサイト2で提供されています。このツールは、インダクタのすべての電力損失を計算します。図1は、そのツールの結果で、上記の例に基づいています。Coilcraft3,4も、ユーザーによるインダクタ値の選択と電力損失の計算に役立つオンラインのツールを提供しています。

図1. Vishayインダクタ損失カリキュレータの表示結果(グラフィックはVishay Intertechnology, Inc.の許可を得て掲載) 図1. Vishayインダクタ損失カリキュレータの表示結果(グラフィックはVishay Intertechnology, Inc.の許可を得て掲載)

コンデンサの選択

最初に、セラミックコンデンサの3つのタイプについて簡単に説明します。Class I、Class II、およびClass IIIがあり、Class Iには一般的なCGO (NPO)タイプも含まれます。最も一般的なタイプは、X5R、X7R、およびY5Vです。スイッチングレギュレータ用のセラミックコンデンサを指定する場合、これらのタイプ間の違いを理解することが重要です。温度による容量の変化は非常に重要な特性で、考慮する必要があります。表1は、セラミックコンデンサのサプライヤのウェブサイトに記載されているデータから作成したものです。この表は、温度による容量の変化を明確に示しています。

表1. 温度による容量の変化
Type % ΔC Temperature Range (°C) Tolerance (%)
X5R ±15 -55 to +85 K = ±10
X7R ±15 -55 to +125 K = ±10
Y5V +22/-82 -30 to +85 Z = -20/+80
Z5U ±22/-56 -10 to +85 M = ±20
NPO ±30ppm/°C -55 to +125 J = ±5

さらに問題を複雑化させるものとして、実際の容量値は印加するDCバイアスによって変化します。図2は、セラミックコンデンサの選択に関するチュートリアル55275から引用したグラフです。上記の問題が明確に表れています。読者には、優れたアプリケーションデータと優れた常識的設計例が含まれたこの実践的チュートリアルの熟読を強く推奨します。

Temperature variation vs. DC voltage for select 4.7μF capacitors. 図2. 代表的な4.7µFコンデンサの温度変化とDC電圧の関係

入力および出力コンデンサ選択の実践的ガイド

入力コンデンサの選択

なぜ入力コンデンサが必要なのでしょう?入力フィルタコンデンサは、電源からのピーク電流を低減し、回路のスイッチングによって発生する入力のノイズおよび電圧リップルを軽減します。入力コンデンサで要求されるRMS電流(IRMS)は、次式によって定義されます。

IRMS= IOUT(MAX) × SQRT [VOUT × (VIN - VOUT)/VIN]

ここで、IOUT(MAX)は最大負荷電流です。IRMSは、入力電圧が出力電圧の2倍に等しいときに最大値になります。長い展開を行わずに、コンデンサの基本的な式(C = I DV/DT)を使って、次式を導くことができます。

CIN= IOUT(MAX) × D × (1 - D)/n × FSW × ΔVIN

ここで、

  • Dはデューティサイクル比 = VOUT/VIN
  • nはコンバータの効率の概算値
  • FSWはコンバータのスイッチング周波数
  • ΔVIN は許容可能な入力電圧リップルを表します。

単相コンバータの場合、入力電圧リップルは50%デューティサイクルで最大値に達することに注意してください。

出力コンデンサの選択

スイッチングレギュレータの出力コンデンサは、全体的な出力性能の重要な部分です。インダクタと出力コンデンサは、ローパスフィルタを形成します。さらに、出力コンデンサの値はコンバータの出力過渡応答およびループ帯域幅に大きく影響します。

出力コンデンサの値を決定するための第1のステップは、負荷の性質を定義することです。これは、インダクタの選択にもつながります。基本的に、インダクタの電流の変化はdi/dt = ΔV/Lとして定義されます。たとえば、図3に示すように、12V入力と5V出力で1µHのインダクタを使用する場合、100%デューティサイクルでの電流の変化の最大速度は7A/µsになります。これは何を意味するでしょうか?基本的に、負荷ステップのスルーレートが7A/µs以上の場合、過渡負荷ステップに対して必要な応答を提供するためにより多くの出力容量が必要です。もう1つの必要不可欠な情報は、許容可能な最大の出力電圧変化です。上記と同じ例を使用して、もう少し詳しく説明します。

図3. インダクタのスルーレートの図 図3. インダクタのスルーレートの図

以下の要件を前提に、許容可能な最大出力インピーダンスを計算します。

  • VIN = 12V、VOUT = 5V
  • 出力電流ステップ:0.5Aから2.5Aへ(ΔI = 2A)
  • 最大出力電圧偏差 = 50mV
  • スルーレート:20A/µs

必要な容量インピーダンス = 50mV/2A = 25mΩです。これは、出力コンデンサのESRが25mΩまたはそれ以下である必要があることを意味します。

MAX17504のデータシートに記載されたCOUTの式を使用すると、次のことがわかります。

COUT = 0.5 ×I step × tresponse/ΔVOUT

ここで、tresponse ≈ (0.33/FC + 1/fSW)です(FCは目標のクローズドループクロスオーバー周波数)。

ほとんどのレギュレータのデータシートには、設計者が入力および出力コンデンサの計算と選択を行うために必要なすべての式が記載されていることを知っておくことが重要です。

部品の選択とシミュレーション設計

X社が非常に広い動作周波数範囲を備えた高性能RFフロントエンドを設計しているとします。入力電圧は20V~35Vの範囲で変化し、回路は3.3Vで2Aおよび5Vで2.5Aを必要とします。RFシグナルチェーンには非常に敏感な低ノイズ回路が含まれており、設計者は両方のレギュレータに外部クロックを印加することによって、電源のスイッチング調波の位置を制御したいと考えています。これによって、スイッチング周波数は相互に同一かつ同位相になります。コンバータが同じクロックに同期していない場合、ビート周波数が発生します。ビート周波数およびコンバータのスイッチング調波は機器の動作範囲に含まれる可能性があり、除去が非常に困難です。

ステップ1:レギュレータの検索

サプライヤのウェブサイトのパラメトリック検索ツールを使用して、レギュレータの選択肢を絞り込みます(図4)。

図4. サプライヤのパラメトリック検索表でレギュレータの検索を開始します。これはマキシムのウェブサイト上での検索の例です。 図4. サプライヤのパラメトリック検索表でレギュレータの検索を開始します。これはマキシムのウェブサイト上での検索の例です。

以下のパラメータを使用します。

  • VINMAX:38V以上
  • IOUT:2.5A以上
  • Synchronous switching:Yes

次に、「Switch type」を「Internal」に変え、「External Sync」ボックスをオンにします。2つの該当する製品が見つかります。このデザインには、MAX17503を選択します。MAX17504も使用可能ですが、より高い電流飽和定格のインダクタが必要になることに注意してください。両方のデータシートを確認すると、MAX17504のピークスイッチ電流制限は、MAX17503の3.5Aに対して5.1A (typ)です。一般に、インダクタの飽和定格はスイッチ電流制限より高い必要があります。この例の場合、MAX17503を選ぶと物理的により小型サイズのインダクタを使用することができます。内部スイッチ電流制限は、通常はパラメトリック検索ツールには含まれていないため、データシートを調べて値を決める必要があります。

ステップ2:設計のシミュレーション

アプリケーションの要件に基づく注意深い考慮を経て、適切なコンバータが選択されます。次のステップは、パワーインダクタ、入力/出力コンデンサ、出力電圧の設定に使用されるフィードバック抵抗などの周囲の部品、および補償回路の部品の値を選択することです。便利なEE-Sim Design®ツール(図5)6は無料の電源設計支援ソフトで、初心者と熟練者の両方の電源エンジニアに、レギュレータの過渡応答とループ安定性を設計および最適化するための便利な方法を提供します。

図5. 設計要件パラメータの入力 図5. 設計要件パラメータの入力

EE-Simシミュレーションツールをクリックして、アプリケーションパラメータを入力します。次に「Create Design」ボックスをクリックすると、下の回路図(図6)が表示され、インダクタ、コンデンサ、および抵抗の値が自動的に選択されます。入力/出力コンデンサの値を選択するときには、印加する電圧に応じて実際の容量が減少する可能性があるため、VBIASと容量の関係のグラフを詳しく調べることが重要です。EE-Simでは容量値を手動で変更して、実際の容量を反映することができます。この話題については、チュートリアル55275で詳細に取り上げています。

図6. ソリューションの回路図 図6. ソリューションの回路図

「Analyze」タブをクリックすることによって、EE-Simは「Steady-State Analysis」、「Transient Analysis」、または「AC Analysis」を行うオプションを提供します。シミュレーションの手始めとして、「AC Analysis」ボタンをクリックし、次に「Run Analysis」ボタンをクリックして(図7)安定性を確認してください。およその目安として、ユニティゲインで少なくとも45°の位相マージンが必要です。

図7. 分析タイプの設定 図7. 分析タイプの設定

下のボード線図(図8)は、ユニティゲインでの位相マージンが66.59° (クロスオーバー周波数52.2kHz)であることを示しています。

図8. ループ安定性を測定するためのボード線図 図8. ループ安定性を測定するためのボード線図

次に、時間領域を調べて、負荷電流の変化に出力がどのように応答するか見てみます。「Transient Analysis」ボタンをクリックしてください。次に、電圧および電流波形を選択し、「Marquis Zoom」を使って出力電圧の偏差を測定します(図9)。1.25Aの負荷ステップを示すこの例では、出力は4.85Vに低下し、負荷ステップが解放されると、電圧は5.135Vのピークへと急増しています。

図9. 過渡応答のシミュレーション 図9. 過渡応答のシミュレーション

最後に付け加えると、他にも多数の波形が利用可能で、シミュレーションで表示することができます。右側の出力ボックスで、各種の信号を選択してみてください。

まとめ

DC-DCレギュレータの選択に関わるエンジニアにとって、このアプリケーションノートは有益な入門用デモになったと思います。

この3部構成のアプリケーションノートシリーズのパート1では、最初に電圧モード(VM)および電流モード(CM)コンバータについて、十分な基礎と基本的な理解を提供しました。両者の違いを理解することが重要であり、多数のサプライヤから非常に多くの選択肢が提供されている中で、エンジニアが適切な選択を行うために役立ちます。これらの2種類のコンバータの間の、性能とコストのトレードオフについて詳しく説明しました。パート2では、広範囲の出力負荷にわたって効率を向上させるトポロジーと、さまざまな形式のパルス周波数変調(PFM)の説明が、さらにエンジニアの役に立ちました。ポータブル機器ではこれらのトポロジーが広く使用されているため、それらの動作とトレードオフについて十分に理解することが重要です。

パワーマネージメントは非常に広い話題であるため、さまざまなレベルの詳細について検討する数千の論文が書かれてきました。インダクタ、入力コンデンサ、およびその他の部品の適切な選択に関する追加のアドバイスが、さまざまなアプリケーションノートや製品データシートに記載されています。下の「参考文献」は、電源設計の知識を広げたいと考える人にとって有益なものになるでしょう。

参考文献
  1. Travis Eichhorn、「Estimate Inductor Losses Easily in Power Supply Designs」、Power Electronics Technology、2005年4月 (http://powerelectronics.com/site-files/powerelectronics.com/files/archive/powerelectronics.com/mag/504PET20.pdf)
  2. Vishayインダクタ損失カリキュレータツール(http://www.vishay.com/inductors/calculator/calculator/)
  3. Coilcraft インダクタ値ツール(http://www.coilcraft.com/apps/selector/selector_1.cfm)
  4. Coilcraft電力損失ツール(http://www.coilcraft.com/apps/loss/loss_1.cfm)
  5. Mark Fortunato、Maxim Integratedチュートリアル5527 「セラミックコンデンサの温度および電圧変動、またはご使用の4.7µFのコンデンサが0.33µFのコンデンサになる理由」 (https://www.maximintegrated.com/jp/app-notes/index.mvp/id/5527)
  6. Maxim Integratedユーザーガイド5861 「EE-Sim User Manual」、2014年3月( http://www.maximintegrated.com/jp/app-notes/index.mvp/id/5861)

このアプリケーションノートは、2015年2月にHOW2POWER.comに掲載されました。



EE-SimはMaxim Integrated Products, Inc.の登録商標です。



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