アプリケーションノート5709

車載USB電源の実現:電流の増大、ケーブルの延長、および厳しいポータブル機器仕様への対処

筆者: Kevin Schemansky, Principal Member of Technical Staff and Product Definer
Ben Landen, Associate Business Manager

要約:このアプリケーションノートは、自動車における最近のポータブル機器(PD)の急速USB充電の課題を検討します。特に消費電力の大きい最新の機器では、PDがすぐに充電されない場合や、まったく充電されない場合があります。低コストのUSBカーチャージャは車内に無線干渉(RF)を発生させるため、解決策にならないことを説明します。高密度の集積を活用して車載専用USB電源、USB充電エニュメレーション、およびポート保護を提供するスマートUSBスイッチ内蔵の新しいDC-DCコンバータについて説明します。このデバイスはPD充電電流の増大による最近の問題を解決します。

同様の記事が「Electronic Products」の2013年7月21日号に掲載されています。

はじめに

今日の消費者は、スマートフォン、タブレット、メディアプレーヤーなどのポータブル機器(PD)をどこにでも携行します。しかし、これらのPDを自動車に持ち込むと、特に消費電力の大きい最新のPDでは、すぐに充電されない場合や、まったく充電されない場合があります。さらに、すべての同乗者に対する十分な数のUSBポートが用意されていないため、1つのUSBポートを取り合う形で機器を充電することになります。ほぼ100%の車載インフォテイメントシステムがUSBを備えることになると予想され、自動車OEMおよびそのサプライヤはこのニーズに対応する必要があります。
自動車に乗る人は、最も低価格の自動車に対してさえ完全な機能を備えた急速充電USBアクセスポートを求めており、数も増やしてほしいと思っています。低コストのUSBカーチャージャは、車内に無線干渉(RF)を発生させるため解決策になりません。自動車OEM各社は、これらのPD充電およびRF干渉の問題を非常にはっきりと認識しています。彼らは既存のUSBポートをアップグレードし、個々の車両により多くのUSB充電ポートを追加するための、最も高信頼性かつ低コストの方法を見つけようと努力しています。
従来のUSBソリューションでは、これらの問題を解決するために4つまたは5つの個別部品が必要でした。この記事では、高密度の集積を活用して車載専用USB電源、USB充電エニュメレーション、およびポート保護を提供し、PD充電電流の増大による最近の問題を解決する、スマートUSBスイッチ内蔵の新しいDC-DCコンバータについて説明します。このデバイスによって、自動車メーカーとユーザーの両方にとって同じようにUSBの実用性が向上します。

自動車にとってのUSBの課題

最初に、最大の課題である電流要件について説明します。個々の機器のバッテリ容量の増大とともに、PDに対するUSB充電の電流要件は常に拡大してきました。車載USBポートは従来500mAまでに制限されていましたが、新しいPDは急速充電のために5.0Vで最大1A、1.5A、さらには2.1Aを必要とします。
次に、距離について考えます。米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)はラジオのフロントアクセスUSBポートを使用しないように忠告しているため、自動車のメインUSBポートは標準的にグローブボックス内、ラジオ/センターコンソールの下、またはシート間のアームレスト収納部分に位置しています。このUSBポートの位置は、ラジオから30cm~3mの場合があり、恒久的な固定USBケーブルによって接続されます。PDがこのリモートUSBポートに接続されると、PDは電流を取り出して充電しようとします。USB VBUS (+5V)電力線とUSBグランド線の抵抗を通って流れる電流によって、固定ケーブルの両端で電圧降下(I × R)が発生します。PDにおける電圧がUSB仕様以下の場合、充電電流が減少して充電時間が長くなります。図1を参照してください。たとえば、500mΩのケーブルでは、1.5Aで充電するPDの場合750mVの降下が発生し、PDでの電圧が4.25Vに低下します。
現在のスマートフォンおよびタブレット主要4機種での性能テスト結果。PDにおける電圧がUSB仕様以下の場合、充電電流が減少して充電時間が長くなります。
図1. 現在のスマートフォンおよびタブレット主要4機種での性能テスト結果。PDにおける電圧がUSB仕様以下の場合、充電電流が減少して充電時間が長くなります。
最後に、RFの問題があります。USB充電ポートの数を増やすために、ユーザーはシガレットライター式USBカーチャージャを自動車に持ち込みます。OEMは、それらの簡素なチャージャに使用されるDC-DCコンバータの品質、動作周波数、または回路構成を管理することができません。当然、これらのUSBカーチャージャのDC-DCコンバータの設計が悪いと、AMレシーバの妨害、FMレシーバのスタティックノイズ、スマートフォンのタッチスクリーンへの干渉、およびGPSやパッシブエントリーシステムなどの組込み車載RF機能の感度低下が発生する可能性があります。これらすべての問題は、ユーザーおよびOEMブランドにとって劣悪な体験の原因となります。

これらのUSBの課題に適合する設計手法

上記の恒久的なUSB固定ケーブルによって、ラジオへのメインUSBポートのOEMアーキテクチャおよびソリューションコストが決定します。急速充電を達成するために、3つの一般的ソリューションが登場しました。
  1. USBケーブルのVBUSおよびGND電力経路により大径のケーブル/コネクタを使用する。
  2. ユーザーのアクセスポイントに自己給電型USBハブモジュールを追加する。
  3. ラジオのUSB電圧を高め、ケーブル端で5Vを維持することによってUSB固定ケーブルでの電圧降下を補正する「インテリジェント」なチップベースのソリューションを設計する。
アーキテクチャ3は大幅に低コストのシステムソリューションですが、最高の性能を得るには正確に実行される必要があります。現在の標準的な実装は3チップのソリューションです。
新しい第4のソリューションは、車載USBのこれらの課題を解決しつつ、コスト、サイズ、および重量を他の既存のソリューションよりも低く維持します。この新しい設計は、USB保護/ホストチャージャアダプタエミュレータ内蔵ステップダウンDC-DCコンバータのMAX16984を使用します。この新しい方式について詳しく説明します(これらの4つのソリューションの詳細については、車載USBの性能およびコストの比較についての補足を参照してください)。

RF干渉およびケーブル降下の問題の解決

民生グレードのUSBカーチャージャによって発生するRF干渉を防ぐため、より多くの車載USBポートを自動車に内蔵すべきです。これらの車載USBポートに使用されるDC-DCコンバータは、重要な性能上の特長を備えている必要があります。まず、正確に予測可能なスイッチング高調波およびEMI特性を提供する固定周波数、パルス幅変調(PWM)回路構成が必要です。次に、AM帯を避けるため、設計者は550kHz以下または2MHz以上のいずれかでスイッチングしてチューナへの干渉を避けることができます。AM以下の場合、マイクロプロセッサがコンバータのスイッチング周波数を設定してAMチューナ周波数を避けることができるように、DC-DCコンバータは外部デジタルSYNC入力を備える必要があります。AM以上の場合、AM干渉は発生しないため、こちらの方が良く使用されます。しかし、2MHz以上では、DC-DCコンバータのスイッチング損失が大きくなり、スイッチング時間が高速になり、帯域幅が広くなります。
最適なFM受信を実現するには、10.7MHzのIF周波数を避けるとともに、FM帯自体での高調波も排除する必要があります。AM帯以上のスイッチングでは、高調波の間隔が広くなるため、10.7MHzを避けるのは容易になります。第4次高調波が11MHzで、10.7MHzのIFから300kHzの位置になるため、2.2MHzの動作周波数が良く使用されます。FM周波数自体を避けるには、DC-DCコンバータに内蔵スペクトラム拡散発振器が必要です。これは2.2MHzの動作スイッチング周波数のディザリングを行い、FM帯の高調波がメインのFMキャリア信号に干渉しないようにします。図2を参照してください。
MAX16984のスペクトラム拡散のイネーブル/ディセーブル
図2. MAX16984のスペクトラム拡散のイネーブル/ディセーブル
無負荷(PDへのDC USB電流がゼロ)の状態でDC-DCコンバータが固定周波数を維持することが非常に重要です。これによって、SKIP (バースト)モード動作に起因する低周波数調波が除去され、それらがスマートフォンのタッチスクリーンや100kHzのパッシブエントリーシステムに干渉するのを防ぎます。無負荷電流時に固定周波数動作を維持するために、DC-DCコンバータは内蔵ローサイド同期整流FETおよび制御ループ回路構成を備え、DC USB負荷電流が存在しない場合にコンバータの出力のコンデンサに電流を入出力する必要があります。図3を参照してください。
MAX16984による電源の供給/シンク
図3. MAX16984による電源の供給/シンク
ラジオのUSB電圧を増大させ、固定USBケーブルの電圧降下を克服する方法があります。それにはDC USB負荷電流を検出し、トランスインピーダンスアンプ(TIA)を介してそれを伝達して、DC-DCコンバータのメイン制御ループを調整する必要があります。
Vout = Vnoload + Iload × Gi × Gv (式. 1)
USB認定を達成し、PDにおける電圧を最大1.5Aの負荷電流で4.75V~5.25Vに保つために、この方式の回路構成、全体精度、および帯域幅のすべてが非常に重要です。
このアーキテクチャでは、PDの電圧は次のようになります。
Vpd = Vout - Iload × Rcable --> Vpd = Vnoload + Iload × Gi × Gv - Iload × Rcable (式. 2)
図4を参照してください。
PDに対して5Vが維持される様子を示すMAX16984のデータ
図4. PDに対して5Vが維持される様子を示すMAX16984のデータ
誤差の発生源を分析することによって、USB電流要件と固定ケーブルの許容誤差の両方が残りの許容可能な実装誤差を確定することが分かります。
250mV ≥ ΔVnoload + Iload × Δ(Gi × Gv) - Iload × ΔRcable (式. 3)
式3、1.5Aの負荷要件、および標準的なOEMケーブルの許容誤差である±17%から、以下の結論が得られます。
  • ケーブルの許容誤差によってシステム内の残りの許容可能な誤差が設定されます。
  • DC-DCコンバータの出力電圧およびTIAに対する残りの精度によって、最大ケーブル長が制限されます。方式の精度が低いほど全抵抗が大きくなり、固定ケーブルが短くなります。図5を参照してください。
  • 負荷電流と関係なくPDに対して直接変換されるため、DC-DCコンバータは非常に高精度の無負荷時出力電圧を備える必要があります。1%以内の精度が必要です。
  • MAX16984の内蔵TIAは調整済みで非常に高精度です。それに対して、DC-DCコンバータと個別部品のTIAを使用する場合は、許容誤差が急速に蓄積されます。
公称ケーブル特性と総アンプ誤差の関係
図5. 公称ケーブル特性と総アンプ誤差の関係
最後に、非常に重要で、見過ごされることの多いDC-DCコンバータの特長があります。上記のように、DC-DCコンバータは広いクローズドループ帯域幅(200MHz以上)のソースおよびシンク回路構成を備える必要があります(図3を参照)。この回路構成は、負荷電流ステップ時にDC-DCコンバータの出力電圧を急速に増大(ソース電流)および急速に減少(シンク電流)させるために必要です。さらに、内蔵TIAも広い帯域幅を備える必要があります。このコンバータ設計は、あらゆる過電圧過渡がPDに達するのを防ぎます。図6を参照してください。この方法を使用しない場合、6Vのパルスが20msにわたってPDに印加される可能性があります。
ケーブル端でのMAX16984の負荷ステップ応答を示すデータ。この性能によって、あらゆる過電圧過渡がPDに達するのを防ぎます。
図6. ケーブル端でのMAX16984の負荷ステップ応答を示すデータ。この性能によって、あらゆる過電圧過渡がPDに達するのを防ぎます。

堅牢な車載ソリューションの実現

USBはほぼすべての自動車に普及しつつあるため、自動車OEMはあらゆるユーザーのPDで利用可能なフル機能、低コスト、急速充電のUSBポートを必要としています。自動車は複数のデディケーテッドUSBチャージングポート(充電専用)を備える必要があります。そしてこのすべてのUSB機能を、ハイエンドと低コストの両方の自動車で利用可能な小型、高信頼性の集積ソリューションの形にする必要があります。
堅牢な車載ソリューションには、USBデータラインをOEMの拡張±25kV要件から保護する追加のESD保護、PDの急速充電を可能にするインテリジェントUSB IF BC1.2データエニュメレータ、トランシーバのUSBデータラインを+5V VBUSラインへの短絡およびグランドへの短絡から絶縁するためのUSBデータスイッチプロテクタ、広い動作電圧(4.5V~42V)、固定周波数(無負荷~全負荷)、自動車のRF干渉を防ぐためのシンク/ソース+5V DC-DCコンバータ、DC-DCコンバータの出力を持ち上げて固定USBケーブル端で+5Vを維持するための高精度の固定ケーブル電圧調整回路、+5V VBUS をグランドへの短絡から保護するための高精度DC電流制限が必要です。そしてもちろん、AECQ-100完全準拠の部品をソリューションに使用する必要があります。
新しいDC-DCコンバータのMAX16984には、これらの機能がすべて内蔵されています(図7を参照)。このDC-DCコンバータは、メインUSB電源ポートを検出、給電、および保護し、非常にスモールフォームファクタのため、あらゆる自動車に小型のUSB充電ポートを容易に追加することができます(図8)。
システムダイアグラムおよびMAX16984のブロック図
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図7. システムダイアグラムおよびMAX16984のブロック図
完全なMAX16984ソリューションの形状と米国10セントコインの比較
図8. 完全なMAX16984ソリューションの形状と米国10セントコインの比較

補足:車載USBの性能およびコストの比較

自動車のメインUSBポートから任意のPDへの効率的で高速な充電を確保するために、自動車業界ではこれらの4つの回路構成の1つが使用されています。方式1および4は、使用する部品数が最少です。方式2、3、および4は、新しいPDのより高い電圧要件に対応します。方式4は、現時点で最も軽量、小型、および低コストのソリューションです。
Solution System from Head Unit (HU) Complexity Size Weight Eye Diagram Charge (V) Cost Factor (- HU)
1 Standard current limit USB switch and lower resistance BUS+ GND wire in cable Simple, Non- standard Connector & Cable Smallest Moderate Pass 4.70 + 4x
2 Additional 2 port HUB module that is powered from vehicle battery Multiple IC’s, 2 Port HUB IC, New PCB, Bezel, Multiple Inline USB connectors, Multiple cables. Very Large Most Best eye 5.0 + 12x
3 DC-DC Converter with discrete voltage adjustment and host enumeration 3- to 5-chip solution Moderate Least Pass 5.0 + 3 ICs
4 (new) MAX16984 Single-chip solution Smallest Least Pass 5.0 + 1 IC


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© Apr 07, 2014, Maxim Integrated Products, Inc.
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APP 5709: Apr 07, 2014
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