アプリケーションノート5073

PWM負荷電流を監視する高精度なハイサイド電流検出アンプ

筆者: Maurizio Gavardoni, Product Definer
Akshay Bhat, Senior Strategic Applications Engineer

要約:電動パワーステアリング、自動ギアシフト、トランスミッション制御、エンジンの燃料噴射制御、ブレーキのバルブ制御、アクティブサスペンションなどの車載制御システムには、高精度なハイサイド電流検出が不可欠です。これらすべてのアプリケーションでは、モータのトルクやソレノイドの駆動を制御するために、モータやソレノイドを流れる電流の高精度なレギュレーションが要求されます。このアプリケーションノートで取り上げる回路には、広い入力コモンモード電圧範囲にわたる誘導性負荷の電流監視に適した、高精度なハイサイド電流検出アンプ(MAX9918)が組み込まれています。このアンプは、誘導性キックバック、バッテリ逆接続状態や過渡現象が原因で入力コモン電圧が負になる可能性があるアプリケーションに最適です。

このアプリケーションノートの1つの版が、2011年3月3日にwww.edn.comに掲載されました。

電動パワーステアリング(EPS)システムの電流検出

従来のパワーステアリングシステムとは異なり、EPSシステムには油圧ポンプや作動油が含まれません。代わりに、ギア装置を介してステアリングラックに接続された電気モータが使用されます。ドライバーがハンドルを回すと、ステアリングセンサーがハンドルの位置と回転速度を検出します。この情報は、ステアリングシャフトに取り付けられたステアリングトルクセンサーからの入力とともに、パワーステアリング制御モジュールに伝達されます。必要なステアリングアシストを決定するため、制御モジュールは、車両速度センサー、トラクションコントロール、安定制御の各システムからも入力を取り込みます(図1)。

図1. 標準的なEPSシステムの簡略ブロック図
図1. 標準的なEPSシステムの簡略ブロック図

さらに、電力モジュールとのインタフェースによって、制御モジュールはモータの電流量を調整することができます。モータ電流を引き上げるとパワーアシストが増大し、引き下げると減少します。モータ電流は、通常、Hブリッジ回路を使用してモータの両端にパルス幅変調(PWM)電圧を印加することによって制御します(図2)。下に示した真理値表(表1)は、フルHブリッジ回路の各種動作モードをまとめたものです。モータは誘導性負荷を与えるため、生じたリップル電流を平均することでトルクが決定されます。これがドライバーに提供されるパワーアシストになります。

図2. 4つのゲートに対する信号の位相によってモータの回転方向と速度が決まるHブリッジ回路
図2. 4つのゲートに対する信号の位相によってモータの回転方向と速度が決まるHブリッジ回路

表1. Hブリッジの真理値表
Φ1A Φ1B Φ2A Φ2B Condition
ON ON OFF OFF モータがVBATとグランドの間で給電され、電流IMは矢印の方向に増大して流れます。
OFF ON OFF ON 電流IMが矢印の方向に流れますが、減少してΦ1B、Φ2B、検出抵抗の間を循環します。
OFF OFF ON ON モータがVBATとグランドの間で給電され、電流IMは矢印と反対の方向に増大して流れます。
OFF ON OFF ON 電流IMが矢印と反対の方向に流れます。また、電流IMは減少してΦ2B、Φ1B、検出抵抗の間を循環します。

電流測定デバイスがモータ電流を監視し、制御モジュールにリアルタイムでフィードバックを提供するため、制御モジュールは電流が目標値に達するまでPWMデューティサイクルを調整することができます。モータ電流の測定では、低い抵抗値の検出抵抗を電流の経路と直列に挿入する方法が一般的です。この方法では、小さな電圧降下が生じます。その差動電圧を電流検出アンプで増幅し、電流量を示します。

電流検出では、ローサイド、ハイサイド、モータ位置の3つの選択肢があります。それに応じて検出抵抗を、Hブリッジとグランドの間(ローサイド電流検出)、DCバスのボトムまたはバッテリの正端子とHブリッジの間(ハイサイド電流検出)、あるいはDCバスまたはモータ自体のハイサイド(出力モータPWM電流検出)に置くことができます。これらの手法には、それぞれ一長一短があります。ローサイドの手法は便利ですが、グランド経路に望ましくないな抵抗が加わり、グランドショート(地絡)の事故が発生しても検出のうえ警報することができません。回生ダイオードの電流を連続的に監視することができないのは、ハイサイドまたはローサイドのどちらの手法でも同じです。一方、PWM電流検出には、こうした欠点がありません。

PWM電流測定回路は単純に見えるかもしれませんが、決して小さくはない性能上の制約を伴います。この回路では、グランドからバッテリ電圧まで全体にわたってスイングするコモンモード電圧に対処する必要があります。したがって、コモンモード変位を除去するために、PWM電流測定回路はこのスイングに対応した広い入力電圧範囲があり、スイッチング周波数とエッジレートで導かれる妥当な周波数で、優れたコモンモード除去比(CMRR)を備えていなければなりません。

また、コモンモード過渡現象とPWM信号の最小限のデューティサイクルが、電流検出アンプの設定時間に厳しい要件を課します。正確な線形応答を得るために、電流測定回路には高い利得と精度、低いオフセット電圧が求められます。制御ループに人の操作が介在するため、直線性と精度は特に極めて重要です。回路に非直線性があると、自動車のオーバーステア時に振動が発生するため、ドライビング性能が低下する可能性があります。

図3のモータ電流制御および測定回路では、モータがフルHブリッジ構成で接続され、印加電圧の極性が簡単に反転するため、どちらの方向にも回転することができます。ここに示したICは、-20V~+75Vのコモンモード電圧に耐えられるため、誘導性フライバック、ロードダンプ過渡現象、バッテリ逆接続の過ちの影響を受けません。このデバイスには計測アンプも集積されています。このアンプの間接電流フィードバックアーキテクチャ(特許取得済み)によって、400µV (max)の入力オフセット電圧と0.6% (max)の利得誤差で高精度な電流検出が実現します。外部リファレンス電圧は、フルHブリッジで必要な双方向の電流検出に対応しており、ハーフHブリッジ回路での動作時には、片方向の電流検出にも使用することができます。双方向のアプリケーションでは、検出電流がゼロのときに出力電圧がリファレンス電圧と等しくなります。可変利得と固定利得の両方のバージョンが用意されているため、この部品は、さまざまなアプリケーションで最大限の柔軟性を実現することができます。

図3. PWM互換Hブリッジ電流検出回路
図3. PWM互換Hブリッジ電流検出回路

ソレノイド駆動の電流検出

ソレノイドは、自動車の電気機械式スイッチとして広く使用されています。たとえば、スタータソレノイドは、大電流をスタータモータに供給し、エンジンを運転状態にします。いくつかの車載制御システムでは、精密制御のためにソレノイド駆動を利用しています。たとえば、鉄道用の一般的なディーゼルエンジンシステムでは、高度な電子制御バルブとしてソレノイドを利用しています。この装置によって、適正な量の燃料を各エンジンシリンダーに高圧で注入します。これらのバルブのタイミングは、エンジン制御ユニットによって正確に制御され、ディーゼルエンジンとの同期が確保されます。その結果、騒音や排気ガスが少なく、燃料効率にも優れた、比較的「グリーンな」エンジンが実現します。ソレノイドのアプリケーションには、ほかにも自動ギアシフト、トランスミッション制御、ブレーキ制御、アクティブサスペンションなどがあります。

ハイサイドスイッチは、通常、ゲートがPWM信号によって制御されるFETです(図4)。FETがONになると、ソレノイドが14Vバッテリ電圧に接続され、ソレノイドコイルを帯電させる電流が生み出されます。FETがOFFになると、ソレノイド電流がクランプダイオードとシャント抵抗を介して放電されます。PWM周波数とデューティサイクルのレギュレーションによって、ソレノイドで生じる平均リップル電流が決定されます。それによって、アクチュエータに加わる力を制御します。

図4. ハイサイドシャントを利用した標準的なソレノイド駆動回路
図4. ハイサイドシャントを利用した標準的なソレノイド駆動回路

PWM周波数とデューティサイクルを安定化する目的でソレノイド電流を検出する際の課題は、Hブリッジアプリケーションの場合と似ています。電流検出アンプの入力におけるコモンモード電圧は、バッテリ電圧から、クランプダイオードのドロップ電圧分のわずかな負電圧までの範囲です。標準的なソレノイドには数アンペアの電流が必要であるため、そうした電流に耐えるクランプダイオードでは1Vを超える順方向電圧が生じることがあります。

電流検出アンプの広い入力コモンモード範囲とコモンモードの変動に対する高速なセトリングが、このアプリケーションにも最適です。このアプリケーションとHブリッジアプリケーションの主な違いは、ソレノイド電流が常に同じ方向に流れるため、電流検出アンプで片方向の電流検出しか必要としないことです(MAX9918は、リファレンス入力(REFIN)をグランドに接続すると片方向の電流検出アンプになります)。

試験結果

図5は、試験室で試作したソレノイドの標準アプリケーション回路を示しています。ソレノイドは、2mHのインダクタと1.6Ωの低いESRによってエミュレートされます。検出抵抗は100mΩであり、R4の値が15Ωの場合、最大ソレノイド電流は次の値に制限されます。
IMAX = VBAT/(RSENSE + ESR + R4) = 12V/(0.1 + 1.6 + 15)Ω = 0.72A
(ただし、R4は実際のソレノイド回路には存在しません)。

この最大電流値は、インダクタが完全に充電されたときに到達する理論的な限度です。ここに示した抵抗とインダクタの値では、回路の時定数は約0.12msに設定されます。これは約8.3kHzに相当します。外付け抵抗器R1 = 1kΩとR2 = 79kΩによって、80の利得が設定されます。

図5. 試験室で試作したソレノイド駆動回路
図5. 試験室で試作したソレノイド駆動回路

図5の回路の動作を、デューティサイクル80% (図6)と50% (図7)の場合についてPWM周波数5kHzの波形で示します。上段の波形はR4両端の電圧で、これはインダクタを流れる電流に比例します。中段の波形は電流検出アンプの出力で、下段の波形はPFETのドレインにおけるPWM信号を示します。予想どおり、デューティサイクルが高い場合の方が、生じる電流は大きくなります。

F図6. PWM周波数5kHz、デューティサイクル80%とした図5の回路の波形(上段のトレースはR4両端の電圧、中段のトレースは電流検出アンプの出力、下段のトレースはpFETのボトムにおけるPWM信号です)。
図6. PWM周波数5kHz、デューティサイクル80%とした図5の回路の波形(上段のトレースはR4両端の電圧、中段のトレースは電流検出アンプの出力、下段のトレースはpFETのボトムにおけるPWM信号です)。

図7. PWM周波数5kHz、デューティサイクル50%とした図5の回路の波形(上段のトレースはR4両端の電圧、中段のトレースは電流検出アンプの出力、下段のトレースはpFETのボトムにおけるPWM信号です)。
図7. PWM周波数5kHz、デューティサイクル50%とした図5の回路の波形(上段のトレースはR4両端の電圧、中段のトレースは電流検出アンプの出力、下段のトレースはpFETのボトムにおけるPWM信号です)。

したがって、MAX9918のように高精度な高電圧ハイサイド電流検出アンプを使用すると、比較的小さな検出抵抗で正確な測定が可能です。MAX9918は、EPSシステムに見られるような、Hブリッジから導かれた双方向のモータ電流に対応するほか、自動ギアシフト、トランスミッション制御、ブレーキ制御、アクティブサスペンションなどに見られる、片方向のソレノイド電流にも使用することができます。

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© Nov 17, 2011, Maxim Integrated Products, Inc.
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APP 5073: Nov 17, 2011
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