チュートリアル4803

USBバッテリ充電の基礎:サバイバルガイド

筆者: Len Sherman

要約:おそらくUSBの電力機能の中で最も便利な部分は、携帯型デバイスのバッテリの充電が可能であるという点ですが、バッテリの充電に必要となるのは単に電源(USBかそれ以外か)の選択のみではありません。不適切な充電によるバッテリ寿命の減少ばかりでなく、安全上の問題が発生する可能性があるLi+バッテリの場合は特にそれが当てはまります。優れた設計のチャージャは、安全性と利便性をユーザーに提供します。また、ユーザーからの返品と保証対象の修理が減少するため、コスト削減にもつながります。USBからバッテリの充電を行う場合、バッテリに対する「ケアと給電」と、USBの電力の制限および携帯型コンシューマデバイスの設計に付随するサイズやコストの障壁との間でバランスを取る必要があります。このアプリケーションノートでは、このバランスの実現方法について解説します。

目次
はじめに
各種電源
電源種別の検出
USB接続の用語
ポートの検出と自己エニュメレーション型チャージャ
ポート検出の追加
その他の充電方式
USB 3.0
「不正手段」—非準拠のUSB充電
結論

はじめに

USBは、シリアル通信の標準であると同時に、携帯型デバイスへの電力供給の標準にもなってきました。最近USBの電力面が拡張され、バッテリの充電に加えてACアダプタやその他の電源にも対応するようになりました。こうした使用範囲の拡大による明確な利点として、携帯型デバイスの充電と給電のための相互に交換可能なプラグとアダプタが出現しています。それによって、従来は個々のデバイスが独自のアダプタを必要としていたのに対し、遥かに広範囲の電源からの充電が可能になります。

おそらくUSBの電力機能の最も便利な利点は、携帯型デバイスのバッテリの充電が可能であるという点です。しかし、バッテリの充電に必要となるのは単に電源(USBかそれ以外か)の選択のみではありません。不適切な充電によるバッテリ寿命の減少ばかりでなく、安全上の問題が発生する可能性があるLi+バッテリの場合は特にそれが当てはまります。優れた設計のチャージャは、安全性と利便性をユーザーに提供します。また、ユーザーからの返品と保証対象の修理が減少するため、コスト削減にもつながります。

USBでバッテリの充電を行う場合、バッテリに対する「ケアと給電」と、USBの電力の制限および携帯型コンシューマデバイスの設計に付随するサイズやコストの障壁との間でバランスを取る必要があります。このアプリケーションノートでは、このバランスの実現方法について解説します。

各種電源

USB仕様は、パワーマネージメントの複数の世代にわたっています。最初のUSB 1および2.0の仕様では、接続されたデバイスへの給電用として2種類の電源(それぞれ5V 500mAと5V 100mA)を規定していました。これらの仕様はバッテリの充電を考慮して策定されたものではなく、単にマウスやキーボードなどの小型周辺デバイスに対する給電のみを目的としていました。もちろん、それにもかかわらず設計者たちは独自の工夫でバッテリ充電を実現してきました。しかし、統一された指針が存在しないことから、さまざまなデバイスとチャージャ間の相互運用性には当り外れがありました。この制約がきっかけとなって、最近USBの追加仕様である「Battery Charging Specification, Rev 1.1, 4/15/2009 (以降BC1.1)」¹が策定され、充電の認知と最大1.5Aを給電可能な電源の規定が行われました。題名は「Battery Charging Specification (バッテリ充電の仕様)」になっていますが、実際にはこの文書にはバッテリの充電に関する詳細はまったく含まれておらず、充電のための電力をUSBポートから取得する方法のみを扱っています。実際の充電方法については、現在も個々の設計に任されています。

BC1.1以前は、アクティブ状態(USBの用語では「非サスペンド状態」)のすべてのUSB電力ポートは「Low Power」 (100mA)または「High Power」 (500mA)のいずれかに分類されていました。また、任意のポートを「サスペンド状態」にすることも可能であり、この場合ほとんどオフに近い状態で2.5mAを供給可能です。PC、ラップトップ、およびパワードハブ(専用のAC入力からバスパワーを得るUSB分岐ボックス)のポートは大体「High Power」であるのに対し、アップストリームのUSBホストからの供給以外の電力を受け取らないハブのポートは「Low Power」と考えられます。デバイスが接続された時点で、当初は最大100mAを取得することが認められ、その状態でホストとの間で電流使用量のエニュメレーションとネゴシエーションが行われます。その後、取得電流を500mAに増大することが許される場合と、100mAに維持される場合があります。この点については、USB Serial Bus Specification Rev 2.0のセクション7.2.1.4で詳述されています。

BC1.1では、USB 2.0で規定されている電力供給を拡張して、充電のための電源の定義を追加しています。次の3種類の電源の種別が定義されています。
  1. スタンダードダウンストリームポート(Standard downstream port、以降SDP)これはUSB 2.0仕様で定義されているものと同様のポートであり、デスクトップおよびラップトップコンピュータで一般的に使用されている形式です。最大負荷電流は、サスペンド状態で2.5mA、接続され非サスペンド状態の場合100mA、および500mAに設定した場合は500mA (max)です。デバイスは、USBデータライン(D+およびD-)の15kΩを介したグランドへの個別接続を検出することによって、ハードウェアでSDPを認識することができますが、その場合もUSB準拠のためにはエニュメレーションを行う必要があります。USB 2.0では、エニュメレーションなしで電力を取得することは厳密には不正ですが、現在のハードウェアの多くは仕様に違反してこれを行っています。

  2. チャージングダウンストリームポート(Charging downstream port、以降CDP) BC1.1は、PC、ラップトップ、およびその他のハードウェア向けに、この新しい、より大電流のUSBポートを定義しています。CDPは最大1.5Aを供給可能ですが、エニュメレーションの前にこの電流を供給可能であるためUSB 2.0からは逸脱しています。CDPにプラグインされたデバイスは、D+およびD-ラインの操作と監視によって実装されるハードウェアのハンドシェイクを使用してCDPを認識することができます(USB 「Battery Charging Specification、セクション3.2.3」を参照)。ハードウェアテストはデータラインをUSBトランシーバに明け渡す前に行われるため、エニュメレーションの前にCDPの検出(および充電の開始)が可能になります。

  3. デディケーテッドチャージングポート(Dedicated charging port、以降DCP) BC1.1では、ディジタル通信をまったく行わない充電を可能とするために、ACアダプタやカーアダプタなどのエニュメレーションを行わない電源について記載しています。DCPは最大1.5Aの供給が可能であり、D+とD-の間の短絡によって識別されます。これによって、円筒型または特殊形状のコネクタの付いた永久固定式のコードの代わりに、ミニまたはマイクロUSBコネクタを備えたDCP 「ADアダプタ」を作ることが可能になります。これらのアダプタでは、(適合するプラグを備えた)任意のUSBケーブルを充電に使用することができます。
これらのポートタイプの詳細については、USB 「Battery Charging Specification, Rev 1.1, 4/15/2009」を参照してください。.

電源種別の検出

任意のUSBソケットに接続して、その電力を自身の動作やバッテリの充電に使用するデバイスにとって重要なのは、どれだけの電流を取得するのが適切かを判断することです。給電能力が500mAしかないソースから1Aを取得しようとするのは問題です。USBポートの過負荷によって、シャットダウン、ヒューズの切断、ポリスイッチのトリップなどが発生します。たとえリセット可能な保護を使用している場合でも、一度そのデバイスを取り外して再接続しない限り動作が再開しないのが普通です。ポートの保護があまり厳格でない場合は、ポートの過負荷が原因でシステム全体がリセットされる可能性もあります。

可搬性のある設計として、ポート検出を行う方法に複数の選択肢が存在します。BC1.1に準拠、USB 2.0にのみ準拠、または非準拠とすることが可能です。BC1.1に完全準拠する場合は、旧USB 1および2.0ポートを含むすべてのUSBソース種別について、入力電流の検出と制限が可能である必要があります。2.0準拠の場合、エニュメレーションの後にSDPからの充電を行いますが、CDPおよびDCPは認識しない可能性があります。CDPを認識することができない場合、SDPの場合と同様にエニュメレーションの後にのみ充電が可能であり準拠していることになります。その他の部分的に準拠と非準拠が混在する充電方式については後述します。

デバイスにポートディテクションを搭載するには、それ自体のソフトウェアを使用する方法と、システムリソースに依存しないUSB D+およびD-データラインとの相互動作による検出が可能なチャージャまたはインタフェースICを採用する方法があります。設計の中でそれらの役割をどのように分割するかは、システムのアーキテクチャによって決まります。たとえば、電源管理のためにすでにマイクロコントローラ(または専用IC)を採用しているデバイスの場合は、ポートの検出と電流の選択にもそのICを使用することが望ましいと考えられます。すでにUSB接続を介してデバイスとホストの通信が可能なため、エニュメレーションと設定の結果に基づいて充電の選択を行うことができます。これらの選択は、アプリケーションプロセッサ、または電源管理やその他のシステム機能を担当する独立したマイクロコントローラの制御下で行うことができます。システムは、ポートタイプの検出、エニュメレーション、およびチャージャに対する適切なコマンドの送信を行います。チャージャは、充電に関するハードウェアおよび安全性を担当し、システムがバッテリを損傷させないようにするための組込みの制限を備えています(図1)。

図1. 非エニュメレーション型のチャージャ。USBトランシーバとマイクロプロセッサがUSBのエニュメレーションを処理します。その後、マイクロプロセッサがバッテリチャージャの適切なパラメータ設定を行います。
図1. 非エニュメレーション型のチャージャ。USBトランシーバとマイクロプロセッサがUSBのエニュメレーションを処理します。その後、マイクロプロセッサがバッテリチャージャの適切なパラメータ設定を行います。

デバイスによっては、USBによる通信が設計されていない場合や、システムソフトウェアをUSB充電の管理に当てない場合も考えられます。この場合は、単に利用可能なUSBポートを電源として使用することが目的になります。複雑性の回避や、ソフトウェアのバグに起因する不正充電の懸念への対応として、この手法を使用することができます。システムがエニュメレーションを行わないため、最良な充電の選択肢は自己エニュメレーション型のチャージャICです。このチャージャはポートの検出を担当し、システムからの助けを必要とすることなく適切なUSB負荷電流制限を選択します(図2)。

図2. 自己列エニュメレーションチャージャは直接USBデータラインに接続可能であり、USBトランシーバやマイクロプロセッサのリソースを使用することなく単純なシステムでUSB充電を完全に利用することができます。<br><br>
図2. 自己列エニュメレーションチャージャは直接USBデータラインに接続可能であり、USBトランシーバやマイクロプロセッサのリソースを使用することなく単純なシステムでUSB充電を完全に利用することができます。

USB接続の用語

ここで、いくつかのUSBの用語を明確にしておくべきだと思われます。それらは、「装着(attach)」、「接続(connect)」、「エニュメレーション(enumerate)」、および「設定(configure)」です。
    装着(Attach) USBケーブルをプラグインする物理的なプロセスです。
    接続(Connect) (プラグインした)デバイスが1.5kΩのプルアップ抵抗をD+またはD-データラインに接続します。
    エニュメレーション(Enumerate) デバイスタイプを特定するためにデバイスとホストの間で行われる最初のデータ交換です。
    設定(Configure) デバイスのパラメータを設定します。
USB 2.0の場合、USBポートから供給可能な電流をデバイスが把握するのはエニュメレーションと設定の段階です。エニュメレーションと設定を行うためには、デバイスとホストの間のディジタル通信が必要になります。BC1.1は、USB仕様を拡張しています。USB 2.0での選択肢に加えて、BC1.1では簡易方式によるポートタイプの判定も認められており、一部のポートではエニュメレーションなしで充電を行うことが可能になっています。

ポートの検出と自己エニュメレーション型チャージャ

MAX8895は、電源の評価をシステムに依存せず、利用可能な入力電力を最大限に利用する方法を判断します。このチャージャはアダプタ種別を自動的に判定し、以下の区別を行うことができます。
  1. DCP:500mA~1.5A
  2. CDP (ホストまたはハブ):Hi Speedの場合は最大900mA (Chirp実行中は580mA)、Low Speed/Fast Speedの場合は最大1.5A
  3. Low-power SDP (ホストまたはハブ):100mA
  4. High-power SDP (ホストまたはハブ):500mA
利用可能な電流は、バッテリとシステムのいずれかが使用するか、またはその両者で配分することが可能です。10msの間バストラフィックが検出されない場合、内蔵のサスペンドタイマーによって自動的にサスペンド状態に移行します。

USBおよびアダプタの各ソースからの電流の自動的な最適化に加えて、MAX8895はアダプタおよびUSB給電からバッテリ給電へのスムーズな切替えも行い、システムが必要に応じて利用可能なすべての入力電力を使用できるようにします(図3)。これによって、バッテリが完全放電している場合や存在しない状態でも、給電時に即座に動作させることが可能になります。すべてのパワーMOSFETが内蔵されており、外付けのダイオードは不要です。温度過昇時に充電電流を減少させるサーマルレギュレーションループによって、ICが一定温度以下に維持されます。

図3. MAX8895チャージャはUSBソースに対してエニュメレーションを行い、接続されている電源の種類に応じて最適な充電電流を設定します。また、システムの動作を維持しながら完全放電されたバッテリの充電を行うことも可能です。
図3. MAX8895チャージャはUSBソースに対してエニュメレーションを行い、接続されている電源の種類に応じて最適な充電電流を設定します。また、システムの動作を維持しながら完全放電されたバッテリの充電を行うことも可能です。

ポート検出の追加

BC1.1では、ハードウェア検出手法によるポートタイプの判別について記載しています。そのために図2のMAX8895のようなICを使用するか、またはこの回路がUSBトランシーバに内蔵されることを想定しています。しかし、既存のチャージャにポート検出(または少なくともそのサブセット)を追加することが望ましい場合も存在します。図4に、システムマイクロコントローラの制御下で動作する初歩的なUSBチャージャ検出方式の回路を示します。この方式ではDCPを検出することが可能ですが、SDPとCDPを識別することはできません。両方をSDPとして扱うため、場合によってはCDPからより多くの充電電流を取得する機会を失う可能性があります。使用電流が小さい設計の場合、この欠点は許容可能です。

図4. 限定的な形のUSBチャージャ検出を実装したHi Speed USBスイッチ
図4. 限定的な形のUSBチャージャ検出を実装したHi Speed USBスイッチ

図4の接続は、以下のように限定的なポート検出を実装しています。3つのポートタイプのいずれかに携帯型デバイスが装着された時点で、VBUSによってスイッチU1およびデバイスのマイクロコントローラへの給電が行われます。U1のCB入力のロジックレベルがローの場合U1は検出モードに移行し、D+ラインが10kΩを通してシステムロジック電圧にプルアップされ、D-は100kΩを通してGNDにプルダウンされます。DCPが接続された場合は、(D+がD-に短絡されているため) D-がハイになります。SDPまたはCDPが接続された場合は、D-および検出出力がローになります。SDPまたはCDPが検出された場合、システムはCBをローに駆動してスイッチをデータモードに移行させ、エニュメレーションおよびその他のデータ転送を行うためにD+とD-がデータ経路に接続されます。上記の方式には、CDPに装着されたことを認識せず、そのため直ちに充電が行われないという制限がありますが、エニュメレーションの後でCDPからの充電が行われます。

完全なポート検出を、図5に示します。MAX14578は、接続されたデバイス(USBケーブル、およびUSB CDPまたは専用のチャージャ)の検出および外部のLi-ionバッテリチャージャの制御に必要なすべての回路を内蔵しています。このデバイスは、データコンタクト検出、D+/D-短絡検出、およびCDP識別を含む、USB Battery Charging Rev 1.1に準拠した検出ロジックを実装しています。さらに、USB BC1.1の「Dead Battery (完全放電したバッテリ)」の規定をサポートするための充電タイマーと消耗バッテリの電圧監視を内蔵しています。

MAX14578は、USB Hi Speedおよび当初の(Full SpeedおよびLow Speed)信号に準拠したデータスイッチを内蔵しています。このスイッチは、低オン抵抗(RON)、低オン抵抗平坦性、および非常に低い静電容量を特長としています。CDNおよびCDP端子は、最大15kV (ヒューマンボディモデル)のESD保護も備えています。

図5. USB充電ポート検出器およびデータスイッチICのMAX14578を使用して、チャージャにUSB BC1.1完全準拠のポート検出を追加することができます。
図5. USB充電ポート検出器およびデータスイッチICのMAX14578を使用して、チャージャにUSB BC1.1完全準拠のポート検出を追加することができます。

図6では、USBデバイスに単純なLi+充電機能を追加しています。MAX8814は、100mAまたは500mAのUSBポートからバッテリの充電を行うように設定可能です。この回路は、100mAに初期化されます。その後、マイクロプロセッサがホストに対してエニュメレーションを行い、電流能力を判定します。USBポートが対応している場合、電流設定回路のN1およびR1をオンにすることによって充電電流を増大させます。許容誤差を考慮に入れた上でSDPの制限である500mAを超えることがないよう、ハイレベルの充電は公称425mAに設定されています。また、このチャージャは、外部電源が接続されたことをシステムに通知する出力信号(ABO)を提供する自動ブート回路も内蔵しています。図6はUSB対応ですが、BC1.1を取り入れていないため、充電にはエニュメレーションが必要になります。

図6. MAX8814は、簡単かつ低ピン数でUSBデバイスに充電機能を追加する手段を提供します。エニュメレーションはシステムの制御下で行われ、システムがISET端子で充電電流の監視と制御を行います。この設計はUSB対応ですがBC1.1を組み込んでいないため、充電にはエニュメレーションが必要になります。
図6. MAX8814は、簡単かつ低ピン数でUSBデバイスに充電機能を追加する手段を提供します。エニュメレーションはシステムの制御下で行われ、システムがISET端子で充電電流の監視と制御を行います。この設計はUSB対応ですがBC1.1を組み込んでいないため、充電にはエニュメレーションが必要になります。

その他の充電方式

USBバッテリ充電の状況は複雑になる可能性があります。携帯型のUSB接続デバイスは1つの形式に従っているわけではなく、さまざまな(特に明白なものとして、サイズ、コスト、および充電時間に関する)制約があります。これらおよびその他のより微妙な問題を評価することは、USBチャージャの設計を選択する上で役立ちます。これらの補足的な設計上の考慮点として、以下のようなものがあります。
  • そのデバイスに外部(USBまたはアダプタ)電源を印加した場合、バッテリが完全放電していてもフル機能で動作する必要があるか?
  • USBとアダプタ電源について個別の入力接続が必要か?
  • そのデバイスは充電の選択についてUSBポートとネゴシエーションを行うためのマイコンおよびファームウェアを備えているか?
  • 発熱を軽減するため一時的に充電電流を低下させることは可能か、またはスイッチモードの設計が必要か?
  • どのような入力保護手段が必要か?

マルチ入力充電

BC1.1では、デバイスはUSBで定義されたソースからのみ充電を行うことができます。それらのデバイスは次第に一般的になっていますが、通常の、おそらくUSBに準拠していないアダプタによる充電という選択肢も確保しておく場合が考えられます。これを実現する最良の方法は、1つの外部電源から別の外部電源への引継ぎ時に切替えを行う、デュアル入力チャージャを使用することです。以前は、電力の引継ぎは主として損失の多いダイオードのOR-ingまたは「隠れた」電流経路および切替えタイミングを考慮した場合に複雑になる可能性のあるMOSFETコンパレータ回路のいずれかを使用して行われてきました。幸い、現在は多数のチャージャICが電力の切替え制御を備えています(図7)。この機能の内蔵によって、単に外付け部品が代替されるのみではありません。切替え回路が何を行っているか内蔵のチャージャが把握しているため、電力切替え時の遷移の振る舞いも改善されます。

図7. MAX8844のようなデュアル入力チャージャは、USBとアダプタの両方のソースからの充電に対応します。また、このデバイスは最大28Vの入力過電圧に対する保護を備えています。
図7. MAX8844のようなデュアル入力チャージャは、USBとアダプタの両方のソースからの充電に対応します。また、このデバイスは最大28Vの入力過電圧に対する保護を備えています。

複数のソースから電力を受け取るチャージャ(特に一般的な円筒形コネクタを使用しているもの)に共通する問題は、誤ったアダプタへの接続の可能性です。これを想定して、MAX8844は7.5Vを超える入力については充電を防止します。また、最大28Vまでの入力に耐えるとともに、それを遮断する能力を備えています。これによって、既知のほとんどの種類のアダプタへの不注意による接続から、バッテリ、チャージャ、およびダウンストリームの回路が保護されます。さらにMAX8844は、USBおよびアダプタ(IN)入力からバイアスされた、システムに対して30mAを供給可能な過電圧保護を備えたLDOを内蔵しています。これらのLDO出力(SAFEUSBおよびSAFEOUT)は、チャージャがイネーブルされているかどうかに関わらずオンのままになります。このデバイスによって実行されるその他のチャージャ機能には、バッテリ検出、周囲温度の過昇時に充電電流を減少させてICを一定温度以下へ維持するサーマルリミット機能、および外部電力が印加されたことをシステムに通知する自動ブートロジック出力があります。

バッテリ負荷切替え(スマートパワー)とダイレクト接続

USBおよびアダプタ給電による充電アプリケーションの設計上の主要な決定事項の1つが、充電回路をバッテリおよびシステム負荷に直接接続するか、それとも外部電力が接続されている場合にシステムからバッテリを切り離すための切替えを追加する必要があるかという点です。この2つの場合について図8に示します。.

図8. ダイレクト接続による充電とマキシムのSmart Power Selector™テクノロジの比較
図8. ダイレクト接続による充電とマキシムのSmart Power Selector™テクノロジの比較

その場合、バッテリの充電量が許容範囲に達するまでシステムの起動が不可能になる可能性があります。バッテリがある程度充電されて完全な機能が回復するまでユーザーを待たせることが許容されるアプリケーションもあります。しかし、バッテリの状態に関係なく、外部電力を接続した時点で即座に動作することが「必須」のアプリケーションもあります。後者の場合、マキシムのSmart Power Selectorテクノロジによって、バッテリが完全に放電した状態でもシステムが外部電力を使用することが可能になります。図9を参照してください。

図9. MAX8934のようなSmart Power Selector機能を備えたデュアル入力USB/アダプタチャージャは、外部電力が印加された時点で即座にシステムへの給電を行うとともに、完全放電したバッテリへの充電も行います。
図9. MAX8934のようなSmart Power Selector機能を備えたデュアル入力USB/アダプタチャージャは、外部電力が印加された時点で即座にシステムへの給電を行うとともに、完全放電したバッテリへの充電も行います。

図9で、システム負荷出力(SYS)とバッテリ(BAT)の間に接続された小さい抵抗値(40mΩ)の内蔵MOSFETが、充電および放電動作中に複数の機能を果たします。充電中、このSmart Power Selectorスイッチは限られたUSBまたはアダプタ電力を最大限に活用して、システムが必要としない入力電力をバッテリの充電に利用します。また、バッテリにストレージバッファの役割を与え、瞬間的に入力電流制限を超える負荷電流分をバッテリよりアシストすることを可能にします。放電中、このスイッチはバッテリからシステムへの低損失の経路を提供します。

この場合も、システムソフトウェアがUSBホストとの通信およびチャージャへのコマンド送信を行います。MAX8394は充電のハードウェア面を管理し、USBおよびアダプタによる充電に関連した充電パラメータを設定するための最適な入力を提供します。規定の制限値を超えないことを保証するため、USBの入力電流制限があらかじめ設定されています。アダプタについては、ユーザー設定の電流が使用されます。このチャージャは、完備したステータスおよび障害信号もシステムに提供します。

MAX8934は、電子情報技術産業協会(JEITA)によって概要が示された温度過昇時に充電を停止または低下させる新しい温度依存型充電プロトコルを含む、最新の充電安全機能を備えています。さらに、入力は最大16Vの過電圧保護(OVP)を備えており、過度の条件下では充電電流を減少させることによって温度上昇を制限します。

発熱を最小限に抑える最大2Aのスイッチモード高速充電

一部の小型デバイスは、大きな(1Aを大幅に上回る)充電電流を必要とするにも関わらず、そのような充電レートに伴ってリニアチャージャで発生する高熱には耐えることができません。そうした状況において、MAX8903 (図10)は4MHzのDC-DCコンバータを動作させることにより、部品の実装面積を小さく抑えながら、アダプタソースから最大2Aをバッテリに提供します。MAX8934と同様、MAX8903もデュアル入力設計になっており、個別のスイッチを通してUSBとアダプタ入力に対応します。電源間の切替えは自動で行われ、入力電力とバッテリ電力の間の切替えも自動で行われます。

図10. Smart Power Selector機能を備えたスイッチモードチャージャのMAX8903は、アダプタ入力および500mAのUSBソースから最大2Aで充電を行います。
図10. Smart Power Selector機能を備えたスイッチモードチャージャのMAX8903は、アダプタ入力および500mAのUSBソースから最大2Aで充電を行います。

MAX8903は、4MHzのスイッチング周波数によってスイッチモードコンバータに小型の受動部品を使用することができるため、電力損失が少ないことも考慮した場合、このデバイスを使用した2Aのチャージャは同等のリニアチャージャよりも小型化が可能です。実際には、発熱が原因で、ほとんどの携帯型デバイスでは2Aのリニアチャージャによる設計はいかなる状況下でも許容されません。

過電圧および逆極性保護の搭載

USB充電仕様によって、電源アダプタとチャージャに関してある程度の秩序が設けられましたが、携帯型デバイスにとって、特に(多くのアダプタ専用およびデュアル入力デバイスで使用されている)遍在する円筒形コネクタを電源に使用するアプリケーションの場合、USBの設計は全体として混沌とした環境のままです。消費者が「手近にあった」アダプタを接続した結果、出力電圧が違ったり、極性すら違うという事態が容易に発生する可能性があります。MAX8900はチャージャの電源入力に正と負の22Vの保護を内蔵することによって、外付けの保護デバイスやMOSFETスイッチを必要とせずに、それらの設計により大きな安心感を提供します(図11)。

図11. ±22Vの過電圧および逆極性保護を備えたダイレクト接続スイッチモードチャージャ
図11. ±22Vの過電圧および逆極性保護を備えたダイレクト接続スイッチモードチャージャ

MAX8900はダイレクト接続方式のチャージャで、通常はシステムがバッテリに接続されます。3.25MHzのスイッチモード設計によって部品を小型化するとともに、発熱を最小限に抑えて最大1.2Aで充電を行います。両極性の入力保護に加えて、JEITAのガイドラインに従って温度の関数として充電パラメータの調整を行うことによってバッテリの安全性を強化します。

USBからのNiMHの充電

図12. 1セルNiMH用USB給電スイッチモードチャージャ
図12. 1セルNiMH用USB給電スイッチモードチャージャ

携帯型デバイスの世界はLi+セルの独占状態に見えますが、NiMHセルも傍観していたわけではありません。意外なことに、NiMHの容積当りエネルギーはLi+より約15%低いだけです(ただし重量当りのエネルギーは依然としてかなり低くなります)。NiMHの最大の弱点は高い自己放電ですが、この点は1年経過後も電荷の85%を維持するSANYO® Eneloop®セルのようなハイブリッドNiMHセルによってほぼ解決されました。NiMHセルの魅力は、コスト、安全性、および(少なくとも標準セルを使用している場合)ユーザーによる交換が容易である点です。

図12に、1個のAA NiMHセルによって給電され、USBから充電を行う小型の携帯型デバイスを示します。DS2710チャージャは約150kHzでスイッチングし、1.1Aでバッテリの充電を行います(標準的なAA NiMHセルの場合で約0.5℃)。ステップダウン比によって5V/500mAがバッテリでは1.5V/1.1Aに変換されるため、この回路はUSBポートから取得する電流(500mA)より多くの電流(1.1A)をバッテリに供給します。低い充電速度では適切な充電終了を保証することができないため、500mA以上のポートでのみ充電を行うことができる点に注意してください。したがって、エニュメレーションによって100mAのみが利用できると判断された場合には、充電をアクティブ化しないでください。システムでQ2をオフにして、TMRのタイマー抵抗をフロートさせることによってチャージャを非アクティブ化します。

このチャージャが備えるもう1つの特に有用な特長として、バッテリのインピーダンスを検出してアルカリ電池や不正なバッテリが装着されていないかの判断が行われます。それらの電池が装着されている場合は、充電が停止します。これによって、エンドユーザーが非常時にアルカリ電池を装着した場合でも、誤って充電を行う心配がなくなります。

USB 3.0

USB 3.0仕様は、さらに高いデータ速度をUSBにもたらします。電力に関する面はUSB 2.0と同様ですが、「単位負荷」が100mAから150mAに高められ、High-powerポートは5単位負荷ではなく6単位負荷を供給する必要があります。したがって、Low-power USB 3.0ポートは150mAを供給可能であり、High-power USB 3.0ポートは900mAを供給可能です。

「不正手段」—非準拠のUSB充電

元々意図されていなかった目的に流用されているすべての規格と同様、メーカーは少なくとも限定的な形で充電を提供するために時々USB 2.0の要件を部分的に無視してきました。ある主要メーカーが使用していたそのような非準拠の方式の1つは、High-powerとLow-powerのどちらのハブも決して過負荷にならないよう、あらゆる条件下で100mAまでしか取り出さないというものでした。電流をこのレベルまで制限することのマイナス面はバッテリ充電に長時間を要することですが、1日の大半をUSBポートに装着された状態で過ごすデバイスの場合には、それでも問題ありませんでした。長い充電時間の他に、この方式にはもう1つの制約がありました。システムのバッテリが完全に放電されている場合、バッテリが十分な充電レベルに達するまでシステムが完全には機能しないことになります。

非準拠の充電のもう1つの側面として、USBのサスペンドの扱いに関するものがあります。USB 2.0では、一定時間にわたってバス上のアクティビティがなかった場合、すべてのデバイスがサスペンド状態(消費電流2.5mA未満)になる必要があると規定しています。USB 2.0の策定時に充電はまったく含まれていなかったため、オフの間(ただし依然として装着されている間)バッテリの充電を継続するデバイスについては考慮されていません。しかし、ほとんどのUSBホストは実際には電力をオフにしないため、この仕様違反が充電の妨げになることは稀でした。

さらに思い切った非準拠の方式として、500mAが利用可能であることを前提に、500mAの給電が可能なパワードポート/ハブにのみ装着するようユーザーに指示することもできます。前述のように、大部分のUSBポートは電力の切断を行わないため、この方法はほとんどの場合うまく機能します。500mAをサポートしないポートにそれらのデバイスを装着した場合は、ポートがシャットダウンすることが予想されます。しかし、USBポートの過負荷時の挙動は必ずしも明確に定義されているわけではなく、システムのリセットや損傷につながる可能性もあります。幸い、今ではバッテリ充電がUSB仕様の有効な一部になったため、このレベルまで思い切った手段を用いる必要はもうありません。

結論

USBからの充電には、各USBデバイスの固有の要件に依存する多様な形式が存在します。 USB 「Battery Charging Specification. Rev 1.1」によって、従来は場当り的だった充電の動作に、非常に必要性の高かった統一性がようやく追加されました。 BC1.1の採択は、メーカーと消費者にとってコスト削減につながり、標準アダプタの増大に伴って相互運用性が向上すると考えられます。しかし、USBガイドラインは単にポートから電力を取得する方法のみを規定しており、電源管理アーキテクチャおよび充電の仕様については依然として自由な解釈の余地が残されています。そのため、ほほすべてのUSB接続の携帯型デバイスについて安全で信頼性の高いバッテリチャージャの迅速な設計に貢献する、マキシムの広範な充電デバイスのラインナップが重要になります。

ここで紹介したチャージャを表1にまとめます。これらはマキシムが提供している製品のごく一部の例です。その他の選択肢については、「バッテリマネージメント」を参照してください。

表1. 代表的なUSBバッテリチャージャ
Device Autoadapter Detection Switch Mode No. of Inputs Smart Power Selector Functionality OVP (V) Comment
MAX8895
1
+16
MAX8814
1
+28 8-pin device
MAX8844
2
+28
MAX8934
2
+16 JEITA safety compliant
MAX8903
2
+16 4MHz DC-DC
MAX8900
1
±22 Negative input protection
DS2710
1
NiMH


¹USBのシリアルバスおよび充電に関する仕様については、http://www.usb.org/developers/docs/を参照してください。
 

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