チュートリアル4696

超音波診断装置の概要と主な補助機能に必要となる電気部品

筆者: John Scampini, Executive Director in the Industrial Communications and Ultrasound Business Unit

要約:このアプリケーションノートは超音波診断装置の紹介をします。小型化、低コスト化、および携帯にも適した画像処理ソリューションへの傾向を議論すると同時に、大型のカート式装置の性能と診断機能を維持するのに必要なものについて説明します。超音波装置の補助機能と電気部品を概説します。ここではトランスデューサ、高電圧多重化、高電圧トランスミッタ、画像パスレシーバ、ディジタルビームフォーマ、ビーム形成ディジタル信号の処理、およびディスプレイ処理に焦点を当てています。

概要

音響エネルギーを体内に送信し、返ってくる反射を受信して処理するフェーズドアレイ超音波診断装置は、体内の臓器や構造の画像を生成し、血流や組織の運動をマッピングし、血流速について非常に正確な情報を提供することができます。従来、これらの画像処理装置を実現するには多数の高性能フェーズドアレイトランスミッタおよびレシーバを必要としたため、装置は大型で高価なカート式となっていました。近年、集積化の進展に伴って、装置設計者は、そのような大型装置に迫る性能を備えながら、より小型、低コストで携帯にも適した画像処理ソリューションに移行することが可能になっています。今後の課題は、引き続きこれらのソリューションの集積化を進めながら、その性能と診断機能を高めていくことです。

トランスデューサ

この装置の極めて重要な部品の1つが、超音波トランスデューサです。超音波診断装置は通常、特定の診断用途向けに最適化したさまざまなトランスデューサを使用しています。各トランスデューサは、フォーカスしたエネルギーを体内に送信し、返ってくる反射を受信する多数の圧電トランスデューサエレメントで構成されています。各素子は、細心同軸ケーブルで超音波装置に接続されています。標準的なトランスデューサは32~512個ものエレメントを含み、1MHz~15MHzの周波数で動作します。大部分の超音波装置は、2~4個もの切り替え可能なトランスデューサコネクタを備えており、臨床医は検査の種類に合わせてさまざまなトランスデューサを容易に切り替えることができます。

高電圧多重化

標準的なフェーズドアレイ超音波装置は、32~256個ものトランスミッタとレシーバを内蔵しています。多くの場合、装置のトランスミッタとレシーバは、利用可能なトランスデューサエレメントの数よりも少なくなります。そのような場合は、トランスデューサまたは装置に組み込まれた高電圧スイッチをマルチプレクサとして使用して、特定のトランスデューサエレメントを特定のトランスミッタ/レシーバ(Tx/Rx)ペアに接続します。こうすると、装置は、利用可能なトランスデューサエレメントアレイ全体にわたって、アクティブなトランスデューサアパーチャを動的に変更することができます。

これらのスイッチの要件は厳しくなります。これらのスイッチは、200VP-Pもの電圧振幅と最大2Aのピーク電流の送信パルスを処理する必要があります。高速のスイッチングによってアクティブアパーチャの構成をすばやく変更し、画像フレームレートを最大化する必要があります。さらには、チャージインジェクションを最小限に抑えて、スプリアス伝送やそれに伴う画像アーチファクトを防止する必要があります。

超音波診断装置のファンクションブロックダイアグラム。マキシムが推奨する超音波診断装置ソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/ultrasoundをご覧ください。
超音波診断装置のファンクションブロックダイアグラム。マキシムが推奨する超音波診断装置ソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/ultrasoundをご覧ください。

高電圧トランスミッタ

ディジタル送信ビームフォーマは、通常、適正なタイミングと位相を備えた必要なディジタル送信信号を生成し、フォーカスした送信信号を作り出します。高性能の超音波装置は、任意波形ジェネレータを使用して複雑な送信波形を生成し、画質を最適化します。このような場合、送信ビームフォーマは、約40MHzのレートで8~10ビットのディジタルワードを生成し、必要な送信波形を作り出します。ディジタル-アナログコンバータ(DAC)を使用してそのディジタル波形をアナログ信号に変換し、リニア高電圧アンプで増幅してトランスデューサエレメントを駆動します。このような送信方式は、非常に大型、高価で、多くの電力を必要とするため、一般に比較的高価で携帯性の低いシステムでしか使用されません。その結果、超音波装置の大部分はこの送信ビームフォーマ方式を採用せずに、マルチレベルの高電圧パルサを使用して必要な送信信号を生成します。この代替方式では、高集積の高電圧パルサによって、トランスデューサエレメントを必要なプログラマブル高圧電源にすばやく切り替え、送信波形を生成します。単純なバイポーラ送信波形を生成するために、送信パルサは、ディジタルビームフォーマで制御される正と負の送信電源電圧に対して交互にエレメントを接続します。さらに複雑な構成では、より優れた特性を持つ複雑なマルチレベルの波形を生成するために、複数の電源とグランドへの接続が可能です。

高電圧パルサについては、近年、第二高調波画像処理の普及によって、スルーレートと対称性の要件が厳しくなっています。第2高調波画像処理では、人体が持つ非線形の音響特性を利用します。このような非線形性の下では、foの音響エネルギーが2foのエネルギーに変換されることが多くなります。これらの第2高調波信号の受信は、さまざまな理由から、より優れた画質を生み出すため、広く使用されるようになっています。

超音波診断装置

第2高調波画像処理の実装では、基本的に2つの方式が使用されています。1つ目の方式は、標準高調波画像処理と呼ばれ、送信信号の第2高調波を可能な限り抑制します。その結果、受信された第2高調波は、人体の非線形挙動にのみ由来することになります。この動作モードでは、送信エネルギーの第2高調波成分が基本波を最低50dB下回ることが必要です。これを実現するには、送信パルスのデューティサイクルを完全な50%のデューティサイクルの±0.2%以下にする必要があります。2つ目の方式は、パルス反転と呼ばれ、反転した送信パルスを使用して、同じ画像ラインに沿って2つの位相反転受信信号を生成します。これら2つの位相反転受信信号をレシーバで加算することによって、人体内の非線形プロセスで生成された高調波信号を復元します。このパルス反転方式では、加算した位相反転送信パルスが可能な限り打ち消し合うようにする必要があります。これを行うには、高電圧パルサの立上り時間と立下り時間を精密に一致させる必要があります。

画像パスレシーバ

超音波画像パスレシーバは、カラーフロー画像処理やスペクトルパルス波ドップラー(PWD)に必要な2D信号とPWD信号を検出するために使用します。このレシーバには、Tx/Rxスイッチ、低ノイズアンプ(LNA)、可変利得アンプ(VGA)、アンチエイリアスフィルタ(AAF)、およびアナログ-ディジタルコンバータ(ADC)が内蔵されています。

Tx/Rxスイッチ

Tx/Rxスイッチは、LNAを高電圧送信パルスから保護し、受信中はLNAの入力をトランスミッタから切り離します。このスイッチは、高電圧送信パルスが印加されると自動的にオン/オフされる、適正にバイアスされた一連のダイオードを使用して実装するのが普通です。Tx/Rxスイッチの回復時間を短くし、レシーバが送信パルスの直後にオンになるようにします。このように回復時間を短くすることは、浅い部分での画像処理と、オンインピーダンスを抑えてレシーバのノイズ感度を維持する上で非常に重要です。

低ノイズアンプ(LNA)

レシーバ内のLNAは、優れたノイズ性能と十分な利得を備える必要があります。正しく設計されたレシーバでは、一般に、LNAによってレシーバ全体のノイズ性能が決まります。トランスデューサエレメントは、LNAの入力の比較的低いインピーダンスで終端した、かなり長い同軸トランスデューサケーブルによってLNAに接続します。正しく終端しないと、ケーブルの容量とトランスデューサエレメントのソースインピーダンスによって、広帯域トランスデューサからの受信信号の帯域幅が大きく制限される場合があります。トランスデューサケーブルをローインピーダンスで終端すると、このフィルタリング効果が軽減され、画質が大幅に向上します。残念ながら、このような終端を行うとLNAの入力信号レベルも減少するため、レシーバの感度が低下しやすくなります。このため、LNAでは、必要とするロー入力インピーダンス終端を実現するアクティブ入力終端機能と、そのような条件下で要求される優れたノイズ性能を備えることが重要です。

超音波診断の画像

可変利得アンプ(VGA)

VGAは、時間利得制御(TGC)アンプとも呼ばれ、全受信サイクルに対して十分なダイナミックレンジをレシーバに提供します。超音波信号は約1540m/sで体内を伝播し、往復の減衰率は約1.4dB/cm-MHzです。音響送信パルスの直後には、LNAの入力で受信された「エコー」信号は0.5VP-Pにも達することがあります。この信号は急速に減衰してトランスデューサエレメントのサーマルノイズフロアまで下がります。この信号を受信するために必要なダイナミックレンジは100dB~110dB程度であり、実用的なADCのレンジをはるかに超えています。そのため、VGAを使用して、この信号をADCにマッピングします。このアプリケーションで使用される標準的な12ビットADCに対して受信信号をマッピングするには、約30dB~40dBの利得を持つVGAが必要です。この利得を時間の関数として変化させて(「時間利得制御」)、ダイナミックレンジのマッピングを実現します。

超音波レシーバの瞬間ダイナミックレンジも非常に重要です。瞬間ダイナミックレンジは、2D画質や、ドップラー偏移(つまり血液や組織の運動)を検出する装置の性能に影響を与えます。これは特に、対象とする第2高調波信号が送信基本波の信号よりも大幅に弱いことがある第2高調波画像処理の場合に当てはまります。また、小さなドップラー信号が組織や血管壁からの非常に大きな信号の1kHz以内に収まることがあるドップラーモードでも同様です。そのため、広帯域とニアキャリアのSN比が最も重要であり、多くの場合はレシーバのこの段で制限されます。

アンチエイリアスフィルタ(AAF)とADC

受信チェーン内のAAFは、通常の最大画像処理周波数を超える高周波ノイズや外来信号が折り返し雑音としてADCによってベースバンドに乗らないようにします。設計では、多くの場合、可変AAFが使用されます。折り返し雑音を取り除き、信号の時間領域応答を保存するには、フィルタ自体で第1ナイキスト領域を超える信号を減衰させる必要があります。このような理由から、バターワースフィルタや高次のベッセルフィルタが使用されます。

このアプリケーションで使用されるADCは、通常、40Msps~60Mspsで動作する12ビットデバイスです。このコンバータは、許容されるコストと電力レベルで必要な瞬間ダイナミックレンジを実現します。正しく設計されたレシーバでは、このADCがレシーバの瞬間SN比を制限することになります。しかし、前述のとおり、性能の不十分なVGAの限界のために、多くの場合、レシーバのSN比性能が制限されます。

ディジタルビームフォーマ

ADCの出力信号は、通常、高速LVDSシリアルインタフェースを介してディジタル受信ビームフォーマに送られます。この方式は、プリント基板(PCB)を簡素化し、インタフェースピンの数を削減することができます。ビームフォーマは、実効サンプルレートを4倍にも高めてシステムのビーム形成分解能を向上させる高周波変換型のローパスまたはバンドパスディジタルフィルタを内蔵しています。これらの高周波変換信号をメモリに蓄積し、必要な遅延をかけたあと、遅延係数カルキュレータで加算して正しいフォーカスを算出します。また、これらの信号は、アポダイゼーションカルキュレータを使用して適切な重み付け(「アポダイズ」)を行ってから加算します。このような手順によって受信アパーチャを正しく設定し、受信ビームのサイドローブ干渉を低減して画質を向上させます。

ビーム形成ディジタル信号の処理

受信したビーム形成ディジタル超音波信号は、さまざまなDSPと標準的なPCベースのコンピュータソリューションを使用して視覚および音声出力用に処理されます。このプロセスは、Bモードまたは2D画像処理、カラーフロー画像生成に関連したドップラー処理、およびPWD/連続波ドップラー(CWD)のスペクトル処理に大別することができます。

Bモード処理

Bモード処理では、RFビーム形成ディジタル信号を正しくフィルタリングして検出します。検出信号のダイナミックレンジは極めて広いため、Bモードプロセッサでは、ディジタル圧縮によって表示可能な可視ダイナミックレンジを実現する必要があります。

カラーフロー処理

カラーフロー処理では、送信周波数で直交局部発振器(LO)を使用し、RFディジタルビーム形成データのディジタルミキシングによって、IおよびQベースバンド信号を生成する複雑なミキシングを行います。その結果、音響受信ラインの各サンプルに振幅値と位相値が割り当てられます。カラーフロー処理では、ドップラー偏移を測定するために、8~16本の音響ラインを同一の画像パスラインに集めるのが普通です。その画像パスに沿った移動する血流や組織からの反射によってドップラー偏移が発生し、その偏移が起こったベースバンドI/Qサンプルの位相が変化します。カラープロセッサでは、8~16本のラインにわたってその画像パスに沿った各点の時間に対する平均位相偏移を算定します。また、その平均速度を表す色も割り当てます。このようにして、血流や組織の運動の2次元カラー表示を行うことができます。

スペクトルドップラー

スペクトル処理では、ビーム形成ディジタル信号をディジタルフィルタリングし、送信周波数で直交局部発振器(LO)を使用してベースバンドに混合して、送信パルス繰り返し周波数(PRF)でサンプリングします。複雑な高速フーリエ変換(FFT)を使用して、信号の速度成分を示す出力スペクトルを生成します。このFFT出力の各ビンの信号振幅は、利用可能な可視表示のダイナミックレンジを最適化するように計算されて圧縮されます。最後に、この信号振幅を超音波ディスプレイ上に時間に対して表示します。

CWDでもほぼ同じように信号を処理します。これらの信号を表示用に処理することに加えて、スペクトルプロセッサでは、正および負の速度に相当する左右のステレオ音声信号も生成します。DACによってこれらの信号を変換し、外付けのスピーカやヘッドフォンの駆動に使用します。

表示の処理

表示プロセッサは、Bモードまたはカラーフロープロセッサからの極座標の音響画像データを、直交座標のビットマップ画像にマッピングするために必要な演算を実行して、画像アーチファクトの発生を防止します。この処理は、一般にR-θ変換と呼ばれています。表示プロセッサでは、その他の空間的画像強調フィルタリング機能も実行します。

連続波ドップラー(CWD)

CWDは、心臓用および汎用超音波診断装置の大部分で利用可能なモダリティであり、心臓などで見られる高速の血流を正確に測定するために使用します。CWDモードでは、利用可能な超音波トランスデューサエレメントをトランスデューサアパーチャの中央部分で均等に2分割します。エレメントの半分はトランスミッタとして使用してフォーカスした音響CWD送信ビームを生成し、残りの半分はレシーバとしてフォーカスした受信ビームを生成します。送信エレメントに加える信号は、対象とするドップラー周波数(通常は1MHz~7.5MHz)の方形波です。送信ジッタを最小限に抑えて、ドップラー位相偏移の検出に悪影響を与える恐れがある位相ノイズの発生を防止します。送信エレメントに加える信号を正しく位相調整して、送信ビームをフォーカスします。同様に、CWDの受信信号は、各受信エレメントからの信号を位相調整して加算することによってフォーカスします。このモードではトランスミッタはレシーバと同時にオンになっているため、対象とするドップラー信号は、静止組織からの送信基本波の反射によって生成される非常に大きな受信信号の数kHz以内であるのが普通です。この大きな信号を処理するために必要なダイナミックレンジは、画像受信パス内にあるVGA、AAF、および12ビットADCのレンジをはるかに超えます。そのため、CWDについては、別の広ダイナミック受信ソリューションが必要になります。

CWDレシーバは、通常、2つの方式のいずれかで実現します。1つめの方式では、通常、高性能超音波装置によって、LNA出力で受信CWD信号を抽出します。次に、送信周波数に等しいLO周波数で複雑なミキサを使用して信号をビーム形成し、処理のためにベースバンドに混合します。I/Q LOの位相をチャネルごとに調整することによって、受信CWD信号の位相をシフトさせることができます。これらのミキサの出力を加算してバンドパスフィルタリングを行い、ADCによって変換します。得られるベースバンドビーム形成信号は、可聴範囲(100Hz~50kHz)に収まります。可聴周波数のADCを使用して、IおよびQのCWD信号をディジタル化します。これらのADCでは、組織の移動による大きな低周波ドップラー信号と血液による小さな信号の両方を処理するために相当に広いダイナミックレンジが必要です。

CWD信号を受信するもう1つの方式はディレイラインを使用するもので、通常は低コストの装置で採用されています。この方法でも信号をLNAの出力で抽出し、電流信号に変換します。クロスポイントスイッチによって位相の類似したチャネルを加算し、受信ビームフォーマに従って8~16本の独立した出力信号にします。ディレイラインを使用してこれらの信号を遅延させて加算し、RF周波数で単一のビーム形成信号にします。さらに、送信周波数でLOを備えたI/Qミキサを使用して、この信号をベースバンドに混合します。得られたベースバンド音声信号をフィルタリングしてディジタル形式に変換します。

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