チュートリアル4677

輸液ポンプと携帯型医療機器設計における重要な検討事項


要約:このアプリケーションノートは、FDA規制、セルフテスト回路、および医用電気機器向けIEC 60601-1規格への準拠を含む、輸液ポンプを設計する上で非常に重要となる検討事項について議論します。またポンプ機構、パワーオンセルフテスト(POST)、低電力かつ携帯型設計、タイムキーピング、アラーム、および静電気放電の変動要因についても簡潔に取り扱っています。

概要

コンピュータ制御の輸液ポンプは、旧式のドリップチャンバとローラークランプを使用したシステムに比べて、精度と安全性の面で大幅に進歩しています。最新の輸液ポンプは、精密に制御された速度で静脈(IV)ラインを通して患者への送液を行います。また、最新式の安全機能も備えており、重要性を問わずすべての障害を必ず検出して即座に通知することを保証しています。

輸液ポンプには、大容量ポンプ(LVP)と小容量ポンプ(SVP、またはシリンジポンプ)の2種類があります。LVPの場合、通常はIVバッグまたはボトルに輸液が収容され、その容器と患者のIV部位の間をつなぐチューブの特別な区間をポンプが操作します。一部の輸液ポンプは、患者へのIVラインを最大4本同時に制御する機能を備えていますが、最も一般的なのは1ラインと2ラインの装置です。

大容量輸液ポンプ
大容量輸液ポンプ

LVPと密接な関係にあるのがシリンジポンプです。この装置は、大型のシリンジのプランジャを正確に制御された速度で押し込みます。これらのシリンジポンプの輸液速度は、一般にLVPより何桁も小さくなります。ポンピングの機構以外の点では、ほとんどすべての面においてシリンジポンプもLVPと類似しています。

シリンジポンプ
シリンジポンプ

FDA規制対象の医療機器

輸液ポンプは、米食品医薬品局(FDA)によって設計と製造が規制されている可搬式の医療機器です。そのため、詳細に文書化された手順に従って設計と組立てを行うとともに、厳格なドキュメンテーション、開発時テスト、製造時テスト、およびフィールドメンテナンスの要件に適合する性能を備える必要があります。また、機器には包括的なセルフテストと障害通知の機能が内蔵されている必要があり、そのための追加回路と、セルフテスト機能を内蔵した部品の使用が必要になります。

患者への漏れ電流も大きな問題になります。医療装置の開発者は、医用電気機器の製品安全性規格であるIEC 60601-1の要件を満たす必要があります。輸液ポンプは患者接続型の装置ですが、接続が非導電性であるため、最も要件の緩いカテゴリ(B型)に分類されます。

FDA承認の取得には長い時間と莫大な費用が必要になるため、メーカーはシステム部品の長期的な入手性を確保する必要があります。したがって、顧客志向の生産中止ポリシーを採用しているサプライヤを選択して、長い年数にわたるシステム部品の入手性を確保することが重要です。

マキシムでは長年にわたって慎重に部品の生産中止を回避してきたため、マキシム製品は医療分野のお客様の信頼を得ています。マキシムは製品の生産中止がお客様にとってどれほど壊滅的なものになりうるかを理解しており、一部製品のより新しい生産ラインへの移行、ウェハ備蓄の生成、最終購入の機会提供、アップグレードデバイスの開発などの作業を入念に行ってきました。需要が存在する間に生産中止となったマキシム製品は現在までほとんどありません。マキシムの生産中止ポリシーは、同業のサプライヤ企業の中でも最も柔軟なものの1つです。

可搬性

患者は病院内と家庭の両方において移動可能であることが必要なため、輸液ポンプにも可搬性が要求されます。バッテリ駆動、比較的小型、および比較的軽量な装置であることが必要です。したがって、設計者はサイズと消費電力を最小限に抑えるソリューションを使用する必要があります。例としては、低エネルギーの電源の場合でもリニアレギュレータの代わりにスイッチング電圧レギュレータを使用する、より高い周波数のスイッチング電源を使用して外付け部品のサイズを最小化する、などの方法があります。

輸液ポンプのソリューション

ポンプの機構

正確な流速を実現するため、ポンプの機構には従来からステッパモータが使用されてきました。角度位置センサーまたはホール効果センサーと組み合わせることによって、代わりにDCモータを使用することが可能になります。これらの設計では、モータ駆動アクチュエータ(カムおよびフィンガー)がチューブを搾る形で、ポンプ機構の1回転につき正確に既知の容量を送り出します。

モータの負荷は、ポンプ機構の回転に伴って変化します。モータの負荷は、ポンプ機構の位置、輸液の粘性、および流速によって影響されます。消費電力を節減するため、モータ駆動回路にモータ負荷センサーの信号を取り入れ、クローズドループ制御システムにフィードバックしてモータ駆動電圧を調整することができます。これらのクローズドループ制御システムの実装には、さまざまな種類の電流検出アンプ、オペアンプ、コンパレータ、およびフィルタが使用されます。

電源

バッテリ寿命を最大化するため、システム設計者は大きな電力レベルについてはスイッチモード電圧レギュレータを使用します。サイズと重量を最小限に抑えるため、スイッチモードコンバータは可能な限り高速で動作させる必要があります。低ドロップアウトリニアレギュレータ(LDO)は、低い効率が許容される非常に低電力の回路か、またはLDOの出力電圧が入力電圧より大幅に低くないため高い効率が維持される場合にのみ使用されます。

非常に高度なプロセッサの使用に伴って、中央処理装置(CPU)からのVID (voltage identification digital)制御、高速負荷ステップ応答、および高精度低電圧/大電流出力などの要件が電源に求められる場合があります。これらの電源でオンザフライのプログラム機能が必要とされる場合は、ディジタル-アナログコンバータ(DAC)とディジタルポテンショメータが使用されますが、VID制御はレギュレータコントローラには組み込まれていません。

これらは患者接続型の装置であり、ACラインから給電されるため、UL®およびIECの安全性要件に適合する必要があります。すなわち、使用するオフラインスイッチング電源は、患者接続を伴う医療アプリケーション向けに設計され、これらの組織による認定を取得したものである必要があります。

輸液ポンプのファンクションブロックダイアグラム。マキシムが推奨する輸液ポンプソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/infusionをご覧ください。
輸液ポンプのファンクションブロックダイアグラム。マキシムが推奨する輸液ポンプソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/infusionをご覧ください。

バッテリマネージメント

多くの場合、静脈への輸液を維持した状態で介護担当者が患者を搬送する必要があるため、輸液ポンプはバッテリの電力のみで数時間にわたって動作可能である必要があります。充電式バッテリパックの使用が必須です。

輸液ポンプの場合、バッテリの電力を使い切ることは絶対に許されません。さもないと、ポンピングが停止してしまいます。そのため、正確なバッテリ残量ゲージが必要になります。この種の患者接続型機器の場合、電圧検出式の残量ゲージでは正確さがまったく不十分であるため、現在はクーロンカウント法が妥当な方式と考えられています。

ユーザインタフェース

流速のプログラムにはユーザインタフェースが使用され、多様な情報が提供されます。病院用の装置の場合、輸液速度に加えて、輸液製剤、患者情報、ポンピングシステムの状態、バッテリ寿命の残量、およびアラーム条件などのパラメータが表示されます。

家庭用の着用型モデルの中には、患者がプログラムを行うものがあります。これらの装置は、直観的なグラフィカルユーザインタフェース(GUI)を利用してプログラムの手順を患者に示します。多くの場合、これらの輸液ポンプはカラーディスプレイとユーザー入力用のタッチスクリーンを備えています。ユーザーのタッチ入力に対する、視覚、聴覚、および触覚による応答を使用することによって、設計者はユーザーの使用感を向上させることができます。MA X11811などの先進的なタッチスクリーンコントローラは、ハプティックフィードバック、バストラフィックを減少させるタッチ処理、および高精度なジェスチャ検出のための自律モードを備えています。

流速は、非常に広い範囲(通常は0.01mL/時~999mL/時)にわたってプログラム可能です。ポンプのプログラムミスに起因する医療過誤の歴史があるため、輸液ポンプには高度なソフトウェアルーチンが実装されており、異常もしくは危険な輸液速度が選択された場合にユーザーへの警告を行うようになっています。

ディスプレイ/キーボード

フルカラー、高解像度、バックライトを備えた液晶ディスプレイ(LCD)が最も一般的です。一部のポンプは、補助的な英数字ディスプレイも備えています。起動時にディスプレイのセルフテストを行うことがFDAの要件であるため、設計者にとってセルフテスト機能を内蔵したドライバが必要になります。

セルフテストとシステムモニタ

すべての輸液ポンプは、FDAの要件に適合するためにパワーオンセルフテスト(POST)を実施する必要があります。これには、すべての重要なプロセッサ、重要な回路、インジケータ、ディスプレイ、およびアラーム機能のテストが含まれます。一部のPOST操作ではユーザーによる観察が必要になりますが、セルフチェック用の追加回路を使用して障害を見落とす危険性を低減させます。

たとえば、一部のモデルでは安全用プロセッサを使用してメインプロセッサの動作を監視しており、想定外の動作を検出した場合にアラームを生成します。セルフテストのもう1つの例として、発光ダイオード(LED)の点灯/消灯時に流れる電流の監視という単純なものがあります。電流が許容範囲外の場合は、障害の存在を示しています。セルフテストの中でおそらく最も一般的なのが、ウォッチドッグタイマ(WDT)です。プロセッサが正しいコード境界内で動作していることを保証するために、WDT機能を備えたマイクロプロセッサ監視回路が広く使用されています。マイクロプロセッサと同一のICに監視回路を備える方式の場合、監視回路がマイクロプロセッサと同じ過渡エラーの影響を受けることになるため、医療機器の場合この方式は通常は認められません。

患者が使用している間ポンプが正常に動作していることを保証するためには、監視回路機能が非常に重要です。すべての電源が許容範囲内で安定するまで、(多くの場合1つのポンプに数個存在する)マイクロコントローラをリセット状態に保つ必要があります。電圧監視回路を使用して、すべての電源の低電圧および過電圧状態を監視します。モータの負荷が監視され、モータのストール検出が提供されます(モータのストールは致命的な障害であり、最優先のアラームが発生します)。生命にかかわるシステムであるため、多くの場合ADCを使用して電源の電圧が監視され、正確な値が定期的に記録されます。また、温度、モータ負荷、IVライン圧、バッテリ電圧などのセンサー測定値に関してもADCが必要です。

バッテリパック、電源、モータ、およびディスプレイに温度センサーが実装されます。これらの設計は高効率であるため、通常はファンは不要です。これらのポンプには防沫性が必要であるため、エアフロー用の開口部を設けるのは困難です。

アラーム

輸液ポンプは、障害または潜在的に危険な状況をユーザーに警告するための、音と視覚によるアラームを必要とします。視覚的なインジケータとして、通常は2色または3色(赤/オレンジ/緑)のLEDが使用されます。音によるアラームは、マイクロコントローラのパルス幅変調(PWM)出力によって駆動される単純なブザーから、オーディオDACを使用して作られるより洗練されたアラーム(音声合成など)まで、多岐にわたります。

単純なオーディオブザーにもセルフテスト機能が必要とされます。この機能は、スピーカのインピーダンスが範囲内かどうかを監視することによる間接的な方法か、スピーカの付近に組み込んだマイクでオーディオ出力を記録して適切なレベルかどうかを確認することによる直接的な方法のいずれかで実装することができます。

タイムキーピング

患者ケアの重要性から、すべてのイベントをログに記録してタイムスタンプを付与する必要があります。訴訟や計器の故障が発生した場合に後から検討することができるように、すべてのキー押下、すべての輸液の開始と終了、すべての構成の変更(ポンプのドア開閉、AC電源の接続断など)、およびすべての障害条件の通知をログに記録して、タイムスタンプを付与しておく必要があります。.

リアルタイムクロック(RTC)が必要になります。マイクロプロセッサおよびディジタル回路用の他のクロックソースは特にクリティカルではないため、標準的な水晶を使用することができます。RTCについて極度に高い精度が必要である場合、マキシムから温度補償水晶発振器(TCXO)を内蔵したRTCが提供されています。これらのRTCは±2ppm (0℃~+40℃)の精度を達成しており、これは通常の水晶より約2桁高い精度です。

静電気放電

すべての輸液ポンプは、保護機能を内蔵した電子部品を使用するか、または露出配線にESDラインプロテクタを追加することによって、静電気放電(ESD)に関するIEC 61000-4-2の要件に適合する必要があります。マキシムは、こうした高度なESD保護を内蔵した多数のインタフェース部品に加えて、スタンドアロンのESDダイオードアレイも提供しています。

インタフェース

最新の輸液ポンプは、病院情報システムに接続するためのインタフェースを内蔵しています。これらは、各種の結線式(RS-232、RS-485、USB、およびイーサネット)および/またはワイヤレスインタフェース(Bluetooth®およびWi-Fi®)です。

有線インタフェースの場合、IEC 60601-1の患者安全性要件に適合するためにガルバニック絶縁が不可欠です。単方向ラインを使用するインタフェース(RS-232、RS-485、RS-422など)は、絶縁が容易です。唯一の難題は、それらに対する絶縁された電源を被絶縁側に設けるという部分です。MAX256などの集積化デバイスは、絶縁インタフェース用の最大3Wの絶縁された電力を小型のSOパッケージから供給することによって、この問題を解決しています。

Bluetoothワードマークおよびロゴは、Bluetooth SIG, Inc.が所有する登録商標であり、マキシムはこれら商標をライセンスに基づいて使用しています。

Wi-FiはWi-Fi Alliance Corporationの登録証明商標です。



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© Nov 22, 2010, Maxim Integrated Products, Inc.
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APP 4677: Nov 22, 2010
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