チュートリアル4675

インスリンポンプと携帯型医療機器設計における重要な検討事項


要約:このアプリケーションノートはFDA規制、形状の要件、および電源バジェットの制約など、インスリンポンプを設計する上で注意を要する非常に重要な検討事項について議論します。またセルフテスト、流量検出、アラーム、および静電気放電の変動要因についても簡潔に取り扱っています。

概要

インスリンポンプは、血糖値を調整するために通常は1日数回の注射を行う必要がある糖尿病患者に対して、正確に制御された速度でインスリンを投与します。インスリンポンプは患者の生活の質を改善し、血糖値の厳格な管理を提供することによって長期合併症の発生率を低下させます。ファームウェアは、ボーラス投与量と基礎レートに多数の変更を加えることが可能であり、食事、睡眠、運動などのイベントに対応して(およびそれらを見越して)患者がインスリンレベルを管理することができます。

インスリンは、ポンプ内に装着されたユーザーによる交換が可能なカートリッジに収容されます。この容器は実質的には専用の注射器であり、そのピストンがポンプによって徐々に押し込まれます。カートリッジの出口は、患者の皮下注入部位(通常は腹部に設定)につながる軟質チューブに接続されます。

インスリンポンプ

糖尿病を管理するための関連製品として、持続血糖モニタがあります。この装置は、皮下センサーを通してリアルタイムでのグルコースレベルの監視を提供します。センサーは1回に数日間装着したままにしておくことが可能であるため、患者が複数の個別血液サンプルをテストする必要が軽減されます。将来的には、連続的にグルコースレベルを監視し、それに応じて自動的にインスリン投与レベルを調整することによって、これら2つのシステムの間に閉ループが形成されることが期待されます。

FDA規制対象の医療機器

インスリンポンプは、米食品医薬品局(FDA)によって設計と製造が規制されている携帯型医療機器です。そのため、詳細に文書化された手順に従って設計と組立てを行うとともに、厳格なドキュメンテーション、開発時テスト、製造時テスト、およびフィールドメンテナンスの要件に適合する性能を備える必要があります。

また、機器には包括的なセルフテストと障害通知の機能が内蔵されている必要があり、そのための追加回路と、セルフテスト機能を内蔵した部品の使用が必要になります。

FDA承認の取得には長い時間と莫大な費用が必要になるため、メーカーはシステム部品の長期的な入手性を確保する必要があります。したがって、顧客志向の生産中止ポリシーを採用しているサプライヤを選択して、長い年数にわたるシステム部品の入手性を確保することが重要です。

マキシムでは長年にわたって慎重に部品の生産中止を回避してきたため、マキシム製品は医療分野のお客様の信頼を得ています。マキシムは製品の生産中止がお客様にとってどれほど壊滅的なものになりうるかを理解しており、一部製品のより新しい生産ラインへの移行、ウェハバッファの構築、最終購入の機会提供、アップグレードデバイスの開発などの作業を入念に行ってきました。需要が存在する間に生産中止となったマキシム製品は現在までほとんどありません。マキシムの生産中止ポリシーは、同業のサプライヤ企業の中でも最も柔軟なものの1つです。

インスリンポンプのファンクションブロックダイアグラム。マキシムが推奨するインスリンポンプソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/insulinをご覧ください。
インスリンポンプのファンクションブロックダイアグラム。マキシムが推奨するインスリンポンプソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/insulinをご覧ください。

携帯性

インスリンポンプは着用型の装置であるため、非常に小型かつ軽量であることが要求されます。通常は、50mm x 76mm x 19mm程度のサイズで、重量は60gから120gの範囲です。これらの形状に関する条件から、設計者は部品の選択に当ってサイズと消費電力を最優先することになります。

省スペース化のために、システム設計者は高度に統合化されたソリューションと、UCSP™やウェハレベルパッケージ(WLP)などの非常に小型のパッケージを必要とします。バッテリを可能な限り小型化するために、設計者は消費電力を削減し、可能な限り効率を向上させる必要があります。可能な限り任意の時点で使用されていない回路は必要になるまでシャットダウンします。

インスリンポンプのソリューション

ポンプの機構

インスリンは「単位」で計量され、標準的な濃度であるU-100の場合1cc (1mL)当り100単位が含有されます。すなわち、1単位は10µLです。基礎レートは毎時1単位前後で3分~10分ごとに投与されるのに対して、ボーラス投与量は数単位になります。標準的なカートリッジの容量は200~300単位です。

こうした非常に低い流速が要求されるため、モータはギアで減速され、ねじ駆動を使用して、モータが何度も回転してカートリッジのピストンを非常にゆっくりと前進させるようになっています。結果として、モータの粗い角度測定のみが必要になります。インスリンポンプの主要メーカーの大部分は、光学エンコーダとDCモータを使用していますが、ステッパモータを使用することも可能です。その他のアプローチとしては、MEMSベースのポンプを使用したシステムの極小化や、モータとピストンベースの容器の代わりに加圧ポンプを使用する方法などが考えられます。

流量検出

正常な動作を保証して閉塞を検出するために、圧力センサーが使用されます。これらのセンサーはシリコン歪みゲージをベースとしており、ボンデッドワイヤ歪みゲージのようなµVレベルではなくmVのレンジで信号を提供します。歪みゲージは標準的なブリッジ構成を採用しており、電源電圧の約半分のコモンモード電圧で差動信号を提供します。

設計においては、差動プログラマブルゲインアンプ(PGA)入力を備えたアナログ-ディジタルコンバータ(ADC)を使用するか、またはマイクロコントローラの内蔵ADCと信号コンディショニング用の外付けの差動または計測アンプを組み合わせて使用します。圧力の測定値は正常動作を示すために使用するものであり、薬剤投与量の計算には使用しないため、高精度の圧力測定は必要ありません。

電源

インスリンポンプは、通常はステップアップレギュレータを使用してアルカリ電池1個の低い電圧(公称1.5V)を2V以上にブーストします。電池寿命を最大にするため、これらのブーストレギュレータは可能な限り低い入力電圧で動作する必要があります。マキシムは、バッテリ容量を最大限に利用することができる最低動作電圧0.6V (最低起動電圧は0.7V)のレギュレータを提供しています。

厳格にレギュレートされた電源電圧を必要とする装置では、前述のブーストされた電源からのレギュレートダウンが必要になる場合があります。スイッチモード電源のようなスイッチング損失がないため、非常に低電力のアプリケーションではリニア電圧レギュレータの方が効率が高くなることがあります。スキップモードを備えたバックレギュレータは軽負荷での効率に優れていますが、ソリューションの物理的サイズを小型化することができるのは低ドロップアウト型リニアレギュレータ(LDO)であり、これらのポンプではその点が非常に重要になります。LDOの効率はVOUT/ VINの比に非常に近い値になるため、VINがLDOのドロップアウト電圧仕様より若干高い値に固定されている場合に効率が高くなります。

モータ用の電圧レギュレーションが必要な場合、システム設計者はスイッチモードコンバータを使用します。サイズと重量を最小限に抑えるため、これらのコンバータは可能な限り高速で動作させる必要があります。複数の電源出力が必要な場合は、電源管理IC (PMIC)を使用して省スペース化を図ることが可能です。

バッテリマネージメント

インスリンポンプのメーカー各社は、バッテリ寿命を最大化するための消費電力の削減において飛躍的な進歩を遂げてきました。現在のポンプは、1回のバッテリ交換または充電によって、3~10週間の動作が可能です。市販されているポンプの多くは、AA (単3)またはAAA (単4)のアルカリ電池1本またはリチウム電池を使用します。1次(非充電式)電池が一般的ですが、2次(充電式)電池を使用して患者の長期的コストを軽減することも可能です。2次電池は1次電池より容量が少ないため、1回の充電での動作時間は短くなります。

サイズに制約があり、1次電池が広範に使用されていることから、インスリンポンプはバッテリチャージャを内蔵していません。1次電池用の残量ゲージは存在しないため、バッテリ残量のインジケータは単純なバッテリ電圧と(場合によって)温度の測定に依存することになります。これらの電圧および温度の測定値は、ADCに送られてディジタル化されます。マイクロコントローラがこのデータを処理し、ルックアップテーブルを使用して3~4段階の中から該当する残容量を判定します。その後、マイクロコントローラはディスプレイを駆動しますが、通常は残容量を示す数本のバーで構成された電池のシンボルが使用されます。最後のバーまで低下すると、インスリンポンプはローバッテリ警告を発生させます。

プログラム機能

前述のように、最新で多様なオプションがユーザーに提供されており、必要に応じて基礎およびボーラス投与量を調整することができます。これはすべて、わずか数個のキーをユーザー入力に使用する非常に単純なインタフェースを通して行われます。ユーザーは、インスリン投与の管理に役立つリマインダも設定することができます。

ディスプレイ/キーボード

通常は、モノクロ、カスタム英数字、バックライトを備えた液晶ディスプレイ(LCD)が使用されますが、一部のポンプはカラー画面を備えています。ディスプレイは、インスリンの投与量とレート、バッテリの残量、日付と時刻、リマインダ、およびシステムアラーム条件(閉塞、インスリン残量低下など)についての情報を提供します。起動時にディスプレイのセルフテストを行うことがFDAの要件であるため、設計者にとってセルフテスト機能を内蔵したドライバが必要になります。ユーザーのタッチ入力に対する視覚と音による応答も通常は必要になります。

最新のポンプは、連続モニタ用ディスプレイを搭載しています。これらのシステムでは、無線送信機内蔵の独立した連続モニタが血糖値を測定して、センサー対応のポンプに通知します。それに対してポンプは、インスリン投与量の計算に役立つよう、グルコースの経過を示すグラフを含んだ傾向情報を表示します。

インスリンポンプのディスプレイ

セルフテスト

すべてのインスリンポンプは、FDAの要件に適合するためにパワーオンセルフテスト(POST)を実施する必要があります。このテストには、すべての重要なプロセッサ、重要な回路、インジケータ、ディスプレイ、およびアラーム機能のテストが含まれます。一部のPOST操作ではユーザーによる観察が必要になりますが、セルフチェック用の追加回路を使用して障害を見落とす危険性を低減させます。

たとえば、一部のモデルでは安全用プロセッサを使用してメインプロセッサの動作を監視しており、想定外の動作を検出した場合にアラームを発生します。セルフテストのもう1つの例として、発光ダイオード(LED)の点灯/消灯時に流れる電流の監視という単純なものがあります。電流が許容範囲外の場合は、障害の存在を示しています。セルフテストの中でおそらく最も一般的なのが、ウォッチドッグタイマ(WDT)です。プロセッサが正しいコード境界内で動作していることを保証するために、WDT機能を備えたマイクロプロセッサ監視回路ICが広く使用されています。マイクロプロセッサと同一のICに監視回路を備える方式の場合、監視回路がマイクロプロセッサと同じ過渡エラーの影響を受けることになるため、医療機器の場合この方式は通常は認められません。

患者が使用している間ポンプが正常に動作していることを保証するためには、監視回路機能が非常に重要です。すべての電源が許容範囲内で安定するまで、マイクロコントローラをリセット状態に保つ必要があります。電圧監視回路を使用して、電源の低電圧および過電圧状態を監視します。モータの負荷が監視され、モータのストール検出が必要とされます(モータのストールは致命的な障害であり、最優先のアラームが発生します)。温度、モータ負荷、インスリンライン圧、およびバッテリ電圧などのセンサー測定値をディジタル化するために、マイクロプロセッサ内蔵または外付けのADCが必要です。

アラーム

インスリンポンプは、障害の検出、特定の日時の到来、または警告状態のトリガーなどに際してユーザーに警告を行うための、音と視覚によるアラームを必要とします。グルコースモニタのリモートコントローラやインスリンポンプの個々のLEDを、視覚的なインジケータとして使用することができます。緑のLEDの点滅が通常は正常な動作を示すのに対して、赤いLEDはアラームまたは警告を示します。

オーディオブザーもセルフテスト機能を備える必要があり、スピーカのインピーダンスが範囲内かどうかを監視することによる間接的な方法か、スピーカの付近に組み込んだマイクロフォンでオーディオ出力を記録して適切なレベルかどうかを確認することによる直接的な方法のいずれかでこの機能を実装することができます。設計者は通常、各種のオペアンプ、コンパレータ、その他の部品を使用して、アラームおよびセルフテスト機能を実装します。オーディオ用ディジタル-アナログコンバータ(DAC)を使用して固有のアラーム出力を生成することが可能です。

最新のポンプには、振動アラームを実装するための偏心回転質量(ERM)モータを内蔵しているものもあります。ERMモータの駆動方法は重要ではありませんが、何らかの種類のアンプまたは電圧レギュレータが使用される可能性があります。ERMのセルフテストは、バッテリ装着時に短時間回転させることによって行います。

タイムキーピング

適切なインスリン投与の決定的重要性から、ポンプは通常すべての動作とプログラム変更をログに記録してタイムスタンプを付与します。この目的のため、および当然タイマーアラーム用としても、リアルタイムクロック(RTC)が必要になります。

静電気放電

すべてのインスリンポンプは、保護機能を内蔵した電子部品を使用するか、または露出配線にESDラインプロテクタを追加することによって、静電気放電(ESD)に関するIEC 61000-4-2の要件に適合する必要があります。マキシムは、こうした高度なESD保護を内蔵した多数のインタフェース部品に加えて、スタンドアロンのESDダイオードアレイも提供しています。

インタフェース

大部分のインスリンポンプは、コンピュータへのデータ転送を実現し、そしてファームウェアのアップグレードをダウンロードするためのデータポートを備えています。これによって、履歴ファイルをアプリケーションプログラムにロードして、治療担当者に送ってインスリン治療に役立てることが可能になっています。通常はUSBインタフェースが使用されます。これらのインタフェースは、ESD保護、電流制限、メモリカード用のロジックレベル変換などの機能を備える必要があります。

RFインタフェース

前述のように、一部のポンプは連続的血糖値モニタからデータを取得するためにRFレシーバを備えています。大部分のポンプは、Bluetooth®またはライセンス不要のISMバンドレシーバのいずれかを使用しています。

Bluetoothワードマークおよびロゴは、Bluetooth SIG, Inc.が所有する登録商標であり、マキシムはこれら商標をライセンスに基づいて使用しています。

UCSPはMaxim Integrated Products, Inc.の商標です。



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© Nov 22, 2010, Maxim Integrated Products, Inc.
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