アプリケーションノート4639

工業用の多チャネルデータ収集システム(DAS)における、センサー信号処理用の高性能同時サンプリングADCの活用

筆者: Joseph Shtargot, Strategic Applications Engineer

要約:このアプリケーションノートは、高性能の多チャネルデータ収集システム(DAS)の設計者のために工業用センサーと高性能ADC間のインタフェースの適正化について論じます。使用例としてパワーグリッド監視システムになります。最適なシステム特性を実現するために、高分解能多チャネルADCのMAX11046、MAX1320およびMAX1308を用いて、どのように適正な部品を選択するかについても説明します。回路図が示されています。

はじめに

多くの最新鋭の工業アプリケーションでは高性能な多チャネルデータ収集システム(DAS)を活用し、精密な工業用センサーからのリアルタイムな情報を管理します。このような複雑なシステムは、MAX11046MAX1320、およびMAX1308などの高性能な同時サンプリング多チャネルADCを必要とします。

図1に示す最新鋭の3相パワーライン監視/測定システムを検討します。これらの工業アプリケーションは、90dB (アプリケーションに依存)に達する広範囲なダイナミックレンジを備え、標準サンプリングレート64kspsで正確な同時多チャネル測定を必要とします。システム精度を適正化するために、センサーからの信号(図1に示すCTとPTトランス)はADCの入力範囲に適合するように適切に調整され、そしてDAS特性が国際規格に準拠する測定を可能にすることを確実にします。

図1. MAX11046、MAX1320、MAX1308を用いたDASの標準パワーグリッド監視アプリケーション
図1. MAX11046、MAX1320、MAX1308を用いたDASの標準パワーグリッド監視アプリケーション

工業用DASでのSAR ADCの役割

図1に示すように、MAX11046、MAX1320、またはMAX1308は3相および中性線(電圧と電流)を同時に測定します。これらの各ADCは、逐次比較レジスタ(SAR)アーキテクチャに基づいています。名前が示すように、SAR ADCはバイナリサーチアルゴリズム(逐次比較)を実装しています。MAX11046、MAX1320、およびMAX1308は、瞬時の測定を可能にする高速変換時間(チャネル当たり、8チャネルまでで最大250ksps)、および±10V、±5V、または0~5Vのフレキシブルな入力インタフェースの両機能を提供します。マキシムのSAR ADCファミリのいくつかの重要な標準特性を表1に示します。詳細については、個別のデータシートを参照してください。

表1. 高性能多チャネルSAR ADCの重要な標準特性
Part Channels Input Range (V) Resolution (Bits) Speed (ksps, max) SINAD (dB) Input Impedance
MAX1304   0 to 5        
MAX1308   ±5 12 456 71  
MAX1312   ±10       Medium, (approx 2kΩ)
MAX1316 8 0 to 5      
MAX1320   ±5 14 250 76.5  
MAX1324   ±10        
MAX11046   ±5 16 250 91.4 Very high (in 10s of MΩ); mostly capacitive

CTとPT (センサー)トランスの標準的な出力は、±10VP-Pまたは±5VP-Pです。表1に示すように、ADCのMAX130xとMAX132xはこれらの範囲を充分にカバーします。MAX11046の入力範囲は、トランスの汎用入力範囲の±5Vのみカバーしています。

ADCのMAX130xとMAX132xは、比較的低インピーダンス入力回路を備えています。したがってパワーグリッド監視システムでは、これらのディバイスは12ビット~14ビット精度を実現するために入力バッファとローパスフィルタ(図2)を必要とします。

注:高次のローパス連続フィルタ設計に関するより詳細な情報については、アプリケーションノートの733 「A Filter Primer」とノート738 「Minimizing Component-Variation Sensitivity in Single Op Amp Filters」を参照してください。マキシムでは、これらのアプリケーションに最適な工業用精密オペアンプ、MAX9943/MAX9944またはMAX4493/MAX4494/MAX4495を提供しています。

図2. MAX130xとMAX132xファミリを使用した標準パワーライン監視アプリケーションの基板レベルのブロックダイアグラム。図はアクティブローパスフィルタがCTとPTトランスにインタフェースする必要があることを示します。
図2. MAX130xとMAX132xファミリを使用した標準パワーライン監視アプリケーションの基板レベルのブロックダイアグラム。図はアクティブローパスフィルタがCTとPTトランスにインタフェースする必要があることを示します。

アクティブ入力のバッファ/ローパスフィルタはMAX11046ではオプションです。とても高い入力インピーダンスを備えたディバイスのMAX11046は特定のセンサー(表1を参照)に直接接続することができます。CTとPT測定用トランスは、例えば、比較的低インピーダンスセンサーになり(有効インピーダンスRTRANSは、10Ω~100Ωのオーダになります)、そのためシンプルなRCアナログフロントエンド(AFE)を使用することでMAX11046の入力に直接接続することが可能になります。50Hz/60Hz信号が、測定帯域内においてエイリアシング干渉として低いレベルの場合には、入力でのRC回路で構成されるフィルタで十分なこともあります。

±5Vまたは±10V範囲をMAX11046に適応させるシンプルでコスト効率の良いアプローチを図3に示します。

図3. MAX11046を使用した標準パワーライン監視アプリケーションの基板レベルのブロック図。図では、±5Vのトランスがチャネル1にインタフェースし、±10Vがチャネル8にインタフェースすること示します。
図3. MAX11046を使用した標準パワーライン監視アプリケーションの基板レベルのブロック図。図では、±5Vのトランスがチャネル1にインタフェースし、±10Vがチャネル8にインタフェースすること示します。

図3に示された入力回路について検討します。R1、C1、Rd、およびC2の値を選択する際には特別な注意を払う必要があります。1:1の抵抗分圧器(Rd1 = Rd2 = Rd)はPTとCTトランスの負荷で、利得誤差を引き起こすこともあります。この利得誤差は、図3において計算式1を用いることで計算することができます。
利得誤差 % = (1 - 2 × Rd/(2 × Rd + RTRANS)) × 100 (式1)
ここで
Rdは分圧器のインピーダンス
RTRANSは、トランスのインピーダンス

利得誤差における抵抗値の影響は表2に示します。

表2. 利得誤差における抵抗値の影響
RTRANS (Ω) Rd (Ω) Gain Error (%) Resistor Tolerance (%)
50 20000 0.12 0.05
50 15000 0.17 0.05
50 10000 0.25 0.10
50 6980 0.36 0.10
50 4990 0.50 0.10

表2のデータから、低利得誤差を維持するためには設計者は高精度の抵抗を使用する必要性があることを明示します。抵抗は、金属フィルムタイプで、表2で定義され公差を備え、そして低温度係数(テンプコ)を提供しなければなりません。設計者は、信頼できるメーカ、例えばTycoまたはVishayから部品を購入することが望ましいです。

洗練された抵抗分圧器の解決策として、2つの高精度にマッチングされた抵抗をシングルパッケージに納めたMAX5491を使用することで実現することができます。

図4. 高精度にマッチングされた抵抗分圧器MAX5491を用いた標準動作回路
図4. 高精度にマッチングされた抵抗分圧器MAX5491を用いた標準動作回路

MAX5491は、-40℃~+85℃で2ppm/℃と極端に低い抵抗比温度ドリフトを備え、全抵抗は30kΩで利得誤差を0.17%に維持することができます(表2参照)。

MAX11046評価(EV)キットは、8チャネルDASの完全な機能を提供し、図3で提案された回路ソリューションを実際に確認することで迅速な開発を手助けすることができます。

測定は図5に示したMAX11046EVKITをベースにした開発システムによって行われました。

図5. MAX11046EVKITベースの開発システムのブロックダイアグラムは、精密測定が最小限の追加部品を用いて実施されたことを示します。測定結果はUSBポートを経由してPCに転送され、そして更なる処理のためにExcel®ファイルに変換されます。
図5. MAX11046EVKITベースの開発システムのブロックダイアグラムは、精密測定が最小限の追加部品を用いて実施されたことを示します。測定結果はUSBポートを経由してPCに転送され、そして更なる処理のためにExcel®ファイルに変換されます。

図5が示すように、ファンクション発生器からの±5V信号はMAX11046のチャネル1入力にR1とC1によって接続されます。R1とC1の値は、ADCのアクイジション時間要求を満足する必要があり、式2によって求められます。
R1MAX = (1/FSAMPLE - TCONV)/K(C1 + CSAMPLE) (式2)
ここで
R1MAXは最大ソースインピーダンス
FSAMPLEはサンプリングレート
TCONVはADCの変換時間(例えばMAX11046では3µs)
KはRC時定数で、ADCの要求分解能を満足することが必要(例えば、16ビットADCでは時定数は12)
CSAMPLEは内部サンプリングコンデンサ(例えば、MAX11046では20pFぐらい)

式2から、R1MAXは2.5kspsとC1 = 2700pFでは約12.1kΩになります。このため、選択されたR1 = 10.0kΩは設計限界内になります。C1 = 2700pFはCSAMPLEの100倍以上になるため、内部サンプリングコンデンサを充分に充電することができます。

図5に示すように、ファンクション発生器からの±10V信号はMAX11046の入力チャネル8に、Rd分圧器とC2によって接続されます。Rd = 20.0kΩと表2によって利得誤差は約0.12%になります。この性能は一般的な欧州連合(EU)のIEC 62053規格での精密電力メータ機器によって命じられている0.2%測定精度基準を満足します。

上述での測定で使用して評価キットの設定を図6に示します。

図6. MAX11046EVKITのGUIによって測定条件を便利に設定することができます。図示された条件は2.5kspsで4096サンプリングです。
図6. MAX11046EVKITのGUIによって測定条件を便利に設定することができます。図示された条件は2.5kspsで4096サンプリングです。

図7. Excelソフトウェアによってシミュレートされ、これらのオシロスコープ画像は再生調整(分圧とフィルタ)されたファンクション発生器からの±10V入力信号を表示します(図5の回路図を参照)。
図7. Excelソフトウェアによってシミュレートされ、これらのオシロスコープ画像は再生調整(分圧とフィルタ)されたファンクション発生器からの±10V入力信号を表示します(図5の回路図を参照)。

図5の回路で要求される設定を用いた精密測定の結果を表3に示します。

表3. 図5の回路での収集されたデータによるパラメータ測定
Generator Signal (VP-P) Measured Parameters from Processed Excel Files
RMS (gen, VRMS) RMS (meas, VRMS) RMS Error (%) Req (%)
Channel 1, ±4.950 3.50018 3.49704 0.08961 0.20
Channel 8, ±9.900 7.00036 3.49695 0.09227 0.20

表3から、測定されたRMS (meas)は、発生器からの入力RMS (gen)を処理した結果を示します。結果から、調整回路の測定RMS誤差は約0.09%になり、EU規格IEC 62053の電力メータ機器での0.2%精度要求を充分満足していることが確認できます。

結果

MAX130x、MAX132x、およびMAX11046のような高性能多チャネルの同時サンプリングADCは、特に新しい工業用DASアプリケーションで有益です。適切に選択された信号処理を用いることで、インタフェース回路はEU要求規格と「スマート」パワーグリッド監視システムの先進仕様を超えることができます。

その他の情報として、アプリケーションノート4595 「高性能同時サンプリングADCを利用した高度な電力線監視のシステムコストの削減」を参照してください。

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APP 4639: Nov 05, 2010
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