リファレンス回路4163

過電圧および入力電圧の瞬断トランジェントに影響されないテレコムホットスワップのリファレンスデザイン


要約:この80Wのテレコムホットスワップのリファレンスデザインは、150Vの入力電圧トランジェントおよび16msの電力ドロップアウトの影響を受けません。その他の特長としては、-32V~-72Vでの動作、2つのダイオードのOR-ing入力、および全負荷電流の1.5倍以下の突入電流などがあります。このアプリケーションノートでは、詳細な回路図、代表的なPCBレイアウト、部品表、起動時の実際の性能を表す波形、-150Vの入力トランジェント、および電力損失時の全負荷ホールドアップについて記載しています。

はじめに

テレコムシステムは通常、-36V~-72Vの範囲となる2つの電圧源のどちらか一方からフルパワー動作を提供する必要があります。さらに、誘導雷パルス、高電圧パルス、時折の電源の瞬断など、数ミリ秒の間、入力電圧が0Vに降下する可能性のある状態から保護する必要があります。プラグインのラインカードには、高電圧から低電圧に変換するDC-DCコンバータが、ホットスワップ回路の前に内蔵されることがあります。この回路は、通電中のバックプレーンにラインカードをホットプラグ接続するとき、突入電流を全負荷電流と同程度に制限します。ホットスワップ回路は、オンカードのフィルタコンデンサが完全充電に達した後、パワーグッド(アクティブローPGOOD)信号を供給して、後続のDC-DCコンバータを起動します。このアプリケーションノートでは、すべての要件を満たすホットスワップ回路について詳しく説明します。要件の大半は、AdvancedTCA® (ATCA®)の第1レベルのホットスワップ回路の要件に似ています。

テレコムシステムの標準的な要件

  1. 入力電圧:-43V~-72V動作
  2. 入力端での2つのダイオードのOR-ing
  3. -32V~-36Vのターンオフ(ダイオードより前の電源にて)
  4. 80W (最大)の入力電力、CLOAD = 680µF
  5. 耐圧-150V、1msの過電圧パルス¹
  6. ライドスルー、0V、16msの瞬断が-43Vの入力電圧で開始。この期間全体にわたって、アクティブローPGOODをアサートのまま維持する必要があります。
  7. 43Vの起動電圧にて、突入電流は全負荷電流の1.5倍以下

リファレンスデザインの特長と検討事項

  1. 低電圧ロックアウト(UVLO)の増加電圧は、ほぼ43Vに設定されています。過電圧ロックアウト(OVLO)の増加電圧は、72V以上に設定されています。
  2. 入力端に配置された2つの100Vショットキダイオードによって、2つのディスクリート電源のOR-ingが可能です。
  3. UVLOの減少電圧は、ほぼ32Vに設定されています。この設計では、テレコムシステム要件の6を満たすと同時に、アクティブローPGOODをUVLOの減少電圧にまで下げてアクティブにした状態で通常動作を維持する必要があります。
  4. VIN = 43VにてPIN = 80Wとは、入力電流が1.86Aであることを示します。
  5. 70VのTVSダイオードが、U1、C3、C4、およびQ2の安全レベルに入力電圧パルスをクランプします。このダイオードは、入力端子間、またはMAX5921ホットスワップコントローラのVDD - VEEピン間にじかに配置することもできれば、5Ωの直列抵抗を用いてVINから絶縁することもできます。
  6. エネルギー蓄積コンデンサ(C3)は、43Vで始まり32Vで終わる16msの間に、80Wの負荷に供給するのに十分なエネルギーを蓄積します。このコンデンサは、抵抗を通じて充電し、テレコムシステム要件の7に規定されている入力サージ電流の数パーセントに充電電流を制限します。ショットキダイオードによって、放電時には充電制限抵抗をバイパスします。
  7. 回路遮断器の最小限界トリップポイントを選択することで、43Vにおける2.8A、150%の起動サージ電流と、32Vまでの2.5Aフルパワー動作に対応可能となります。

テレコムホットスワップのリファレンスデザイン

このテレコムホットスワップのリファレンスデザインは、図1の回路図に示すように、MAX5921ホットスワップコントローラを利用しています。

Figure 1. MAX5921 telecom reference design schematic.
図1. MAX5921テレコムリファレンスデザインの回路図

ターンオン性能

UVLOの増加分の電圧は、次式のように電圧分圧器² (R1 + R2):R3によって設定します。

Equatioin 1

入力UVLOターンオン増加分の電圧は、電圧分圧器(R1 + R2):R3によって設定しますが、入力UVLOターンオフ減少分の電圧は、電圧分圧器R2:R3によって設定します。これは、起動中に出力電圧が生じると、Q2がR1を短絡するためです。

図2の波形は、UVLOの増加電圧に達するまで入力電圧を徐々に上昇させたときに作成されたものです。これは、以下の時点で行われます。

VIN - VS1 = VIN - VEE + VF(D1) ≈ 42.4V

ゲート電圧が中央値まで上昇し、2.2V/msにおける出力電圧スルーレートを制御して、出力コンデンサ(C4)への充電電流を制限します。この入力電流(IC4 + IC3)は1.75Aでピークに達します。VOUTが最終値に達すると、入力電流は充電電流(IC3)にまで減少します。

Figure 2. Turn-on characteristics with V<sub>IN</sub> rising.
図2. VINを上昇させたときのターンオン特性

起動時の入力サージ電流は、C2の値を選択することによって制御します。

Equation 2

したがって、突入電流は、43V入力における1.86Aの起動電流の1.5倍以下に制限されます。C2の値が小さいと、突入電流が増大することになります。たとえば、C2 = 12nFであれば、IINRUSH = 2.55Aとなり、許容される2.8Aに近くなります。入力サージ電流を図2に示します。

図3は、図2に似ています。ただし、VGATEが最終値に達してから7ms後に、およびVOUTが最終値に達してから15ms後に、アクティブローPGOODがアサートされることを示しています。

Figure 3. Turn-on characteristics with active-low PGOOD.
図3. アクティブローPGOODによるターンオン特性

ホットスワップが完了に近づくと、Q2はR1を短絡し、UVLOの減少電圧は、テレコムシステム要件の3と6を満たすように32V付近に設定されます。

Equation 3

図4は、起動時におけるC3の充電を示しています。VIN = 50VにおけるC3の初期充電電流のピークがほぼ100mAにすぎないため、充電時間は出力負荷の存在とは無関係です。充電時間は約10sであるため、ターンオンまたは以前のブラウンアウト期間の後、10sが経過するまで、ブラウンアウトのホールドアップ時間は完全には有効になりません。

Figure 4. C3 storage capacitor charge at turn-on.
図4. ターンオン時のC3蓄積コンデンサの充電

ドロップアウト耐性

ブラウンアウト期間中のホールドアップ時間は、以下のように計算します。

P = 80WおよびC3 = 5400µF

ドロップアウトは、ワーストケースであるVIN = 43Vで始まる可能性があります。ここで、

VOUT = VIN - VF(D1) = 43V - 0.55V = 42.45V

入力電圧がドロップアウトすると直ちに、ダイオードD4のドロップ分、すなわち新たに0.6Vだけ減少し、VOUTが41.85Vになります。

C3はドロップアウト時にエネルギーを負荷に供給し、以下の時点までアクティブローPGOODが有効になります。

UVLOMAX = 33.6V = [VCAP - VF(D4) + VF(Q1) またはVCAP = 34.8V

Equation 4

したがって、コンデンサに10%の許容誤差を認めると、ホールドアップ時間の計算値は16.4msになります。

入力電圧のドロップアウトの間、ダイオードD1またはD2で導通がなければ、Q1のボディダイオードを通じて、C3がMAX5921の入力に電圧を供給します。これによって、MAX5921は動作可能となり、ブラウンアウトの期間中、有効なアクティブローPGOODをサポートします。

最大で16msという瞬断の入力電圧ドロップアウト期間(VIN = 43Vで始まり、VOUT = 32Vまで及ぶ)の間、C3によって80Wの出力電力を維持することができます。C3は、パワーアップ時に抵抗R11を通じて充電されます。起動時におけるC4の充電動作によってC3の充電電流が入力サージ電流を超えないように、C3 x R11の時定数には4860msを選択します。したがって、電源投入後、約10sが経過するまで、完全な瞬断保護は用意されていません。

図5のドロップアウト耐性の波形は、初期電力が約175W (4.185A x 41.85V)であることを示しています(入力電力を切断すると直ちにD4の順方向電圧によって出力電圧が即座に降下することに留意してください)。

Figure 5. Waveforms at dropout.
図5. ドロップアウト時の波形

43Vにおいてドロップアウトが始まり、その後、16ミリ秒の間、出力は31.5Vに降下し、電力は約99W (3.15A x 31.5V)です。したがって、C3には、ドロップアウト耐性の要件を満たすだけの十分なエネルギーが蓄積されていることがわかります。

過電圧ロックアウト

OVLOの増加電圧は、次式のように電圧分圧器R4:R5によって設定します。

Equation 5

回路遮断器のトリップポイント

回路遮断器のトリップポイントは、規定された最小VIN、または初期サージ電流において、トリップが発生しないように選択します。したがって、最低トリップポイントは、80W/32V = 2.5Aまたは(1.5 x 80W)/43V = 2.8Aのうちの値が大きい方で計算します。16msの瞬断期間中、C3がすべての負荷電流を供給するため、この期間中、電流は検出抵抗を流れません。抵抗R7では、以下のようにトリップポイントが設定されます。

Equation 6

パルス過電圧耐性

MAX5921は、100Vを超える入力トランジェントから保護される必要があります。以下の2つの回路条件を検討することができます。
  1. 回路選択肢の1つは、+VINからMAX5921のVDDピンに5.6Ωの直列抵抗(R8)を、またVDDピンとVEEピンの間にTVSダイオード(D3)を組み込むことです。この場合、MAX5921のみが保護されます。C3、C4、およびQ2は、150Vを超えるトランジェントに対する定格を備える必要があります。
  2. もう1つの回路選択肢は、回路全体を保護するために、OR-ingダイオードの後のVIN端子間にTVSダイオードをじかに接続することです。選択したSMBT70A (D3)は、トランジェントパルスを100V以下に制限します。SMBT70A (D3)は、100V以下においてパルス電圧をクランプすると同時に、75Vにおいて導電が1mA未満になるように規定された唯一のTVSダイオードです。回路の入力電圧は、D3によって、脚注1で述べる0.2ジュールのコンデンサ放電によって生じるパルス波形から保護されます。

MAX5921のみの保護

図6および7のグラフでは、D3によって、入力トランジェントからデバイスを保護しています。R8が存在すると、MAX5921のみが保護されます。脚注1で述べる方法によって、0.2ジュールの入力パルスが供給されます。

Figure 6. Pulse overvoltage characteristics; MAX5921 protection only; first 9µs.
図6. パルス過電圧特性。MAX5921のみを保護。最初の9µs

Figure 7. Pulse overvoltage characteristics; MAX5921 protection only; first 9ms.
図7. パルス過電圧特性。MAX5921のみを保護。最初の9ms

VDD - VSSは84.4Vにて制限されます。入力電流は、幅が4µsでピークが46Aの三角スパイクを示しています。

3msの間に、VINは上昇し、初期VIN 50Vを115Vだけ超えて165Vのピークに達します。VINに続いてVOUT - VEEも、初期値である0Vから115V上昇します。このため、入力パルスは出力において除去されますが、これは、MAX5921の入力トランジェントとOVLO回路保護の機構によって行われる一時的なゲートのターンオフによるものです。ゲートがターンオフになっている期間、C3が出力を供給します。

回路全体の保護

図8および9のグラフは、R8を短絡した結果を示しています。これによってMAX5921、Q1、およびQ1に続く回路が保護されます。

Figure 8. Pulse overvoltage characteristics; complete circuit protection; first 10ms.
図8. パルス過電圧特性。回路全体を保護。最初の10ms

Figure 9. Pulse overvoltage characteristics; complete circuit protection; first 10s.
図9. パルス過電圧特性。回路全体を保護。最初の10s

約6µsの間に、VINは上昇し、初期値を50Vだけ超えて98Vに達します。VINは、30µsで約65Vに戻った後、6msで初期値に戻ります。入力電圧のピークには、ピークが66Aで幅が6µsの入力電流の三角スパイクが伴います。この電流のすべてがD3を流れます。

ゲート電圧は、500nsで0V付近まで降下し、約12msで通常の状態に戻ります。これによってQ1が遮断され、入力トランジェントが除去されます。

VOUT - VEEは、最初の100nsで約60Vまで上昇し、急速に50Vの幅広パルスに戻ります。この状態が6µsの間続いた後、6msで通常レベルに戻ります。この入力パルスは、ゲートのターンオフによって、最初の400nsを除き、出力端で完全に除去されます。トランジェントの回復が完了すると、VGATEが12msで通常の値に戻る間にC3が負荷を維持します。

まとめ

このテレコムホットスワップのリファレンスデザインは、標準的なテレコムシステム要件のすべてを満たしています。要求に応じて、ホールドアップ時間が実装され、16ms以上について有効です。MAX5921のみ、または回路全体を保護するため、パルス過電圧保護を備えています。D3によってMAX5921のみを保護したい場合は、R8の両端の短絡を取り除くことができます。R8両端の短絡を取り除いた場合、C3とC4の定格を160Vにする必要があります。Diodes Inc.のTVSダイオードSMBT70Aを使用することが、過電圧トランジェント保護の鍵となります。このTVSダイオード以外に、この作業に最適なダイオードはありません。

部品表

Qty. Designator Component Manufacturer and Part Number
1 C1 4.7nF ±10%, 50V ceramic capacitor (0805) Vishay VJ0805Y472KXACW1BC
1 C2 15nF ±10%, 50V ceramic capacitor (0805) Vishay VJ0805Y153KXACW1BC
2 C3a, C3b 2700µF ±10%, 100V electrolytic capacitors Panasonic ECD-S2AP272CA
1 C4 680µF ±10%, 100V electrolytic capacitor Panasonic ECD-S2AP681BA
3 D1, D2, D4 10A or 16A, 100V Schottky diodes (D2PAK) Vishay MBRB10H100CT-E3/45,
ST Microelectronics STPS16H100CG,
or Vishay 16CTQ100SPBF
1 D3 70V TVS diode (SMB) Diodes Inc. SMBT70A
1 Q1 150V, 16mΩ n-channel MOSFET (D2PAK) Fairchild FDB2532 or
Vishay SUM85N15-19-T1-E3
1 Q2 100V, bipolar PNP transistor (SOT23) Fairchild BSS63
1 R1 68.1kΩ ±1% thick-film resistor (0603) Vishay CRCW0603154KFKEA
1 R2 255kΩ ±1% thick-film resistor (0603) Vishay CRCW0603255KFKEA
2 R3, R5 10.0kΩ ±1% thick-film resistors (0603) Vishay CRCW060310K0FKEA
1 R4 576kΩ ±1% thick-film resistor (0603) Vishay CRCW0603576KFKEA
1 R6 91kΩ ±5% thick-film resistor (0805) Vishay CRCW080591K0JNEA
1 R7 12mΩ thick-film resistor (2512) Vishay WSL2512R0120FEA
1 R8 5Ω ±1% thick-film resistor (2512) Vishay CRCW25125R00FKEG
1 R9 680Ω ±1% thick-film resistor (0603) Vishay CRCW0603680RFKEA
1 R10 21.3kΩ ±1% thick-film resistor (1210) Vishay CRCW121021K3FKEA
1 R11 510Ω ±1% thick-film resistor (2512) Vishay CRCW2512510RFKEG
1 R12 1kΩ ±1% thick-film resistor (0603) Vishay CRCW06031K00FKEA
1 R13 10Ω ±1% thick-film resistor (0603) Vishay CRCW060310R0FKEA
1 U1 Hot-swap controller IC, -100V Maxim MAX5921AESA

テストPCBレイアウト

Figure 10. Component layout.
図10. 部品レイアウト

Figure 11. Top layer.
図11. 最上層

Figure 12. Bottom layer.
図12. 最下層

参考文献
  1. 0.2ジュールのテストパルスは、Power & Earthing of Transmission Equipment Specification 1555、Telstra Corp Ltd. CAN 051 775 55で指示されているように、10mHのインダクタによって電源を絶縁すると同時に、回路入力で18µFのコンデンサ(150Vに充電済み)を放電させることによって形成します。
  2. 抵抗の許容誤差は、UVLOとOVLOの計算には含まれていません。VUVH、VUVL、およびVOVHの値は、MAX5921のデータシートによるものです。


AdvancedTCAはPICMG-PCI Industrial Computer Manufacturers Group, Inc.の登録商標です。

ATCAはPICMG-PCI Industrial Computer Manufacturers Group, Inc.の登録商標です。



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© Jul 22, 2008, Maxim Integrated Products, Inc.
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